アルカリ金属アルカリ土類金属と陶磁器釉薬の融点降下作用

アルカリ金属とアルカリ土類金属は、陶磁器製作において釉薬の融点を下げる重要な役割を果たしています。これらの元素は周期表のどこに位置し、ブランド陶器にどう活用されているのでしょうか?

アルカリ金属とアルカリ土類金属の性質

この記事の要点
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周期表上の位置と特徴

アルカリ金属は第1族、アルカリ土類金属は第2族に分類され、それぞれ独自の化学的性質を持つ

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陶磁器釉薬への応用

釉薬の融点降下作用により、陶器の焼成温度を1300℃程度まで下げることが可能

炎色反応と装飾効果

各元素特有の炎色反応を利用した色彩表現が陶磁器デザインに活かされている

アルカリ金属の周期表位置と基本性質

アルカリ金属は周期表の第1族に属する元素群で、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)が含まれます。水素(H)も第1族に属しますが、常温常圧で気体であるため、アルカリ金属には分類されません。これらの元素は最外殻に1個の価電子を持ち、イオン化エネルギーが小さいため、1価の陽イオンになりやすい性質を持ちます。
参考)アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン:周期表の族の様々な…

 

アルカリ金属の単体は銀白色の光沢を持つ柔らかい金属で、融点と沸点が低く、空気や水と激しく反応します。リチウムは固体金属の中で最も軽く、比重が0.5という特徴があります。イオン化傾向が非常に大きいため、常温でも水と反応して水素を発生させ、強塩基である水酸化物を生成します。この高い反応性から、アルカリ金属は自然界で単体として存在せず、油の中に保存する必要があります。
参考)アルカリ金属とアルカリ土類金属 - 禁水性のみのリチウム他

 

アルカリ金属は炎色反応という特徴的な性質を示します。リチウムは赤色、ナトリウムは黄色、カリウムは紫色、ルビジウムも紫色、セシウムは青色の炎色を呈します。この性質は金属原子が熱エネルギーを得て励起され、元素固有の波長の可視光線を放出することによるもので、花火の着色や元素の定性分析に利用されています。
参考)炎色反応 - Wikipedia

 

アルカリ土類金属の特徴と分類

アルカリ土類金属は周期表の第2族に属する元素群で、従来はカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)の4元素を指していました。しかし、IUPACの勧告により、現在ではベリリウム(Be)とマグネシウム(Mg)を含む第2族元素全体をアルカリ土類金属と定義することが一般的になっており、日本化学会も2022年4月施行の新課程でこの定義を採用しています。
参考)第2族元素 - Wikipedia

 

ただし、ベリリウムとマグネシウムは原子半径が小さいため、カルシウム以降の元素とは性質が異なります。これらは非金属性・半金属性を示し、共有結合性を持つため、学術的には別扱いされることもあります。「土類」という名称の由来は興味深く、これらの元素の酸化物が地球から産出され、水に溶けるとアルカリ性を示すことに由来しています。発見当時、これらの酸化物は元素そのものだと考えられており、後に金属の酸化物であることが判明しました。
アルカリ土類金属もアルカリ金属と同様に炎色反応を示します。カルシウムは橙色、ストロンチウムは紅色、バリウムは黄緑色の炎色を呈しますが、ベリリウムとマグネシウムは炎色反応を示しません。最外殻に2個の価電子を持つため、2価の陽イオンになりやすく、アルカリ金属に次いでイオン化傾向が大きいため、水や空気と高い反応性を示します。
参考)https://sd2fb4c67ecbb9cc1.jimcontent.com/download/version/1679921746/module/12267089198/name/10_%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E5%8C%96%E5%82%BE%E5%90%91.pdf

 

アルカリ金属とアルカリ土類金属の水との反応性比較

アルカリ金属とアルカリ土類金属は、水との反応性において明確な違いを示します。アルカリ金属は全て常温の水と激しく反応し、水素を発生させて水酸化物を生成します。例えば、ナトリウムは次の反応式で表されます:2Na + 2H₂O → 2NaOH + H₂。この反応は酸化還元反応であり、水素が還元されることで進行します。
参考)アルカリ金属とアルカリ土類金属の共通点と違い|高校化学・中学…

 

一方、アルカリ土類金属の水との反応性は元素によって大きく異なります。ベリリウムは水と反応せず、マグネシウムは熱水とのみ反応します(Mg + 2H₂O → Mg(OH)₂ + H₂)。カルシウム、ストロンチウム、バリウムは冷水とも反応し、水素を発生させます。この反応性の違いは、原子半径とイオン化エネルギーの差によるもので、周期表を下に行くほど反応性が高まります。
参考)2族元素(アルカリ土類金属・Mg)の特徴・性質・反応など

 

イオン化傾向の順序を見ると、Li、K、Ca、Na、Mgと続き、アルカリ金属とアルカリ土類金属の代表的な元素がイオン化列の上位を占めています。これらの元素は陽イオンになりたがる性質が強く、相手に電子を与える力が大きいため、還元力も強いという特徴があります。マグネシウムは熱水と反応する境界に位置し、それより左側の金属は常温の水と反応します。
参考)「炎色反応」とは

 

アルカリ金属とアルカリ土類金属の陶磁器釉薬における融点降下作用

陶磁器製作において、アルカリ金属とアルカリ土類金属は釉薬の融点を下げる「媒熔剤」として極めて重要な役割を果たします。二酸化ケイ素(シリカ)の融点は1600℃以上にもなりますが、陶磁器は通常1300℃程度で焼成されることが望まれます。アルカリ金属のナトリウム(Na)やカリウム(K)、アルカリ土類金属のマグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)などがカチオンとして釉薬中に加わると、融点降下の効果が生まれます。
参考)陶磁器釉の構造入門-ケイ酸、アルカリ金属に注目-

 

釉薬の構造を理解することで、この融点降下のメカニズムが明確になります。釉薬はケイ酸(SiO₄)が網目状のネットワーク構造を形成していますが、アルカリ金属やアルカリ土類金属のカチオンがこのネットワークの隙間に入り込むと、電気的な不安定さを解消するために一部の酸素がケイ素と結合せず、酸素アニオンとなります。これによりネットワークに亀裂が生まれ、構造が緩み、融点が低下するのです。
アルカリ系融剤の中でも、リチウム、ナトリウム、カリウムを含む融剤は最も強力な融点降下作用を持ちます。長石類(ソーダ長石、カリ長石)は陶磁器製造で最も一般的に使用される媒熔剤で、二酸化珪酸以外にアルカリ成分を含んでいます。釉薬の三要素として、シリカが釉薬の骨格を作り、アルミナが粘り気を出して生地との相性を上げ、アルカリ金属とアルカリ土類金属が釉薬の骨格を切る(融点を下げる)働きを担います。
参考)釉薬(ゆうやく)-陶磁器知識 - 呉須、色絵具、釉薬の株式会…

 

アルカリ金属とアルカリ土類金属がもたらす陶磁器釉薬の色彩表現

アルカリ金属とアルカリ土類金属は、釉薬の融点降下だけでなく、陶磁器の色彩表現においても重要な役割を果たします。釉薬は全118個の元素中、わずか17種類の元素と酸素の組み合わせで様々な色や質感を生み出しますが、アルカリ金属とアルカリ土類金属はその基盤となる要素です。リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が釉薬の骨格を切る働きをし、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属元素と組み合わさることで色を付けます。
釉薬の分類において、媒熔剤による分類は重要な視点です。灰釉、鉛釉、アルカリ釉、錫釉などがあり、アルカリ釉はアルカリ金属を主要な媒熔剤とする釉薬です。また、呈色剤による分類では、銅釉や鉄釉などがあり、アルカリ金属やアルカリ土類金属の種類と添加量が釉薬の状態に大きな影響を与えます。陶磁器の釉薬は、RO・R'O・Al₂O₃・SiO₂という基本組成で表され、Rはカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属元素、R'はカルシウムやバリウムなどのアルカリ土類金属元素やZn、Pbなどの金属元素を指します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/71/6/71_240/_pdf/-char/ja

 

ナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分は、シリカの融解を促進し、釉薬がガラス化する温度を適切に保ちます。金属酸化物は顔料のような役割を果たし、釉薬の美しさを追求する上で欠かせない要素となっています。日本陶磁の歴史を見ると、5世紀には原初的な釉薬が出現し、奈良時代には低火度鉛釉陶器の影響を受けた緑釉陶器や奈良三彩が登場、平安時代には猿投窯で人工的な釉薬を施した灰釉陶器の生産が始まりました。このように、アルカリ金属とアルカリ土類金属を含む釉薬技術は、長い歴史の中で洗練され、現代のブランド陶器にも受け継がれています。

アルカリ金属とアルカリ土類金属を活用した陶器製作の実践的技法

陶器製作において、アルカリ金属とアルカリ土類金属を含む原料の選択と配合は、作品の品質を大きく左右します。長石は二酸化珪酸以外にアルカリ成分を含む代表的な原料で、カリ長石(正長石、福島長石など)とソーダ長石(釜戸長石、対州長石など)があります。長石は釉薬に溶融性を与え、ガラス化を促進するため、多くの釉薬調合の基本となります。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/f4cff08a8eb00ab900fc888716a8df36

 

アルミナは釉薬の結晶化を防ぎ、清澄性を促進すると同時に、釉薬に適度な粘りを持たせて厚みを均一にする働きがあります。特に石灰釉には多く使われ、カルシウムを含むアルカリ土類金属原料との相性が良いとされています。タルクは二酸化珪素の他に酸化マグネシウムを含み、釉薬に特有の質感をもたらします。溶融温度を下げるにはアルカリ原料を添加するのが一般的で、添加量の管理によって焼成温度を細かく調整できます。
参考)http://igloss.web.fc2.com/cray/glaze.htm

 

ホウ酸を含む物質も重要な媒熔剤として機能します。ホウ酸、ホウ砂、メタホウ酸ナトリウム、コレモナイト、ホウ酸カルシウム、ホウ酸亜鉛などがあり、ほとんどが水溶性のため「ホウ酸系フリット」にして使用します。低火度では粘性のある安定したガラスを作り、高火度では釉の熔ける温度を下げますが粘性も下げる働きをします。他の元素の結晶化を防ぎ、釉の透明度を増し、光沢を与えるため、問題のある釉の改善にも役立ちます。アルカリ土類金属原料として、石灰石や石膏なども広く使用され、カルシウム系とマグネシウム系で異なる効果を生み出します。これらの原料を適切に組み合わせることで、ブランド陶器に求められる高品質な釉薬表現が可能になります。

アルカリ金属とアルカリ土類金属の陶磁器以外の産業利用

アルカリ金属とアルカリ土類金属は、陶磁器釉薬以外にも幅広い産業分野で活用されています。酸化物やセラミックスの分野では、これらの元素はアルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属などと組み合わされ、調整可能な物理化学的特性を持つエネルギー材料として利用されます。酸化物は豊富で安定に存在し、ガラスやセラミックスなどの材料に使用され、高温下で優れた熱安定性を示します。
参考)アルカリ土類金属(アルカリどるいきんぞく)とは? 意味や使い…

 

マグネシウムは軽合金、写真用フラッシュ、テルミットなどに利用され、陶磁器、セメント、ガラスなど鉱物質を原料とする工業製品にはほとんどアルカリ土類金属の化合物が含まれています。セラミックスは金属または非金属の化合物で構成される無機材料で、非晶質から多結晶、単結晶まで幅広い構造をとり、通常は電気伝導性がないか広帯域ギャップの半導体ですが、ドープすることで半導体として使用可能になります。
参考)https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/products/materials-science/energy-materials/oxides-and-ceramics

 

蓄電装置の分野でも、アルカリ金属とアルカリ土類金属は重要な役割を果たしています。アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアルミニウムをカチオンとする塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒を含む電解液は、電池やキャパシタなどの蓄電装置に使用されます。セラミックスの耐食性に関する研究では、Al₂O₃やZrO₂がアルカリ金属、アルカリ土類金属、チタンを除く金属に対して良好な耐食性を示すことが報告されており、これらの特性が産業応用の幅を広げています。アルカリ活性化材料として、セラミック産業廃棄物を前駆体として利用し、そのアルミノケイ酸塩組成をアルカリ活性化プロセスで活用することで、熱処理なしで新しいバインダーやブロックを固化できる環境配慮型の技術開発も進められています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/af2a6597293a7bc2f50a875d15e7040a63d55c50

 

陶磁器釉の構造とアルカリ金属の役割について詳しく解説されています(Chem-Station)
釉薬の17元素による色と質感の作り方が詳細に説明されています(呉須、色絵具の深海)
融剤の役割と効果的な活用法について実践的な情報が掲載されています(アウガルテン・ジャパン)