光学軸とは|複屈折結晶の一軸性と鉱物の性質

光学軸は複屈折結晶において光が分かれない特別な方向です。一軸性と二軸性の違いや、石英・方解石などの鉱物での光学的性質について詳しく解説します。鉱物の分類や測定方法を知りたいですか?

光学軸とは複屈折結晶の特性

この記事で分かること
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光学軸の基本概念

複屈折結晶において光が二重に分かれない特別な方向を理解できます

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鉱物の光学的分類

一軸性と二軸性結晶の違いと代表的な鉱物の特徴が分かります

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測定と応用技術

偏光顕微鏡を用いた測定方法と光学機器への実用例を学べます

光学軸の定義と複屈折現象

 

光学軸(こうがくじく、英:optic axis)とは、光学異方性を持つ複屈折結晶において、光を入射しても光が分かれない特別な方向のことです。複屈折とは、結晶に入射した光が通常光線と異常光線という2つの光線に分離する現象で、この現象が起こらない方向が光学軸として定義されます。

 

参考)偏光感受型OCTのコントラストメカニズムと眼科応用

方解石の結晶を通して文字を見ると二重に見える現象は、複屈折の代表的な例です。しかし、光学軸の方向から結晶を通して見ると、文字は二重にならず1つに見えます。これは、光学軸の方向では屈折率が一定になり、偏光していない光を入射しても複屈折が発生せず、通常光線と異常光線が一致するためです。

 

参考)光学軸 - Wikipedia

光学軸は結晶の原子配列に基づいて決定される物理的性質であり、原子がこの軸に沿って対称に配置されている方向を指します。この軸に沿って光が伝播する際、偏光の状態に依存せず単一の固定された速度で進むことができるという特性があります。なお、光学系における光軸(optical axis)とは異なる概念であり、混同しないよう注意が必要です。

 

参考)「光学軸」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

光学軸による一軸性結晶と二軸性結晶の分類

複屈折結晶は、光学軸の数によって一軸性結晶(単軸結晶)と二軸性結晶(双軸結晶)に分類されます。一軸性結晶は光学軸が1方向のみ存在し、二軸性結晶は2方向に光学軸を持つという明確な違いがあります。

 

参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral-rock-sirabekata/mineral44/epx-mineral/henkoukenbikyou-koumoku/henkoukenbikyou-isogyres/mineral-henkoukenbikyou-koujikukaku.htm

一軸性結晶には、正方晶系と六方晶系に属する鉱物が含まれます。代表的な鉱物として、石英(水晶)、方解石、ジルコンなどが挙げられます。これらの結晶では、2軸の屈折率が等しく、1つの軸だけが異なる屈折率を持つという特徴があります。

 

参考)光学異方性媒質中の光の伝搬 6|テクノシナジー

二軸性結晶は、斜方晶系、単斜晶系三斜晶系に属する鉱物で構成されます。かんらん石、正長石、黒雲母、普通角閃石、普通輝石、斜長石などが二軸性結晶の代表例です。二軸性結晶では、全ての軸が異なる屈折率を持つという特性があり、光学的にはより複雑な挙動を示します。

結晶系の分類は、鉱物学において重要な識別手段となっており、一軸性なら六方晶系・正方晶系に属し、二軸性なら斜方晶系・単斜晶系・三斜晶系に属するという明確な対応関係があります。

光学軸の正号結晶と負号結晶の特性

一軸性結晶は、光学的性質によってさらに正号結晶と負号結晶に分類されます。この分類は、異常光線の屈折率(ε)と通常光線の屈折率(ω)の大小関係によって決定されます。

 

参考)結晶光学(ケッショウコウガク)とは? 意味や使い方 - コト…

正号結晶は、異常光線の屈折率が通常光線よりも大きい(ε>ω)という特徴を持ちます。代表的な鉱物として石英(水晶)が挙げられ、回転楕円面の中に球面が接する形状の屈折率楕円体で表現されます。正号結晶では光軸はZ軸と一致します。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gsjapan/3/3/3_KJ00001516569/_pdf

負号結晶は、通常光線の屈折率が異常光線よりも大きい(ω>ε)性質を示します。方解石は負号結晶の代表例であり、球面の中に回転楕円面が接する形状の屈折率楕円体を持ちます。負号結晶の光軸はX軸と一致するという特性があります。

 

参考)https://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/geo/10oldpage/ishiwata/ISHKZHP/crystal.htm

正号と負号の違いは、複屈折量(εとωの差)によって定量化され、この値は鉱物の種類によって固有の値を持ちます。六方晶系にも正方晶系にも、それぞれ正号と負号の鉱物が存在し、一軸性・二軸性それぞれの光学的正負も鉱物により決まっています。

光学軸の測定方法と偏光顕微鏡の活用

光学軸の特定は、偏光顕微鏡やコノスコープといった専用の光学機器を用いて行われます。偏光顕微鏡は、偏光子と検光子という2種類の偏光フィルターを搭載し、結晶の光学的性質を精密に観察できる装置です。

 

参考)偏光観察法

偏光顕微鏡では、偏光子は通常左から右(東西方向)に固定された振動方位角で標本ステージの下に配置され、検光子は南北方向の振動方向に対物レンズの上に配置されます。この2つの偏光フィルターを互いに垂直に配置する「交差偏光子」の状態で観察すると、複屈折結晶の光学的性質を明確に識別できます。

360°回転可能な円形標本ステージは、対物レンズとステージの中心が顕微鏡の光学軸と一致するよう設計されており、結晶の配向研究が容易になります。ステージを回転させながら観察することで、結晶の光学軸方向を特定し、消光位置(結晶が暗く見える位置)から結晶の光学的特性を判定できます。

 

参考)偏光顕微鏡法(Polarized Optical Micro…

波長板(リタデーションプレート)を併用することで、標本の遅い振動方向と速い振動方向を判断でき、正号結晶と負号結晶の識別が可能になります。偏光顕微鏡による観察では、入射光強度I₀、偏光子の透過軸と試料の光軸がなす角度θ、リタデーションR、入射光波長λの関係式を用いて定量的な解析も行えます。

光学軸を持つ鉱物の実例と特徴

石英は一軸性正号結晶の代表的な鉱物であり、六方晶系に属します。石英の複屈折は比較的小さく、偏光顕微鏡下では低い干渉色を示すという特徴があります。水晶玉とガラス玉を見分ける際にも、石英の光学軸の性質が利用されます。

 

参考)https://www.yamahaku.pref.yamaguchi.lg.jp/pdf/kenkyuhoukoku/50-9-16.pdf

方解石は一軸性負号結晶の典型例で、顕著な複屈折性を持つことで知られています。結晶に入った光線は2つの互いに垂直に電場が振動する光線に分かれ、異なる速度で結晶内を移動します。この性質により、方解石を通して見ると文字が二重に見える現象が起こります。方解石は三方晶系に属し、石英とは酸を用いた実験で容易に判別できます。

 

参考)複屈折|sgk

ジルコンは正方晶系の一軸性結晶で、高い屈折率を持つ鉱物です。偏光顕微鏡下では屈折率が高い無色の鉱物として観察され、花崗岩中の褐れん石の中や縁に含まれることが多いという産状の特徴があります。

 

参考)https://omu.repo.nii.ac.jp/record/12724/files/2022000145.pdf

かんらん石は二軸性結晶の代表例で、斜方晶系に属します。平行ニコルでへき開が見られず透明度が高く、クロスニコルで3次に達する高い干渉色を示すという顕著な光学的特徴を持ちます。玄武岩やはんれい岩によく含まれ、火山岩中では周辺部がFe(鉄かんらん石成分)に富み干渉色が高い累帯構造を示すことがあります。

 

参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral-rock-sirabekata/mineral44/epx-mineral/henkoukenbikyou-koumoku/henkoukenbi%20zougankoubutu/micro%20olivine.htm

斜長石、黒雲母、普通角閃石、普通輝石などの造岩鉱物も二軸性結晶に分類され、それぞれ単斜晶系や三斜晶系に属しています。これらの鉱物は、偏光顕微鏡による岩石薄片の観察において重要な識別対象となります。

光学軸の実用応用と光学機器への活用

光学軸の概念は、複屈折結晶の学術的研究だけでなく、実用的な光学機器の設計にも応用されています。光学系において、系全体を通過する光束の代表となる仮想的な光線を指す「光軸」とは区別されますが、両者は光学技術の基盤として重要な役割を果たします。

 

参考)「光軸」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

偏光感受型OCT(光干渉断層計)では、複屈折の光学軸の概念が眼科応用に活用されています。生体組織における複屈折特性を利用することで、従来の方法では得られない詳細な組織情報の取得が可能になります。

光学機器の設計では、オートコリメータが光学系における光軸の精密な測定において重要な役割を果たしています。この装置は光軸上に配置された基準点に対して反射光を使い、微細な角度の変化を高精度で測定することができます。光学系の調整や検査の際に、オートコリメータは光軸のずれを検出し、必要な修正を行うために使用されます。

光ディテクターシステムやレンズシステムの構築においても、光軸の正確な位置決めは不可欠です。平凸レンズ2枚構成のシステムやアクロマティックレンズシステムでは、各レンズの光軸を正確に一致させることで、収差を最小化し高い光学性能を実現しています。

 

参考)光学アプリケーションの実例

集光ミラーを用いた軟X線/EUV光学技術では、精密光学素子の光軸調整が極めて重要です。レーザー加工、分光顕微鏡、磁気光学カー効果顕微鏡など、多岐にわたる応用分野で光軸の精密制御が求められています。テレセントリック光学系では、光軸方向の位置による倍率や解像度の違いが少ないため、高低差のある物体の結像に有効です。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/87/4/87_288/_pdf

光学軸と結晶構造の関係性

光学軸は結晶の構造から決定される本質的な性質であり、結晶系の分類と密接な関係があります。立方晶系の結晶は光学的等方体であり光学軸を持ちませんが、それ以外の晶系では光学異方性が現れます。

 

参考)https://www.chart.co.jp/subject/rika/scnet/38/sc38-2.pdf

一軸性結晶の対称性は、図形的には3回以上の回転対称性を持つ格子を貫く軸が1本だけ存在することが特徴です。光学的等方体には上記のような軸が2本以上あり、二軸性結晶にはこのような対称軸がないという違いがあります。方解石の構造では、CO₃²⁻イオンの分極の様子が光の進行方向と関係し、光軸と入射光を通る断面での光の挙動が複屈折現象を引き起こします。

正方晶系と六方晶系は一軸性であり、斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系は二軸性です。光軸が1本しかない結晶を一軸性の結晶といい、2本ある結晶を二軸性の結晶といいます。一軸性の結晶では、光軸方向に入射した直線偏光に対しては振動方向によらず一定の屈折率を示します。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1888/90/8/90_8_1454/_pdf/-char/ja

結晶軸と光学軸の関係は、一軸性結晶(正方晶系・六方晶系)ではどんな波長に対しても光軸が結晶軸の方向と一致するという規則性があります。正号の場合はZ軸、負号の場合はX軸が光軸と一致します。斜方晶系の結晶では、どんな波長についてもX、Y、Zが結晶軸a、b、cと対応する関係があります。

複屈折の干渉効果は、複屈折結晶を光学弾性体として扱う際に重要な現象となります。結晶内での光の伝播速度の違いが位相差を生み出し、これが干渉色として観察されることで、結晶の光学的性質を視覚的に判別できるようになります。

光学軸の鉱物学的意義と岩石観察への応用

偏光顕微鏡による岩石・鉱物の観察において、光学軸の性質は鉱物同定の重要な手がかりとなります。平行ニコルとクロスニコルでの観察を組み合わせることで、各鉱物の光学的特徴を詳細に把握できます。

玄武岩中のかんらん石は小さめの粒状の斑晶をなし、平行ニコルでは無色ですが、クロスニコルでは結晶方位の違いによる色とりどりの鮮やかな干渉色を示します。通常、輝石類よりも干渉色は高く、3次に達する高い干渉色が特徴です。これは、かんらん石の複屈折量が大きいことを反映しています。

火山岩中のかんらん石はしばしば周辺部がFe(鉄かんらん石成分)に富み、干渉色が高い累帯構造を示します。自形の斑晶では、周辺部が2次の青に達する高い干渉色を示すのが観察できますが、平行ニコルではいずれも無色で累帯構造は分かりません。これは、化学組成の違いが屈折率の変化をもたらし、光学的性質に影響を与えることを示しています。

かんらん石と輝石類の識別では、光学的性質の違いが重要です。かんらん石は平行ニコルでへき開が見られず透明度が高く、クロスニコルで干渉色が高いのに対し、頑火輝石や透輝石は平行ニコルでへき開線が見え、クロスニコルではやや干渉色が低いという特徴があります。頑火輝石は直消光で干渉色は1次の灰~黄色程度、透輝石は約40°までの斜消光で干渉色は1~2次程度です。

造山帯(広域変成帯)中のかんらん岩では、圧砕作用を受けてかんらん石が細粒化していることが多く、一方で輝石類は圧砕作用に耐え比較的大粒のままで残留しています。マントル物質として地下深部に存在していたかんらん岩中のかんらん石には、時に圧力による結晶内の原子のすべりに起因するキンクバンドが見られることがあります。これはクロスニコルで同一結晶内で直線的な区域で消光部が帯状にやや異なる部分として観察され、地質学的な履歴を反映する重要な情報となります。

Wikipedia - 光学軸
光学軸の基本定義、一軸性・二軸性結晶の分類、代表的な鉱物の一覧が詳しく解説されています。複屈折現象の基礎を理解するための参考資料として有用です。

 

Nikon MicroscopyU - 複屈折の原理
複屈折結晶の光学的挙動と結晶軸の関係について、図解を交えた詳細な説明があります。一軸性結晶と二軸性結晶の光学的特性を理解するための技術資料です。

 

J-Stage - リスティングの法則に基づく眼球の視軸と光軸の回転モデル
眼球における視軸と光軸の関係を扱った研究論文で、医学・生物学分回転モデル
眼球における視軸と光軸の関係を扱った研究論文で、医学・生物学分野での光学軸概念の応用例として参考になります。

 

 


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