ボヘミアガラスは、現在のチェコ共和国西部にあたるボヘミア地方で13世紀ごろから発達したガラス工芸です。この地域で作られるガラス製品を総称して「ボヘミア」と呼び、それは日本の九谷焼や有田焼のように地名に由来する伝統工芸品の呼称なのです。ボヘミア地方は豊かな森に恵まれており、良質なブナの木の灰から採れる炭酸カリウムを原料として使用することで、高品質なガラスの製造に成功しました。
参考)ボヘミアガラス - Wikipedia
この木灰を原料とするガラスは「カリガラス」と呼ばれ、ナトリウム分を主成分とするソーダガラスよりも透明度が高く、屈折率が大きいという特性を持ちます。16世紀にハプスブルク家の統治下に入ると、イタリア・ルネサンスの波及とともにヴェネチアガラスの製法が職人とともにボヘミアにもたらされ、さらなる発展を遂げました。17世紀には銅製の回転盤による浮き彫り、研磨、カットといった彫り込み技法が考案され、これがボヘミアガラスの最大の特徴となりました。
参考)ボヘミアガラスの美しさの理由|製造工程・歴史・インテリア活用…
ボヘミア地方がガラス製造の中心地となった理由には、シリカの原料、るつぼに使用する粘土、窯の素材となる岩石など、ガラス製造に必要な天然資源が豊富に存在したことが挙げられます。さらにヴルタヴァ川やエルベ川などの河川が材料と完成品の流通路となり、水車の動力を利用できたことも発展を後押ししました。中世の貴族文化で花開いたボヘミアガラスは、時代と共に技術を磨き、現在でも世界中で高い評価を受ける伝統工芸品として受け継がれています。
参考)https://bohemiacrystal.jp/digitalcatalog/bohemiaglass2023/data/pdf/book.pdf
ボヘミアガラスの美しさを際立たせる最大の要素が、熟練職人による繊細なカット技法です。型に流し込み成形を行った後にカットを施すことで、まるで宝石のような輝きを放ちます。特にモーゼルなどの高級ブランドでは、ガラス素材が耐えうるぎりぎりの深さまでカットする技術が開発されており、その精密さは世界最高峰と称されています。
参考)フリーダイヤル
ボヘミアガラスには複数の装飾技法が存在します。「エングレーヴィング」は銅や石を使ったグラインダーでガラスに彫刻を施す技法で、硬質で透明なボヘミアクリスタルにモチーフを描くには時間と日数が必要とされ、まさにボヘミアガラスの粋と言える技です。「グラヴィール」は硬いダイヤモンドの針先でガラスの表面を点や線で少しずつ削る技法で、流れるようなパターンを創り出せるのが特徴です。また「エッチング」では、ワックスを塗布したガラスに専用工具で文様を描いた後、酸に浸して腐食させ、洗い落とすことで光沢豊かな表面に美しいモチーフが浮かび上がります。
参考)ボヘミアクリスタル
「宙吹き」は高温の炉で溶かしたガラス種を吹き竿で膨らませていく伝統技法です。特に木型を使わず職人の想像力だけで成形するボヘミアガラスの宙吹きは、数百年間受け継がれている炎の芸術と称されています。これらの技法はすべて手作業で行われ、一つ一つの作品に職人の魂が込められているのです。レースカットと呼ばれる緻密で繊細な装飾は、ボヘミアガラスならではの技術であり、その美しさは世界中のコレクターを魅了し続けています。
参考)https://www.le-noble.com/d/s/sm.php?mk=056
ボヘミア地方はガラスだけでなく、陶器の生産でも知られています。カールスバードは1885年にチェコのボヘミア地方・カルロヴィ・ヴァリ地域で生まれた磁器ブランドで、ドゥビー社によって設立されました。ボヘミア陶器の歴史は1864年にさかのぼり、良質の陶土層を持つボヘミア地方において最高級品質の磁器を作り続けてきました。
参考)https://farbe.kyoto/collections/bohemia-tableware
ボヘミア陶器の特徴は、500種類以上もある幅広いアイテムに一つずつアレンジを加えた銅板転写や手描きの装飾にあります。世界三大ブルーオニオンの一つとして数えられるカールスバードのブルーオニオン柄は、18世紀から続く伝統的なデザインで、食卓に気品と歴史を添えてくれます。ボヘミアンガラスと同様に、陶器もクリスタル特有の輝きとクラシックなカッティング模様が特徴で、ボウル、プレート、コーヒーカップなど多彩な食器が揃っています。
参考)カールスバードはどこの国のメーカーか。世界三大ブルーオニオン…
現代では、伝統的な技術を受け継ぎながらも、金属よりも強度のあるガラスで食器を作る技術も開発されています。ナイフやフォークのひっかき傷に強く、食器洗浄機にも対応した実用性の高いボヘミア食器は、日常使いにも適しています。深紅の地に白ヘビとバラが浮かぶフリーカップなど、伝統的なモチーフと現代的なデザインを融合させた作品も人気を集めており、ボヘミア食器は機能性と芸術性を兼ね備えた逸品として世界中で愛されています。
参考)https://search.kakaku.com/%E3%83%9C%E3%83%98%E3%83%9F%E3%82%A2%20%E9%A3%9F%E5%99%A8/
ボヘミアンスタイルとは、自由で個性的な生き方をする人々の精神を反映した、既存の枠組みにとらわれない装飾スタイルです。テーブルコーディネートにボヘミアンスタイルを取り入れる際の基本は、民族調のパターンを用いたファブリックと、エキゾチックな雰囲気を演出する小物の組み合わせです。
参考)「ボヘミアン」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio…
ボヘミアンスタイルの食卓では、無垢材を使用したダイニングテーブルや椅子がベースとなります。アカシア材の天然の木目模様は温かみのある色調で居心地のよい雰囲気を醸し出し、ボヘミアンスタイルの魅力をさらに高めてくれます。テーブルランナーやナプキンには、アステカ系の幾何学模様や民族柄のファブリックを選ぶことで、個性的でありながら統一感のあるコーディネートが完成します。
参考)さまざまな要素を取り入れたボヘミアンスタイルのダイニング兼リ…
食器の選び方も重要なポイントです。ボヘミアクリスタルのグラスやボウルは、その透明度の高さと独特の輝きで食卓を華やかに彩ります。カラフルなボヘミアン柄の小皿やミニボウルは、料理を引き立てるだけでなく、テーブル全体にアクセントを加えます。照明には水草で作られたナチュラル素材のペンダントランプを選ぶと、ラフで柔らかな印象が生まれます。観葉植物を添えることで、無国籍風のボヘミアンテイストが完成し、自分らしさを表現した唯一無二の食空間が実現します。
参考)自分らしさをキッチンにも!ボヘミアンスタイルのキッチンをつく…
高級なボヘミアガラスほど厚みが薄く作られているため、お手入れには特別な注意が必要です。洗浄には食器用中性洗剤を使用し、スポンジか柔らかい布でていねいに洗うことが基本です。カットしてある面は柔らかめのブラシやたわしで優しく洗い、グラスの内側は柄付のスポンジを使用すると安全に洗えます。
参考)ワイングラスの正しいお手入れ方法 おすすめのクロスもご紹介 …
最も汚れが付きやすいのは口をつける縁の部分で、料理の油や口紅の跡などがつきやすいため、ここをしっかり丁寧に洗うことが重要です。洗剤を流す際には水よりも温めのお湯を使うと洗剤の落ちがよくなります。ただし、60℃以上の高温につけたり洗ったりすることは避けるべきで、消毒のために漂白剤を使用するのも厳禁です。
洗った後は水切りラックで放置せず、すぐにグラス専用のクロスで水気をしっかり拭き取ることが最も大事なポイントです。水道水に含まれるミネラルが蒸発すると、グラスの表面にウロコ状の汚れが残ってしまうからです。拭き方のコツは、片方のクロスでボウル部分を包み込んで支え、もう片方のクロスをボウルの中へ入れて、両側から水分を吸い取る感じで両手を回すこと。ステムを持ってボウル部分を回しながら拭くのはNG行為で、ステムとボウルの接合部分に負担をかけてしまいます。
日常的なお手入れとしては、付着したホコリを清潔で毛羽の立たないクロス、または柔らかいブラシで定期的に優しく拭き取るだけで十分です。月に一度程度、丁寧にお手入れすることで、ボヘミアガラスの美しい輝きを長く保つことができます。グラスクロス自体の洗濯には、40℃以下のぬるま湯で液体洗濯洗剤のみを使用し、柔軟剤や漂白剤は使わず、陰干しで乾燥させることが推奨されます。
参考)お手入れについて
モーゼルは1857年に現在のチェコ共和国カルロヴィ・ヴァリ州に設立されたガラス装飾工房で、ボヘミアガラスの代表ブランドとして世界中にその名を知られています。ヨーロッパ有数の温泉保養地だったカルロヴィ・ヴァリを訪れる裕福な貴族たちのために、芸術性の高い高品質なガラスを生産し、万博などに出品することで国際的な評価を確立しました。
参考)ボヘミアガラスの代表ブランド、モーゼルとは?その特徴と買取り…
モーゼルの最大の特徴は、ガラスの透明度を高めるために通常使用される酸化鉛を使わず、ブナの木灰を使った伝統的なカリガラス製法にこだわっている点です。手間をかけて作られるこの透明度は世界最高級とされ、「王のガラス」とも称される所以となっています。繊細な彫刻のほか、大胆さと優美さを備えたシルエット、華麗な金彩など、高い芸術性と品質が特徴です。
参考)モーゼルの名作グラスまとめ(11/12種)|ブランド食器買取…
モーゼルにはパウラ、マラハニ、スプレンディッド、オノエ、コペンハーゲンなど多彩なシリーズが存在します。それぞれにワイングラス、ロックグラス、タンブラーなどの種類があり、カットや彫刻が緻密であるほど価値が高く評価されます。色ガラスの作品も無色の作品と同様に透明度が高く、宝石のような美しさを湛えています。ラスカボヘミアグラスは、グラインダーでガラス表面に文様を削り出す技法や、低温で溶かした色ガラスの顔料を使うハンドペイントが特徴的で、繊細な彫刻が施されています。
参考)ボヘミアングラスとは?魅力や歴史から見る価値を紹介|骨董品に…
モーゼルのボヘミアングラスの歴史や特徴、代表作について詳しく解説されています
モーゼルのグラスは成型から加飾までの全工程を職人の手作業で行っており、一つ一つに職人の魂が込められています。デキャンタ、フラワーベース、ボウルなどグラス以外の品や、古い年代の品、希少価値の高いモデルは数万円以上の高価買取が期待できるほど、コレクターズアイテムとしても高い人気を誇ります。比類なき重厚感と透明度、そして職人技による芸術性が融合したモーゼルのボヘミアガラスは、世界最高峰のガラス工芸品として不動の地位を確立しています。
参考)[モーゼル] ロイヤル オールドファッション