
サマリウムコバルト磁石は小型磁気センサーに幅広く使用されており、その温度安定性の高さから計測機器に根強いニーズがあります。特に温度変化の大きい環境下でも磁力が安定しているため、高精度が求められる計測用の磁気センサーにおいて信頼性の高い性能を発揮します。自動車や航空宇宙分野のセンサー部品としても重要な役割を担っており、極端な温度や振動にさらされる過酷な条件下でも正確な測定を可能にしています。
参考)製品一覧
温度係数が-0.03~-0.05%/℃と小さいため、温度による磁力変化が少なく、精密な測定が必要な用途に最適です。マイクロスイッチや小型リレーなどの制御機器にも採用され、長期間安定した動作を実現しています。残留磁束の温度係数が-10ppmという超高精度のサマリウムコバルト磁石も開発されており、MRI装置などの医療機器において安定した強い磁場を生成する役割を果たしています。
参考)サマコバ磁石
高温モーターや発電機におけるサマリウムコバルト磁石の用途は、その卓越した耐熱性能により特に重要です。最大使用温度が300~350℃に達するため、ネオジム磁石では対応できない高温環境下でも減磁せずに動作します。電子レンジ内のマグネトロンという真空管に使用されるほか、車載用モーターやイグニッションシステムにも採用されており、エンジンルーム内の高温環境でも安定した性能を維持します。
参考)NBAEM - 日本の最高のサマリウムコバルト磁石メーカー
地下鉄システムのトラクションモーターにも使用されており、優れた磁気性能と減磁耐性により高速鉄道特有の厳しい要件を満たしています。水素燃料電池自動車のエアコンプレッサー用ローター形状磁石としても供給されており、高い保磁力とバッチ間の均一性、温度安定性により次世代車両の規格に適合しています。500℃を超える超高温下で動作する超高温サマリウムコバルト磁石も開発され、イオンエンジンのイオン発生装置や航空宇宙用途の高温モーターへの応用が進んでいます。
参考)信頼の永久磁石メーカー
医療機器分野でのサマリウムコバルト磁石の用途は、その高い信頼性と安定性により重要な位置を占めています。MRI装置では、安定した強い磁場(B0磁場)を生成させる磁性体として使用され、残留磁束の温度係数が極めて小さい特殊なグレードが採用されています。長時間の検査中でも温度変化による磁場の変動が最小限に抑えられるため、高精度な画像診断を可能にしています。
参考)サマリウムコバルト磁石
医療用センサー部品や精密機器にも広く採用されており、人体に近い環境で使用される際も耐食性の高さから防錆処理が不要で安全性が確保されます。手術用マイクロモーターや診断装置のアクチュエーターなど、患者の安全性と機器の信頼性が最優先される用途において、サマリウムコバルト磁石の温度安定性と長期耐久性が高く評価されています。極低温技術応用にも使用されており、幅広い温度範囲での安定した磁気特性が医療技術の進歩を支えています。
参考)サマリウムコバルト磁石の特性をわかりやすく解説|株式会社マグ…
航空宇宙産業におけるサマリウムコバルト磁石の用途は、その極端な環境への耐性により不可欠なものとなっています。高速、激しい振動、高真空、強い放射線、極端な温度への耐性を持ち、航空宇宙分野の機械要素において卓越した性能を発揮します。航空機メーカーでは動作温度が350℃に達する高温耐性を活用し、エンジン周辺部や高温環境下のアクチュエーター、ナビゲーションシステムに採用しています。
参考)レアアース磁石の力を明らかにする - Magnetic Kn…
軍事用途においても、極端な条件に対する耐性がある特性から貴重な材料として重宝されており、防衛システムの高温磁石として使用されています。イオンエンジンのイオン発生装置などの宇宙推進システムにも応用され、宇宙空間の過酷な環境下でも安定した動作を実現しています。航空宇宙技術のさまざまな部品において高温安定性が重要であり、厳しい環境下でのパフォーマンスが不可欠な重要な用途で非常に価値の高い素材として活用されています。
参考)航空宇宙用センサー用SmCo 磁石
特殊産業分野におけるサマリウムコバルト磁石の用途として、マグネットカップリングは特に重要な応用例です。磁気ポンプカップリングとして使用されることで、流体を密閉したまま動力を伝達できるため、化学プラントや海洋用途での漏れのないシステム構築が可能になります。油井掘削用途でも高温・高圧の過酷な環境下で使用され、地下深部での安定した動作が求められる場面で活躍しています。
参考)https://shimonishi.net/product/magnet_kikaku01_02/
光通信機器やレーザー機器においても、温度安定性が必要な用途に向いており、精密な光学調整が必要な装置で長期的な性能維持に貢献しています。音響機器のスピーカーやマイクロフォン、ピックアップ、イヤホンにも採用され、高音質を実現する高磁力と安定性を提供します。電子ロックや装飾品、健康機器などの応用機器にも使用されており、小型化と高性能化の両立が求められる製品において重要な役割を果たしています。
参考)サマリウムコバルト磁石|製品説明 - キンキ磁石応用
サマリウムコバルト磁石とネオジム磁石は、それぞれ異なる用途で使い分けられています。磁気強度ではネオジム磁石が最も強力な永久磁石材料で、最大引き抜き力を重視する場合に理想的ですが、サマリウムコバルト磁石は高温環境や耐久性が求められる場面で重要な選択肢となります。温度耐性ではサマリウムコバルト磁石が約300℃(一部グレードは350℃)まで対応できるのに対し、標準的なネオジム磁石は約80~176℃までとなっています。
参考)https://www.sanshin-kk.co.jp/service/magnet_feature.htm
コストパフォーマンスの面では、ネオジム磁石が一般的に単位磁気強度あたりの価格が安く、大規模生産により多様な形状やサイズで入手しやすいという利点があります。一方、サマリウムコバルト磁石は原料のサマリウムとコバルトの産出量が少なく高価ですが、非常に強い反対磁場や高温にさらされた場合でもより安定しているという特徴があります。「求める磁気の強さ」「環境温度」「利用途による耐久度」などから、両者を切り分けて使用することが推奨されており、高温や腐食環境ではサマリウムコバルト磁石、常温で最大磁力が必要な場合はネオジム磁石が選ばれています。
参考)サマリウムコバルト磁石とネオジム磁石の強さと用途 - Nba…
サマリウムコバルト磁石は希土類元素のサマリウムとコバルトで組成される2成分系合金で、高い磁気エネルギー積を持つ永久磁石です。代表的なグレードには1:5型(SmCo5)と2:17型(Sm2Co17)があり、後者の方が高い磁気特性を示します。残留磁束密度(Br)は850~1100mT(8.5~11.0kG)、保磁力(Hcj)は1194~1990kA/m(15~25kOe)以上、最大エネルギー積(BHmax)は127~240kJ/m³(16~30MGOe)という優れた値を持ちます。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fchem.2018.00018/pdf
密度は8.4g/cm³で、フェライト磁石と比較して約5倍の磁力を持つことが特徴です。磁化の方向は丸型・リング型・バー型・角型・セグメント型など形状に応じて、厚み方向、径方向、長手方向などが選択可能です。鉄を含むネオジム磁石と異なり、コバルトの耐食性の高さから高い耐腐食性を持っているため、メッキなどの防錆処理を施す必要がありません。
参考)サマリウム サマリウムの用途は?サマコバ磁石が耐熱性、耐食性…
表:主要グレードの磁気特性比較
| グレード | 残留磁束密度 (mT) | 保磁力 Hcj (kA/m) | 最大エネルギー積 (kJ/m³) | 耐熱工作温度 (℃) |
|---|---|---|---|---|
| 18 | 850-900 | ≧1194 | 127-143 | ≦250 |
| 24 | 950-1020 | ≧1433 | 175-191 | ≦300 |
| 28 | 1030-1080 | ≧1433 | 207-220 | ≦300 |
| 30 | 1080-1100 | ≧1433 | 220-240 | ≦300 |
| 26H | 1020-1050 | ≧1990 | 191-207 | ≦350 |
| 30H | 1080-1100 | ≧1990 | 220-240 | ≦300 |
サマリウムコバルト磁石の製造方法には、粉末冶金法が一般的に用いられ、サマリウムとコバルトの金属粉末を混合・成形・焼結するプロセスが基本となります。近年ではエレクトロスピニング法と還元拡散プロセスを組み合わせた高スループット合成法も開発され、サブミクロンファイバーとして制御された組成と寸法での製造が可能になっています。マイクロ波支援燃焼法と高温還元拡散を組み合わせた手法も研究されており、異なる相のサマリウムコバルト磁性粒子の合成温度の最適化が進んでいます。
参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/30/9/1975
取り扱いにおいては、硬度が高く割れやすく機械的強度が低いという特性があるため、慎重な扱いが必要です。衝撃に弱く欠けやすいため、組立作業や加工時には専用の工具と技術が求められます。一方で、水分が十分に除去された環境であれば高温まで安定して使用でき、700~800℃という非常に高いキュリー温度を持つため、ネオジム磁石の約7倍の耐熱性があります。リサイクルに関しても研究が進んでおり、トリクロリド系イオン液体を用いた使用済みサマリウムコバルト磁石からの金属回収法が開発されるなど、資源循環の観点からも注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6488128/
<参考リンク>
マグテック株式会社:サマコバ磁石の特性と用途の詳細情報
サマリウムコバルト磁石の磁気特性表と温度特性グラフ、具体的な使用用途について詳しく解説されています。
ネオマグ:サマコバ磁石の製品特徴
小型磁気センサー、マイクロスイッチ、光通信、レーザー機器などの具体的な用途例と温度安定性に関する情報が掲載されています。
NGYC:航空宇宙産業用磁性材料
航空宇宙分野での超高温サマリウムコバルト磁石の開発事例と、イオンエンジンや高温モーターへの応用について紹介されています。