ビンテージのソンベ焼きを食器洗浄機で洗うと、絵柄が剥がれて数千円が一瞬で台無しになります。
ソンベ焼きは、現在のビンズオン省(旧ソンベ省)を中心に、ベトナム南部のビンフォック省・ドンナイ省一帯で作られてきた伝統陶器です。その起源は17世紀ごろ、中国・福建省からの入植者がこの土地で陶器づくりを始めたことにさかのぼります。始まりは、庶民が日常使いするための素朴な皿や椀が中心でした。
その後、19〜20世紀にかけてフランス統治時代を迎えます。この時代にベトナムへもたらされた西洋の絵付け技術が融合し、色鮮やかなカメリア(椿)の花柄や幾何学模様など、現在のソンベ焼きを代表するデザインが生まれました。中国系の吉祥柄(「囍」などの漢字や鶏・蝶のモチーフ)と、フランス由来の花柄が混在しているのは、この歴史的な背景があるからです。
しかし、ベトナム戦争(1955〜1975年)の混乱によって職人が激減。戦後も安価で扱いやすいメラミン製・プラスチック製食器が普及し、ソンベ焼きは食卓から姿を消していきました。こうして「幻の民芸品」と呼ばれるようになったのです。
つまり、消えた理由は「弾圧」ではなく「豊かさによる置き換え」でした。
近年は若いベトナム人作家たちが伝統技法を継承しながら現代のデザインを取り入れた「ニューソンベ」を制作し、国内外のコレクターから再び熱い注目を集めています。2019年にはNHKの「世界はほしいモノにあふれている」でも取り上げられ、日本でのブームの火付け役となりました。
陶磁器に興味があると「ソンベ焼き=バッチャン焼きの一種」と思っている方が少なくありません。しかし、この2つは産地も製法も歴史的背景もまったく別物です。大きく異なる点を整理します。
まず産地が違います。バッチャン焼きはハノイ近郊のバッチャン村(ハノイ市ジャーラム区)で作られ、国から観光地として公認されているほど歴史のある焼き物です。一方のソンベ焼きは、ホーチミン市から車で約1時間、ビンズオン省のライティウ(Lai Thieu)地区を中心に生産されていました。
焼成温度も大きく異なります。バッチャン焼きは約1300℃の高温で焼き上げるため非常に頑丈で、磁器に近い硬さを持ちます。対してソンベ焼きは約1000℃の低温焼成のため、素地にポツポツとした凹凸が残り、やや軽くて温かみのある触感が生まれます。これが陶器らしい素朴な風合いの正体です。
デザインにも明確な違いがあります。
| 比較項目 | バッチャン焼き | ソンベ焼き |
|---|---|---|
| 産地 | ハノイ近郊・バッチャン村 | ビンズオン省・ライティウ地区 |
| 焼成温度 | 約1300℃(高温) | 約1000℃(低温) |
| 絵柄の傾向 | トンボ・蓮・金魚など中国モチーフ | カメリア・吉祥柄・フランス風花柄 |
| 素地の色 | 白〜灰白色 | クリーム〜ベージュ |
| 国のサポート | ハノイ市公認の観光地として保護 | 特になし(独立した民芸品として存続) |
| 電子レンジ | ニューバッチャンは対応品あり | ニューソンベは対応品あり/旧品はNG |
バッチャン焼きとソンベ焼きは、ちょうど北の江戸前寿司と南の大阪寿司のような関係です。同じ「ベトナム陶器」というカテゴリでも、文化圏も歴史的背景もまるで違う。この違いを理解しておくと、現地や通販で商品を選ぶときに迷わずに済みます。
ソンベ焼きの絵柄は大きく分けて2系統あります。これを知らずに購入すると、インテリアや他の食器と合わないという失敗が起きやすくなります。
① 中国系(吉祥柄・漢字モチーフ)系統は、青・緑・茶といった落ち着いた色調で、「囍(喜びを二倍にする意味の漢字)」「鶏(吉祥を呼ぶとされる動物)」「蝶(長寿の象徴)」などが描かれています。シックで落ち着いた雰囲気なので、日本の和食器や民藝品と並べても馴染みやすいのが特徴です。
② フランス統治時代以降の花柄系統は、色鮮やかなカメリア(椿)の花やぼたん、抽象的な幾何学柄が縁まで描き込まれた華やかなタイプです。一見すると洋食器のように見えるほどフレンチテイストがあり、実はアジアの要素も混在しているため、洋食にも和食にも不思議と合わせやすいという声が多いです。
選び方のポイントは「何の料理に使うか」よりも「何色の食器と一緒に並べるか」を先に考えることです。
たとえば白を基調とした食卓なら、クリーム地に藍色の吉祥柄が映えます。木の器や民藝テイストの食器が多い方なら、ベージュ地に茶系の落ち着いた花柄が自然に溶け込みます。逆に洋食器中心のテーブルには、色鮮やかなカメリア柄が一枚加わるだけで食卓のアクセントになります。
これは使えそうです。
ビンテージのソンベ焼きは一枚ずつ職人の手で描かれているため、同じ絵柄でも微妙に異なります。「お皿の裏に数字やマークが書いてある場合は、かつて近所の人が集まる宴席で各家が持ち寄ったお皿に自分の印をつけていた名残」という逸話もあり、コレクターにとっては絵柄だけでなく裏面のマークも鑑賞ポイントになっています。
ソンベ焼きには大きく「ビンテージ(アンティーク)品」と「現代作家による新作(ニューソンベ)」の2種類があり、扱い方と価格がかなり違います。これを混同すると、電子レンジで使えないものを使ってしまったり、思いがけない出費につながります。
ビンテージ品は主に1950〜1970年代に作られた登り窯焼きのもの。クリーム〜淡黄色の素地に手描きの絵柄が施されており、釉薬のかかり方や気泡のムラ感が味わいになっています。多くの窯元がすでに廃業しており、現在は田舎の民家や骨董市でしか発掘できないレベルの希少品です。価格はメルカリ・通販で小皿1枚が2,000〜5,500円前後、オーバル大皿になると6,000〜8,400円ほどが目安になっています(2025年時点の市場価格)。
ニューソンベは「Nang Ceramic(ナン・セラミック)」「Tuhu Ceramics(トゥフ・セラミック)」などのブランドが現代的なデザインで復刻した製品です。電子レンジ対応・海外発送可の製品も多く、品質が安定しています。実はニューソンベの現地価格はビンテージ品より安い場合もありますが、日本の通販で購入すると送料や輸入マージンが上乗せされます。
ビンテージかニューソンベかの見分け方は次の3点を確認します。
- 🔎 素地の質感:ビンテージは表面に細かな凹凸・気泡・貫入(ひびに見える釉薬の模様)がある。ニューソンベはやや均質
- 🔎 絵付けの揺れ:ビンテージは同じ花でも一輪ずつ形が異なる。ニューソンベはデザインが整っている
- 🔎 皿の裏面:ビンテージには番号や記号が手書きで描かれているものがある
ビンテージ品は状態のムラが大きいため、通販よりもポップアップイベントや実店舗で現物を手にとって選ぶのが損のない購入方法です。
今、注目のビンテージソンべ焼き。ベトナム南部の陶器はこんなに素敵|サイゴンノオト(ビンテージ品の買い付けの裏側や、絵柄の楽しみ方を詳しくレポートしています)
「ベトナムに行かないと買えない」と思っていたら、実は日本でも手に入ります。国内の入手ルートと、コレクターの間でまだあまり知られていない活用術をあわせてご紹介します。
🏬 国内の実店舗では、東京・目黒区学芸大学の「333(バーバーバー)」が最も品揃え豊富なソンベ焼き専門ショップとして有名です。ビンテージを中心に花瓶・皿・椀など幅広く取り揃えており、隣接するカフェでベトナム食器に囲まれながら飲食もできます。同系列の「tay(テイ)」(東京・初台)でも扱いがあります。大阪なら住吉区の「ベトナム雑貨 Sunshine」も実店舗として信頼できます。
🛒 通販・オンラインショップでは、「エンメオ(emMeo)」がホーチミン発の日本人運営ショップとして百貨店の催事にも出店しており、品質の安定したビンテージ・ニューソンベを取り扱っています。メルカリでは「ヴィンテージソンベ焼き」と検索すると定期的に出品があり、小皿1枚2,000円台から見つかることもあります。
あまり知られていない活用術として、ソンベ焼きを飾り皿として使う方法があります。ビンテージのオーバル皿(縦20×横28cm程度。A4用紙とほぼ同じサイズ)を壁にかけると、一枚の絵画のようなインテリアになります。食器として使わなくても、絵柄を飾って楽しめる点はコレクターに人気の使い方です。また、色違い・柄違いを「あえてバラバラに揃える」スタイルが、最もソンベ焼きらしい食卓の作り方とされています。揃いの食器よりも雑多感が出るのに、むしろ食卓がオシャレに見えるのがソンベ焼きの不思議な魅力です。
食器として日常使いする場合は、ビンテージ品の洗い方に注意が必要です。食器洗浄機や金属製たわしの使用は、低温焼成ゆえに薄い釉薬層が傷んで絵柄が剥げる原因になります。中性洗剤をつけたやわらかいスポンジで手洗いし、水気をよく拭き取ってから保管する方法が基本です。ビンテージ品の電子レンジ使用もNGが原則です。
ソンベ焼きが買える通販・ショップ8選|くらしスタイリング(国内で購入できる実店舗・通販・フリマアプリ情報をまとめた参考ページです)