硫酸銅電気分解の反応式と実験方法

硫酸銅水溶液の電気分解では陰極に銅が析出し、陽極では酸素が発生します。実験装置の組み方や電極での化学反応、ファラデーの法則との関係について詳しく解説します。この実験で何が起こるのでしょうか?

硫酸銅電気分解の基本原理

硫酸銅電気分解で起こる3つの変化
陰極での銅の析出

銅イオンが還元され赤銅色の金属が極板に付着

💨
陽極での酸素発生

水分子が酸化され気体の酸素が発生

🔬
水溶液の濃度変化

反応により硫酸銅の濃度が徐々に変化

硫酸銅電気分解の陰極反応と銅析出のメカニズム

硫酸銅水溶液を電気分解すると、陰極では銅イオンが電子を受け取る還元反応が起こります。この反応は化学式で Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu と表され、水溶液中に溶けている銅イオンが電極表面で金属銅に変化します。陰極には電源の負極から電子が供給されるため、正電荷を持つ銅イオンが引き寄せられ、電子を2個受け取って還元されます。
参考)電気分解の実験

 

実験では3分程度で陰極の炭素棒が赤銅色になることが観察でき、この色の変化は金属銅が析出した証拠です。銅は水溶液中のイオンの中でもイオン化傾向が比較的小さい金属であるため、陰極で優先的に還元されて析出します。ただし、長時間電気分解を続けると、析出した銅が剥がれて溶液中に黒い物質として浮遊または沈殿することがあります。
参考)https://apec.aichi-c.ed.jp/kenkyu/chousa/kiyo/94syuu/jujituWeb/honbun/sasaki.pdf

 

銅の析出量は流れた電気量に正確に比例するという特徴があり、この性質を利用してファラデー定数を求める実験が広く行われています。例えば0.40アンペアの電流を965秒間流すと約0.129グラムの銅が析出し、これは理論値の0.127グラムとほぼ一致します。
参考)https://seika.ssh.kobe-hs.org/media/common/RisuuKagaku/2018-2nen/%E5%8C%96%E5%AD%A6%20%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%88(%E9%9B%BB%E6%B0%97%E5%88%86%E8%A7%A3).pdf

 

硫酸銅電気分解の陽極反応と気体発生

陽極では水分子が酸化される反応が起こり、酸素気体が発生します。白金電極を使用した場合、陽極での反応式は 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ となります。この反応では水分子が電子を失い、酸素分子と水素イオンが生成されます。
参考)https://sekatsu-kagaku.sub.jp/electrolysis.htm

 

硫酸イオン(SO₄²⁻)は酸化されにくい性質を持つため、陽極では硫酸イオンではなく水分子が優先的に酸化されます。そのため陽極からは無色無臭の酸素気体が泡となって発生し、これは試験管に集めて火のついた線香を近づけることで確認できます。
参考)https://sd2fb4c67ecbb9cc1.jimcontent.com/download/version/1716973678/module/12507527098/name/p193-209_13_%E9%9B%BB%E6%B1%A0%E3%81%A8%E9%9B%BB%E6%B0%97%E5%88%86%E8%A7%A3.pdf

 

ただし、陽極に銅板を使用した場合は反応が異なります。銅電極を陽極として使うと、電極自体の銅が酸化されてイオンとなり溶液中に溶け出すため、酸素の発生は起こりません。この反応は Cu → Cu²⁺ + 2e⁻ と表され、電解製錬などの工業プロセスで利用されています。
参考)化学講座 第27回:電気分解【電気分解のルールと銅の電解製錬…

 

硫酸銅電気分解の実験装置と条件設定

硫酸銅水溶液の電気分解実験では、100mLビーカーに0.1〜1.0モル濃度の硫酸銅水溶液を50〜80mL入れ、電極として炭素棒または銅板を使用します。電極間の距離は通常1.0cmに設定し、電流は0.4〜1.0アンペアで30〜40分間電気分解を行います。
参考)https://uwajimahigashi-h.esnet.ed.jp/file/12269

 

実験装置の組み立てでは、両極の銅板の距離を一定に保つことが重要で、割り箸などを使って電極間隔を固定する工夫が推奨されます。電源装置には直流電流計を接続し、1分ごとに電流値を記録することで、流れた電気量を正確に計算できます。温度による影響も考慮が必要で、電解液を60〜70℃に加温すると陽極の酸化被膜が消えて理論値に近い値が得られます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/36/5/36_KJ00003507757/_pdf/-char/ja

 

実験前には銅板を酸で洗浄して水洗いし、完全に乾燥させてから電子天秤で質量を0.001gまで正確に測定します。電気分解後は付着物が取れないよう注意しながら電極を取り出し、純水で硫酸銅水溶液を除いた後、アセトンで水分を除去して乾燥させます。硫酸銅の結晶が析出する可能性があるため、直接アセトンに入れず、まず純水で洗浄することが重要です。
参考)https://www.hyogo-c.ed.jp/~rikagaku/jjmanual/jikken/kaga/kaga30.htm

 

硫酸銅電気分解とファラデーの法則の関係

ファラデーの電気分解の法則は、電気分解で陰極または陽極で変化する物質の量が流した電気量に比例することを示します。硫酸銅水溶液の電気分解は、この法則を検証する代表的な実験として広く採用されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/57/11/57_KJ00007515661/_pdf

 

電気量Q(クーロン)は電流I(アンペア)と時間t(秒)の積で計算され、Q = I × t の式で表されます。例えば0.40アンペアの電流を965秒間流すと、電気量は386クーロンとなります。ファラデー定数を96,500C/molとすると、この電気量で流れた電子は0.00400モルに相当します。
参考)授業実践記録(化学) 電気分解の実験

 

陰極での反応式 Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu から、銅1モルを析出させるには電子2モルが必要なことがわかります。したがって電子0.00400モルが流れると、銅は0.00200モル析出し、銅の原子量63.5を用いると質量は0.127グラムと計算されます。この理論値と実験値を比較することで、ファラデーの法則が成り立つことを確認できます。
参考)https://seika.ssh.kobe-hs.org/media/1/05faraday_2nen1gakki.pdf

 

実験結果では500秒と1000秒の銅の反応量を比較すると、1000秒のときの反応量はほぼ正確に2倍になっており、電気量と物質量の比例関係が実証されます。

硫酸銅電気分解における濃度と温度の影響

硫酸銅水溶液の濃度は電気分解の結果に大きく影響します。実験では0.10モルから飽和状態までの異なる濃度で電気分解を行い、銅の析出量や析出の仕方を比較することができます。濃度が高いほど溶液中の銅イオンが多いため、陰極での銅の析出速度が速くなります。
温度も電気分解反応に重要な役割を果たします。低温(10℃以下)と高温(60〜70℃)で電気分解を行うと、電極の変化の様子が異なります。特に陽極では低温時に酸化被膜が形成されやすく、これが理論値とのずれの原因となります。高温に保つことで陽極の酸化被膜が消え、理論値に近い値が得られることが確認されています。
参考)硫酸銅 (II) 溶液の電気分解における温度の影響を見せる(…

 

電解液に硫酸を混合することも一般的な手法です。例えば0.1モルの硫酸銅水溶液と1モルの硫酸を1:10の割合で混合した電解液を使用すると、電気伝導性が向上して安定した電気分解が可能になります。また、電流密度と陽極酸化被膜生成の関係についても研究が行われており、適切な電流密度の設定が重要です。
硫酸銅水溶液を用いた電気分解では、反応により水溶液の組成が徐々に変化します。白金電極を用いた場合、2CuSO₄ + 2H₂O → 2Cu + 2H₂SO₄ + O₂ という全体反応が進行し、硫酸銅が消費されて硫酸が生成されます。この変化を理解することは、電気分解の仕組みを深く理解する上で重要です。
参考)白金を電極とした硫酸銅(Ⅱ)の電気分解を、一つにまとめると、…

 

啓林館の電気分解実験詳細(実験手順と結果の記録方法について解説)
兵庫県理科教育研究会のファラデーの法則実験(器具の準備と留意点を詳しく説明)
電気分解の基礎知識(陽極陰極の区別と電極反応の場合分けについて体系的に解説)