カーボンナノチューブは、リチウムイオン電池の導電助剤として世界で年間5000トン以上が使用されており、電気自動車や携帯端末用電池の性能向上に大きく貢献しています。従来使用されていたアセチレンブラックと比較して、カーボンナノチューブは導電性のバインダとして機能し、電極の内部抵抗を低減することで充電速度を速め、熱の発生を抑える効果があります。
参考)カーボンナノチューブとは?
リン酸鉄リチウムを正極活物質とした電池において、カーボンナノチューブを添加することで初期放電容量が増加し、レート特性が改善されることが実証されています。特に注目すべき点は、350サイクルまで80%の容量を維持できるという優れたサイクル特性です。カーボンナノチューブは結着力を向上させ、充放電による膨張収縮によるアセチレンブラックの断線を緩和するため、長期使用における耐久性が大幅に向上します。
参考)https://www.tips-toyama.jp/_wp/wp-content/uploads/2019/02/r2015_70.pdf
今後、電気自動車の普及が進むにつれて、リチウムイオン電池の需要とともに導電助剤としてのカーボンナノチューブの需要も高まることが予測されており、低炭素社会の実現に向けた重要な材料として期待されています。
参考)驚異の新素材、 単層カーボンナノチューブ 世界初の量産工場が…
産業技術総合研究所:カーボンナノチューブの特性と応用について詳細な解説
カーボンナノチューブは、半導体デバイスへの応用において革新的な可能性を示しています。半導体カーボンナノチューブは、電子・正孔ともに従来の半導体に比べて高い移動度を持つため、CMOS集積回路の性能を大幅に改善することが期待されています。従来のシリコン半導体では正孔の移動度が電子の移動度に比べて低く、集積回路の速度がp型半導体によって制限されていましたが、カーボンナノチューブはこの課題を解決できる材料です。
参考)名古屋大学・大野研究室
エレクトロニクス材料としてのカーボンナノチューブは、ナノチューブ内の電子が無散乱(バリスティック伝導)で動くという特性を持ち、銅の1,000倍の電流密度耐性と10倍の熱伝導率を示します。この優れた電気的特性により、高速配線やヒートシンクなどの用途に適しており、次世代の半導体デバイス開発において重要な役割を果たします。
参考)http://img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol55-3/paper13.pdf
さらに、カーボンナノチューブは非常に柔軟な材料であり、曲げてもほとんど電気特性が変化しないため、柔軟な電子ペーパーや表示デバイスの実現が期待されています。5G通信やクラウドコンピューティングの発展に伴い、カーボンナノチューブを用いた高周波トランジスタ、生体医療センサー、フレキシブル論理デバイスなどの研究開発が加速しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8435483/
カーボンナノチューブは、樹脂やゴムと複合化することで導電性付与や強度向上といった用途に広く利用されています。産業技術総合研究所の研究により、スーパーエンジニアリングプラスチックであるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に多層カーボンナノチューブを複合化することで、衝撃強度(靭性)を維持したまま高温での機械的強度が大幅に向上することが明らかになりました。
参考)産総研:熱や衝撃に強い多層カーボンナノチューブ樹脂複合材料を…
この技術により作製されたPEEK/CNT複合材料は、従来の炭素繊維複合材料と比較して大きく靭性が向上し、衝撃試験では測定限界の最大強度でも破壊されないという驚異的な結果を示しています。目に見えないほど細いカーボンナノチューブ繊維が適切なネットワークを形成することで、衝撃によるき裂進展が抑制されるためです。また、引張強度は母材のPEEKに比べて平均で約2倍向上し、特に高温領域での向上が顕著です。
実用化の事例としては、2018年10月から製品販売が開始されたカーボンナノチューブ配合のOリングがあります。このOリングは市販品と同じ材料と比較して3.5倍の耐久時間を有し、長寿命・高耐熱・高耐圧という優れた性能を持ちます。その他にも、三菱電機製の車載用スピーカーの振動板に添加剤として採用され、飛躍的な音質向上を達成した例や、塗膜の強度と耐久性を大幅に向上させた塗料「ナノテクト」など、多様な製品に実用化されています。
参考)カーボンナノチューブ活用の最大の壁“凝集塊”を解消する超高分…
NEDOウェブマガジン:カーボンナノチューブ分散技術と実用化の詳細
カーボンナノチューブは医療分野において、バイオセンサー、イメージング、薬物送達システムなど多様な応用が進められています。特に単層カーボンナノチューブは近赤外領域で発光する特性を持ち、生体組織の透明性窓である近赤外領域での使用により、生体内での高感度検出が可能になります。この特性を活かし、患者自身が血糖値やケトン体などの数値を計測できるバイオセンサデバイスが開発されています。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202112372
カーボンナノチューブの高い導電性と表面積は、生体分子を検出するバイオセンサーへの応用に非常に適しています。金で被覆したカーボンナノチューブに肝がんバイオマーカーに対する抗体を固定化した電気化学的免疫センサーでは、従来法より高感度に肝臓がんの腫瘍マーカーを同時測定することに成功しています。このセンサーは、標的分子が抗体で修飾したカーボンナノチューブ表面に結合することで電子移動が促進され、微量なバイオマーカーの検出を可能にします。
参考)https://nanochem.substack.com/p/528
さらに医療イメージング技術としては、光音響イメージング、蛍光イメージング、ラマンイメージングの3つの手法が報告されています。カーボンナノチューブの強力な近赤外吸収により音響信号が増強され、腫瘍などの可視化が向上するほか、光熱治療への応用も進んでおり、カーボンナノチューブを腫瘍部位に集積させて体外から近赤外レーザーを照射することで、正常組織を傷つけずに癌細胞だけを高温で死滅させることができます。
カーボンナノチューブと鉱石には意外な接点があります。名古屋工業大学の研究において、天然鉱物であるマグネサイト(magnesite)をメタンガスの熱分解CVD(化学気相成長法)ラインに設置してCVDを行ったところ、単層カーボンナノチューブが大量に生成することが確認されました。メタンガスは天然ガスの主成分であり地球上に広く分布しているため、この実験結果は自然界でもカーボンナノチューブが生成する可能性があることを示唆しています。
参考)名古屋工業大学|川崎・石井研究室
この発見は、カーボンナノチューブの合成が人工的な技術だけでなく、特定の鉱物と炭素源、熱源があれば自然環境下でも起こりうることを意味します。研究者は論文の結論で「自然界に存在するカーボンナノチューブがいずれ発見されるだろう」と述べており、カーボンナノチューブの仲間であるフラーレンC60が天然に存在することが既に確認されているため、カーボンナノチューブも自然界で生成している可能性が考えられています。
この研究は、鉱石資源とナノテクノロジーの新たな結びつきを示すものであり、鉱石に興味を持つ読者にとって、地球科学と材料科学の融合という新しい視点を提供します。将来的には、特定の鉱物を触媒として利用したカーボンナノチューブの低コスト合成技術や、鉱物学的知見を活かした新たな合成プロセスの開発など、さらなる研究展開が期待されます。
カーボンナノチューブの応用において最も壮大な構想のひとつが宇宙エレベーターです。宇宙エレベーターとは、静止衛星軌道上から地上へケーブルを垂らし、地上と宇宙との物資運搬に利用するという計画で、実現すれば少ないエネルギーとコストで衛星や宇宙船を軌道へ送り出すことが可能になります。
参考)https://www.autodesk.com/jp/design-make/articles/carbon-nanotube-applications
カーボンナノチューブは、アルミニウムの半分程度という軽さながら、鋼の約20倍という強度を持っており、この驚異的な強度と軽量性が宇宙エレベーターの実現可能性を飛躍的に高めました。1991年に飯島澄男博士によって構造が解明されたカーボンナノチューブは、その発見以来、宇宙エレベーターのケーブル材料として最有力候補とされてきました。単層カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブに比べて極めて高い性能を示し、熱伝導性は銅の10倍、電気伝導性は銅の1000倍という卓越した特性を持ちます。
参考)宇宙エレベーターとは?しくみや建設方法をわかりやすく解説 -…
現在、カーボンナノチューブは野球のバットやテニスのラケット、航空機や自動車の部品など、様々な製品に応用されていますが、将来的には橋やビルのセンサー、病気の診断ツールとしても活用可能とされています。宇宙エレベーターの実現には、カーボンナノチューブの長尺化技術や継ぎ目のない連続構造の製造技術など、さらなる技術革新が必要ですが、産業技術総合研究所や日本ゼオンなどの企業による量産技術の確立により、この夢の実現に向けた一歩が着実に進められています。
参考)夢の新素材カーボンナノチューブ ついに実用化へ
Autodesk:カーボンナノチューブの宇宙エレベーター応用と将来展望

【RHET.】 車 コーティング 最強 レト 日本製 大容量 次世代型撥水コーティング 新素材カーボンナノチューブ配合 『驚きの艶と撥水』 グラフェンコーティング 400ml