制御棒素材:原子炉の中性子吸収材と構造材の特性

原子炉の安全運転に欠かせない制御棒はどのような素材で作られ、なぜその材料が選ばれているのでしょうか?炭化ホウ素やハフニウム、銀系合金など多様な中性子吸収材の特徴と、構造材としてのステンレス鋼の役割について詳しく解説します。あなたは制御棒に使われる素材の秘密を知っていますか?

制御棒素材の種類と特性

制御棒の主要素材
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中性子吸収材

炭化ホウ素、ハフニウム、銀・インジウム・カドミウム合金など、中性子を効率的に吸収する材料

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構造材

ステンレス鋼製の被覆管とシースで吸収材を保護し、制御棒の形状を維持

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炉型別の違い

BWRでは十字型、PWRではクラスタ型と、原子炉のタイプにより構造が異なる

制御棒の炭化ホウ素(B4C)の特性と応用

 

制御棒の素材として最も広く使用されている炭化ホウ素(B4C)は、ボロンカーバイドとも呼ばれる黒色のセラミック材料です。この素材は比較的軽量(密度2.5g/cm³)でありながら、非常に硬度が高い(HV=4.1×10⁴MPa)という特徴を持ちます。炭化ホウ素が制御棒材料として選ばれる最大の理由は、ホウ素含有量が高く、特にホウ素の同位体である¹⁰Bが中性子を効率的に吸収する性質にあります。

 

参考)https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/contents/pdf/2007_8_04.pdf

BWR(沸騰水型原子炉)では、天然ホウ素組成のB4C粉末をステンレス鋼管に充填した中性子吸収棒を、ブレードと呼ばれる十字型の構造に収納して使用します。この十字型制御棒は4体の燃料集合体の間隙を上下する構造となっており、炉心下部から挿入されます。粉末状にすることで表面積を増やし、中性子吸収効率を高めているのが特徴です。

 

参考)炭化ホウ素 - Wikipedia

炭化ホウ素は高温まで安定で工業的製法が確立されている一方、課題も存在します。中性子を吸収する際にヘリウムガスを発生させるため、ペレットのスエリング(膨張)を起こし、早期に制御棒を交換する必要があります。また、中性子吸収による大きな発熱で不均一な温度分布が生じ、熱応力によるペレットの割れや欠けが発生することもあります。

 

参考)https://www.nsystemkoubo.jp/result/pdf/h24/h24_sys05.pdf

制御棒の銀系合金とPWRでの使用

PWR(加圧水型原子炉)の制御棒には、銀・インジウム・カドミウム(Ag-In-Cd)の三元合金が中性子吸収材として使用されます。この合金は中性子捕獲断面積が大きく、中性子を効率的に吸収する特性を持ちます。具体的な組成は、銀(Ag)を主成分とし、インジウム(In)とカドミウム(Cd)を添加した金属合金です。

 

参考)炉心構成品

PWR制御棒の構造は、この銀系合金をステンレス鋼のチューブに挿入し、約20本程度を「クラスタ」と呼ばれるたこ足状に束ねた形状となっています。制御棒は燃料集合体の上部から直接挿入される構造で、BWRとは大きく異なります。PWRでは制御棒による細かな出力調整に加え、長期的な反応度調整は一次冷却水中のホウ酸濃度によって行われるという二重の制御システムを採用しています。

 

参考)制御棒 - Wikipedia

銀系合金制御棒は炭化ホウ素と比較して、中性子吸収後のガス発生が少ないため、機械的変形要因が小さいという利点があります。PWR制御棒の全長は約4.1mで、吸収体には銀・インジウム・カドミウム合金、被覆管にはステンレス鋼が使用されています。この材料組み合わせにより、高温・高圧の過酷な環境下でも安定した性能を発揮します。

 

参考)302 Found

制御棒のハフニウムと次世代材料開発

ハフニウム(Hf)は、炭化ホウ素に代わる次世代の中性子吸収材として注目されている金属材料です。ハフニウムの最大の特徴は、中性子を吸収しても炭化ホウ素のようにヘリウムガスを発生せず、代わりに質量数が一つ大きいハフニウム同位体になることです。この同位体も中性子吸収能力を持つため、中性子吸収能力が持続し、長寿命制御棒の開発が可能となります。

 

参考)https://www.tepco.co.jp/press/release/2025/pdf3/250819j0102.pdf

特に注目されているのが、ハフニウム水素化物を用いた制御棒です。この材料は高速炉での使用を想定して開発が進められており、ロシアの高速研究炉BOR-60での1年間の照射試験では、炉運転中に水素損失がほとんど起きず、照射によるスエリングも小さく抑えられることが確認されました。これにより高速炉の運転費削減と廃棄物発生量の低減が期待されています。

BWRの改良型では、ハフニウムフラットチューブ型制御棒の開発も行われています。ハフニウム棒型制御棒は、炭化ホウ素型制御棒のように内圧を保持する構造ではないため、機械的変形要因がなく、長期間使用できる点で優れています。ただし、ハフニウムは希少金属であり材料コストが高いことが課題となっています。現状では、BWRの制御棒に関してB4Cに比べて炉内で長期間使用できる点で、ハフニウムの使用が検討されている段階です。

 

参考)https://www2.nra.go.jp/data/000382693.pdf

制御棒のステンレス鋼と構造部材の役割

制御棒の構造材として、ステンレス鋼は極めて重要な役割を果たしています。中性子吸収材を保護する被覆管とシースは、いずれもステンレス鋼で製造されており、高温・高圧・高放射線という過酷な環境下で制御棒の形状を維持し続ける必要があります。

 

参考)https://www.jrias.or.jp/pdf/2210_TRACER_SUMITA_HOKA.pdf

BWRの炭化ホウ素型制御棒では、B4C粉末を充填したステンレス鋼管をステンレスシースで被覆し、十字形に配列した構造となっています。制御棒の挿入機能確保に必要な構造部材として、シース、ハンドル、タイロッド、落下速度リミッタなどがあり、これらもステンレス鋼やステンレス鋳鋼で構成されています。制御棒案内管もステンレス鋼製で、制御棒の挿入・引抜の際のガイドとなるとともに、燃料集合体の重量を支える役割を担います。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1888/106/11/106_11_1057/_pdf/-char/ja

ステンレス鋼が選ばれる理由は、優れた耐食性と高温強度に加え、中性子照射による材料劣化が比較的小さいためです。特に制御棒駆動機構などの一部部品には、強度と耐食性を備えたXM-19という特殊ステンレス鋼が使用されています。使用条件は最高使用圧力8.62MPa、最高使用温度302℃という厳しい環境であり、内部流体は純水です。

 

参考)https://www.pref.ibaraki.jp/seikatsukankyo/gentai/anzen/nuclear/anzen/documents/171124_enchoshinsei_tenpu_02_sono4.pdf

ステンレス鋼と炭化ホウ素の組み合わせには、事故時の共晶溶融という課題も存在します。高温になるとステンレス鋼とB4Cの間で共晶溶融現象が生じ、高温溶融物(SS-B4C融体)ができる可能性があるため、安全性評価が重要です。

 

参考)ナトリウム冷却高速炉の炉心損傷事故時の炭化ホウ素制御棒材の共…

制御棒素材の鉱物学的側面と希少性

制御棒に使用される素材を鉱物学的視点から見ると、いくつかの興味深い特徴があります。ホウ素の主な鉱石はホウ砂(ボラックス)やホウ酸で、トルコ、アメリカ、アルゼンチンなどに主要な産出地があります。天然ホウ素は¹⁰Bと¹¹Bの二つの安定同位体から構成されており、このうち¹⁰Bが中性子吸収に有効です。

炭化ホウ素の製造方法として最も多く用いられるのは、ホウ素原料を電気炉などで加熱して得たインゴットを粉砕、精製、整粒して粉末状のB4Cを得る方法です。この製造プロセスは工業的に確立されており、コスト面でも比較的有利です。

一方、ハフニウムはジルコニウム鉱石中に1~3%程度含まれる希少金属で、ジルコニウムとの化学的性質が非常に似ているため分離が困難です。ハフニウムの鉱石としてはジルコン(ZrSiO₄)が主要で、これからジルコニウムを分離する過程でハフニウムも同時に抽出されます。希少性が高いため、ハフニウム制御棒は材料コストが高くなる傾向があります。

銀、インジウム、カドミウムもそれぞれ異なる鉱物資源から得られます。銀は銀鉱石や銅・鉛・亜鉛鉱石の副産物として、インジウムは亜鉛精錬の副産物として、カドミウムも亜鉛精錬の過程で得られます。これらの金属を合金化することで、優れた中性子吸収特性を持つPWR用制御棒材料が製造されます。

 

参考)https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2016080800247/file_contents/4.pdf

原子力用B4C制御材の詳細な製造方法と特性(日本セラミックス協会)
炭化ホウ素制御材の製造方法、物理的特性、原子炉での使用状況について専門的な解説があります。

 

改良ハフニウムフラットチューブ型制御棒の技術資料(東京電力)
最新のハフニウム制御棒の構造と性能改善について、技術的な詳細が記載されています。

 

 


ジェイド・ダイナスティ 破壊王、降臨。 (吹替版)