陶器の漬物鉢を買ったら、すぐ使うと健康被害が出ることがあります。
陶器が漬物容器として長く使われ続けているのは、見た目の風情だけではありません。発酵食品との相性という観点から、機能面で他素材を上回る特性が3つあります。
まず「保温・保冷の安定性」です。厚みのある陶器は、外気温の変化を受けにくい断熱特性を持っています。夏場でも内部温度の急上昇を抑え、冬場には冷えすぎを防ぐため、発酵に最適な20〜25℃の温度帯を比較的長くキープしやすい構造です。ペットボトル1本(500ml)分の水が1時間で体感できるほど温度が変わるのに対し、陶器はその変化がゆっくりです。温度が安定しやすいということですね。
次に「乳酸菌が活動しやすい環境を作る」点です。陶器の表面は微細な気孔を持っており、適度なガス交換が行われます。ぬか漬けの乳酸菌は嫌気性ですが、完全密閉状態では逆に悪玉菌が繁殖しやすくなることもあります。陶器の甕(かめ)が「密閉しない容器」であることは理にかなっているのです。発酵をうまく進めるためには、この通気性がカギになります。
3つ目は「塩分・酸への耐性」です。漬物には塩・梅酢・乳酸といった腐食成分が多く含まれます。釉薬がしっかりかかった陶器は、こうした成分でも表面が劣化しません。プラスチック容器は長期使用で細かい傷がつき、そこに菌や臭いが染み込むリスクがありますが、陶器はその点で優位です。つまり長期保存には陶器が原則です。
これらの特性から、ぬか漬け・梅干し・みそ仕込みのように数週間〜数ヶ月かけてじっくり発酵させる漬物において、陶器の漬物鉢は最適な選択肢となります。
陶器は安全と思われがちですが、一部の製品には注意が必要です。これが、この記事でもっとも重要な知識のひとつになります。
陶器の絵付けや発色に使われる釉薬(うわぐすり)には、酸化鉛やカドミウムが含まれる場合があります。食品衛生法では、陶磁器製品からの溶出基準が定められており、平成21年(2009年)8月1日から新基準が施行されました。この改正により、深さ2.5cm以上の深型食器類では鉛の溶出許容値が従来の半分以下に厳しくなっています。溶出基準が強化されているということですね。
鉛は酸性の水に触れると溶け出す性質を持っています。漬物は梅酢・乳酸・食酢など酸性の食品を長時間入れておく用途です。つまり、鉛溶出のリスクは、漬物鉢という用途と特に相性が悪い組み合わせです。厚生労働省の試験方法でも、4%酢酸溶液(食酢と同濃度)に22℃で24時間浸した状態で溶出量を測定します。この条件はぬか床や梅干し保存の環境と非常に近いです。厳しいところですね。
では、どんな製品を選べばよいのでしょうか?ポイントは3つあります。
購入前に必ずメーカーの安全表示を確認する、という1アクションだけ覚えておけばOKです。
参考:食品衛生法における陶磁器製品の鉛・カドミウム溶出基準について(石川県工業試験場)
陶磁器製品からの溶出基準強化への取組み|石川県工業試験場
参考:厚生労働省によるガラス・陶磁器製品の鉛・カドミウム規格基準
器具・容器包装の安全情報(鉛・カドミウム規格改正Q&A)|厚生労働省
いざ陶器の漬物鉢を選ぼうとすると、サイズ選びと産地選びで迷う方がほとんどです。それぞれのポイントを整理します。
サイズの選び方は、漬けたい食品の量によって決まります。基本的な目安は以下の通りです。
| 容量の目安 | 適した使い方 | 外径の目安 |
|---|---|---|
| 0.5〜1L(ミニ壺) | 浅漬け・小梅・らっきょう少量、食卓に出してそのまま使う | 直径約11cm(はがき横幅ほど) |
| 1.8〜3L(1〜2号) | ぬか床1kg・梅干し1kg、2〜3人家族の日常使い | 直径約18〜22cm |
| 5〜9L(3〜5号) | ぬか床2〜3kg・梅干し2〜3kg、本格的な仕込みや大家族向け | 直径約25〜30cm(テニスラケット面ほど) |
ぬか床を入れる場合は、ぬかの量の2〜3倍の容量が目安です。例えばぬか床1kgなら2〜3L容量の鉢が適切で、かき混ぜる際に外にこぼれないゆとりが必要です。サイズは少し大きめが基本です。
産地による特徴の違いも覚えておくと選びやすくなります。
漬物鉢として特に流通量が多い産地は常滑焼と信楽焼です。常滑焼(愛知県常滑市)は日本六古窯のひとつで、鉄分を多く含む赤褐色の陶土が特徴です。甕(かめ)やタンク類の生産が盛んで、食品保存容器の産地として全国的に有名です。釉薬の質が安定しており、漬物・味噌・梅干し用途での信頼性が高いです。
信楽焼(滋賀県甲賀市信楽町)は、大型の壺や甕の生産で知られ、素朴な土味と重厚感が特徴です。やや粗い土質のため吸水性があり、後述する「目止め」が特に重要な産地です。意外ですね。
参考:日本六古窯の産地別特徴(常滑焼・信楽焼含む)
日本古来から生産が続く六古窯とは|日本工芸堂
陶器の漬物鉢を購入したら、すぐに食材を入れてはいけません。最初に必ず「目止め(めどめ)」という下処理が必要です。これは陶器を長く使うための重要なひと手間です。
目止めとは何でしょうか? 陶器の表面には無数の小さな気孔(目)があり、そこから水分・油分・臭いが染み込みます。そのままぬか床や梅酢を入れると、これらが深く浸透してシミや臭い残りの原因になります。目止めは、米のとぎ汁に含まれるでんぷん質でその気孔を塞ぐコーティング処理です。目止めは使い始め前の必須作業です。
目止めの具体的な手順:
目止めをしないまま漬物を入れてしまうと、ぬかの臭いが陶器の気孔に深く染み込み、後から重曹や煮沸を繰り返しても完全には取れなくなることがあります。漬物鉢として長く使うなら、目止めが条件です。
なお、信楽焼など吸水性の高い産地の製品は、目止めをより丁寧に行う必要があります。1回の煮沸で終わらせず、2〜3回繰り返すと効果が上がります。
参考:陶器の目止めの手順と考え方について詳しく解説
陶器の目止め方法と考え方|民藝おくむら
目止めが終わったら、日々の正しいお手入れで陶器の漬物鉢は数十年単位で使い続けることができます。しかしお手入れを怠ると、カビや臭いのトラブルが起きやすくなります。
日常的な洗い方は、基本的に中性洗剤とやわらかいスポンジで洗います。ポイントは「つけおき洗いをしない」ことです。陶器の気孔に洗剤成分が入り込み、後の漬物に臭いや味の変化を引き起こすことがあります。これは意外と見落としがちです。洗った後は、水気をふき取り、陰干しでしっかり乾燥させてから収納するのが原則です。
カビが発生した場合の対処法を知っておくと安心です。陶器のカビには酢は効果がないとされています(酢は雑菌には有効ですが、カビ菌には効きません)。効果的なのは酸素系漂白剤(オキシクリーンなど)を薄めた液に30分〜1時間ほど浸け置きする方法です。塩素系漂白剤(カビキラーなど)も使用できますが、使用後は十分にすすいで完全乾燥させることが重要です。カビには酸素系漂白剤が条件です。
臭いが気になる場合はどうすればよいのでしょう? まずレモン果汁を加えた水に入れ、2〜3回煮沸を繰り返してみましょう。それでも改善しない場合は、水1Lに対して大さじ4杯の重曹を溶かした液に半日〜1日浸け置きし、完全乾燥させます。この工程を2〜3回繰り返すことで大抵の臭いは取れます。
また、陶器の漬物鉢を収納する際は「完全に乾燥させた状態で」「通気性のある場所に」保管することが重要です。湿気が残ったまま保管するとカビの温床になります。これだけ覚えておけばOKです。
| トラブル | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| カビ(黒・白) | 湿気と有機物の残留 | 酸素系漂白剤に浸け置き→乾燥 |
| 土臭い・ぬか臭い | 気孔への臭い成分浸透 | レモン水煮沸→重曹水浸け置き |
| シミ(茶色い染み) | 汁気・油の染み込み | 重曹ペーストで軽くこすり乾燥 |
| ヒビ・貫入(かんにゅう) | 熱衝撃・経年変化 | 急激な温度変化を避ける(予防が最善) |
参考:陶磁器の臭いとカビへの正しいお手入れ方法(宮内庁御用達の老舗陶磁器店)
陶磁器のお手入れ方法|陶香堂(宮内庁御用達)