茶巾を濡れたまま収納すると、陶器製の茶巾筒の内部でカビが繁殖し、数日で異臭が発生します。
茶巾筒とは、茶道の「茶箱点前」で使う濡れた茶巾を収納するための専用の筒のことです。茶碗を清めるために使う茶巾は、点前の際に水で湿らせた状態になっています。この濡れた茶巾を茶箱の中にそのまま入れると、他の道具を濡らしてしまったり、茶碗・棗・茶筅筒などを傷める原因になります。そこで「茶巾だけを入れる専用の筒」として使われるのが茶巾筒です。
茶巾筒の形状は、内径が茶巾一枚がすっぽり収まるように作られており、高さは約5〜7cm、直径は約3〜4cm程度のものが一般的です。大きさのイメージとしては、ちょうど口紅のケースを少し太くして短くした感じに近いでしょう。茶巾を折りたたんでキュッと入れるとぴったり収まる、コンパクトな道具です。
素材はさまざまです。陶器製・漆器製・木製・金属製などがあり、それぞれに見た目の雰囲気や扱いが異なります。茶箱のセットとして販売される際は、茶碗・振出・茶巾筒の「陶器三点セット」として揃えられるケースが多く、統一感のある佇まいが喜ばれます。
つまり茶巾筒は、小さいながらも茶道具としての役割がはっきり決まった存在です。
家庭画報|茶箱あそびの魅力と道具の役割について(茶巾筒を含む茶箱道具6点の解説)
茶巾筒の使い方を実際の点前の流れの中で確認しておくと、道具の役割がぐっと理解しやすくなります。ここでは、茶箱点前のなかで最もシンプルな「卯の花点前(夏の点前)」を例に解説します。
まず、水屋仕事(点前の準備)の段階で、濡らして絞った茶巾を折りたたんだ状態のまま茶巾筒に収めます。このとき茶巾は「絞った形のまま」入れるのがポイントで、完全に広げてから入れるわけではありません。茶巾筒に収めた状態で茶箱にセットし、蓋を閉めて持ち運びます。
点前の中盤、茶碗に湯を注いで温めた後、「左手で茶巾筒を取り、右手で茶巾を取り出し、左手で茶巾筒を茶箱に戻す」という動作が入ります。取り出した茶巾は広げてたたみ直し、茶碗を清めるために使います。
点前の終盤では、使用後の茶巾を茶巾筒の胴に当てて巻くようにたたんでから筒に収め、左手で茶箱に戻します。これが収め方の基本形です。
| 場面 | 動作 |
|---|---|
| 水屋仕事 | 絞った茶巾を折ったまま筒に収める |
| 点前中盤 | 左手で筒を取り・右手で茶巾を取り出す |
| 茶碗清め | 茶巾を広げてたたみ直し茶碗を拭く |
| 点前終盤 | 茶巾を筒の胴に巻くようにたたんで収める |
動作がひとつひとつ決まっているのは、片手ずつ使う所作の美しさを大切にする茶道の精神そのものです。これは使えそうです。
お茶談義|茶箱・卯の花点前(拝見なし)の全手順(茶巾筒の取り出し方・収め方の流れが確認できます)
茶箱点前には四季に応じた4つの種類があります。これを知っておくと、茶巾筒の扱い方が点前によって微妙に異なる理由が理解できます。
- 卯の花点前(夏):茶箱の平点前。最もシンプルで、初心者が最初に習うお点前です。
- 雪点前(冬):伝物点前のひとつ。盆は使わず、掛合を用いる点が特徴。
- 月点前(秋):器据とウグイスを使う、独特の雅趣があるお点前。
- 花点前(春):掛合がなく盆を使用する、伝物点前のひとつ。
いずれの点前でも茶巾筒は茶箱に収める道具のひとつとして必ず登場します。基本の取り出し方・収め方は共通していますが、点前によって茶箱内での道具の配置順が変わるため、茶巾筒を出すタイミングや置く場所も若干異なります。
たとえば卯の花点前では茶碗の向こう側に茶筅筒・茶巾筒・振出しをまとめて並べますが、雪点前では掛合(ふたの代わりの布)が加わるぶん、箱の中の配置が変わってきます。茶箱点前に進んでいくにつれ、茶巾筒の定位置を覚えることが自然と求められます。
茶箱点前が四季四様であることも魅力のひとつですね。
茶道・和の歳時記|茶箱点前の種類(卯の花・雪・月・花の解説、各点前の特徴が一覧で確認できます)
陶器製の茶巾筒を選ぶとき、見た目の美しさだけで選ぶと後で後悔することがあります。陶器は磁器と違い吸水性があり、表面の釉薬に「貫入(かんにゅう)」と呼ばれる細かいひびが入っていることも珍しくありません。
貫入は陶器の味わいとして評価されますが、茶巾筒として使う場合には注意が必要です。茶巾筒は必ず濡れた茶巾と接触する道具なので、貫入部分から水分が内部に浸透しやすい状態になっています。そこに生乾きの茶巾を入れたまま蓋をして茶箱にしまうと、密閉された環境下で湿気がこもり、カビが発生しやすくなります。
実際に茶道具を扱う販売店でも「生乾きで筒や箱に入れるとカビが生えます」と明記しているところがあるほどで、これは陶器製の茶巾筒では特に気をつけるべき点です。
対策は非常にシンプルです。点前が終わったら茶巾を筒から出し、形を整えながら風通しの良い場所で完全に乾燥させてから収納するだけです。陶器の茶巾筒本体も、軽く拭いてから口を上にして乾燥させておくと安心です。乾燥が条件です。
また、陶器に万が一カビ臭さが出てしまった場合は、レモンを絞った水で2〜3回煮沸するか、重曹水に半日〜1日浸けてから完全乾燥させる方法が有効です。それでも取れない場合は同じ工程を繰り返してみてください。茶道具専門の陶器手入れ情報として、宮内庁御用達でもある陶香堂のサイトに詳しい解説が掲載されています。
宮内庁御用達 陶香堂|陶磁器のお手入れ(購入後の煮沸・乾燥保管・カビ臭除去まで詳しく解説)
茶箱を組む楽しさのひとつに、コンパクトな箱の中に道具がぴったり収まる「収まり感」があります。茶巾筒を美しくセットするための基本的なポイントを3つにまとめました。
① 茶巾のたたみ方を整えてから入れる
茶巾はただ丸めて押し込むのではなく、筒の胴にあてながら巻くようにして、筒に合わせた形にたたんでから収めます。このひと手間が、茶巾を傷めずに清潔に保つための基本です。
② 茶巾筒のサイズと茶巾の対応を確認する
茶巾筒の内径が茶巾に合っていないと、茶巾が入らない・緩くてずれるという問題が起きます。茶巾のサイズは一般的に縦約30cm(一尺)×横約15cm(五寸)が標準です。茶箱用の茶巾筒はこのサイズに合わせて作られていますが、陶芸家が制作する一品物の場合、わずか2ミリの差でも茶巾が収まらないことがあります。購入前に「茶箱用サイズ」であることを確認しておくと確実です。
③ 茶箱内での位置は「茶碗の向こう側」が基本
卯の花点前の水屋仕事では、茶碗の向こう側に茶筅筒・茶巾筒・振出しを左から順に並べます。茶巾筒は中央に置くのが一般的な配置です。茶箱を閉めたとき道具が動かないよう、それぞれがぴったり収まっていることを確認してから蓋を閉じましょう。
茶箱への収まりが整ったとき、道具がピタリとはまる感覚は独特の満足感があります。この「箱に収める美学」こそが茶箱点前の魅力のひとつです。
アバ茶道|茶道具「茶巾筒」を研究してみる(陶芸家が茶箱用に茶巾筒を制作する実験レポート、サイズの重要性が詳しく掲載)