超臨界二酸化炭素とは抽出技術と鉱物応用の可能性

超臨界二酸化炭素は特殊な温度と圧力条件で生まれる高密度流体で、鉱物資源から医薬品まで幅広い分野で応用されています。その優れた抽出性能と環境性能は従来の溶媒を置き換える技術として注目されていますが、実際にどのような特性を持ち、どう活用されているのでしょうか?

超臨界二酸化炭素とは

📊 超臨界二酸化炭素の3つの特徴
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臨界点を超えた特殊状態

31℃・7.4MPa以上で気体と液体の中間的な性質を示す

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優れた溶解性と拡散性

高密度で物質を溶かし、低粘性で素早く浸透する

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環境に優しい溶媒

無毒で回収・再利用が可能、有機溶媒を代替できる

超臨界二酸化炭素の基本的な性質と臨界点

 

超臨界二酸化炭素は、二酸化炭素が臨界温度31.0℃および臨界圧力7.37MPa(約73.8気圧)を超えた状態で存在する特殊な流体です。この臨界点を超えると、気体と液体の境界が消失し、どちらにも分類できない「第4の状態」と呼ばれる超臨界流体になります。通常の物質は温度と圧力の変化により固体・液体・気体の三態を示しますが、臨界点を超えた領域では気液相転移が起こらず、密度を連続的に変化させることが可能になるという特徴があります。

 

参考)超臨界技術 - 超臨界技術センター

この状態の二酸化炭素は、密度が300~900kg/m³と液体に近い値を持ちながら、粘性は気体に近い低い値を示します。拡散係数は液体の数十倍から数百倍に達し、界面張力はほぼゼロになるため、多孔質固体や微細構造への浸透性に優れています。これらの性質により、通常の溶媒では到達できない微細な空間にも侵入でき、効率的な抽出や反応が可能になります。

 

参考)超臨界COhref="https://shinko-airtech.com/supercritical/" target="_blank">https://shinko-airtech.com/supercritical/amp;#8322; 超臨界二酸化炭素利用技術

超臨界流体が持つ最大の利点は、温度と圧力を調整することで密度や溶解力を自由に制御できる点です。圧力を上げれば液体に匹敵する溶解力を持ち、減圧すれば気体のように溶解力が低下します。この可逆的な性質により、物質の抽出と分離を効率的に行うことができ、プロセスの制御が容易になります。

 

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超臨界二酸化炭素が持つ独特の物性

超臨界二酸化炭素の物性は、通常の気体や液体とは大きく異なります。密度に関しては、理想気体に近い希薄な状態から液体に相当する高密度な状態まで連続的に変化させることができ、この範囲は300~900kg/m³に及びます。この密度の制御性により、溶解度パラメータや誘電率といった物性値も大幅に変化させることが可能です。

 

参考)超臨界COhref="https://shinko-airtech.com/supercritical/critical.html" target="_blank">https://shinko-airtech.com/supercritical/critical.htmlamp;#8322;・超臨界二酸化炭素とは

拡散性については、超臨界二酸化炭素は液体の100~1000倍の拡散係数を持ち、物質移動が極めて速いという特徴があります。粘性は気体の10~100倍程度ですが、液体と比較すると10分の1以下と非常に低く、この低粘性が優れた浸透性の源となっています。臨界点近傍では熱伝導率が極めて大きくなり、高い熱移動速度が得られるため、反応速度に極大が生じるという興味深い現象も観察されます。

 

参考)https://www.che.tohoku.ac.jp/~scf/aboutscfz.html

超臨界二酸化炭素の溶解力は、温度と圧力によって大きく変化します。例えば、エタノールの溶解度は圧力の増加とともに急激に上昇し、適切な条件を選択することで選択的な抽出が可能になります。また、共溶媒としてエタノールやメタノールを少量添加することで、極性物質の溶解度を大幅に向上させることができ、応用範囲を広げることができます。

意外な特性として、超臨界二酸化炭素中では表面張力や蒸発潜熱がゼロになり、音速が極小となる現象が観察されます。これらの特性は、臨界点近傍で分子の集合状態に不均一性が生じることに起因しており、ミクロスケールでは液体的な相互作用と気体的な相互作用が混在する独特の構造を形成していることが最近の研究で明らかになっています。

 

参考)http://arxiv.org/pdf/1406.1686.pdf

超臨界二酸化炭素による抽出技術の原理

超臨界流体抽出法(SFE)は、超臨界二酸化炭素を抽出媒体として用い、目的成分が含まれる対象物から溶解度の差を利用して抽出操作を行う技術です。抽出プロセスは、まず原料を充填した高圧容器に超臨界二酸化炭素を流し込み、目的成分を溶解させます。その後、圧力を下げるか温度を変化させることで二酸化炭素の溶解力を低下させ、溶解していた成分を析出・回収します。

 

参考)超臨界流体の基礎(5) 超臨界流体抽出の特長

この技術の最大の特徴は、温度と圧力を調整することで抽出の選択性を自由に制御できる点です。例えば、生薬からの有効成分抽出では、比較的低温低圧(40~60℃、10~25MPa)の条件で中程度に溶解する成分を分離し、次に高温高圧の条件で不飽和脂肪酸エステルなどの成分を回収するという二段階抽出が可能です。このような段階的な抽出により、効率良く脂溶性生理活性物質を分けて取り出すことができます。

 

参考)抽出

従来の有機溶媒抽出法と比較すると、超臨界二酸化炭素抽出は処理時間の短縮や操作の簡略化、抽出効率の改善が期待できます。特に重要なのは、抽出後の溶媒除去・濃縮操作が極めて容易である点です。有機溶媒の場合は蒸留などの複雑な工程が必要ですが、超臨界二酸化炭素は減圧するだけで気体に戻るため、溶媒の分離工程が不要となり、省力・省エネ化が実現されます。

 

参考)超臨界抽出・注入装置|超臨界抽出・注入装置|製品・サービス|…

生物中の有害物質の抽出や食品成分の分析など、様々な分野で超臨界流体抽出法が活用されています。従来法では2日間を要していた前処理過程が、超臨界流体抽出法では大幅に短縮され、自動化も可能になりました。また、低温での処理が可能なため、熱に弱い成分を変性させることなく抽出できるという利点もあります。

 

参考)https://www.fra.go.jp/home/kenkyushokai/kseika/h13/nnf-s01004.html

超臨界二酸化炭素と鉱物資源への応用可能性

鉱物資源分野における超臨界二酸化炭素の応用は、近年注目を集めている技術領域です。最も重要な応用例の一つが、地下深部からのエネルギー回収技術です。超臨界二酸化炭素は低粘性のため小さな亀裂面に入り込みやすく、地下の熱を効率的に取り出すことができます。高密度で圧縮率が大きいため、生産井内で自噴する際のエネルギー効率も高く、地熱発電への応用が期待されています。

 

参考)世界に誇る地熱ポテンシャルを最大限に活用するために。~「カー…

シェールガス回収分野では、超臨界二酸化炭素による水圧破砕技術が強みを持つと考えられています。超臨界二酸化炭素は4つの流体(水、液体二酸化炭素、超臨界二酸化炭素、窒素)の中で最も粘性が低く、二酸化炭素はメタンに比べて頁岩への親和性が高いため、シェールガス層からのガス回収に特に有効です。この技術により、従来の水を用いた方法では困難だった微細な孔隙からのガス抽出が可能になります。

 

参考)https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2021/ee/d0ee03648j

意外な応用として、鉱物による二酸化炭素固定化促進技術があります。炭素鉱物化と呼ばれるこの技術は、大気中の二酸化炭素を炭酸水溶液とし、鉱物中のカチオンとの反応で炭酸塩として固定化するネガティブエミッション技術の一つです。かんらん岩や玄武岩を含む地層に超臨界二酸化炭素を注入することで、二酸化炭素を安定的に地中に貯蔵できる可能性が示されています。

 

参考)https://arc.asahi-kasei.co.jp/member/watching/pdf/w_325-10.pdf

金属抽出の分野でも、超臨界二酸化炭素の利用が研究されています。CCA処理木材からの金属抽出や、原子力分野における金属分離技術への適用性が検討されており、環境に配慮した新しい金属回収プロセスとして期待されています。また、無機材料の製造においても、超臨界二酸化炭素を用いることで独特の結晶構造やナノ構造を持つ材料を作製できることが報告されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8425740/

超臨界二酸化炭素の産業応用と装置技術

食品産業における超臨界二酸化炭素の応用は最も成熟した分野の一つです。香料・フレーバー・スパイスの抽出、食用色素の精製、カフェイン抽出、動植物性脂肪の分離など、幅広い用途で実用化されています。ナッツ類からの脂肪抽出では、臨界温度が31.0℃と低いため、熱に弱い成分を損なわずに処理できる利点があります。脱臭・脱色・殺菌・滅菌といった食品加工にも応用され、醸造製品の濃縮や風味保全にも有効です。

 

参考)http://www.aki.che.tohoku.ac.jp/170116web/H.Inomata170119web.pdf

医薬品・医療材料分野では、ホルモンやビタミンなどの生理活性物質の濃縮・分画・精製、EPA・DHAなどの脂質成分の抽出、植物からの薬効成分の抽出に利用されています。医薬品の晶析や微粒化、結晶構造制御にも超臨界二酸化炭素が活用され、粒子サイズ分布が狭く溶媒残留の少ないナノ粒子を製造できます。コンタクトレンズや人工透析用素材などの医療材料から溶媒やモノマーを除去する工程でも、その優れた浸透性が活かされています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9503529/

超臨界抽出・注入装置の仕様は、用途に応じて設計されます。典型的な装置は、50Lの高圧槽を備え、最大30MPaの圧力、最大100℃の温度で運転され、二酸化炭素吐出量は最大400cc/分という能力を持ちます。小型の研究用装置から工業化規模の装置まで、様々な容量の設備が開発されており、窓付きの観察用容器を備えた装置では超臨界状態を目視で確認することも可能です。

 

参考)装置設備

装置の特徴として、二酸化炭素を回収して繰り返し使用できるため、ランニングコストを低減できる点が挙げられます。独自の蓋開閉方式により、高圧容器の開閉が簡単で迅速に行えるよう工夫されています。ただし、超臨界装置は高圧ガス保安法で定める「第2種製造設備」に該当するため、設置の際は都道府県への届け出が必要となります。高スループット化と低ランニングコストを実現するプロセス設計が、工業化における重要な課題となっています。

超臨界技術センター - 超臨界流体の基礎から応用まで詳しい技術解説
神鋼エアーテック株式会社 - 超臨界CO₂利用技術の工業化事例と装置紹介
化学工学会 超臨界流体部会 - 超臨界流体の研究動部会 - 超臨界流体の研究動向と最新情報

 

 


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