紐作りで厚さが不均一だと、焼成時に8割の確率でヒビが入ります。
紐作りを始める前に、適切な道具と粘土の準備が作品の成否を分けます。必要な道具は、作業台(石膏板またはベニヤ板)、霧吹き、かきべら、なめし皮、スポンジ、そして粘土です。初心者の方は、まず信楽焼や備前焼に使われる赤土系の粘土から始めると扱いやすいでしょう。
粘土は使用前に必ず「菊練り」という作業で空気を抜きます。この工程を省くと、焼成時に気泡が原因で作品が割れる可能性が高まります。菊練りは粘土を菊の花びらのような形にしながら練る技法で、最低でも30回は繰り返してください。
粘土の硬さは耳たぶ程度が理想です。
これが基本の準備ですね。
作業環境も重要で、室温は20〜25度、湿度は50〜60%程度が最適とされています。乾燥しすぎる環境では作業中に粘土がひび割れやすく、湿度が高すぎると形が崩れやすくなります。冬場はヒーターの近くを避け、夏場はエアコンの風が直接当たらない場所を選びましょう。
紐作りの要となる紐は、均一な太さで作ることが最も重要です。初心者がやりがちな失敗は、紐の太さがバラバラになることで、これが冒頭で述べた焼成時のヒビ割れの主な原因となります。紐の太さは作品の大きさによって変わりますが、湯呑みサイズなら直径1.5cm(単三電池ぐらい)、花瓶なら2〜2.5cm(500円玉の直径程度)が目安です。
紐を作る方法は主に2つあります。手で転がして作る「手びねり法」と、粘土を押し出して作る「押し出し法」です。手びねり法では、粘土を手のひらで前後に転がしながら徐々に伸ばしていきます。この時、両手に均等に力を入れることがコツで、一方の手だけに力が入ると紐が蛇行します。
押し出し法は、粘土を細長く切り出してから両手で同時に転がす方法です。こちらの方が太さが均一になりやすいため、初心者にはおすすめです。作業台の上で、指先ではなく手のひら全体を使って転がすのがポイントです。紐の長さは50cm程度ずつ作り、乾燥を防ぐためビニールに包んで保管します。
つまり均一な太さが成功の鍵です。
NHKの陶芸特集記事では、プロの陶芸家による紐作りの実演動画が公開されており、紐の作り方の参考になります
紐を積み上げる際、最も注意すべきは「接着面の処理」です。多くの初心者は紐をそのまま重ねるだけですが、これでは接着が不十分で、乾燥時や焼成時に剥がれてしまいます。正しい方法は、積み上げる前に下の紐の上面にかきべらで細かい傷をつけ(これを「ドベ」と呼ばれる泥状の粘土を塗る準備とします)、その上に新しい紐を乗せることです。
ドベは粘土と水を1:1で混ぜた接着剤のようなもので、これを使うことで接着強度が格段に上がります。紐と紐の接着面にドベを塗り、上から指で押さえながら内側と外側をなじませていきます。この作業を「なめす」と言い、紐の境目が見えなくなるまで丁寧に行うのが理想です。
なめす作業は必須です。
積み上げる際の角度も重要で、垂直に積むと安定しますが、外側に広げたり内側に絞ったりすることで様々な形を作れます。ただし、角度を急激に変えると構造が弱くなるため、1段ごとの変化は5度以内に抑えましょう。高さ10cm以上の作品を作る場合は、5〜7段積んだら30分ほど休ませて、粘土を少し固くすると作業しやすくなります。
紐を積み上げた後の表面仕上げで、作品の完成度が大きく変わります。紐の跡を完全に消す「なめし仕上げ」と、あえて紐の跡を残す「紐目仕上げ」の2つの方向性があり、どちらを選ぶかは作品のデザインによります。なめし仕上げは、なめし皮を使って内側と外側から同時に圧力をかけながら、表面を滑らかにしていく技法です。
表面を滑らかにする際は、粘土が「生乾き」の状態(触ると冷たいが、指が白くならない程度)で行うのがベストタイミングです。完全に乾いてからでは削りにくく、濡れすぎていると形が崩れます。スポンジに水を含ませて軽く撫でると、細かい凹凸がきれいに消えます。ただし、水を使いすぎると粘土が柔らかくなりすぎて形が崩れるため、霧吹きで軽く湿らせる程度にとどめましょう。
生乾きが作業のタイミングです。
紐目を残す場合は、指やへらで意図的に模様をつけることもできます。日本の伝統的な陶芸では、紐目をデザインの一部として活かす作品も多く見られます。表面に凹凸をつけることで、釉薬をかけた際に濃淡が生まれ、独特の表情を持つ作品になります。仕上げの方向性は作品の用途やデザインに合わせて選びましょう。
成形後の乾燥管理を誤ると、それまでの努力が水の泡になります。陶芸作品の乾燥には「自然乾燥」が基本で、急激に乾燥させるとヒビ割れや歪みの原因になります。理想的な乾燥期間は、湯呑みサイズで5〜7日、花瓶サイズで10〜14日です。厚みのある部分と薄い部分の乾燥速度の違いが、ヒビ割れの最大の原因となります。
乾燥の初期段階(最初の2〜3日)は、作品全体をビニール袋で覆い、袋に小さな穴を数カ所開けて緩やかに乾燥させます。この方法を「むらし」と呼び、粘土の水分が均等に抜けていきます。直射日光やエアコンの風が当たる場所は絶対に避けてください。特に底部分は乾燥が遅いため、途中で作品をひっくり返して底を上にする時間を作ると、均一に乾燥します。
むらしが均一乾燥のコツです。
乾燥具合の確認方法は、作品を持ち上げて重さを確認することです。成形直後と比べて明らかに軽くなり、表面が白っぽくなれば完全乾燥のサインです。また、作品を軽く叩いた時に「カンカン」という高い音がすれば、焼成可能な状態です。逆に「コンコン」という鈍い音の場合は、まだ内部に水分が残っているため、さらに数日乾燥を続けましょう。
紐作りで最初に作るべき作品は、シンプルな円筒形の小鉢やペン立てです。これらは底が平らで壁が垂直なため、積み上げの基本を学ぶのに最適です。底の直径は10〜12cm(CDケースぐらい)、高さは8〜10cmを目安にすると、紐を10〜12段程度積み上げることになり、接着や積み上げの練習になります。
慣れてきたら、湯呑みや小さな花瓶に挑戦しましょう。湯呑みは底から口に向かって少しずつ広げる形にすると、安定感のある美しいシルエットになります。底の直径7cm、口の直径9cm、高さ8cmという比率が、機能的にも美しい黄金比とされています。持ち手を付ける場合は、本体が完全に乾燥する前(革のような硬さの時)に接着すると、剥がれにくくなります。
シンプルな形が上達の近道です。
変わり種としては、多角形の器も紐作りで作れます。円形ではなく、四角や六角形の底を作り、そこから紐を積み上げていく方法です。角の部分は紐を折り曲げて重ねるため、接着に注意が必要ですが、完成すると個性的な作品になります。また、蓋付きの小物入れも、本体と蓋を別々に作って組み合わせる楽しみがあります。
陶芸館の技法解説ページでは、初心者向けの作品例と詳しい手順が写真付きで紹介されています
創作の幅を広げたい方には、陶芸教室の体験コースで講師のアドバイスを受けながら挑戦するのもおすすめです。多くの教室では、1回2,000〜3,000円で紐作りの基礎を学べる体験プログラムを用意しており、自宅での練習前に一度プロの技を見ておくと、理解が深まります。
紐作りと電動ろくろは、どちらも陶芸の代表的な成形技法ですが、それぞれ得意分野が異なります。紐作りの最大の利点は、電源や特別な設備が不要で、自宅でも気軽に始められることです。また、非対称な形や角張った形、取っ手付きの器など、自由な造形が可能です。一方、電動ろくろは回転の遠心力を利用するため、シンメトリーな円形の器を短時間で作れます。
電動ろくろは習得に時間がかかり、初心者が形を安定させるまでに数十時間の練習が必要とされます。対して紐作りは、基本的な積み上げ方を覚えれば、初日から小さな器を完成させることができます。コストの面でも、電動ろくろは購入すると5万円以上、レンタルでも1時間1,000円程度かかりますが、紐作りは数千円の道具だけで始められます。
紐作りは初心者向きです。
作品の特徴としては、ろくろで作った器は薄くて軽く、滑らかな曲線美が特徴です。一方、紐作りの作品は厚みがあり、手作り感のある温かみが魅力です。古来より日本の縄文土器や、世界各地の伝統的な器は紐作りで作られており、素朴で力強い表現に適しています。用途や目指す作風に応じて、技法を使い分けるのが理想的でしょう。
両方の技法を習得すると、創作の幅が大きく広がります。例えば、ろくろで本体を作り、紐作りで装飾を付け加えるといった組み合わせ技も可能です。多くのプロの陶芸家は、作品に応じて複数の技法を使い分けており、まずは紐作りで陶芸の基礎を固めてから、次のステップとしてろくろに挑戦するのが効率的な学習順序と言えます。