陶芸では焙りを使わず炙りだけ使うと作品が割れます。
「焙り」と「炙り」は、どちらも火を使って物を温めたり焼いたりする行為を指しますが、使われる場面に違いがあります。
参考)http://www.st38.net/chigaino-zatugaku/z0019.html
「焙る」は、火に当てて湿気を取り乾かすことを主な目的とした表現です。焙煎という言葉に「焙」の字が使われていることからわかるように、直火だけでなく蒸し焼きも含む幅広い加熱方法を指します。
英語でいうとローストに近い意味です。
ほうじ茶の「焙じる」も、まさにこの意味で使われています。
一方「炙る」は、直接火を当てて軽く焼く方法としての意味が強い表現です。「炙」という字は、もともと中国語で「あぶり肉」を意味していました。「海苔を炙る」「カツオを藁で炙る」「牛肉をバーナーで炙る」など、食材を直火で焼く場面でよく使われます。
つまり湿気取りなら焙るです。
辞書では同じ言葉として説明されており、基本的にどちらを使っても間違いではありませんが、実際の使い分けには傾向があります。「焙る」は火を入れて湿気を取る意味で、「炙る」は食べ物を直火で軽く焼く意味で使われることが多いのです。
ただし注意点があります。「焙」も「炙」も常用漢字表には含まれないため、公用文などでは使用できません。
陶芸作品を作る工程では、焙りが非常に重要な役割を果たします。
素焼き前の乾燥工程で「焙り乾燥」を行うことで、粘土に含まれる水分を徐々に飛ばしていきます。この工程を省略したり急激に加熱したりすると、作品内部の水分が急激に蒸発して亀裂や破損の原因になります。焙り乾燥は400°F以上(200°C以上)の温度でゆっくりと行われ、カラメル化とメイラード反応によって色と深い風味を生み出す効果もあります。
参考)オーブンで焼く vs. 炙る vs. ローストする 2026
焙りは間接加熱も含みます。
電気窯やガス窯で温度を徐々に上げながら乾燥させる方法も、広い意味での「焙る」に含まれます。直火に限定されない点が、炙りとの大きな違いです。
初心者の陶芸教室では、この乾燥工程の重要性を丁寧に教えることが多く、作品を長持ちさせるための基本技術として位置づけられています。乾燥が不十分な状態で本焼きに進むと、窯の中で作品が割れてしまうリスクが高まるため、焙り乾燥には十分な時間をかけることが原則です。
参考)亀井俊哉の陶芸教室がブログで集客する方法|継続できる仕組みと…
陶芸の装飾技法において、炙りは表面に独特の効果を生み出す手法として使われます。
釉薬を塗った後や素焼き後の表面に、バーナーやガストーチで直接火を当てることで、局所的な色の変化や質感の違いを作り出せます。炙り焼きは約500°F以上(260°C以上)の高温に達し、エネルギーを表面に直接集中させてわずか数分で素早い結果をもたらします。
表面だけを変化させられます。
金彩や銀彩などの上絵付けを施した後、炙りで定着させる技法もあります。この場合、直火で短時間加熱することで、絵具を表面に焼き付けながら独特の光沢を出すことができます。
炭火で器の表面を炙って煤(すす)を付着させる「燻し(いぶし)」技法も、炙りの一種です。この方法で作られた作品は、黒や銀色の独特な色合いを持ち、茶道具などで珍重されます。直火を当てることで炙った部分と当てていない部分にグラデーションが生まれ、一点物としての価値が高まります。
焙りと炙りでは、適切な温度管理の方法が大きく異なります。
焙り乾燥では、低温から徐々に温度を上げていく段階的な加熱が基本です。陶芸の素焼き前には、通常100°C程度から始めて数時間かけて200°C以上まで上げていきます。急激な温度変化を避けることで、粘土内部の水分が均一に蒸発し、作品全体が安定した状態で焼き上がります。
段階的な加熱が鉄則です。
対して炙りは、高温の直火を短時間当てる技法です。500°C以上の温度で数分以内に表面だけを変化させるため、温度計よりも目視での判断が重要になります。炙り過ぎると表面が焦げたり釉薬が溶けすぎたりするため、経験と勘が求められる技法といえます。
電気窯では温度を1°C単位で制御できるため、焙り乾燥に適しています。一方、炙りはガスバーナーや炭火など、直接火を扱える熱源が必要です。このように使用する道具も、焙りと炙りでは異なります。
温度管理を誤ると、焙りでは乾燥不足で本焼き時に割れ、炙りでは過加熱で表面が損傷します。どちらも作品の仕上がりを左右する重要な工程なので、適切な温度帯を守ることが大切です。
焙りと炙りの特性を組み合わせることで、他にはない独自の作品表現が可能になります。
まず焙り乾燥の段階で、作品の一部だけを意図的にゆっくり乾かし、他の部分は早めに乾かすことで、表面に自然なひび割れ模様(貫入)を作り出す技法があります。この焙り方の違いによって生まれる模様は、計算しきれない偶然性を持つため、一点物としての価値が高まります。
乾燥速度で模様を作れます。
本焼き後に炙りを加える「後炙り」という技法では、すでに完成した作品の特定部分だけをバーナーで炙り、色調を変化させます。釉薬に含まれる金属成分が熱で還元され、青や緑、金色などに発色する効果を狙えます。この技法は現代陶芸家の間で注目されており、伝統的な焼成では得られない色彩表現として活用されています。
藁や木材を使った「藁灰炙り」も独自性のある技法です。作品表面に藁灰を塗り、バーナーで炙ることで、灰に含まれるミネラルが釉薬と反応して独特の景色(模様)を生み出します。炙る温度や時間、灰の種類によって無限のバリエーションが生まれるため、作家の個性を強く反映できる表現方法といえます。
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焙りと炙りを意識的に使い分け、組み合わせることで、あなただけの作品表現が広がります。

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