複屈折と偏光で鉱物の光学特性と結晶構造を鑑定

鉱物に興味がある方向けに、複屈折と偏光の原理、そして偏光顕微鏡を使った鉱物鑑定の方法について詳しく解説します。方解石などの結晶がどのように光を屈折させるのか、あなたも実際に観察してみませんか?

複屈折と偏光の原理

複屈折と偏光の基本原理
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複屈折現象とは

光が異方性結晶を通過する際に常光線と異常光線の2本に分かれる現象で、偏光顕微鏡による鉱物鑑定の基礎となります

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偏光による光学的性質

結晶の光学軸に対する振動方向により屈折率が異なり、鉱物ごとに特徴的な複屈折パターンを示します

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リタデーション測定

複屈折位相差から鉱物の配向状態や応力分布を定量的に評価でき、0から3000nm程度の範囲で測定可能です

複屈折の光学的メカニズム

 

複屈折とは、光が方解石などの異方性結晶を通過する際に、常光線と異常光線という2本の偏光に分かれる光学現象です。この現象は、結晶の光学軸に対する入射光の方向によって屈折率が異なることに起因しています。

 

参考)複屈折の原理

等方性物質では光はどの方向にも同じ屈折率を持ちますが、異方性物質では方向によって屈折率が変化します。例えば方解石結晶では、光学軸に垂直に振動する常光線はスネルの法則に従い、光学軸に平行に振動する異常光線は単純な屈折の法則に従いません。この2つの光線は互いに直交する偏光状態を持ち、結晶内を異なる速度で伝播します。

 

参考)4.屈折率と複屈折率 「入門」 偏光とリタデーション |大塚…

複屈折の度合いは、常光線と異常光線の屈折率の数値的な差として定量化されます。方解石は特に複屈折が大きい結晶として知られており、透明な結晶越しに文字を見ると、2つに分離した像が明瞭に観察できます。

 

参考)偏光観察法

偏光顕微鏡による複屈折の観察技法

偏光顕微鏡は、偏光子と検光子という2つの偏光板を用いて複屈折を観察する装置です。観察方法には「単ニコル」と「クロスニコル」の2つのモードがあり、それぞれ異なる情報を得ることができます。

 

参考)偏光顕微鏡 - Wikipedia

単ニコルでは偏光子のみを使用し、鉱物の形態や色、多色性などの基本的な光学的特徴を観察します。一方、クロスニコルでは偏光子と検光子を直交させた状態で観察を行います。この状態では、試料がない場合は光が完全に遮断されて暗視野となりますが、複屈折性の鉱物が存在すると、結晶の配向や厚さに応じて特徴的な色や明るさが現れます。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/86/7/86_529/_pdf

偏光顕微鏡では、岩石薄片(通常0.03mm厚)を作成して観察することで、花崗岩や玄武岩などに含まれる造岩鉱物を識別できます。鉱物の光学的性質、特に複屈折の大きさや消光角などから、石英長石雲母などの鉱物種を正確に同定することが可能です。

 

参考)2025年度|益富地学会館|石ふしぎ博物館|岩石/鉱物/化石

複屈折位相差とリタデーション測定

複屈折による位相差は「リタデーション」と呼ばれ、鉱物や材料の光学的評価において重要なパラメータです。リタデーションは、常光線と異常光線の光路差として定義され、一般的にナノメートル(nm)単位で表現されます。

 

参考)偏光イメージングシステム|東京都立産業技術研究センター

現代の複屈折測定装置では、位相差を高精度に定量化することができます。例えば、産業技術総合研究所が開発した装置では、最小約1度の位相差(可視光の場合1~2nm相当のリタデーション)まで測定可能で、市販の複屈折分布測定装置と同等の精度を実現しています。

 

参考)産総研:簡便・高速に複屈折を定量イメージングできる小型装置を…

複屈折位相差の測定範囲は一般的に0から3000nm程度で、波長550nm付近の光を使用して透明な試料を対象とします。測定では複数の波長(523nm、543nm、575nm)を用いることで、より詳細な光学特性の評価が可能です。リタデーションと主軸方位の情報から、鉱物結晶の配向状態や、ガラス・樹脂などの透明材料の応力分布を視覚化できます。

 

参考)プラスチック成形品の歪、複屈折評価

複屈折による鉱物鑑定の実践的活用

複屈折性は鉱物鑑定における最も重要な光学特性の一つであり、宝石や鉱物標本の識別に広く活用されています。屈折計を用いた複屈折量の測定では、宝石を回転させながら屈折率の最小値と最大値を測定し、その差から複屈折量を算出します。

 

参考)https://revistas.ufrj.br/index.php/aigeo/article/view/64136

複屈折の代表的な鉱物として、ペリドット(カンラン石)やジルコンが知られています。これらの鉱物は光が入射すると2本に分かれる性質を持ち、偏光検査によって単屈折の宝石(ダイヤモンドスピネルなど)と明確に区別できます。

 

参考)【宝石の見分け方】鑑別③ 偏光検査

実際の鉱物鑑定では、偏光器を用いて試料を回転させることで、複屈折性の有無を確認します。回転させた際に光の透過状態が変化すれば複屈折性があり、変化しなければ等方性(単屈折)と判定されます。この検査と屈折率測定を組み合わせることで、約80%の宝石や鉱物の種類を識別することが可能です。

 

参考)宝石鑑別で1番重要!屈折率を調べる「屈折計」の使い方

偏光顕微鏡による鉱物薄片の観察では、各鉱物固有の複屈折色(干渉色)が現れ、これが鉱物同定の重要な手がかりとなります。複屈折量は鉱物の結晶構造や化学組成によって決まるため、複屈折色のパターンから鉱物種を特定できるのです。

 

参考)複屈折:結晶の光学的性質を解き明かす

複屈折の応用:応力分布と材料評価への展開

複屈折測定技術は鉱物学だけでなく、工業材料の品質評価や応力解析にも幅広く応用されています。特に透明なガラスやプラスチック製品では、製造過程で生じる内部応力が複屈折として観察されるため、製品の品質管理に不可欠な技術となっています。

 

参考)複屈折・応力ひずみ計測 - 株式会社フォトニックラティス |…

プラスチック射出成形品の評価では、複屈折位相差の分布から樹脂の流動方向や残留応力を視覚化できます。例えばポリスチレン成形品では、ゲート付近でせん断応力が増大して複屈折が大きくなりますが、加熱条件を変えることで残留応力が緩和され、複屈折位相差が小さくなることが確認されています。

 

参考)https://www.toyoda-gosei.co.jp/seihin/technology/report/vol42_2/pdf/vol42_2_006.pdf

二次元複屈折評価システムでは、複屈折位相差をグラデーション表示することで、応力分布や歪みの面内分布を定量的に把握できます。この技術は、樹脂成型品の成形条件最適化、ガラス製品の応力検査、光学部品の品質評価など、多様な産業分野で活用されています。

測定に使用される波長は523nm、543nm、575nmなどの可視光領域で、測定時間は数秒から数十秒程度と迅速です。視野サイズは約4×6mmから100×136mmまで可変で、様々なサイズの試料に対応可能です。複屈折測定により、目に見えない内部応力を色付きの画像として可視化できるため、材料の信頼性評価や製造プロセスの改善に大きく貢献しています。

 

参考)簡単な材料でカラフルな「偏光万華鏡(へんこうまんげきょう)」…

 

リサーチ完了。以下が記事です。

 

 


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