燃料電池化学式と反応原理を解説|鉱石素材と触媒の役割

燃料電池の化学式を中心に、水素と酸素が電気を生む反応原理、白金触媒や電解質の役割、鉱石素材の活用法を詳しく解説します。代替触媒の可能性についても知りたくありませんか?

燃料電池化学式と反応の基本原理

燃料電池の3つのポイント
化学反応で直接発電

水素と酸素の化学反応から電気を直接取り出す高効率システム

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反応式の構成

負極で水素が電子を放出、正極で酸素と結合して水を生成

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触媒と電解質

白金系触媒が反応を促進、電解質がイオン伝導を担う

燃料電池の化学式における基本反応

 

燃料電池は水素H2H_2H2と酸素O2O_2O2を化学反応させて電気を生み出す装置であり、その全体の反応式は2H2+O22H2O2H_2 + O_2 \rightarrow 2H_2O2H2+O2→2H2Oで表されます。これは水素の燃焼反応と同じ式ですが、燃料電池では燃焼ではなく電気化学反応により、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換します。この反応は負極(アノード)と正極(カソード)の2つの電極で別々に進行し、電子の移動によって電流が発生します。

参考)燃料電池の基礎知識と今後について|松定プレシジョン

負極では水素が電子ee^-e−を放出してプロトン(水素イオンH+H^+H+)に変わる反応が起こり、その反応式はH22H++2eH_2 \rightarrow 2H^+ + 2e^-H2→2H++2e−となります。放出された電子は外部回路を通って正極へ移動し、この電子の流れが電流として利用されます。一方、プロトンは電解質膜を通過して正極へと移動し、そこで酸素、電子と反応します。

参考)燃料電池とは(原理・仕組み・種類)

正極では酸素が外部回路から戻ってきた電子とプロトンを受け取って水を生成する反応が進行します。リン酸型燃料電池の場合、正極の反応式はO2+4H++4e2H2OO_2 + 4H^+ + 4e^- \rightarrow 2H_2OO2+4H++4e−→2H2Oと表されます。この反応により生成される水が燃料電池の唯一の排出物となり、環境への負荷が極めて小さいクリーンなエネルギー源として注目されています。

参考)燃料電池(リン酸型・アルカリ型の仕組み、各極の反応式など)

燃料電池の種類と電解質による分類

燃料電池は電解質の種類によって5つの主要なタイプに分類され、それぞれ異なる作動温度と用途を持ちます。固体高分子形燃料電池(PEFC)は常温から約90℃で作動し、固体高分子膜(イオン交換膜)を電解質として使用します。発電出力は50kW程度で発電効率は30~40%であり、小型軽量化が可能なため家庭用、自動車、携帯機器など幅広い用途に使用されます。

 

参考)燃料電池の種類

リン酸型燃料電池(PAFC)はリン酸水溶液を電解質とし、約200℃で作動します。溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)は溶融した炭酸塩を電解質として用い、キャリアーイオンとして炭酸イオンCO32CO_3^{2-}CO32−を使用します。この形式は天然ガスや石炭ガスも燃料として利用可能であり、高温で作動するため燃料改質が容易です。

参考)燃料電池について

固体酸化物形燃料電池(SOFC)は安定化ジルコニア(ZrO2+Y2O3ZrO_2+Y_2O_3ZrO2+Y2O3)を電解質に使用し、約1000℃で作動します。発電効率は40~65%と比較的高く、燃料として水素のほかに一酸化炭素も使用できます。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)は高温で酸素イオン伝導体として機能し、SOFCの電解質として広く採用されています。アルカリ型燃料電池(AFC)は水酸化カリウム水溶液を電解質とし、キャリアーイオンとして水酸化物イオンOHOH^-OH−を用います。

参考)燃料電池とは?仕組みや長所、活用例を解説します

燃料電池触媒における白金と合金の役割

燃料電池の触媒として白金(Pt)が広く使用されており、特にカソード(正極)での酸素還元反応(ORR)を促進する重要な役割を担っています。白金触媒は直径50nm程度のカーボン粒子に直径数nmの白金触媒を担持させた白金担持カーボンの形態で用いられます。現状の燃料電池自動車では1台あたり20~30gの白金が使用されており、高価で希少な白金の使用量削減が普及の課題となっています。

 

参考)燃料電池の白金—コバルト合金触媒の反応のしくみを世界で初めて…

白金-コバルト合金触媒は従来の白金触媒と比較して優れた発電性能と触媒耐久性を示すことが知られています。分子科学研究所の研究によれば、白金-コバルト合金触媒では白金-酸素結合の還元と白金-白金結合の再形成速度が白金のみの触媒と比較して3倍以上速くなることが明らかになりました。この反応速度の向上により、カソードでの反応がより効率的に進行し、電位操作を繰り返した際の白金触媒の溶出劣化も抑制されます。

 

参考)分子科学研究所など、燃料電池の白金—コバルト合金触媒反応のリ…

触媒層の構造は燃料電池の性能に大きく影響し、炭素のつながりが電子の通り道(電子伝導チャンネル)となり、電解質のつながりが水素イオンの通り道(電解質チャンネル)となります。触媒層内の空隙を完全に電解質で埋めるとガスが電解質中を拡散しにくくなるため、適切な空隙率の維持が重要です。カソード表面では一連の反応の速度が白金合金化によって高まり、発電性能の向上につながります。

 

参考)https://www.tytlabs.co.jp/en/japanese/review/rev294pdf/294_013_kawahara.pdf

燃料電池に活用される鉱石由来の電解質材料

固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質として、ジルコニウムやセリウムなどの鉱物由来の酸化物が使用されています。ジルコニアは地殻中に存在するジルコニウム鉱石から得られる酸化物であり、イットリア(酸化イットリウム)を添加することで酸素イオン伝導性を持つ安定化ジルコニアとなります。この材料は高温で高い酸素イオン伝導度を示し、SOFCの電解質として最も典型的に用いられる鉱物材料です。

 

参考)https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/batteries-supercapacitors-and-fuel-cells/thin-film-solid-oxide-fuel-cells

安定化ジルコニア中では酸素イオンが酸素空孔を介して移動し、この移動がイオン伝導を担います。大阪大学の研究によれば、酸素イオンは10兆分の1秒の時間でイオン移動の試行を繰り返し、移動直前には試行運動が遅くなることが観測されました。イットリアを添加した安定化ジルコニアのテラヘルツ伝導度測定により、酸素イオンの隣接する空孔への移動のしやすさを評価できることが明らかになっています。

 

参考)産総研:ジルコニア電解質を用いた低温作動型燃料電池を開発

産業技術総合研究所の研究では、ジルコニア系電解質を用いたSOFCの作動温度を600℃まで低温化することに成功し、発電密度1.1W/cm²を達成しました。燃料極の気孔率を54%に最適化することで電極抵抗を1/30にまで低減でき、550~600℃の作動温度で最大0.5~1.1W/cm²の電力が得られました。この成果により、長期安定性やコスト面で優れたジルコニア系材料を用い、低温作動が可能なSOFCシステムの実現への道が開かれました。

産業技術総合研究所|ジルコニア電解質を用いた低温作動型燃料電池の開発成果について

鉱山副産物を活用した白金代替触媒の開発

東北大学を中心とする研究グループは、農業廃棄物のもみ殻と鉱山副産物のパイライト(黄鉄鉱:FeS2FeS_2FeS2)から、白金に代わる高耐久な燃料電池用触媒の開発に成功しました。この開発は希少資源である白金の代替となるだけでなく、未利用資源から高性能な機能性材料を生み出す持続可能な取り組みとして注目されています。金属空気電池や燃料電池では酸素還元反応(ORR)を担う触媒材料が重要であり、これまで高価で希少な白金が使用されてきました。

参考)もみ殻と鉱山副産物から高耐久性燃料電池触媒を開発 ...

開発された触媒は、パイライトからの鉄イオンを含む水溶液にもみ殻を浸し、水熱炭化によって鉄を内部に分散させた後、窒素雰囲気下で高温炭化する2段階プロセスで製造されます。このプロセスでは尿素を添加することでFe-N構造の形成を促す窒素ドープが行われ、鉄と窒素が効果的に導入されて反応性に優れた構造が形成されます。もみ殻に含まれる非晶質シリカ(アモルファスSiO2SiO_2SiO2)が構造の安定化に寄与し、全体として高い耐久性を実現しています。

参考)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2507/07/news028.html

この触媒は酸性・中性・アルカリ性の全ての条件下で白金触媒に匹敵する起電力を示しました。特に酸性条件下で14時間の連続運転試験を行った結果、白金触媒(40wt% Pt/C)を上回る電流保持率となり、優れた耐久性が確認されました。この技術は再生可能エネルギーの貯蔵やレアメタル依存の低減に貢献し、廃棄物を活用して高性能と長寿命を両立する革新的なアプローチとして評価されています。

 

参考)もみ殻と鉱山副産物から高耐久性燃料電池触媒を開発

東北大学|もみ殻と鉱山副産物から高耐久性燃料電池触媒を開発

触媒材料 主な構成元素 特徴 出典
白金触媒 Pt 高活性だが高価で希少、1台20~30g使用
白金-コバルト合金 Pt-Co 還元反応速度が白金の3倍以上、耐久性向上
もみ殻-パイライト触媒 Fe-N-SiO₂ 白金に匹敵する性能、優れた耐久性、低コスト
C12A7組成物 Ca-Al酸化物 セメント鉱物由来、材料費が安価

他にも、カルシウムとアルミニウムの酸化物(セメント鉱物)を用いたC12A7組成物が白金代替触媒として研究されており、材料費が安価で生成法が簡単という利点があります。また、熊本大学では鉄を用いた非白金触媒の開発が進められており、燃料電池の非白金化に向けた研究が活発化しています。これらの代替触媒開発により、燃料電池のコスト削減と普及促進が期待されています。

 

参考)燃料電池の非白金化に繋がる新物質を開発

 

 


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