スメクタイト構造と膨潤性、イオン交換性の特性と鉱物種

スメクタイト構造は層状ケイ酸塩鉱物の特徴的な結晶格子を持ち、膨潤性やイオン交換性といった独自の性質を発揮します。モンモリロナイトやヘクトライトなど複数の鉱物種が含まれますが、その構造の違いはどのように性質に影響するのでしょうか?

スメクタイト構造の特徴

スメクタイト構造の特徴

スメクタイトの基本構造と特性
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層状ケイ酸塩構造

厚み約1nmの薄い板状結晶が積み重なった層状構造を持つ

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膨潤性

水を吸収して体積が何倍にも膨張する特性を持つ

イオン交換性

層間の陽イオンを他のイオンと容易に交換できる能力を有する

スメクタイト構造の層状ケイ酸塩結晶

 

スメクタイトは厚みが約1nm(10Å)の薄い板状結晶が積み重なった層状構造を呈しており、結晶の横方向の長さは200~300nm程度です。この結晶構造は、ケイ素四面体シートとアルミニウム八面体シートが組み合わさった2:1型の層状ケイ酸塩鉱物の典型的な構造を持ちます。

 

参考)https://concom.jp/contents/countermeasure/column/vol12.html

基本的な構造単位は、2枚のケイ素四面体シート(SiO4四面体が連なったシート)の間に1枚の八面体シート(Al、Mg、Feなどの金属イオンを中心とした八面体が連なったシート)が挟まれた形態をとります。この三層構造を「単位層」と呼び、単位層と単位層の間には「層間」と呼ばれる空間が存在します。

 

参考)https://www.jseg.or.jp/chushikoku/wp-jseg/wp-content/uploads/2023/10/1-23.pdf

結晶構造の特徴として、八面体シートや四面体シートにおいて同形置換(イオン置換)が起こることで、結晶全体に負の電荷が生じます。この負電荷を補うために、層間にはNa⁺、Ca²⁺、Mg²⁺などの交換性陽イオンが存在しており、この陽イオンがスメクタイトの特性を大きく左右します。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai/87/2/87_54/_pdf/-char/ja

乾燥状態の基本面間隔は約0.97nm(9.7Å)ですが、水を吸収すると層間が拡大し、膨潤状態では大きく変化します。この層間距離の変化がスメクタイトの膨潤性の基礎となっており、X線回折分析によって層間距離を測定することでスメクタイトの状態を知ることができます。

 

参考)https://www.zenchiren.or.jp/e-Forum/2006/079.pdf

スメクタイト構造における膨潤メカニズム

スメクタイトの膨潤は、水と接触することで層間の交換性陽イオンと水分子が水和し、単位層間の距離が増加していくことによって起こります。この膨潤メカニズムは、層間陽イオンの種類によって大きく異なります。

 

参考)https://www.cssj2.org/wp-content/uploads/2clay_property20220421.pdf

層間陽イオンにNa⁺イオンを多く含むNa型スメクタイトは、結晶層を引きつける力がCa²⁺より弱いため吸水性が非常に高く、増粘性や懸濁安定性も優れています。一方、Ca²⁺を多く含むCa型スメクタイトは、2価のイオンが層間を強く結びつけるため、Na型に比べて膨潤性が低くなります。

 

参考)https://www.zenchiren.or.jp/e-Forum/2013/PDF/2013-080.pdf

膨潤のプロセスでは、まず層間陽イオンに水分子が配位して水和イオンを形成し、続いて層間に水分子が入り込んで層間距離が段階的に拡大します。興味深いことに、水の吸着は段階的に進行し、乾燥状態と水が飽和した状態の2つの状態にはっきり分かれることが放射光を用いた研究で明らかになっています。

 

参考)http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_107/

塩濃度も膨潤性に影響を与え、塩濃度が低下すると膨潤が促進されます。逆に、塩濃度を上昇させると膨潤性は低下し、再び塩濃度を低くすると膨潤性は向上するという可逆的な性質を持ちます。この膨潤性の変化は、交換性陽イオン組成(NaやCaなど)の影響も受けるため、応用分野ではこれらの因子を制御することが重要です。

スメクタイト構造とイオン交換性の関係

スメクタイトの結晶構造における同形置換により生じた負電荷を補うため、層間には交換性陽イオンが存在します。この層間陽イオンは、無機・有機を問わず他の陽イオンと容易に交換可能であり、これがスメクタイトの重要な特性であるイオン交換性の根拠となっています。

 

参考)精製・合成技術について(クニピア・スメクトン)|クニミネ工業

イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)は、スメクタイトが持つ陽イオン交換能力を数値化したもので、カオリナイトなどの他の粘土鉱物に比べて大きな値を示します。金属イオンの吸着選択性には序列があり、イオンの価数が大きくかつイオン半径が大きいものほど高い吸着性を示すため、スメクタイトは重金属イオンなどの有害元素の濃縮に有用です。

 

参考)https://www.hrr.mlit.go.jp/kurobe/haisa15/pdf/ss2.pdf

層間の陽イオンを有機陽イオンと置換することも可能で、この操作により得られる有機修飾スメクタイトは、親水性表面を持つ天然のスメクタイトを疎水性に変換できます。有機修飾スメクタイトは、非イオン性有機分子の吸着剤や薬剤徐放剤として応用されるほか、プラスチックとの複合材料(ポリマーナノコンポジット)の製造にも利用されています。

 

参考)https://lab-brains.as-1.co.jp/seeds/chemistry/2022/08/25340/

興味深い応用例として、ベンジルアンモニウムで修飾したスメクタイトがカフェインを吸着する現象が詳しく研究されており、水溶液中でカフェイン分子が層間に取り込まれる際、水分子を追い出しながらカフェイン同士の接触面積を増やすように層間距離が変化することが放射光を用いたリアルタイム観察で明らかになっています。

スメクタイト構造の鉱物種による違い

スメクタイトは単一の鉱物ではなく、似た結晶構造と特性を示す粘土鉱物のグループ名です。主な鉱物種として、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどがあり、それぞれ化学組成が異なります。

 

参考)スメクタイトとは? 意味や使い方 - コトバンク

スメクタイトは八面体シートの占有状態により、二八面体型(ダイオクタヘドラル)と三八面体型(トライオクタヘドラル)に分類されます。二八面体型にはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどが含まれ、日本のベントナイト中に含まれるスメクタイトは主にモンモリロナイト-バイデライト系の二八面体型です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7941322/

三八面体型スメクタイトには、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイトなどがあります。合成スメクタイトとして工業的に生産されているものの多くは、透明性や純度の高さから三八面体型のヘクトライトやスティブンサイトが選ばれています。

 

参考)http://journal.jza-online.org/10.20731/zeoraito.11.4.161/data/index.pdf

鉱物種による違いは化学組成だけでなく、膨潤性や透明性などの物性にも現れます。モンモリロナイトは増粘性、吸着効果、保湿効果、乳化安定性に優れており、ベントナイトの主成分として広く利用されています。一方、合成ヘクトライトは透明性に優れ、天然のベントナイトとは異なる用途への展開が期待されています。

 

参考)透明性に優れた合成スメクタイト

また、スメクタイトは鉄イオンなどを固溶するため、水に分散したときコロイドが有色になる場合があり、これも鉱物種による違いの一つです。火山岩の低温熱水変質物として生成するスメクタイトは、Feを含むと平行ニコルで淡緑褐色から濃いカーキ色を呈し、干渉色も変化します。

 

参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/94_09_03.pdf

スメクタイト構造の分析手法と産業応用

スメクタイトの構造を分析する主要な手法として、粉末X線回折(XRD)分析が広く用いられています。XRD分析では、スメクタイトの層間距離に対応する回折ピークを観察することで、スメクタイトの存在確認や含有量の定量が可能です。

 

参考)https://www2.nra.go.jp/data/000311714.pdf

特にエチレングリコール(EG)処理を施した定方位試料のXRD分析は、スメクタイトの特定に有効です。エチレングリコールが層間に入り込むと、層間距離が特徴的に拡大するため、他の粘土鉱物と区別できます。また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、スメクタイトの結晶形態や結晶構造を直接観察することもできます。

 

参考)http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00322/2017/54-03-0003.pdf

スメクタイトの構造的特性は、「千の用途を持つ素材」と呼ばれるほど多様な産業応用に活かされています。主な利用分野は土木、食品、化粧品、自動車業界であり、パップ剤や軟膏などの医薬品、パックや口紅などの化粧品、増粘剤、吸着剤、触媒担体など幅広い用途があります。

 

参考)https://www.hrr.mlit.go.jp/kurobe/17iinkai/image/pdf/ss1.pdf

近年の研究では、スメクタイトの層間空間を活用した新素材開発が進められています。制御放出システムへの応用として、ローダミンB色素、ヘマチン、シアノコバラミンなどをヘクトライトに封入し、オレイン酸をゲートキーパーとして用いた有機ナノクレイが開発されています。また、カフェイン吸着材やCO₂捕捉材料としての可能性も研究されており、層間陽イオンの種類によってCO₂の層間への挿入速度や保持能力が変化することが報告されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4350078/

触媒としての応用も期待されており、合成スメクタイトでは化学組成を変化させることで触媒活性を制御できる可能性があります。K₂CO₃を含浸させたスメクタイトは、グリセロールからグリセロールカーボネートを生成する触媒として有効であることが確認されています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcssjnendokagaku1961/36/3/36_3_119/_pdf

地質工学分野では、スメクタイトの膨潤性が問題となる場合もあります。特にNa型スメクタイトは膨潤性が大きく、せん断強度が低いため、地すべりや盤ぶくれ、切土のり面の崩壊などを引き起こすことがあり、事前の調査と対策が重要です。このため、X線回折による定量分析や交換性陽イオン組成の測定が地質調査で実施されています。

 

参考)https://www.jseg.or.jp/chushikoku/wp-jseg/wp-content/uploads/2023/02/R0208.pdf

膨潤性粘土鉱物スメクタイトによるトラブルと対策について - コンコム
スメクタイトの結晶構造や膨潤メカニズムの詳細な図解と、建設工事におけるトラブル事例が紹介されています。

 

イオン交換性層状粘土 - J-Stage
スメクタイトの層状構造とイオン交換性に関する学術的な解説と、有機修飾スメクタイトの作製方法が詳述されています。

 

精製・合成技術について(クニピア・スメクトン)- クニミネ工業
スメクタイトの工業的な精製・合成技術と、膨潤性や陽イオン交換性を活用した製品開発について実用的な情報が掲載されています。

 

 


ナリカ スメクタイトセット P70-3792