ダイオードは、電流を一方向にのみ流す半導体素子で、アノード(陽極)とカソード(陰極)の2つの端子を持ちます。この用語は真空管の時代から使われており、電子の流れの方向によって電極が区別されています。
参考)ダイオード
アノードは外部回路へ電子が流れ出す電極で、ギリシャ語で「上り口」を意味します。一方、カソードは外部回路から電子が流れ込む電極で、「下り口」を意味する言葉に由来しています。PN接合型ダイオードでは、P型半導体側がアノード、N型半導体側がカソードとなる構造です。
参考)ダイオード - Wikipedia
電流はアノードからカソード方向へ流れますが、これは整流作用と呼ばれるダイオードの基本特性です。逆方向、つまりカソードからアノードへは電流がほとんど流れないため、交流を直流に変換する回路などで広く利用されています。
カソードとアノードを理解する上で重要なのは、電子の流れと電流の方向が逆であるという点です。電子はカソードからアノードへ移動しますが、慣習的に電流はアノードからカソードへ流れると定義されています。
ダイオードに順バイアス(アノード側に正電圧、カソード側に負電圧)を印加すると、n型半導体から電子がp型半導体側へ、p型半導体から正孔がn型半導体側へ押し出されます。これらのキャリアは接合部付近で再結合し、全体としてアノードからカソードへ電流が流れる状態になります。
参考)https://www.phys.kindai.ac.jp/laboratory/kondo/lectures/el_tb/node107.html
逆バイアス(カソード側に正電圧、アノード側に負電圧)を印加した場合、空乏層が広がり内部電界が大きくなるため、電流はほとんど流れません。この一方向性がダイオードの最も重要な特性であり、整流回路や保護回路などに応用されています。
参考)ダイオードとは?
実際のダイオード部品では、カソードとアノードを正しく識別することが回路設計において極めて重要です。2端子品の場合、カソード電極側にレーザーマークなどで印が付けられているのが一般的です。
参考)ダイオードのアノード、カソード端子はどのように見分けるのです…
回路図では、ダイオードは三角形と線を組み合わせた記号で表されます。三角形の頂点が指す方向がカソードで、「A」と表記される側がアノード、「K」と表記される側がカソードです。アノード(Anode)の「A」は三角形に似ており、カソードは英語で「Cathode」と書かれ、ドイツ語の「Kathode」に由来するため記号「K」が使われています。
参考)カソードとアノードの違いを徹底解説:電気回路の基礎知識。
LED(発光ダイオード)の場合、リード線の長さでも判別でき、一般的に長い方がアノード、短い方がカソードとなっています。また、電池のような素子では、プラス記号がカソード(正極)、マイナス記号がアノード(負極)を示しますが、これは電池と電気分解で役割が異なるためです。
参考)https://www.my-craft.jp/html/aboutled/led_kyokusei.html
ダイオードの歴史は19世紀後半の鉱石検波器に遡ります。1874年、ブラウンが金属硫化物に金属針を接触させることで整流作用が生じることを発見し、これが世界最初の半導体素子の実用化となりました。
参考)鉱石検波器 - Wikipedia
鉱石検波器は、半導体の性質を有する鉱石に金属針を接触させ、ショットキー障壁による整流作用を利用する一種のダイオードです。方鉛鉱、黄鉄鉱、紅亜鉛鉱などの天然鉱石が使用され、1904年にボースが方鉛鉱を用いた検波器で最初の特許を取得しました。
参考)https://www3.jeed.go.jp/chiba/college/media/20240516-120714-236.pdf
1906年、ピカードがシリコン結晶に金属針を接触させる方式で特許を取得し、単結晶の使用により特性が安定したことで広く実用化されました。鉱石検波器は電力を必要としない利点があり、真空管の二極管が発明された後も、簡易なラジオや超短波帯の研究用途で併用されていました。現代の点接触型ダイオードやショットキーバリアダイオードは、この鉱石検波器の遠い子孫といえます。
参考)ダイオード
TDK - 半導体素子のルーツは天然鉱石の検波器
鉱石検波器の歴史と原理について詳しく解説されています。
現代のダイオードは用途に応じて多様な種類が開発されています。最も基本的な一般整流ダイオードは、PN接合を利用して交流を直流に変換する整流回路に使用されます。商用電源の整流に適した高耐圧タイプが主流です。
参考)ダイオードとは
ツェナーダイオードは、逆方向電圧を印加すると特定の電圧(ツェナー電圧)で急激に電流が流れる特性を持ち、定電圧回路や過電圧保護回路に使用されます。通常のダイオードと異なり、カソードからアノードへ電流を流す逆方向動作が特徴です。回路記号もカソード側が「Z」に似た形状で表され、一般整流ダイオードと区別されています。
参考)ダイオードの『種類』と『特徴』と『記号』について!
LED(発光ダイオード)は、順方向電流を流すことで光を発するダイオードで、照明やディスプレイに広く使われています。フォトダイオードは逆に光を受けて電流を発生させる素子で、光ファイバー通信や各種センサーに応用されています。
参考)ダイオードの種類を解説|特徴・構造・主な用途
ショットキーバリアダイオードは、金属と半導体の接合により順方向電圧降下が小さく、高速スイッチングが可能という特徴を持ち、スイッチング電源やインバータ回路に使用されます。
ロームセミコンダクタ - ダイオードの種類と用途
各種ダイオードの詳細な特性と応用例が紹介されています。
ダイオードの整流作用は、P型半導体とN型半導体の接合部で起こる現象に基づいています。P型半導体とN型半導体を接合すると、接合界面で電子と正孔が再結合し、キャリアのない領域である空乏層が形成されます。
参考)パワーダイオードの種類と動作原理:PN接合・PIN接合・ショ…
P型半導体は、シリコンにホウ素などの価電子が少ない不純物を添加することで作られ、正孔(ホール)が多数キャリアとなります。一方、N型半導体は、リンなどの価電子が多い不純物を添加することで、電子が多数キャリアとなる構造です。
参考)半導体にも種類がある? 不純物半導体と真性半導体の違い
順方向バイアスを印加すると、空乏層近傍のn型半導体の電子はp型半導体側へ、p型半導体の正孔はn型半導体側へ引かれます。バイアスによって空乏層にキャリアが流れ込み、空乏層幅が狭まり、押し出された電子と正孔は空乏層内で再結合して消滅します。この過程が繰り返されることで電流が流れ続けます。
参考)pn接合の電気特性:順方向・逆方向バイアス
逆方向バイアスでは、空乏層が広がり内部電界が大きくなるため、電流はほとんど流れません。このPN接合の一方向性により、ダイオードは交流を直流に変換する整流作用を実現しています。
参考)ダイオードとは
実際の電源回路では、ダイオードのカソードとアノードの配置が回路の動作を決定します。最も単純な半波整流回路では、交流電源の一方の半周期のみをダイオードが通過させ、直流に変換します。
参考)整流回路の仕組み
より効率的な全波整流回路では、4つのダイオードをブリッジ状に配置したブリッジ回路が使用されます。入力が順方向の時は特定の経路で電流が流れ、入力が逆方向の時は別の経路で電流が流れるように設計されており、交流のプラスとマイナス両方の電圧を拾って直流化できます。
参考)整流器を徹底解説!ダイオードやサイリスタ製品の仕組みとは
整流後の波形は脈流と呼ばれ、完全な直流ではないため、平滑コンデンサを追加することで直流に近づけます。このように、カソードとアノードの正確な配置と方向性の理解が、効率的な電源回路設計の基礎となっています。
ACアダプタや家電製品、産業用機器など、私たちの身の回りにある電子機器のほとんどに整流回路が組み込まれており、ダイオードのカソードとアノードが重要な役割を果たしています。
参考)https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/applinote/common/diode_types_and_applications_an-j.pdf
カソードとアノードという用語は、ダイオードだけでなく電池や電気分解でも使用されますが、その役割は異なります。電流(電子)の流れの方向によって区別されるカソード・アノードと、電位の高低によって区別される陽極・陰極は、必ずしも一致しません。
電気分解では、カソードで還元反応が起こり陰イオンが引き寄せられ、アノードで酸化反応が起こり陽イオンが引き寄せられます。一方、電池では、カソードは正極として陽イオンが引き寄せられて還元反応が起こり、アノードは負極として電子を放出し酸化反応が起こります。
このように、電気分解や電池の種類によって、カソードが陽極になる場合もあれば陰極になる場合もあります。ダイオードにおいては、アノード側に正電圧を印加すると電流が流れる整流作用が基本であり、電池における定義とは異なる点に注意が必要です。
参考)ダイオードはどのような動作をしますか?
電子工学と電気化学の分野でカソード・アノードの用語が共通して使われていますが、それぞれの文脈で正しく理解することが重要です。特にダイオードでは、P型半導体側がアノード、N型半導体側がカソードという明確な対応関係があります。
参考)Anode vs Cathode: Whathref="https://holobattery.com/ja/anode-vs-cathode/" target="_blank">https://holobattery.com/ja/anode-vs-cathode/amp;#039;s …
現代の半導体技術は、鉱石検波器の原理から大きく発展しましたが、鉱物や結晶材料の研究は現在も続いています。シリコンやゲルマニウムといった伝統的な半導体に加え、ダイヤモンドのような新しい材料が注目されています。
参考)https://www.mdpi.com/2673-4362/2/4/32/pdf
ダイヤモンドは超広バンドギャップ(5.5eV)の半導体材料で、高温動作や高速応答、放射線耐性といった優れた特性を持ち、放射線検出器として原子力工学や高エネルギー物理学の分野で使用されています。その低い原子番号(Z=6)により、人体組織に近い特性を持つため医療分野での応用も期待されています。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/26941112.2021.2017758?needAccess=true
また、ダイヤモンド検出器はPN接合構造を持ち、カソードとアノードの電極配置により放射線を電気信号に変換します。高純度の実験室成長ダイヤモンド結晶を使用することで、高性能な検出器の実現が可能になっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11904232/
天然鉱石から始まったダイオード技術は、現代では高度に制御された人工結晶材料へと発展しましたが、その基本原理である整流作用とカソード・アノードの概念は変わらず受け継がれています。鉱物の持つ特性を活かした新材料の開発は、今後も半導体技術の進化に貢献すると期待されています。