取っ手付きのブイヨンカップなら、直接口をつけて飲むのが正式マナーだと思っていると、フォーマルな席で恥をかきます。
ブイヨンカップとは、両側に取っ手(ハンドル)がついた小ぶりのスープカップのことです。「タスカップ」とも呼ばれ、コンソメやブイヨンといった透き通った澄んだスープを提供するためにデザインされています。容量は150〜200ml程度が標準的で、ちょうど両手の手のひらにすっぽり収まるくらいのサイズ感です。
ブイヨンカップには必ずソーサー(受け皿)がセットになっており、このセットをまとめて「ブイヨンカップ・ソーサー」と呼びます。コース料理では、スープボウル(中央がくぼんだ平らな皿タイプ)と並んで、スープコースで使用される代表的な器の一つです。
陶器と磁器の違いはここでも重要です。洋食器のブイヨンカップの多くは磁器(じき)製で作られています。磁器はカオリナイトという白い粘土を高温(約1,300℃前後)で焼いたもので、表面がガラスのようにツルツルしていて吸水性がほぼありません。白くて薄く、スープの色を鮮やかに見せる特長があります。リモージュ(フランス)やマイセン(ドイツ)のような欧州の高級ブランドもほぼすべて磁器製です。
一方、陶器は土の質感が残り、温かみと素朴さが特徴です。吸水性があるため、使用後はしっかり乾かす必要があります。ブイヨンカップとしては磁器の方が主流ですが、カジュアルな和洋折衷スタイルや民藝系のテーブルウェアとして陶器製のスープカップを楽しむ人も増えています。
陶器のスープカップを使う場合は、使い始めに「目止め」をする手間がかかります。目止めとは米のとぎ汁でカップを煮る作業で、細かい穴をふさいでシミや臭いを防ぐためのものです。これが陶器ならではの手入れの魅力でもあります。
日本金属洋食器工業組合:コース料理のメニューごとの正式ないただき方(スープ・ブイヨンカップ含む)
ブイヨンカップのスープの飲み方には、「正式ないただき方」と「略式のいただき方」の2通りがあります。この違いをしっかり理解しておくことが、マナーの核心です。
正式ないただき方は、最初から最後まで専用のスプーン(ブイヨンスプーン、またはタススプーンと呼ばれる小ぶりなもの)を使うことです。左手を軽くカップの取っ手に添えながら、右手のスプーンでスープをすくって口に運びます。取っ手付きカップなのにスプーンで全部飲みきるというのが、正式席での正解です。
略式のいただき方は、まずスプーンで2〜3口飲んでスープの熱さを確認し、適度に冷めてきたら取っ手を持ってカップを直接口につけて飲む方法です。これが「ブイヨンカップなら口をつけて飲んでいい」と広く知られている方法ですが、あくまでもカジュアルな食事や内輪の席での話です。
つまり原則は「スプーン使用」です。
結婚式の披露宴・ビジネス会食・ホテルのコース料理など、フォーマルな席では、たとえブイヨンカップが出てきても最初から最後までスプーンでいただく方が、より丁寧な印象を与えます。陶器や磁器の美しいカップを前にすると口をつけたくなりますが、場の格に応じた判断が大切です。
スプーンですくう量も意識しましょう。なみなみとすくうとこぼれやすくなります。スプーンの7〜8分目程度が適量です。ちょうどスプーンの縁から2〜3mmほど下がったラインが目安になります。
音を立てて吸い込む「ズズーッ」は絶対NGです。スープは「飲む(ポワール)」ではなく「食べる(マンジェ)」ものとフランス料理では位置づけられており、スプーンの縁に口をつけて静かに流し込むのが正しい作法になります。
日刊きりゅう:ブイヨンカップ・タスカップの名称と正式な使い方について解説
マナーの中でも「スプーンの置き方」は、意外なほど注目されるポイントです。スプーンを置く位置一つで、「食事中」なのか「食べ終わった」のかをスタッフに伝えるシグナルになるからです。
ブイヨンカップを使っているときのスプーンの置き場所には、タイミングによってルールが変わります。
これはフォーマルなレストランのスタッフが見ている重要なシグナルです。特に記念日ディナーや会食では、意図しないタイミングで器を下げられてしまうリスクがあります。
もう一つ見落とされがちなポイントがあります。スープの終わり方についてです。底に少量残ったスープをスプーンでカチャカチャと掻き集めるのはマナー違反とされています。少し残る程度でスプーンを置くのがスマートな振る舞いとされています。「紳士淑女たるもの、最後まで深追いはしない」という感覚です。
FELICIMME:フランス料理の正式なスープの飲み方と、スプーンの置き方・NGマナーを詳しく解説
ブイヨンカップにおいてよく混乱するのが、「カップを持ち上げていいのか、テーブルに置いたままにするべきか」という問題です。結論から言えば、状況と食事の格によって使い分けるのが正解です。
洋食の基本ルールとして、器を持ち上げることは「原則しない」とされています。和食では茶碗や汁椀を持ち上げるのが当たり前ですが、西洋料理ではテーブルに置いたまま食べるのが大前提です。ブイヨンカップは「取っ手がついている」という例外的な構造のため、持ち上げて飲むことが許容されているのです。
取っ手の持ち方にも正しい作法があります。コーヒーカップや紅茶カップと同様に、片方の取っ手を親指と人差し指で持ち、中指で軽く支えます。両側に取っ手がある場合は、両手でそれぞれの取っ手を持ちます。このとき小指を立てる必要はありませんし、ソーサーを一緒に持ち上げるのもNG。カップだけを持ち上げるのが正式な作法です。
持ち上げる際、一度の口つけで飲む量は7分目程度にとどめましょう。口につけたまま「ゴクゴク」と一気飲みするのは、紅茶の飲み方と同様にマナー違反になります。
カップに口をつけて飲む場合でも、音を出さないことは変わりません。熱い場合でも「フーフー」と息を吹きかけるのは厳禁です。熱さが気になるときは、スプーンで表面をゆっくりかき混ぜて自然に冷めるのを待つか、しばらく置いてから口をつけましょう。
| 場面 | 推奨の飲み方 | カップを持ち上げる? |
|---|---|---|
| ビジネス会食・披露宴など正式な席 | スプーンのみで最初から最後まで | 基本は置いたまま |
| ホテルのランチ・レストランのカジュアルな席 | 最初スプーン→途中からカップに口をつけてOK | 適度に持ち上げてOK |
| 友人との食事・カフェなどくつろいだ場 | カップに直接口をつけてもOK | 両手で持ち上げてOK |
陶器・磁器に興味を持っている方には、ブイヨンカップ選びそのものを楽しむ視点もあります。単なるテーブルウェアとしてではなく、器の素材・産地・釉薬(ゆうやく)の違いを理解した上で選ぶと、食卓がより豊かになります。
まず磁器製ブイヨンカップの代表格は、ヨーロッパのフランス料理用食器ブランドが手がけるものです。フランス・リモージュ産の白磁は、透き通るような白さと薄さが特徴で、スープの色を最も美しく見せてくれます。1771年にリモージュに窯が開かれてから250年以上の歴史を持ち、現在も世界の高級レストランで使われています。
国産では、有田焼(佐賀県)・瀬戸焼(愛知県)などの磁器産地がブイヨンカップを製造しています。特に有田焼の白磁は、欧州の磁器に劣らない品質で知られており、価格もリモージュの数分の一から手に入れられます。
陶器製を選ぶなら、益子焼(栃木県)や信楽焼(滋賀県)のような土の風合いを活かした一点もの感のあるカップも存在します。ただし陶器は磁器よりも吸水性があるため、スープの油分や色素を吸いやすいという特徴があります。使用後はしっかりと洗い、完全に乾かしてから収納することが大切です。
ブイヨンカップを選ぶときのチェックポイントをまとめると以下の通りです。
陶器・磁器のブイヨンカップはオンラインの窯元直販サイトや、テーブルウェアフェスティバルのような陶器市でも出会えます。東京ドーム(東京・文京区)で毎年2月頃に開催されるテーブルウェア・フェスティバルでは、国内外の300以上のブランドのカップが一堂に揃い、実際に手に取って選べる貴重な機会です。自分好みの器を探したい方は、ぜひチェックしてみてください。
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