粉体工学大学で学べる研究内容と就職先や進路

粉体工学を専門的に学べる大学では、どのような研究内容が展開され、どんな就職先や進路が待っているのでしょうか?

粉体工学を学べる大学と研究内容

粉体工学で学べる主要テーマ
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基礎物性と測定技術

粒子径や粒子形状、粒度分布、比表面積など粉体の基本特性を理解し、実際に測定・評価する技術を習得します。

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プロセス工学の実践

粉砕、分級、混合、造粒、乾燥などの単位操作を学び、産業プロセスへの応用技術を身につけます。

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シミュレーション技術

DEM(個別要素法)やCFD(数値流体力学)を用いた粒子挙動の解析とプロセス最適化を実習します。

粉体工学を学べる主要大学の研究室

 

粉体工学を本格的に学べる大学は全国に複数存在し、それぞれ独自の研究テーマを展開しています。東北大学多元物質科学研究所の加納研究室では、粉体工学の基礎的・応用的な知識に加え、DEM、CFD、MPSといった固体や流体に関する数値解析技術を習得できます。広島大学の微粒子工学研究室では、微粒子ハンドリングプロセス技術に立脚した環境調和型粉体プロセスの開発や、コロイド粒子の界面や分散液の特性評価を研究しています。また、岡山大学や宇都宮大学、法政大学などでも、粒子・流体プロセス工学や粉体・界面工学の専門研究が行われています。

 

参考)https://www.eng.u-hyogo.ac.jp/group/group42/

九州大学では「セラミックス工学コース」として、セラミックスの生産、設計、開発に必要な実践的知識を原料粉末の製造から製品の加工まで体系的に学べるプログラムが用意されています。このコースでは、粉体加工に関する基礎工学講座と実践工学講座を通じて、基礎的な粉体の性質から最適条件を求める手法までを習得できます。名古屋工業大学の粉体工学研究所では、粒子構造制御・機能化、粒子分散制御・集合体設計を基礎として、機能性材料の創製と様々な分野への応用展開を進めています。

 

参考)セラミックス工学コース (旧:粉体加工コース)|事業案内|九…

粉体工学のカリキュラムと学習内容

粉体工学のカリキュラムは、粒子の基本物性から実践的なプロセス技術まで幅広く構成されています。山形大学のカリキュラムでは、粒子径や粒子形状などの単一粒子物性の理解と計算、粒子径分布の作図と比表面積などの集合体特性の理解、重力場での粒子の沈降特性、粉砕法および成長法による粉体の製造プロセス、そして分離・分級などの単位操作の設計計算を学びます。

 

参考)粉粒体工学

関西大学や名古屋大学の粉体工学講義では、粒子や粉体の物性(粒子径、比表面積)、粒子や粉体の運動、粉体の操作法(分離、ろ過)を理解することが到達目標となっています。名古屋大学では特に、粒子粉体の化学的な合成方法と粉砕を伴う物理的な方法、液相中における粒子粉体の分散凝集現象が生じるメカニズム(DLVO理論を中心に)を理解し、具体的な問題に適用できる能力の習得を目指しています。

 

参考)授業科目詳細

東京大学の化学工学実験では、化学工学の基礎的な理論として移動速度論や粉体工学を学び、化学プロセスを構成する単位操作(蒸留、固体触媒反応)や化学プロセスの実験を行います。広島大学のカリキュラムでは、化学基礎系、生物化学系、化学工学系のみならず数学、物理など基盤領域を幅広く習得し、その上で熱流体材料工学、微粒子工学、界面系プロセス工学などの専門教育を受ける構成となっています。

 

参考)カリキュラム

粉体工学における特徴的な研究テーマ

粉体工学の研究テーマは、基礎から応用まで多岐にわたります。東北大学では、シミュレーションを活用する粉体プロセスの高効率化や製銑プロセスにおける低炭素化、バイオマス(下水汚泥)からの革新的な高純度水素直接製造プロセス、廃家電からのレアメタル回収などの環境保全に貢献する研究を展開しています。

 

参考)粉体シミュレーションの産業応用に関する研究

九州工業大学の化学プロセス工学研究室では、液体のように振舞う粉の運動解析、粉で粉を覆うコーティング技術、粉を高分子で覆うマイクロカプセル化技術、ミクロ構造を作る乾燥技術などを中心テーマとしています。大阪公立大学の装置工学グループでは、粉体材料に高機能性を持たせるため、粉体材料の大きさ、形状、密度、内部構造、さらには表面の特性を制御する方法やプロセスを考案し、実用化に成功しています。また、シミュレーション結果から実験では観測できない知見を引き出し、粉体プロセス内で起こる現象の解明や装置の開発・設計に活用するとともに、ニューラルネットワークを駆使した製品特性予測の機械学習モデルも開発しています。

 

参考)研究内容|装置工学グループ|大阪公立大学

粉体工学は鉱物や鉱石の処理とも深い関わりがあります。低利用資源鉱物を原料とした高機能性ナノ細孔質金属ケイ酸塩ポリマー素材の創製といった研究も進められており、鉱物資源の有効活用と先端材料開発が結びついています。また、金属酸化物などの無機材料も微細化による性能改善が図られ、従来の破砕(大きなものを小さくする)に加えて、気相合成(ガスを反応させて小さなものを大きくする)などのナノ材料製造技術も研究されています。

 

参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K06987/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K06987/amp;mdash; 研究課題をさがす

粉体工学における分級・混合技術の応用

分級と混合は粉体工学の中核をなす技術であり、産業応用において極めて重要な役割を果たしています。分級とは、粉体粒子をサイズごとに分離するプロセスであり、特定の粒度の粉体を選別し、不必要な粒子を排除することで製品の均質性、性能、品質を向上させる技術です。分級方法には気流分級、振動篩分、重力分級などがあり、気流分級は気流の速度差を利用して粒子を分ける方法で高精度な分級が可能となります。

 

参考)粉体の粉砕・分級・篩分け技術の基礎と粒子形状調整への応用

一方、振動篩分は網目を振動させることで物理的に粒子を分ける方法で、効果的な簡易分級が実現できます。粉砕の方法を調整することで、粒子の表面状態や形状を変更でき、分級プロセスを通じて形状に基づいた選別も可能になります。乾式分級では粗粉の微粉への飛び込みが少ないという利点があり、プラスチックス、粉体塗料、トナーなどの軽い粉体や、金属粉のような重い粉体、針状物質でも高い分級性能を発揮します。

 

参考)https://www.aaamachine.co.jp/download/pdf/gijyutu-jyouhou/gijyutu-jyouhou_201912_2028-36B.pdf

ジェットミルと分級機のカップリングシステムにより、再凝集する前に分級することができ、効率の良いサブミクロン微粉製造が可能となります。閉回路粉砕分級システムでは、粉砕機と分級機を連続させ、粉砕直後の製品を分級機に投入し、分級後の粗粉を粉砕機に戻すことで、それぞれ単独で使うよりも効率化が図れます。この技術はトナーやセラミックスの粉砕に広く応用されており、分級前に分散剤を添加混合することで粉体の分散性を改善し、良好な分級性能を得る研究も報告されています。

粉体工学とセラミックス・エレクトロニクス産業

セラミックス粉体加工は、エレクトロニクスや電圧デバイス、遮熱コーティング、エネルギー貯蔵など様々な分野で利用されており、高融点、電気絶縁性、熱絶縁性、耐摩耗性、耐腐食性が高いという特性を持ちます。多結晶体ならではの多彩なエレクトロセラミックスのパフォーマンスは、粉体制御技術や微細構造制御技術などを駆使した成形・焼成プロセスにおいて生まれます。

 

参考)https://www.tdk.com/ja/tech-mag/core-technologies/07

このような成形・焼成技術は、コンデンサの材料となる誘電体セラミックス、圧電デバイスの材料となる圧電体セラミックス、サーミスタやバリスタの材料となる半導体セラミックスなど、あらゆるエレクトロセラミックス製品の特性や品質に関わる重要なプロセス技術となっています。成形技術や焼成技術は、粉末の原料を多彩な機能をもつエレクトロセラミックスへと変身させるコアテクノロジーであり、製造工程の各段階で精密な制御が求められます。

名古屋工業大学では粉体の界面化学を基盤とした材料および材料プロセスに関する研究が行われており、産業技術総合研究所の複合材料研究グループでは粉体プロセス技術を活用した複合材料開発に取り組んでいます。粉体の分散・凝集・解砕プロセス、界面制御技術、複合化プロセス技術を基として、高機能・高強度複合材料の開発が進められています。

 

参考)粉体研究者 一覧

粉体工学を学んだ後の就職先と進路

粉体工学を学んだ卒業生・修了生は、化学メーカー、電気・エレクトロニクス、建設業、医薬品・食品・日用品メーカーなど実に多彩な分野で必要とされており、幅広い進路が開かれています。関西大学化学・物質工学科の進路状況では、学部生で100%、大学院生で99.1%の進路決定率を示しており、製造業の中でも特に化学系や金属・セラミック系、機械系に多くの学生が就職し、「もの づくり」の基礎を支える企業への就職は高水準が期待できます。

 

参考)https://www.nyusi.kansai-u.ac.jp/successful-applicant/pdf/job/fc_che.pdf

大阪公立大学の化学工学科では、大学院で粉体工学を学んだことを活かして、様々な産業分野で活躍する卒業生が多数輩出されています。主な就職先としては、ADEKA、天辻鋼球製作所、アルインコ、NTN、エムケー精工、朝日インテック、アサヒホールディングス、石原ケミカル、イソライト工業などがあり、粉体工学の知識を活かせる製造業や素材産業への就職が中心となっています。

 

参考)高校生・受験生のみなさんへ|工学部 化学工学科/⼯学研究科 …

また、2022年度の関西大学のデータでは、学部生の44名(41.9%)が進学しており、より深く専門知識を学ぶために大学院へ進む学生も多いことが分かります。粉体工学を学んだ学生は、製造業の他に、教育・広告・その他のサービス業、情報通信業、卸売・小売業に就く者もおり、多様な進路選択が可能となっています。今後もあらゆる産業において粉体やスラリーが使われることは間違いなく、さらに取り扱いが難しいナノ粒子もどんどん実用化されていくため、卒業後にあらゆる分野で活躍できる研究者・技術者として社会に貢献できます。

 

参考)https://nyushi.hosei.ac.jp/laboratory/view/144

粉体エンジニアとしてのキャリア形成

粉体工学の専門技術を深めるため、日本粉体工業技術協会が提供する「粉体エンジニア早期養成講座」が経済産業省の産学人材育成パートナーシップの一環として開発されています。この講座では、「計測・測定」「粉砕」「分級」「混合・混練」「粒子加工」「乾燥」「粉体ハンドリングⅠ」「粉体ハンドリングⅡ」「集じん」「ろ過」の10科目が設けられ、各2日間の演習・実習付きの実践的コースとなっています。

 

参考)粉体エンジニア早期養成講座

受講対象者は、化学工学関連産業(化学・薬品・素材製造・プラント製造など)に携わる技術者(実務経験〜7年程度)、中小・中堅の粉体関連エンジニアリング企業の技術者、大学院生、そして粉体入門セミナー受講修了レベルの方々となっています。初めて受講される方には、他の5講座に共通する「計測・測定」に焦点を当てた講座の受講が推奨されており、体系的にスキルを習得できる仕組みとなっています。

粉体工学の知識は、粒子が集合していることによって起こる物性と挙動を扱う学問体系であり、粉体の挙動は単一粒子の挙動および粒子間の相互作用で規定され、生産目的に応じた装置によって制御されます。そのため、粉体物性とその測定、粉体の製造プロセスについての深い理解が、多様な産業分野で技術者として活躍するための基盤となります。東京大学の酒井研究室では、食品、エレクトロニクス、製薬、化学、資源循環など幅広い工学分野における粉体プロセスを対象に、デジタルツインの基盤技術を開発しており、次世代の粉体工学の方向性を示しています。

 

参考)Prof. Mikio SAKAI, The Univers…

 

 


入門 粒子・粉体工学