山水文とは、山や河川などの自然景観を創造的に抽出し、陶磁器や工芸品に描く装飾文様のことです。
参考)山水文
中国では北宋時代以降に山水画が絵画の一大ジャンルとなり、日本では禅僧が舶来の中国絵画を積極的に学び、独自の水墨表現を開花させました。陶芸の分野では、これらの山水画の要素を器の表面に文様として描く「山水画風文様」として発展しています。
参考)学芸の小部屋 17世紀末期以降の上絵の青と緑 -戸栗美術館-
伊万里焼において山水文をもつ作例は枚挙に暇がなく、江戸時代後期の文人趣味の流行に寄り添うようにして、文様装飾の一大カテゴリーを築きました。つまり山水文は単なる装飾ではなく、当時の知識人層が憧れた中国文化への敬意と美意識を表現する手段だったということですね。
日本の美術・工芸品に山水文が現れるのは飛鳥時代以後のことで、法隆寺の玉虫厨子や橘夫人念持仏厨子天蓋などに、中国漢代以来の伝統を受け継いだ深山霊峰形式の山水文がみられます。
中国では神仙や霊獣の住処としての山水表現は秦漢時代から盛んで、4世紀には霊地である名山を描いたり鑑賞したりする習慣が成立していました。唐になると旅行の山水、宋には居住山水が生まれ、それぞれの時代の自然観を示しています。
日本の陶磁器に山水文が本格的に登場するのは、1610年代に有田で磁器生産が始まってからです。1640年代には技術革新を遂げ、より洗練された山水文が描かれるようになりました。
これが基本です。
参考)https://saga-museum.jp/ceramic/102bbf5f01d82ce5e7dd66a7bcf7f1cc.pdf
陶芸における山水文は、中国の精神文化と日本の美意識が融合した結果生まれた、独特の装飾芸術といえるでしょう。
日本大百科全書の山水文解説ページでは、山水文の歴史的変遷について詳しい情報が掲載されています。
山水文を構成する主な要素には、建物、柳、船、魚、空には月と鳥などがバランスよく配置されます。
楼閣山水文と呼ばれる塔と山と川を描いた文様も代表的なパターンで、内面に呉須(コバルト化合物を含む藍色顔料)で描かれることが多いです。初期伊万里では、大きな眺望の山水画を円形の見込に大胆に描く作例が名作として知られています。
参考)染付山水文大鉢
鍋島焼の皿表には、山水画のほか植物や野菜などを図案化したもの、幾何学的なものなどが描かれ、鍋島藩の図案帳が残っていることから細かく指示されていたことがわかります。
これは使えそうです。
参考)伊万里焼の特徴 - 伊万里陶磁器工業協同組合公式サイト
山水文の構成は単に風景を写すのではなく、画家や陶工の思想を込めて再構築したものであり、見る者に情趣を感じさせる工夫が随所に施されています。
参考)https://www.toguri-museum.or.jp/tenrankai/pdf/pdf_32.pdf
染付は、呉須と呼ばれるコバルトなどを原料に使った絵の具で素焼生地に絵付けをする技法です。
参考)『染付』?『錦』?-隠者の独り言〜和食器通販・引き出物・ギフ…
素焼生地はまだ釉薬が掛かっておらず大変水分を吸収しやすいため、そこに描く染付はとても熟練の技術が必要となります。京都では和紙に墨汁で描くように、素焼きに重ね描きをせず一筆で絵の具をにじませるように描いていきます。
参考)京焼・清水焼の技法 染付 (そめつけ)|京焼・清水焼 やまな…
職人は修行過程で徹底的に墨画に取り組み、筆さばきの強弱のつけ方、筆の入れ方、運筆を習得します。熟練した職人の筆は、草木や人物は伸び伸びと躍動感を持ち、風景は奥行きがあり時として一つ一つ構図が変わるなど遊び心がみられます。
釉薬の下に絵柄を描くことから、染付のことを「下絵」とも言います。絵柄の上から液体の釉薬を掛けて焼いていますので、釉薬による滲みや流れなどの影響が少なからず表れてしまいます。
一筆で描くということですね。
京焼・清水焼の染付技法解説ページでは、実際の職人の筆さばきについてより詳細な情報が得られます。
山水文を鑑賞する際、器の表と裏で異なる構図が描かれている点に注目すると、陶工の遊び心や技術の高さを発見できます。
初期伊万里の山水文皿は、全体にとろみのある釉薬がまだらにかかり、高台には砂が付着している点など、典型的な初期伊万里の特徴を示します。これらの「不完全さ」は現代では味わいとして評価されていますが、当時の技術的制約を物語る貴重な証拠でもあります。
伊万里焼の山水文において、人物が配置されている場合、その人物の役割や配置場所にも意味が込められていることがあります。建物の近くに描かれた人物は、自然の雄大さと人間の営みの対比を表現していることが多いです。
鍋島焼では、皿の直径が三寸、五寸、七寸、一尺と決まっており、高台に規則正しい櫛歯文が描かれています。山水文を見る際、こうした器全体の様式美にも目を向けると、より深い鑑賞ができるでしょう。
意外ですね。
現代の陶芸愛好家は、博物館や美術館で実物を鑑賞する際、照明の角度を変えて釉薬の滲み具合や筆の運びを観察すると、職人の技術をより深く理解できます。