出雲焼の窯元は、茶陶の伝統と民藝の実用美という2つの流れが350年以上にわたって並走してきた、日本でも珍しい産地です。「どの窯元を訪ねればよいのか分からない」という方でも、基本的な構造を押さえておくと、器選びが格段に楽しくなります。
出雲焼は「楽山焼(らくざんやき)」と「布志名焼(ふじなやき)」の総称として用いられることが多く、この2つの系譜を知ると、窯元めぐりの解像度が一気に上がります。
楽山焼の歴史は江戸時代初期まで遡ります。萩の陶工・倉崎権兵衛が長州(山口)から松江に入国したのが1677年(延宝5年)のことで、松江藩の御用窯として創業しました。その後一時製造が中断しますが、1801年(享和元年)、松江藩七代藩主・松平治郷(不昧公)が名工・長岡住右衛門に命じて再興させています。不昧公は茶人大名としても著名で、楽山焼には茶を愛する藩主のこだわりが色濃く反映されました。現在も作品の多くは抹茶碗・水差しといった茶道具が中心です。
布志名焼は江戸時代中期に始まり、来待石(きまちいし)を原料とする黄釉が最大の特徴です。来待石は宍道湖周辺で産出される特有の石材で、鉄分を5〜6%含みます。焼成するとクリーム色から山吹色まで多彩な色調を生み出すため、この黄釉は「国内でも大変珍しい釉薬」とされています。布志名焼の流れを汲む窯元には、湯町窯・雲善窯・舩木窯などがあり、それぞれ独自の作風を展開しています。
つまり、出雲焼には「茶陶の格式」と「暮らしの道具」という2つの美学が共存しているということですね。
参考:楽山焼の特徴と歴史(島根県公式)
島根県 伝統的工芸品 楽山焼(らくざんやき)
出雲焼の各窯元を訪ねる前に、使われている主要な釉薬を知っておくと、器を選ぶ際の判断がぐっと楽になります。
まず「来待石釉(きまちいしゆう)」は布志名焼系の窯元が多く用いる釉薬で、島根県宍道町一帯でしか採れない希少な原材料を使います。焼き上げると淡いクリーム色から深みのある山吹色まで幅広い発色を見せ、穏やかで温かみのある表情が生まれます。湯町窯の「黄釉(きぐすり)」や雲善窯の鮮やかな青もこの来待石をベースに調合されています。これは使えそうです。
次に「呉須(ごす)」は鉄やコバルトを含む顔料で、焼成後に深みのある青色に発色します。出西窯の代名詞ともなっている「出西ブルー」はこの呉須釉によるもので、和洋どちらの料理にも合いやすく、近年では特に若い世代からの支持を集めています。
「飴釉(あめゆう)」はその名の通り、飴のような赤褐色〜茶褐色の釉薬で、袖師窯の呉須との二彩や、湯町窯のエッグベーカーにも見られます。
楽山焼で用いる「伊羅保釉(いらぼゆう)」は刷毛目技法とともに使われ、落ち着いた淡い山吹色が特徴です。御用窯としての格式を守りながら、土灰の調合にも今なお工夫が凝らされています。
釉薬ごとの発色が原則です。好きな色調から窯元を絞り込むと、初めての方でも迷わず選べます。
参考:布志名焼の黄釉・来待石について(島根観光ナビ)
窯元めぐりで楽しもう!島根の焼き物の魅力 前編(しまね観光ナビ)
ここでは特に初訪問の方が押さえておきたい主要窯元を5つ紹介します。
🏺 出西窯(しゅっさいがま)
1947年創業。戦後間もなく地元の若者5名が民藝運動の精神を受け継いで立ち上げた共同体型の窯元です。「出西ブルー」と呼ばれる呉須釉の器が代表格で、シンプルかつ丈夫なデザインが日常使いにも好評です。皿類で約1,500〜3,000円前後、碗・カップ類で2,500〜5,000円前後が中心価格帯。工房見学は無料(火曜定休)で、登り窯も常時見学できます。出雲市駅から車で約10分です。
🏺 楽山窯(らくざんがま)
350年以上続く出雲焼で最も格式ある窯元で、現在は12代・長岡空郷(くうきょう)が当主を務めます。作品の中心は抹茶碗・水差しなどの茶道具で、伊羅保釉の落ち着いた山吹色が特徴的です。茶陶中心のため価格帯は幅広く、数万円から数十万円クラスの作品もあります。訪問には事前の電話予約が推奨されています。
🏺 湯町窯(ゆまちがま)
布志名焼の流れを汲む大正11年創業の窯元で、3代目・福間琇士さんが作陶を続けています。来待石の黄釉とスリップウェア技法が特徴で、代表作のエッグベーカー(約3,000〜4,000円台)は直火使用可能な実用品として人気です。JR玉造温泉駅から徒歩1〜2分という抜群のアクセスも魅力です。
🏺 袖師窯(そでしかま)
明治10年創業、5代目・尾野友彦さんが作陶する窯元です。呉須と飴色の二彩が鮮やかで、縞模様や市松模様など和風ポップな柄が洋食器とも合います。JR松江駅からバスで5分ほどの松江市袖師町に位置し、松江観光の立ち寄りにも便利です。
🏺 雲善窯(うんぜんがま)
布志名焼の系譜で、江戸時代に不昧公好みの御用窯として開かれた格式ある窯元です。深い藍色からミントグリーンに近い明るいトーンまで、さまざまな青系の来待釉が特徴。茶器が豊富で、近年はフレンチトースト専門店とのコラボ器が話