明礬石の最も重要な特徴は、その豊富なアルミニウム含有量にあります。化学式KAl₃(SO₄)₂(OH)₆で表される明礬石は、約30%ものアルミナ(Al₂O₃)を含有しており、さらに酸化カリウムとして26~27%のカリウムを含んでいます。この組成は資源開発の観点から極めて高い価値を持つものでした。
参考)https://www.chemistry.or.jp/know/doc/isan028_article.pdf
アルミニウムはイオン化傾向が高いため、銅や鉄のように元素単体で地殻に存在することが難しく、通常は鉱物の形で賦存しています。明礬石はその結晶構造内にアルミニウムイオンが密に結合しており、酸処理により効率的にアルミニウム塩を抽出できるという特性を持っています。結晶は六角板状または菱面体の形態を示し、硬度は3.5~4と比較的軟らかく、もろい性質があります。
参考)「電気の缶詰」と呼ばれるアルミニウム・歴史編・
カリウムをナトリウムで置換したものはソーダ明礬石と呼ばれ、アルミニウムを鉄で置換したものは鉄明礬石と称されます。これらの異なる化学組成は地質学的な形成環境の違いを示す指標となり、採掘地域ごとに異なる組成比を持つことが知られています。
参考)明礬石 - Wikipedia
明礬石は火山地帯である国で数多く産出されており、日本はその代表的な産地の一つです。日本国内では、静岡県の宇久須鉱山や伊豆半島の仁科鉱床、群馬県のほか、兵庫県の栃原、広島県の勝光山、岩手県の松尾鉱山、北海道の置戸鉱山など、北海道から中国地方に至る広い地域に分布しています。
参考)https://www.gsj.jp/data/rep-gsj/No130.pdf
特に国際的には、イタリアのトルファが15世紀から明礬による化学工業の中心地として栄えており、スペイン、ウクライナ、オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも良質な鉱床が確認されています。別府温泉郷の八湯の一つである明礬温泉地域には、多くの岩石が明礬石へと変化した明礬温泉があり、この地には明礬の結晶に満たされた岩石が豊富に存在しています。
参考)ミョウバンが取れる鉱物アルナイト(明礬石) 古代ローマから伝…
特に興味深いのは、朝鮮半島南部の全羅南道山清付近で採掘される明礬石が、ボーキサイトの代替資源として注目されたという歴史的事実です。戦前の日本が国産アルミニウム生産を推進する際、ボーキサイトの入手が困難であったため、明礬石が戦略的な鉱物資源として重視されていました。
参考)アルミ二ウムって戦前からあったの?|公文書に見る戦時と戦後 …
明礬石を原料とするアルミニウム生産の工業化は、日本の化学工業史上において極めて重要な事例です。1931年12月、後の昭和電工の社長となる森矗昶は、明礬石を原料とするアルミナ及び硫酸カリウム製造法を完成させた浅田平蔵と契約を結びました。翌1932年には昭和肥料川崎工場内に試験工場を設け、明礬石からのアルミニウム抽出技術の開発が本格化しました。
明礬石を煆焼分解し、アンモニア水で処理してその含有する硫酸分を硫安に変え、カリウム分を硫酸カリウムとして回収するプロセスが確立されました。この技術の確立により、長野県大町の水力発電による豊富な電力を利用した電気精錬によって、アルミニウムの国産化が実現しました。この成果は化学遺産第021号として認定されており、日本の化学工業発展史において記念すべきものとなっています。
明礬石の利用は単なるアルミニウム抽出に留まりません。分解過程で副産物として得られるカリウム塩は肥料や化学工業材料として活用されました。この両立する資源活用が、明礬石をボーキサイトに代わる有用な資源へと位置付けたのです。
古代からミョウバン(明礬)は薬品や化学工業材料として幅広く使用されてきました。現在はミョウバンの大部分が化学合成によって製造されていますが、かつては明礬石を加工することで採掘地域で直接生産されていました。
参考)https://www.nature.museum.city.fukui.fukui.jp/tokuten/2020kou/webten/zukan/114m.html
ミョウバンの特性として、水に溶解し甘い味を持ち、青色リトマス試験紙を赤く変える酸性物質であり、正八面体の形で結晶します。加熱時には液化し、結晶水が駆逐されるとアモルファスの粉末となり、この加熱過程で特有の泡立ちと膨張を示します。
参考)Alum - Wikipedia
明礬石の産業利用は1754年にも遡ります。神聖ローマ帝国の化学者アンドレアス・ジギスムント・マルクグラフが硫酸で粘土を煮詰め、その後カリを加えることで明礬の土を生成する方法を発見しました。その後、新しい土の溶液に炭酸水、カリ、またはアルカリを加えることで明礬が生成されることも確認されており、化学的な精錬技術の発展が明礬利用の拡大を促進したのです。
明礬石の物理的性質は、その採掘・加工適性を大きく左右します。硬度は3.5~4と比較的軟らかく、モース硬度では硫酸塩鉱物としての標準的な範囲内にあります。比重は2.6~2.9 g/cm³の範囲であり、相対的に軽量な鉱物です。
参考)明礬石 (Natroalunite) - Rock Iden…
色は白、淡灰色、淡灰紅色を示し、透過光下では無色です。光沢はガラス光沢から真珠光沢の範囲を示し、傷をつけた際の条痕は常に白いものとなります。結晶面に沿った一方向に完全なへき開を持つという特性は、採掘時の岩石の割裂や精鉱処理において重要な役割を果たします。
参考)明礬石(ミョウバンセキ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
底面(0001)に良好なへき開があるという特性により、明礬石は採掘現場での粗砕や初段階の粉砕が効率的に行えます。熱を加えると微音を発して跳ねるという特性も報告されており、この熱膨張特性が煆焼処理において活用されていました。高温加熱時のこうした反応は、アルミニウム抽出プロセスにおいて鉱石の分解と活性化を促進するものとして利用されています。
参考リンク:日本初のアルミニウム生産の工業化について、昭和電工による明礬石からのアルミニウム製造法の開発と実現に至る経過、および国内資源活用の戦略的背景が記載されています。
日本化学会 - 日本初のアルミニウム生産の工業化
参考リンク:明礬石の鉱物学的特性、採掘産地分布、そして古代からの利用歴史が包括的に解説されています。
カラッツ - ミョウバンが取れる>カラッツ - ミョウバンが取れる鉱物アルナイト(明礬石)