硫化鉱物は金属元素と硫黄が結びついてできる鉱物で、私たちの生活に欠かせない金属の原料となっています。硫化鉱物は化学組成の違いによっていくつかのグループに分類され、それぞれ独自の特徴を持っています。主要なグループとしては、閃亜鉛鉱グループ、方鉛鉱グループ、黄鉄鉱グループ、輝安鉱グループ、黄銅鉱グループなどが存在します。
参考)https://planet-scope.info/rocks/minerals/sulfide_mineral.html
硫化鉱物の分類は、硫黄と結合する金属の種類や化学式の型によって整理されています。A2X型には輝銀鉱(Argentite) AgSなどが含まれ、A3X2型には斑銅鉱(Bornite) Cu5FeS4が、AX型には方鉛鉱(Galena) PbSなどが分類されます。さらに、硫黄の役割をセレン、テルル、砒素、アンチモン、ビスマスがつとめる化合物も硫化鉱物に含まれます。
参考)硫化鉱物
代表的な硫化鉱物として、以下のような種類があります:
参考)黄鉄鉱 - Wikipedia
参考)https://melc-lilli.com/archives/category/%E7%A1%AB%E5%8C%96%E9%89%B1%E7%89%A9
硫化鉱物は結晶系によって分類され、それぞれ特徴的な結晶形態を示します。結晶系とは、結晶面の対称性という観点で整理した分類で、等軸晶系、正方晶系、六方晶系、菱面体晶系、斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系の6つ(三方晶系を入れると7つ)に分けられます。
参考)http://gondwana.sci.yamaguchi-u.ac.jp/?page_id=4816
等軸晶系の硫化鉱物には、黄鉄鉱(FeS2)、方鉛鉱(PbS)、閃亜鉛鉱(ZnS)などがあります。黄鉄鉱は一般的には六面体の結晶形を示しますが、八面体や五角十二面体の形をとることもあります。自然条件下で見事な立方体を形成することができ、結晶の表面には条線があることが多いのが特徴です。
参考)鉱物の一覧 - Wikipedia
斜方晶系に属する硫化鉱物としては、輝安鉱(Sb2S3)、輝蒼鉛鉱(Bi2S3)などが知られています。輝安鉱は鉛灰色の柱状の美しい結晶で、長さ数cm~10cm、稀には20~30cm大のものもあり、石英の晶洞中に産出します。特に愛媛県市ノ川鉱山産のものは世界的に有名で、銀色の剣のような結晶として知られています。
参考)硫化鉱物等
正方晶系の代表例は黄銅鉱(CuFeS2)で、銅の重要な鉱石鉱物として広く産出します。単斜晶系には硫砒鉄鉱(FeAsS)や磁硫鉄鉱(Fe1-xS)などが分類されます。六方晶系には紅砒ニッケル鉱(NiAs)や銅藍(CuS)などが含まれます。
硫化鉱物は一般的にメタリックな外見を持ち、金属光沢が特徴的です。外観色は鉱物の種類によって様々で、黄鉄鉱は淡い真鍮色から黄金まで、方鉛鉱は鉛灰色、黄銅鉱は黄銅色を呈します。
参考)https://nwuss.nara-wu.ac.jp/media/sites/11/ssh08_16.pdf
硬度については鉱物によって大きく異なります。黄鉄鉱のモース硬度は6-6.5で、鉄よりも硬く、硫化鉱物としては硬い部類に入ります。一方、閃亜鉛鉱のモース硬度は3.5~4と比較的軟らかめです。ペトラック鉱のモース硬度は4.5とやや硬い部類に入ります。
参考)ペトラック鉱 - Wikipedia
比重も鉱物の同定に重要な指標です。黄鉄鉱の比重は4.95-5.10、閃亜鉛鉱は3.9-4.1、ペトラック鉱は4.61となっています。条痕色(鉱物を白い陶板に擦りつけたときの粉末の色)も見分け方の手がかりとなり、黄鉄鉱はほぼ黒の緑黒色、ペトラック鉱は黒色を示します。
劈開(へきかい)も重要な特徴で、閃亜鉛鉱は六方向に極めて完全な劈開を持ちます。ペトラック鉱は{110}、{100}、{010}の3方向に明瞭な劈開が見られます。
閃亜鉛鉱は含まれる鉄の量によって外見が大きく変化し、真っ黒な不透明なものから緑色やべっ甲のような黄褐色のものまで産出します。鉄、マンガン、ゲルマニウム、金、銀などを微量成分として含むことがあります。黄鉄鉱は湿気には弱く非常に脆くなるという性質があり、何らかの原因で表面が分解され褐色を示すこともあります。
硫化鉱物は主に熱水鉱床で生成され、火山活動や地下深部からの熱水活動と密接に関連しています。日本は火山活動が活発な地域であるため、各地に硫化鉱物を産出する鉱床が分布しています。
参考)海底熱水鉱床の初期形成プロセスに微生物活動が寄与 —海底下鉱…
主要な産地としては、秋田県の黒鉱鉱床が世界的に有名です。黒鉱は亜鉛、鉛、硫黄等の元素を多く含む鉱石で、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、四面銅鉱、黄鉄鉱、黄銅鉱などの硫化鉱物が含まれます。これらの鉱物の結晶は小さく複雑に入り混じるため、黒鉱は「複雑硫化鉱」とも呼ばれています。
参考)まっくろ黒鉱の美しい世界「「まっくろ黒鉱 ー驚きに満ちた鉱石…
閃亜鉛鉱の主要産地には、アメリカ合衆国、ペルー、モンテネグロ、ポーランド、スペイン、秋田県、岐阜県などがあります。輝安鉱については愛媛県市ノ川鉱山が日本最大のアンチモン鉱床として知られ、明治中期に盛んに採掘されました。
海底熱水鉱床も重要な硫化鉱物の産出場所です。中部沖縄トラフ海底熱水鉱床では、黄鉄鉱をはじめとする硫化鉱物が発見されており、海底下の微生物活動が鉱床の初期形成プロセスに重要な役割を果たしていることが明らかになっています。噴出孔付近では300℃を超える熱水と4℃の海水が混ざり合う環境でチムニー(煙突状の鉱物集合体)が形成されます。
人工熱水噴出孔上に急成長したチムニーの硫化鉱物に富む部分は、平均で銅4.5%、鉛6.9%、亜鉛30.3%、鉄8.7%、数百ppmの銀および1.35 ppmの金が含まれていることが確認されており、有用鉱物資源の持続的回収の可能性が示唆されています。
参考)有用金属元素を高濃度で含む硫化物チムニーが短期間で成長 ~人…
熱水鉱床における硫化鉱物の生成プロセスでは、微生物による硫酸還元プロセスが重要な役割を果たしています。フランボイダル黄鉄鉱(球状の微細な黄鉄鉱粒子の集合体)は海底熱水鉱床を構成する硫化鉱物の出発物質・核として機能しており、鉄や硫黄などの材料を供給していると考えられています。
硫化鉱物は人類にとって極めて重要な金属資源の供給源です。金属硫化物は地球上で最も重要な鉱石鉱物のグループであり、銅、鉛、亜鉛などの金属の大部分が硫化鉱物から採取されています。
参考)https://pubs.geoscienceworld.org/msa/elements/article/13/2/81/271499/Mineralogy-of-Sulfides
閃亜鉛鉱(ZnS)は人類が亜鉛を得るために採掘している重要な鉱石の一つです。銅の主要な供給源である黄銅鉱(CuFeS2)、鉛の原料となる方鉛鉱(PbS)なども資源として不可欠な硫化鉱物です。
黄鉄鉱は以前、硫酸の原料として採掘されていました。岡山県美咲町(旧柵原町)の柵原鉱山などで硫酸の原料として利用されていましたが、現在では石油から抽出された硫黄から硫酸を製造する手法が主流となり、黄鉄鉱を原料として用いることはほぼなくなりました。ただし、SX-EW(溶媒抽出電気採銅法)で銅を回収する鉱山では現在も利用されています。
輝安鉱から得られるアンチモンは、鉛や錫と合金に加工すると硬度が増加し、耐摩耗性や被削性度を向上させる特性があります。このため、合金として蓄電池、軸受け、快削鋼などの減摩合金、硬鉛鋳物に用いられます。また三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤とともに併用して各種プラスチック、ゴム、繊維、塗料、接着剤などの難燃効果を高める難燃助剤として利用されています。
非鉄製錬(銅、鉛、亜鉛)の鉱石原料として硫化鉱が主な原料となっており、黒鉱に代表されるように複雑組成の原料が多く使用されています。製錬技術の基本は、主要な不純物である鉄と硫黄をいかに効率良く、かつ再生利用可能な形で除去するかにあります。
参考)https://www.scj.go.jp/ja/event/pdf4/368-s-1122-s3.pdf
安四面銅鉱、濃紅銀鉱、毛鉱などのアンチモン硫塩鉱物も、銀、銅、鉛などの製錬の際に副産物の金属アンチモンや鉛・アンチモン合金として回収されています。このように、硫化鉱物は単一の金属資源だけでなく、複数の有用金属を同時に回収できる貴重な資源となっています。
世界の硫化鉱物資源の分布を見ると、中国がアンチモン鉱の生産量(世界の88.5%)、埋蔵量(55.7%)ともに断トツの1位を占めています。その他にボリビア、南アフリカ、ロシア、タジキスタンなどでわずかに生産されています。
硫化鉱物は資源として重要な一方で、環境への影響も考慮する必要があります。硫化鉱物は酸化的な環境下で天水や地下水と接触すると分解され、硫酸を生成します。このようにして形成された坑廃水には金属や半金属が含まれ、環境汚染の原因となることがあります。
参考)JOGMEC Virtual金属資源情報センター ニュース&…
硫化鉱物は酸素と水に接すると金属イオンと酸を生成(酸化溶解)するため、水環境中において金属汚染の発生源となる可能性があります。廃棄物や鉱山跡地に残された硫化鉱物が酸性坑廃水(AMD: Acid Mine Drainage)を引き起こし、周辺の河川や土壌を汚染する事例が報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11053855/
しかし、この性質を逆に利用して、硫化鉱物から有用金属を回収する技術も開発されています。Fe2(SO4)3-O3システムなどの協調浸出システムを用いて、閃亜鉛鉱(ZnS)の酸化溶解プロセスを最適化し、重金属の除去と回収を同時に実現する研究が進められています。
バクテリアを利用した低品位鉱よりの金属資源の回収技術も注目されています。細菌による金属硫化鉱物からの金属の浸出機構については、間接作用機構と直接作用機構の二つの考え方があり、環境負荷を低減しながら金属を回収する方法として期待されています。
参考)http://jser.gr.jp/kaiin/JSER_BOOK/1981/2-153.pdf
鉱山廃棄物である鉱滓(tailings)は、環境への懸念がある一方で、銀などの貴金属を回収する機会も提供します。チオ尿素(CH4N2S)のような低毒性の浸出剤とシュウ酸カリウム(K2C2O4)を組み合わせた方法で、硫黄分の多い鉱山廃棄物から銀を回収する研究も行われています。
参考)https://www.mdpi.com/1996-1944/18/2/347
このように、硫化鉱物は適切に管理すれば貴重な資源となり、不適切に扱えば環境汚染源となる両面性を持っています。持続可能な資源利用と環境保全のバランスを取ることが、今後ますます重要になっていくでしょう。
地質標本館による硫化鉱物の詳細な分類と特徴の解説
代表的な硫化鉱物の一覧と化学組成、結晶系の詳細情報
海底熱水鉱床における硫化鉱物の生成プロセスと微生物活動の役割に関する研究成果

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