ファラデーの法則とマクスウェル方程式
📚 この記事でわかること
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ファラデーの電磁誘導の法則
磁束の変化が起電力を生み出す基本原理と数式表現を理解
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マクスウェル方程式との関係
電磁気学の基礎方程式における位置づけと微分形・積分形の違い
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物理的意味と実用例
電場と磁場の相互作用から発電機やコイルへの応用まで
ファラデーの法則の基本概念と歴史的背景
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ファラデーの電磁誘導の法則は、1831年にマイケル・ファラデーによって発見された電磁気学の基本原理です。この法則の本質は、導体と磁場の間に相対的な動きがあるときに電圧(起電力)が発生し、その大きさは磁束の変化の速さに比例するというものです。閉回路を貫く磁束が変化すると閉回路に誘導起電力が生じ、この現象は数式でVemf=−∂t∂Φと表現されます。負号はレンツの法則を表しており、誘導電流はその原因を妨げる向きに発生することを意味しています。
参考)マクスウェルの方程式3(マクスウェル – ファラデーの式)
ファラデーは定量的な式を導きませんでしたが、後にジェームズ・クラーク・マクスウェルがこの法則を数学的形式として整理しました。この発見により、磁場を利用して電圧を発生させることができることが明らかになり、回路が閉じていれば電流が流れることが理解されました。電磁誘導の原理は、現代の発電機やトランス、電磁調理器など、多くの電気機器の基礎となっています。
参考)マクスウェルの方程式 - Wikipedia
ファラデーの実験では、コイルに棒磁石を近づけたり遠ざけたりすることで電流が流れることを観察しました。棒磁石をコイルに近づけるとコイル内の磁束線が増え、磁束密度が大きくなります。また、コイルの巻き数をNとすると、起電力はVemf=−NdtdΦと表され、巻き数分だけ起電力が重畳されます。
マクスウェル方程式におけるファラデーの法則の位置づけ
マクスウェル方程式は、電磁場を記述する古典電磁気学の基礎方程式であり、ファラデーが幾何学的考察から見出した電磁力に関する法則を、マクスウェルが1864年に数学的形式として整理したものです。マクスウェル方程式は全部で4つの式から構成されており、ガウスの法則、磁荷非存在の法則、ファラデーの電磁誘導の法則、アンペール・マクスウェルの法則がそれに該当します。たった4本の式で電磁気現象のほぼすべてを説明できる強力なものです。
参考)
マクスウェル方程式の意味
ファラデーの電磁誘導の法則は、マクスウェル方程式の第3式として位置づけられており、微分形では∇×E=−∂t∂Bと表現されます。この式の左辺は電場Eの回転(rot)を表し、右辺は磁束密度Bの時間微分を示しています。つまり、磁束密度の時間変化によって電場が渦を巻くように変形することを意味しており、これが発電機の原理となっています。
参考)いきなりマクスウェル方程式な電磁気学|PK_RNX_ずんだも…
マクスウェル方程式として整理されたことで、電場と磁場の統一(電磁場)、光が電磁波であることなどが導かれました。アインシュタインは特殊相対性理論の起源はマクスウェルの電磁場方程式である旨を明言しており、現代物理学の基礎を築いたといえます。電磁気学の諸現象をすべて記述できる4つの式の集まりは、物理学史上最も重要な発見の一つとされています。
ファラデーの法則の微分形と積分形の違い
ファラデーの法則には微分形と積分形の2つの表現方法があり、それぞれ異なる物理的意味を持ちます。微分形は∇×E=−∂t∂Bと表され、ある1点における局所的な電場と磁場の関係を記述します。左辺の∇×Eは電場の回転を表し、対象とする点の周辺の非線対称成分を単位面積当たりに換算したベクトルです。回転はベクトル場がどれぐらい渦巻いているかを測る量であり、rotEとも書かれます。
参考)大学物理のフットノート
一方、積分形は∮CE⋅dl=−dtd∫SB⋅dSと表され、閉曲面を境界とする領域全体における電場と磁場の関係を示します。左辺は閉曲線Cに沿った電場の線積分で起電力を表し、右辺は曲面Sを貫く磁束の時間微分を示しています。この積分形は、閉回路を貫く磁束が変化すると閉回路に起電力が生じることを意味し、高校物理で学ぶV=−dtdΦの形に対応します。
参考)ファラデーの電磁誘導の法則 原理と本質の理解
微分形と積分形はストークスの定理によって数学的に同等であることが証明できます。ストークスの定理は∫S(∇×F)⋅dS=∮CF⋅dlと表され、領域内の回転の面積分が境界の線積分と等しいことを示します。ただし、この関係が成立するためには曲面Sが時間によって変わらないことが条件となります。時間経過とともに閉回路が変化する場合は、時間微分と面積分を入れ替えることができないため、微分形と積分形の関係が単純には成立しません。
ファラデーの法則における電場と磁場の相互作用
ファラデーの法則の微分形
∇×E=−∂t∂Bにおいて、右辺の
∂t∂Bは磁場の時間微分を表しており、磁束密度がどのように変化しているかを示します。磁場
Bが上を向いていてその大きさが増加しているとき、時間微分
∂t∂Bも上を向き、負号がつくことで電場は上から見て時計回りに生じます。逆に磁場が減少しているときは電場は反時計回りになります。この右ねじの関係は、ネジを閉めるときに回す方向とネジが進む方向の対応と同じです。
電場と磁場は互いに密接に関係しており、一方の変化が他方を生み出す相互作用があります。ガウスの法則では電荷の存在が電場を生むことを主張していましたが、ファラデーの法則は電場が磁場の時間変化によっても生じることを示しています。実際には、変化のあった磁場
Bと回転を示す電場
Eの距離は無限小であり、磁場の時間変化がある点のみに電場が発生します。しかし、微分形の回転の定義から、磁場の変化があった点から離れたところでも電場が生じることが示されています。
参考)
マクスウェル方程式
電磁誘導が発生する状況には2通りの場合があります。一つは時間経過とともに磁束が変化する場合で、閉回路は変化せず磁場のみが時間変化する状況です。もう一つは時間経過とともに閉回路が変化する場合で、磁場は一定だが回路の面積や向きが変化する状況です。前者はマクスウェル・ファラデーの式と同一ですが、後者は閉回路の変化によって電位差が発生するローレンツ力によるものです。ローレンツ力はF=q(E+v×B)と表され、電荷が磁場中を移動することで力が働きます。
ファラデーの法則の実用的応用とコイルの仕組み
ファラデーの電磁誘導の法則は、現代の電気機器において極めて重要な役割を果たしています。最も代表的な応用例は発電機であり、磁場の中でコイルを回転させることで電気を生み出す仕組みです。導線を密に巻いたコイルの場合、その巻き数分だけ起電力が重畳されるため、巻き数を
Nとすると
Vemf=−NdtdΦという関係が成り立ちます。これにより、少ない磁束の変化でも大きな起電力を得ることができます。
トランス(変圧器)もファラデーの法則を応用した重要な装置です。一次コイルに交流電流を流すと時間変化する磁場が発生し、二次コイルに起電力が誘導されます。コイルの巻き数比によって電圧を変換できるため、送電システムにおいて高電圧から低電圧への変換に利用されています。また、電磁調理器(IHクッキングヒーター)では、コイルに高周波電流を流して変化する磁場を作り出し、鍋底に渦電流を発生させて加熱します。
参考)
電磁誘導とは
レンツの法則は、誘導電流がその原因を妨げる向きに発生することを示しており、ファラデーの法則の負号として表現されています。例えば、コイルを縦にして中を通るように棒磁石を自由落下させると、コイルがない場合に比べて落下速度が小さくなります。これは電磁誘導によって電気エネルギーが発生する分、運動エネルギーが減少するためです。このように、エネルギー保存則が電磁誘導においても成立しており、磁場を変化させるためには誘導電流により生じる磁束に逆らう必要があり、磁気エネルギーが必要となります。
実際の導体回路では、導体が動く場合と磁場が変化する場合で物理的メカニズムが異なります。導体が磁場中を移動する場合、導体内の電荷にローレンツ力F=q(v×B)が働き、電荷が導体の一方に偏ることで起電力が生じます。一方、導体は静止していて磁場のみが変化する場合は、ファラデーの法則に従って電場が直接発生します。どちらの場合も結果として起電力が生じますが、その物理的起源は異なっています。この区別を理解することが、電磁誘導の本質を深く理解する鍵となります。
マクスウェル方程式全体におけるファラデーの法則の役割
マクスウェル方程式は4つの式から構成されており、それぞれが電磁現象の異なる側面を記述しています。第1式のガウスの法則は
∇⋅E=ερと表され、電場は電荷があるところから湧いて出ることを示します。第2式の磁荷非存在の法則は
∇⋅B=0であり、磁場がどこからも湧き出ることはないことを意味します。この世界に単一の磁荷(磁気モノポール)が存在しないため、磁場は必ずN極から出てS極に入ります。
第3式がファラデーの電磁誘導の法則
∇×E=−∂t∂Bであり、磁場が時間変化すると電場は回転を持つことを示します。第4式はアンペール・マクスウェルの法則
∇×B=με∂t∂E+μjで、電場の時間変化と電流によって磁場は回転を持つことを表します。この第4式の右辺第1項は変位電流と呼ばれ、マクスウェルが独自に追加した項であり、電磁波の存在を予言する上で決定的な役割を果たしました。
参考)
マクスウェル方程式に現れる諸量の解説 - 相対論の理解とその…
ファラデーの法則とアンペール・マクスウェルの法則を比較すると、両者は対称的な関係にあることがわかります。ファラデーの法則では磁場の時間変化が電場の回転を生み、アンペール・マクスウェルの法則では電場の時間変化が磁場の回転を生みます。この相互作用により、電場と磁場が交互に変化しながら空間を伝播する電磁波が形成されます。マクスウェルはこれらの方程式から電磁波の伝播速度を計算し、それが光速と一致することを発見しました。これにより、光が電磁波の一種であることが理論的に証明されました。
マクスウェル方程式の重要性は、電磁気現象を統一的に記述できることにあります。静電気学、静磁気学、電磁誘導、電磁波など、一見異なる現象がすべて同じ基本方程式から導かれることが明らかになりました。さらに、マクスウェル方程式はローレンツ変換に対して不変であり、特殊相対性理論と整合的です。実際、アインシュタインが特殊相対性理論を構築する際に、マクスウェル方程式の形式を保つことが重要な指針となりました。このように、ファラデーの法則を含むマクスウェル方程式は、古典電磁気学だけでなく、現代物理学全体の基礎を形成する極めて重要な方程式体系なのです。
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