酸化ナトリウムは化学式Na2Oで表される、ナトリウムと酸素から構成される無機化合物です。通常は白色の粉末状で、立方晶系に属する結晶構造を持ちます。ナトリウムの酸化物には、この組成のほかに過酸化物イオンO2^2-を含む過酸化ナトリウムNa2O2も存在しますが、これとは異なる化合物です。
参考)酸化ナトリウム(さんかナトリウム)とは? 意味や使い方 - …
酸化ナトリウムは吸湿性が非常に強く、水と激しく反応して水酸化ナトリウムを生成します。また、二酸化炭素を吸収して炭酸ナトリウムになる性質も持っています。密度は2.27g/cm³で、400℃以上に加熱すると過酸化ナトリウムNa2O2とナトリウムNaに分解します。
参考)酸化ナトリウム
工業的には、ナトリウムと亜硝酸ナトリウムを加熱して製造されます。その反応式は「6Na+2NaNO2→4Na2O+N2」で表されます。脱水剤として有機反応における重合や縮合反応に用いられており、取り扱いには注意が必要で密閉保存が推奨されています。
酸化ナトリウムの化学式がNa2Oとなるのは、ナトリウムと酸素のイオン化における価電子の数が関係しています。ナトリウムNaはアルカリ金属で、最外殻に1個の価電子を持っており、この電子を放出して1価の陽イオンNa+になりやすい性質があります。一方、酸素Oは最外殻に6個の電子を持ち、2個の電子を受け取って2価の陰イオンO^2-になりやすい特徴があります。
参考)アルカリ金属(1族)の単体・化合物の性質や製法
化合物を形成する際には、全体の電荷が中性になるように陽イオンと陰イオンが結合します。ナトリウムイオンNa+が1価、酸化物イオンO^2-が2価であるため、電荷のバランスを取るには2個のNa+と1個のO^2-が必要になります。これが「2×(+1)+1×(-2)=0」という電荷の中和を実現し、化学式Na2Oという組成比が決まる理由です。
参考)陽イオン・陰イオン(違い・一覧・イオン式・価数・多原子イオン…
ナトリウムは価電子が1個と少ないため、イオン化エネルギーが非常に小さく、電子を放出しやすい金属です。このイオン化傾向の大きさが、ナトリウムが容易に酸化されて酸化ナトリウムを形成する要因となっています。
酸化ナトリウムNa2Oの結晶は立方晶系に属し、「逆蛍石型構造」という特徴的な配置を取ります。この構造は、フッ化カルシウムCaF2の蛍石型構造における陽イオンと陰イオンの位置を入れ替えた形です。具体的には、CaF2立方格子のカルシウムイオンの位置に酸化物イオンO^2-が配置され、フッ化物イオンの位置にナトリウムイオンNa+が配置されています。
参考)酸化ナトリウム - Wikipedia
格子定数はa = 5.55Åと報告されており、この規則的な配置が酸化ナトリウムの物性に大きく影響しています。逆蛍石型構造は、陽イオンが過剰になる組成比A2Xを持つ化合物に見られる構造で、Li2OやK2Oなどの他のアルカリ金属酸化物でも同様の配置が観察されます。
参考)蛍石型構造:イオン伝導がよく見られる基本的な結晶構造 - は…
この結晶構造に基づく格子振動は、ラマン分光実験で200cm付近に鋭く強いピークとして観測され、結晶の同定や性質の解析に利用されています。逆蛍石型構造の安定性は、イオン半径の比やイオン間の静電相互作用によって決まり、酸化ナトリウムの化学的性質を理解する上で重要な要素となります。
参考)https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/PNC-TJ9642-98-001.pdf
酸化ナトリウムは塩基性酸化物に分類され、水や酸と特徴的な反応を示します。水との反応では、酸化ナトリウムが激しく反応して強塩基である水酸化ナトリウムを生成します。その反応式は「Na2O+H2O→2NaOH」で表され、この性質は水と反応して塩基を生じる塩基性酸化物の代表的な例です。
参考)http://www.fastliver.com/aruchart.pdf
酸との反応では、酸化ナトリウムは塩と水を生成する中和反応を起こします。例えば塩酸との反応では「Na2O+2HCl→2NaCl+H2O」という反応式で表され、塩化ナトリウム(食塩)と水が生成されます。このように酸と反応して塩を作る性質も、塩基性酸化物の重要な特徴です。
参考)【高校化学】「酸化物の分類」
さらに、酸化ナトリウムは二酸化炭素を吸収して炭酸ナトリウムを生成します。その反応式は「Na2O+CO2→Na2CO3」です。この性質により、酸化ナトリウムは空気中に放置すると二酸化炭素と反応して変質するため、密閉保存が必要になります。
酸化ナトリウムNa2Oと過酸化ナトリウムNa2O2は、どちらもナトリウムと酸素の化合物ですが、構造と性質が大きく異なります。酸化ナトリウムは通常の酸化物イオンO^2-を含む無色の化合物であるのに対し、過酸化ナトリウムは過酸化物イオンO2^2-を含む黄色から白色の化合物です。
参考)過酸化ナトリウム - Wikipedia
生成条件にも違いがあり、ナトリウムを180℃以下の適量の酸素と反応させると酸化ナトリウムが生成しますが、ナトリウムを加熱して酸素と反応させると過酸化ナトリウムが生成します。反応式で表すと、低温では「4Na+O2→2Na2O」となり、高温または加熱条件では「2Na+O2→Na2O2」となります。
参考)Na+O2→Na2O2ナトリウムを加熱すると過酸化ナトリウム…
過酸化ナトリウムは水と反応すると水酸化ナトリウムと過酸化水素を生成し、反応式は「Na2O2+2H2O→2NaOH+H2O2」です。これは酸化ナトリウムとは異なる反応で、過酸化水素が発生する点が特徴的です。また、過酸化ナトリウムは消防法で危険物第1類(酸化性固体)に指定されており、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されています。
酸化ナトリウムの工業的製法には複数の方法があります。最も一般的な方法は、ナトリウムと亜硝酸ナトリウムNaNO2を加熱する方法で、反応式は「6Na+2NaNO2→4Na2O+N2」です。この方法では窒素ガスが副生成物として発生します。他の製法としては、ナトリウムを適量の酸素と180℃以下で反応させる方法、過酸化ナトリウムを加熱する方法、水酸化ナトリウムと融解する方法などがあります。
酸化ナトリウムの主な用途は、強力な脱水剤としての利用です。有機化学反応における重合反応や縮合反応で、反応系から水分を除去する目的で使用されます。水と激しく反応して水酸化ナトリウムを生成する性質を利用して、水分を化学的に除去できるため、通常の乾燥剤では除去できない微量の水分も取り除くことができます。
ただし、酸化ナトリウムは吸湿性が非常に強く、空気中の水分や二酸化炭素と反応しやすいため、取り扱いには注意が必要です。保管時は密閉容器に入れ、皮膚に直接触れないよう注意する必要があります。また、水と激しく反応するため、取り扱う際は適切な保護具を着用し、安全な環境で作業することが求められます。
<参考リンク>
酸化ナトリウムの基本的な性質と反応式について詳しく解説されています。
コトバンク - 酸化ナトリウムとは
塩基性酸化物の性質と酸化ナトリウムの反応について。
Try IT - 酸化物の分類
アルカリ金属の酸化物の性質と反応式の詳細。
化学のグルメ - アルカリ金属の単体・化合物