足尾銅山発掘される鉱石の種類と歴史的価値

足尾銅山で発掘される鉱石には黄銅鉱をはじめ多様な種類があります。備前楯山に眠る巨大な鉱床から採取された鉱物標本は、日本の鉱業史においてどのような価値を持つのでしょうか?

足尾銅山で発掘される鉱石の種類と特徴

足尾銅山で発掘される主要な鉱石
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黄銅鉱を中心とした銅鉱石

日本最大級の銅産出量を誇った主要鉱石

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多様な晶洞鉱物

燐灰石、水晶、黄鉄鉱など19種類以上の鉱物標本

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河鹿鉱床の特殊な鉱体

備前楯山特有の高品位塊状鉱床

足尾銅山で発掘される鉱石は、黄銅鉱(CuFeS2)が主体となっています。黄銅鉱は銅と鉄の硫化鉱物であり、日本で採掘される銅の基本的な原料鉱石です。足尾銅山は慶長15年(1610年)に備前国出身の二人の農民、治部と内蔵が備前楯山で露頭している銅鉱石を発見したことから本格的な採掘が始まりました。

 

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黄銅鉱以外にも、足尾銅山からは黄鉄鉱閃亜鉛鉱、硫砒鉄鉱、磁硫鉄鉱、斑銅鉱方鉛鉱など多様な金属鉱物が産出されています。特に足尾銅山は晶洞鉱物が多いことで昔から有名で、螢石、霰石、水晶、方解石、燐灰石などを含む19種類以上の鉱物標本が確認されています。

 

参考)https://trekgeo.net/m/m/htX/ashioTOCHIGI.htm

鉱床の地質学的な特徴として、足尾山地を構成する秩父古生層の砂岩、粘板岩、チャートを貫いて噴出した足尾流紋岩に伴うものであり、銅を主とする多鉱種の鉱石を産出しています。標高1273メートルの備前楯山を中心に1800本もの鉱脈が存在し、その周辺部には130余の「河鹿鉱床」と呼ばれる塊状・ポケット状の鉱体が胚胎しています。

 

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足尾銅山の黄銅鉱と主要鉱石の産出状況

 

黄銅鉱は足尾銅山で最も重要な鉱石であり、明治時代には日本の銅生産量の約4割を占めるほどの規模で採掘されました。1610年から1759年の間に足尾銅山は121,794トンの銅を産出し、江戸時代の日本における代表的な銅山として機能していました。

 

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採掘された黄銅鉱は、焼がまで薪と鉱物を積み重ね30日間焼き続けた後、鉱石に木炭と珪石を加えて再び溶かす作業を繰り返して銅に精錬されました。明治時代には最新技術の導入により、1917年には年産15,735トンという足尾銅山史上最大の産銅量を記録しました。

黄鉄鉱(FeS2)も足尾銅山から豊富に産出される硫化鉱物です。黄鉄鉱は金属光沢を持つ鉄と硫黄の化合物で、鉱石標本として100円から販売されるほど一般的な鉱物となっています。足尾銅山の黄鉄鉱は、備前楯山の地下に広がる総延長1200キロメートル(東京・博多間と同じ距離)にも及ぶ坑道から採掘されてきました。

 

参考)黄鉄鉱(栃木県日光市足尾町足尾銅山): 恋する黄鉄鉱

足尾銅山の河鹿鉱床から発掘される鉱石

河鹿鉱床は足尾銅山特有の巨大で含銅品位に優れた塊状鉱床です。この名称は、渓流中の石の下に隠れている鰍(カジカ)のような形状であることから名づけられました。明治40年頃に高品位巨大鉱床である「河鹿」が発見され、その後も多くの河鹿鉱床が発見・開発されました。

 

参考)足尾銅山に関するよくある質問/日光市公式ホームページ

河鹿鉱床は主に古生層中に胚胎する130余の塊状・ポケット状の鉱体からなり、備前楯山周辺部に分布しています。これらの鉱床からは黄銅鉱を中心とした高品位の銅鉱石が採取され、大正期の生産量増加に大きく貢献しました。

河鹿鉱床の発見により、足尾銅山では階段掘りという新しい採掘方法が採用されるようになりました。この技術革新とMS式浮遊選鉱法の導入により、やや停滞気味だった生産量が一段と上昇し、足尾銅山は日本の銅鉱業において中心的な役割を果たし続けました。

足尾銅山の晶洞鉱物と鉱物標本の多様性

足尾銅山は晶洞や晶洞鉱物が多いことで昔から有名な鉱山の一つです。晶洞とは岩石や鉱脈の中にできた空洞で、そこに結晶が成長する空間のことを指します。足尾銅山の晶洞からは燐灰石や藍鉄鉱などの燐酸塩鉱物が生成されることが多く、鉱物コレクター必携といわれる「燐灰石」をはじめとする貴重な標本が産出されています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigenchishitsu1951/2/4/2_4_59/_pdf/-char/en

晶洞鉱物として、螢石、霰石、水晶、方解石、燐灰石、斑銅鉱、黄鉄鉱、磁硫鉄鉱、硫砒鉄鉱、方鉛鉱、鉄閃亜鉛鉱など計19種類の鉱物標本が確認されています。これらの鉱物は、足尾銅山観光のお土産屋で原石や台付き標本として販売されており、100円から300円程度で入手できるものもあります。

 

参考)ЯНКОВ href="https://yankov.pro/?e=1813243" target="_blank">https://yankov.pro/?e=1813243amp;#8211; Модульные технол…

水晶や方解石などの透明鉱物は、黄鉄鉱や黄銅鉱などの金属鉱物上に形成されることがあり、黄土色透明から半透明の多面体結晶を成す美しい標本が見られます。閃亜鉛鉱は亜鉛と硫黄の化合物で、茶色から黒みがかった色で金属光沢がやや弱く、きれいな結晶は四面体の形をしています。

 

参考)黄銅鉱「「まっくろ黒鉱 ー驚きに満ちた鉱石ー」」 東北大学総…

足尾銅山の採掘方法と坑道の構造

足尾銅山では、明治18年(1885年)に開削を開始した通洞坑が基幹坑道として機能していました。通洞坑は足尾銅山の主要坑道である本山坑と小滝坑を連結する総延長約2,900メートルの坑道で、明治29年(1896年)に完成しました。開削にあたっては、さく岩機3台を使用して3.3キロメートルほど掘進するなど、当時の最新技術を導入しました。

 

参考)とちぎいにしえの回廊|文化財の歴史

江戸時代の採掘は手掘りによるもので、木を積んだ支柱を使いながら坑道を掘り進めていました。明治時代に入ると削岩機を用いた機械的な採掘方法に移行し、採掘効率が大幅に向上しました。坑道内では手押しトロッコや電動トロッコが使用され、採掘した鉱石を効率的に運搬していました。

 

参考)足尾銅山の歴史/日光市公式ホームページ

坑道の総延長は1200キロメートル以上にも及び、備前楯山の山体内部には高低差1000メートルの範囲に坑道が掘り進められました。現在は「足尾銅山観光」として通洞坑の一部が開放されており、トロッコ電車に乗って全長約460メートルの薄暗い坑道に入り、当時の鉱石採掘の様子を見学できます。

 

参考)足尾銅山について

足尾銅山の鉱石採取体験と見学スポット

足尾銅山観光では、通洞坑の坑内観光施設でトロッコ電車に乗って実際の採掘現場を見学できます。ラックレール式トロッコに乗って通洞坑内に入ると、運転手さんのガイド付きで江戸時代から昭和までの採掘の様子が展示されています。

 

参考)足尾銅山観光坑道探索

観光坑道内では、坑道を滴る銅を含んだ水から銅成分が溜まった沈殿洞や、石灰分が固まった鍾乳石のような構造物を見ることができます。また、硫酸銅を含んだ水溶液に鉄を沈めることでイオン反応により銅を採取する方法の展示もあり、化学的な銅精錬の仕組みを学べます。

坑内には現在も自然銅が見られる場所があり、緑青の美しい青色に変色した銅も観察できます。外には削岩機の体験コーナーも設けられており、実際に採掘に使用された機械を体験することができます。足尾銅山で採掘された鉱石類の展示コーナーでは、様々な種類の鉱物標本を間近で観察できます。

足尾銅山観光のお土産屋「エンゼル」では、足尾産のマンガン鉱石、黄鉄鉱原石(100円〜)、黄鉄鉱原石台付き(300円〜)などが販売されており、天然石の種類として紅水晶、ソーダライト、茶金石、アラゴナイト、ラピスラズリ、ジャスパーなども取り扱っています。鉱物採集を趣味とする方々にとって、足尾銅山周辺のズリ(鉱石の捨て石)から鉱物標本を探すことも人気の活動となっています。

 

参考)http://www2.ttcn.ne.jp/~enzel/koseki/koseki.html
youtube​
足尾銅山に関するよくある質問(日光市公式)- 河鹿鉱床の詳細や銅山の歴史について
足尾銅山について(足尾銅山観光公式)- 足尾銅山の歩みと主要な出来事の年表
足尾銅山跡(通洞坑)- とちぎいにしえの回廊 - 見学可能な通洞坑の詳細情報

 

 


足尾銅山 歴史とその残照