バテライトカルサイト違い|結晶構造と安定性の特徴を徹底比較

バテライトとカルサイトは同じ炭酸カルシウムでも結晶構造が異なり、安定性や形状、用途に大きな違いがあります。鉱石好きなら知っておきたい、この2つの違いとは?

バテライトとカルサイトの違い

バテライトとカルサイトの主な違い
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結晶構造の違い

バテライトは六方晶系、カルサイトは三方晶系の結晶構造を持ち、炭酸イオンの配列方式が異なります

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安定性の違い

カルサイトは常温常圧で最も安定した相であるのに対し、バテライトは熱力学的に不安定で容易に転移します

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形状の違い

バテライトは球状、カルサイトは立方状や菱面体形状を呈することが一般的です

炭酸カルシウム(CaCO₃)には複数の結晶形が存在し、その中でもバテライトとカルサイトは代表的な多形です。同じ化学組成を持ちながら、これら2つの鉱物は結晶構造、安定性、物理的特性において顕著な違いを示します。自然界ではカルサイトが圧倒的に多く産出されますが、バテライトは特殊な条件下で形成される希少な結晶形です。

 

参考)https://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=125858

バテライトの結晶構造と特徴

 

バテライトは六方晶系に属する炭酸カルシウムの多形で、結晶格子内で炭酸イオン(CO₃²⁻)とカルシウムイオン(Ca²⁺)が特有の配列をとります。この結晶構造は、カルサイトの炭酸イオン配列とは異なる向きで組み合わさっています。バテライトの密度は約2.54 g/cm³で、他の炭酸カルシウムの多形と比較してやや低い値を示します。

 

参考)ヴァテライトとは - わかりやすく解説 Weblio辞書

形状的には、バテライトは球状の粒子形態を呈しやすいことが大きな特徴です。この球状形態により、分散性、充填性、滑性などの物性に優れており、工業的な用途において注目されています。溶液中で合成すると放射状の球晶として形成され、合成条件によって多彩なモルフォロジーを示すことが報告されています。

 

参考)バテライト球状微粒子の特性評価

バテライトの光学的性質としては、屈折率がnω = 1.550、nε = 1.650で、複屈折はδ = 0.100という値を持ちます。また、透明または半透明の外観を示すことが一般的です。

カルサイトの結晶構造と特徴

カルサイトは三方晶系に属し、最も熱力学的に安定な炭酸カルシウムの結晶形です。結晶はカルシウムイオンと炭酸イオンが交互に配列し、炭酸イオンが平面構造を持つことで特徴づけられます。この結晶構造により、カルサイトは完全な劈開性を示し、特定の方向に沿って容易に割れる性質があります。

 

参考)粒子形状の制御

形状的には、カルサイトは立方状あるいは紡錘状、菱面体形状を呈することが一般的です。天然に産出される石灰石はほとんどがカルサイト型であり、日本国内でも豊富に採取されます。カルサイトの密度は約2.71 g/cm³で、バテライトやアラゴナイトよりも高い値を示します。

 

参考)炭酸カルシウムの性質|炭酸カルシウム博物館|株式会社カルファ…

カルサイトの結晶成長は環境条件に大きく影響され、特にpH、温度、イオン濃度などの変化により結晶の形状やサイズが変化することが知られています。常温常圧の条件下では、カルサイトが最も安定な相として存在します。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JPH0755823B2/ja

バテライトの安定性と転移メカニズム

バテライトは3種類の炭酸カルシウム多形の中で最も熱力学的に不安定な形態であり、容易にカルサイトへと相転移します。この不安定性は、バテライトが他の2つの多形(カルサイトとアラゴナイト)に比べて高い溶解度を持つことに起因します。溶液中では速やかにこれらの相に液相を媒介して相転移する特性があります。

 

参考)https://core.ac.uk/download/pdf/235962063.pdf

バテライトからカルサイトへの転移は、水が存在すると容易に進行します。転移速度は媒体中のpHに依存し、また媒体中の水の含有量の減少によって低下することが確認されています。具体的には、スラリーのpHが高いほどバテライトは安定化し、温度が低いほど安定性が増すことが実験的に示されています。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JP2011126741A/ja

空気中でのバテライトからカルサイトへの結晶構造転移温度は、材料の使用環境を考慮する上で重要なパラメータです。低温(60℃未満)では、バテライトはカルサイトへ転移しますが、高温(60℃~95℃)ではバテライトがアラゴナイトへも転移できるようになり、発生したアラゴナイトはさらにカルサイトへ転移する複雑な経路を辿ります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jinstmet/81/2/81_J2016045/_pdf

製造後のバテライトを安定化させるためには、スラリーのCa濃度を0.250~0.625 mol/Lに調整し、温度を0~10℃に保ち、pHを9.5以上に調整することが推奨されています。これらの条件を満たすことで、カルサイトへの転移を抑制し、純度の高いバテライト型炭酸カルシウムを維持することが可能になります。

バテライトの生成条件と工業利用

バテライトの生成には特殊な条件が必要です。弱塩基性の溶液中で、安定相のカルサイトに先んじて晶出する性質があります。温度とpHを制御した条件下で、Ca²⁺とCO₃²⁻を供給することでバテライトの生成が可能です。具体的には、水温を40℃程度、pHを9.0程度に調節することで、空隙の充填効果によるセメントマトリクスの緻密化に寄与するバテライトが生成されることが確認されています。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JP5387809B2/ja

工業的な製造方法としては、水酸化カルシウム水溶液中にアンモニアを添加して炭酸化を行う方法、塩化カルシウムと重炭酸ソーダの水溶液中にアンモニアを添加する方法、炭酸カルシウムを水溶液から結晶化させる際に水溶性スルホン化ポリマーを添加する方法などが提案されています。

バテライトの工業的用途は多岐にわたります。球状形態と優れた分散性から、化粧料、紙、印刷インキ、塗料用の顔料、ゴムやプラスチックの填料、歯磨用研磨材などに利用されています。特に製紙コーティング用顔料としての利用が注目されており、塗工性の改善、充填性の向上などの効果が期待できます。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JP2933234B2/ja

さらに、バテライトは生体に対する吸収性が良好であることから、医薬品や健康食品への応用も研究されています。同一物質であれば水に対する溶解度の大小が経口投与時の吸収の良否を支配すると考えられており、バテライトはカルサイトよりも見かけの溶解度が高いため、カルシウムの吸収を増加できる可能性があります。骨再生医療用スキャホールドとしての利用も検討されており、細胞親和性と生体吸収性を活かした応用が期待されています。

 

参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680591992448

カルサイトの産出と実用性

カルサイトは常温常圧で最も安定な炭酸カルシウムの多形であるため、天然に産出される石灰石の大部分を占めています。日本国内でも豊富に産出し、原料となる石灰石が安価に入手できることから、工業材料として広く利用されています。

カルサイトの主な用途としては、ゴムやプラスチック用の充填剤、塗料やインク用の本質顔料、紙すきこみ用の填料、紙コート用顔料、医薬品、化粧品、食品、農業用などの添加剤として多方面の分野で活用されています。白色度が高く、無毒であり、各種粒度の製品が容易に得られることから、産業界での需要が高い材料です。

カルサイトは物理的な衝撃に対してバテライトよりも脆いという特性がありますが、3種類の結晶形の中では最も化学的に安定しており、長期保存や過酷な環境下での使用に適しています。カルサイトとアラゴナイトは溶解しにくく、特にカルサイトが主に付着する材料では付着量が増加しやすいことが報告されています。

 

参考)https://data.jci-net.or.jp/data_pdf/40/040-01-1219.pdf

海洋生物の骨格形成においても、カルサイトは重要な役割を果たしています。造礁サンゴは通常アラゴナイト骨格を作りますが、低Mg/Ca環境下ではカルサイト骨格を形成することが実験的に確認されており、環境条件によって炭酸カルシウムの結晶形が変化することが明らかになっています。水温が高いほどアラゴナイトが生成しやすく、同じ水温・Mg/Ca比下では造礁サンゴのほうが無機的沈殿よりもアラゴナイトを作りやすいことも報告されています。

 

参考)造礁サンゴ骨格の炭酸カルシウム結晶構造は水温によって変化する…

参考リンク(炭酸カルシウムの結晶構造と物性に関する詳細情報)。
炭酸カルシウムの性質 - 株式会社カルファイン
参考リンク(バテライト型炭酸カルシウムの特性評価に関する学術研究)。
バテライト球状微粒子の特性評価 - J-Stage

 

 


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