アルカリ土類金属とは、周期表の第2族に位置する金属元素の総称で、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが該当します。これらの金属は化学的に高い反応性を示し、一般に水と反応して水酸化物を形成する特徴があります。マグネシウムはアルカリ土類金属の中でも周期表の上から2番目に位置し、金属マグネシウムは水とはほとんど反応せず、水酸化マグネシウムの水溶解性も低いという独特の性質を持っています。
参考)【必見】マグネシウムの性質と化学的特性を徹底解説 - カナメ…
アルカリ土類金属の単体は金属結晶であり、融点は1000℃以下と比較的低い温度で溶融します。この特性により、陶磁器の製造過程において重要な役割を果たすことができます。特にマグネシウムは、カルシウムと共にアルカリ土類金属に属しますが、カルシウムよりも軽量で耐食性があるという異なる特徴を持っています。
参考)2族元素(アルカリ土類金属・Mg)の特徴・性質・反応など
陶磁器の世界では、アルカリ土類金属を含む鉱物がフラックス原料(融剤)として使用されており、これらは焼成時に他の成分と結合してガラス相を形成する重要な働きをしています。マグネシウムは焼成時にアルカリ金属や酸化アルミニウム成分、二酸化珪素などと共にガラス相を形成し、ガラス相の強化と同時に低熱膨張化に寄与します。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2006001815A/ja
釉薬の三大要素は「溶かす成分」「接着成分」「ガラス化成分」から構成されており、マグネシウムはこの中で塩基性原料として「溶かす成分」に分類されます。アルカリ土類系融剤としてカルシウム、マグネシウム、バリウムなどを含む融剤は、陶磁器が焼き締まる温度帯(800℃~1,300℃)で釉薬を溶かす重要な作用を担っています。
参考)融剤と陶磁器の焼成における役割と効果的な活用法
マグネシウムは釉薬に添加すると多様な効果を発揮します。まず、カルシウムと共に使用されますが、カルシウムより少量で有効な媒熔剤となります。少量使用の場合は釉の溶融温度を下げ、光沢のある釉を作りますが、1100℃以下では少量でもマット釉を作り、量が増えると溶ける温度が上昇し、1200℃以上で微細な結晶が生成されマット状になります。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/04d6d289799787256bcd42e7caea60b9
釉薬原料の詳細(常滑焼工業協同組合)
釉薬におけるアルカリ土類金属の種類と役割について詳しく解説されています。
釉薬の色調変化においても、マグネシウムは重要な役割を果たします。マグネシウムを含む釉は、酸化コバルト添加で青から紫色に、酸化クロムでオリーブ緑色に変化します。また、他のアルカリ類に対して熱膨張率が低いため、貫入(釉薬表面の細かいひび)の発生を抑える効果もあります。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/466030a79cad7292a69f181036ad3763
マグネシウムを含む原料として、マグネサイト(MgCO₃)、ドロマイト(CaCO₃・MgCO₃)、タルク(滑石、3MgO・4SiO・H₂O)などが使用されています。これらの原料は釉薬の配合において、それぞれ異なる特性を付与するため、目的に応じて使い分けられています。
マグネシウム強化磁器食器は、マグネシア石粉と長石粉を主原料とし、約1340℃の高温で焼成されます。この製法により、超高強度、低脆性、高白度、滑らかな釉、長寿命という特徴を持つ食器が生まれます。通常の陶磁器の3~5倍の強度があり、日常的に使用される磁器の中でも食器の殺菌消毒に適しています。
参考)セラミックスとセラミックス原料の分類
強化磁器の強度には明確な基準が存在しており、窯業界内では150MPaと定義されています。この強度基準を満たさなければ強化磁器とは呼べません。素材自体の強度を調べる曲げ強度試験や製品自体の強度を調べる衝撃強度試験の2つを行うことで強度が確認されています。
参考)http://gagyu.shop-pro.jp/?mode=f14
マグネシア磁器食器は、高い強度、耐酸性、耐アルカリ性、無鉛毒性、洗浄性といった独自の特性を備えています。キッチンでの衝撃や衝突にも耐え、傷つきにくいのが特徴です。機械洗浄、高温調理・殺菌、電気オーブンの連続高温調理、電子レンジ加熱などの現代生活にも適しており、北京、天津、上海、広州などの大都市の大型ホテルで採用され、外国人ビジネスマンにも愛用されています。
製品単価は白磁や通常の強化磁器に比べて約25%高くなりますが、耐用年数が長く、破損率が低く、高級感とイメージが良いため、食器への実際の累計投資額は50%以上低くなります。磁器は高貴で優雅な雰囲気を醸し出し、滑らかで柔らかな釉薬がかけられており、耐熱性、耐急冷性、耐高温性、傷がつきにくいという特徴があります。
釉薬の調合においてマグネシウム系原料を使用する場合、いくつかの重要なポイントがあります。焼タルクなどのマグネシウム系原料を追加添加する調合では、1300℃焼成で縮みや変形が発生しないように配合比率を慎重に調整する必要があります。マグネシウムは釉の粘性(粘度)にはほとんど影響を与えませんが、表面張力が大きくなり、「ちじれ」(かいらぎ)を起こしやすい性質があります。
参考)https://www.scrl.gr.jp/site_files/file/kenkyuu_kaihatsu/houkokusyo/r01/R01_02.pdf
石灰系釉薬よりもドロマイト系(マグネシア系)釉薬の方が、ジルコンを添加した乳白釉において効果が高いことが知られています。これは、マグネシウムが失透剤として働き、微細な結晶を生成させることでマット状の質感を作り出すためです。酸化錫やジルコンが代表的な失透剤ですが、効果はやや弱いながら、マグネシウムも十分な効果を発揮します。
参考)http://nessho.o.oo7.jp/tyougourei.html
釉薬の媒熔剤について(明窓窯ブログ)
マグネシウムを含む釉薬の調合と特性について、実践的な情報が掲載されています。
釉薬調合における炭酸マグネシウムとマグネサイトの関係も重要です。マグネサイトの主成分は炭酸マグネシウムなので、調合例によっては置き換えて(代用)使用することができます。特に低火度(1180℃)くらいで焼成する釉を作る場合、原料の選択が最終的な釉調に大きく影響します。
参考)陶器の釉薬を調合しようと思っています。調合例には「炭酸マグネ…
マグネシウムは機械的強度を増し、酸や磨耗に対して強くなるため、タイルなどの建築用陶器の釉として多用されています。また、強力な溶解作用がありアルカリ土類に似たような働きをし、明るい発色をする特性があります。20%ぐらいの添加で大きな結晶ができる亜鉛マット結晶釉には、徐冷が結晶を育てる重要な要素となります。
参考)陶器原料の特徴 href="https://monofactory31.com/raw-material/" target="_blank">https://monofactory31.com/raw-material/amp;#045; MONO FACTORY
現代の磁器製品の安全性は、食品医薬品局(FDA)をはじめとする各国の規制機関によって厳格に管理されています。2009年の食品衛生法改定によって、人体に影響が出るほどの鉛が入った国内生産の食器は、法律上は存在しないことになっています。マグネシウム強化磁器は鉛などの化学物質を含んでおらず、無公害のグリーン食器であり、環境に優しい食器として評価されています。
参考)磁器は無毒ですか? -Joyye
陶磁器食器の安全性に関する試験としては、食品衛生法に定める食器から溶出する鉛・カドミニウムの溶出試験が一般的な試験方法です。食酢の濃度に合わせて酢酸濃度4%溶液による溶出試験が実施されており、これにより食器の安全性が確保されています。白磁そのものから有害物質が溶け出すことはなく、有害物質の所在はすべて釉薬にあるため、釉薬の成分管理が重要です。
参考)https://www.aichi-inst.jp/other/up_docs/no53_02.pdf
ヴィンテージ品や古い磁器製品については注意が必要です。1970年代半ば以前に製造された磁器の食器は、酸性条件にさらされると、有害な重金属、特に鉛とカドミウムが浸出することがわかっています。しかし、現代の規制により、この習慣はほぼ廃止され、高品質の陶磁器は天然の粘土を成形し、高温で焼成することで、強度と安定性が確保されています。
参考)2025年に知っておくべき5つの最も安全な食器素材
陶磁器食器の安全性試験(愛知県産業技術研究所)
陶磁器食器の鉛・カドミニウム溶出試験の詳細な方法と基準について解説されています。
磁器は非常に硬く、緻密で、高温焼成により陶器と比べてはるかに低い吸水性を持つため、耐久性に優れています。磁器の吸水率は約0.5%以下であるのに対し、陶器は3〜7%程度です。この低い吸水性により、細菌の繁殖を防ぎ、衛生的に使用できることも、マグネシウム磁器食器の安全性を支える重要な要素となっています。
参考)磁器の食器は日常使いに十分耐久性がありますか?
マグネシウム磁器食器を長持ちさせるためには、適切なメンテナンスが不可欠です。基本的な洗浄には、生分解性の植物由来の食器用洗剤を使用し、柔らかいスポンジで優しく洗うことが推奨されています。ぬるま湯で陶器を軽くすすぎ、中性洗剤を少量つけたスポンジで優しく洗い、洗剤が残らないようによくすすぐことが基本的な手順です。
参考)マグカップを長持ちさせるためのお手入れのヒント - Joyy…
食器洗浄機の使用については、基本的には使用可能ですが、薄いものや貫入が入っている器は、うつわ同士がぶつかると欠けやすい性質があるため、手洗いが推奨されています。電子レンジについては、ほとんどの器が利用できますが、長時間の使用はしみやひび割れなどの原因につながるため注意が必要です。また、急激な温度変化に弱いため、温めた直後の急冷などは破損の原因になるので避けるべきです。
参考)陶磁器の性質上のご注意とお手入れについて
器の保管方法も重要で、器と器の間にキッチンペーパーや和紙などを挟むことで、傷がつきにくい上に、器に残っていた微量の水分を吸ってくれます。この方法により風合いを損なわず、器を長持ちさせることができます。茶渋などのシミがついてしまった場合は、適切な方法で除去することで、食器の美しさを保つことができます。
参考)https://www.nikko-tabletop.jp/blogs/journal/dinnerwarecare
陶磁器のお手入れ方法(菊祥陶器)
電子レンジや食洗機の使用方法、日常的なメンテナンスについて詳しく説明されています。
セラミックや磁器のマグカップは、耐久性と保温性があるため人気がありますが、メーカーの説明書を必ず確認することが推奨されています。温度が陶器食器の品質に与える影響も考慮する必要があり、磁器では1200°Cを超える温度でムライト結晶が形成され、強度と半透明性が向上します。このように製造過程での温度管理が重要であるのと同様に、使用時の温度管理も食器の寿命に影響します。
参考)陶器食器の品質に対する温度の影響
丁寧に扱うことで食器を長生きさせることができるため、お気に入りの食器やいつも使っている食器を大切にメンテナンスすることが重要です。マグネシウム磁器食器は高い耐久性を持ちますが、適切なケアを行うことで、さらに長期間にわたって美しく機能的に使用することができます。