原子炉 仕組み わかりやすい核分裂と連鎖反応

原子炉はどのようにして電力を生み出し、危険な連鎖反応を安全に制御しているのか。ウランの核分裂から発電までのプロセスを、初心者にもわかるように解説します。

原子炉 仕組み 核分裂のメカニズム

原子炉の基本的な流れ
⚛️
核分裂の開始

ウラン235の原子核に中性子が衝突し、原子核が2つに分裂します

🔗
連鎖反応の発生

分裂時に2~3個の中性子が放出され、次々と他の原子核を分裂させます

🌡️
大量の熱エネルギー

核分裂反応により膨大な熱が発生し、水を加熱・蒸気化させます

⚙️
発電へ

高温の蒸気でタービンを回転させ、連結する発電機で電力を生成します

原子炉における核分裂反応の仕組み

 

原子炉の中心で起こるのは、ウラン235という放射性物質の核分裂です。この過程は、非常に単純なメカニズムから成り立っています。ウラン235の原子核に中性子が衝突すると、その原子核は2つの破片に分裂します。この分裂の際に、膨大なエネルギーが熱として放出されるとともに、2~3個の新しい中性子が飛び出します。

 

火力発電所で石炭を燃やすのと異なり、原子炉では物質そのものが変換されてエネルギーが生まれます。これはアインシュタインの有名な公式E=mc²で表される現象で、わずかな質量が莫大なエネルギーに変わるのです。1グラムのウランが完全に核分裂すると、石炭1トン分のエネルギーに相当するとも言われています。

 

原子炉内では、常に安定した状態でこの核分裂を続けることが重要です。放出された中性子がさらに別のウラン235に吸収されると、その原子核も分裂し、また新しい中性子が生まれます。このように次々と核分裂が連鎖的に起こることで、安定した熱源が維持されるのです。

 

原子炉の連鎖反応を制御する三つの要素

原子炉の安全性を保つために、核分裂の連鎖反応をコントロールする必要があります。この制御には主に3つの重要な要素が使われます。

 

まず、「減速材」と呼ばれる物質があります。中性子は核分裂直後、非常に高速で飛び出しますが、この高速の中性子ではウラン235は核分裂しにくいという特性があります。減速材は中性子の速度を落とす役割を果たし、通常は軽水(普通の水)や重水、炭素などが使用されます。速度を落とされた中性子の方が、ウラン235に吸収されやすくなり、効率的に核分裂反応を進行させることができるのです。

 

次に、「冷却材」という重要な役割があります。核分裂反応で発生した熱は非常に高温になるため、これを取り出さないと原子炉は過熱してしまいます。冷却材は通常、軽水(普通の水)や炭酸ガスなどが使用され、原子炉内を循環して熱を吸収し、その熱をタービンの方へ運んでいきます。冷却材がなければ、原子炉は瞬時に危険な状態に陥ってしまいます。

 

そして最も重要なのが「制御棒」です。制御棒は中性子を強く吸収する性質を持つ物質で作られており、原子炉の中に上下に動かせるように挿入されています。制御棒を原子炉の中に深く挿入すると、より多くの中性子が吸収され、核分裂の頻度が減少します。逆に引き上げると中性子の吸収が減り、核分裂が活発になります。この制御棒の位置を調整することで、連鎖反応を一定の速度に保ち、安定した電力供給が実現するのです。

 

原子炉の2つの主流タイプと蒸気発生のメカニズム

現在、世界の原子力発電の大半を占めるのが軽水炉です。軽水炉には2つの主要なタイプがあり、それぞれ蒸気を発生させる方法が異なります。

 

沸騰水型炉(BWR:Boiling Water Reactor)は、構造がシンプルな方式です。この方式では、原子炉圧力容器の中で核分裂反応による熱が直接、周りの冷却水を加熱します。温められた水は沸騰して蒸気になり、その蒸気がそのままタービンに送られ、タービンを直接回転させます。利点としては構造がシンプルで建設コストが低いことが挙げられます。しかし、蒸気が放射性物質を含む冷却水から作られているため、タービンや復水器などの周辺機器についても放射線管理が必要となります。

 

加圧水型炉(PWR:Pressurized Water Reactor)は、より複雑な構造を採用しています。この方式では、原子炉内で核分裂による熱で加熱された水は、非常に高い圧力で一次系統の配管を循環します。この高温・高圧の水は蒸気発生器に導かれ、そこで二次系統の配管に流れている別の冷却水に熱だけを伝えます。この熱交換によって、汚染されていない二次系統の水が蒸気となり、タービンに送られます。このため、タービン側は放射線の心配がなく、メンテナンスが容易という利点があります。PWR方式は世界的に最も多く採用されており、安全性と効率のバランスが優れています。

 

原子炉内の熱から電気への変換プロセス

原子炉で生み出された熱が、最終的にどのようにして電気に変わるのかを見ていきましょう。原子炉から配管を通じて送られてくる高温・高圧の蒸気は、タービンの羽根に当たります。この強大な蒸気の力でタービンの軸が回転し、その軸に直結している発電機も一緒に回転することで、電気が発生するのです。

 

このメカニズムは、実は火力発電や水力発電と基本的には同じです。火力発電では化石燃料を燃やして蒸気を作り、水力発電では流れ落ちる水の力でタービンを回します。原子力発電もまた、熱源の違いだけで、同じ原理で電気を生み出しているのです。

 

タービンを回し終えた蒸気は、復水器という装置に送られます。ここで蒸気は冷却されて再び水に戻されます。この冷却される際の熱は、通常は海や河川の水を利用して逃がされます。水に戻された冷却水は、再び原子炉へ循環させられ、このサイクルが繰り返されるのです。

 

ところで、このタービンと発電機の連携には興味深い特徴があります。タービンが高速回転する際、非常に正確な回転数を維持する必要があります。日本では50Hz または 60Hzという周波数で安定した交流電流を供給する必要があるため、タービンの回転速度も極めて正確に制御されているのです。

 

原子炉における安全制御と異常時対応

原子炉の安全確保は、単に通常時の連鎖反応の制御に留まりません。緊急事態への対応も含めた多層的な安全システムが構築されています。

 

最初の安全装置は制御棒です。通常時は制御棒の位置を調整することで反応を制御していますが、何らかの異常が発生した場合、制御棒を緊急に原子炉の中に全て挿入することができます。この操作により、ほぼすべての中性子が吸収され、連鎖反応は数秒以内に停止します。これは「スクラム」と呼ばれる緊急停止メカニズムです。

 

さらに原子炉の温度や圧力が異常に上昇した場合に備えて、緊急炉心冷却装置(ECCS)という専用のシステムが備えられています。このシステムは、通常の冷却系統が機能しなくなった場合でも、自動的に原子炉の炉心に冷却水を供給することで、過熱による暴走を防ぎます。

 

原子炉の安全性は、これらの複数の防御層が組み合わされることで初めて実現されています。通常時の安定した反応制御、そして異常時の多重的な防御機構が、原子炉運転の信頼性を支えているのです。

 

原子炉内での核分裂の連鎖反応に関する詳細な技術情報
日本原子力研究開発機構 - 原子力の基礎知識
軽水炉のしくみと2つのタイプの詳細な比較
電気事業連合会 - 原子力発電の情報ポータル
原子力発電所の基本的な仕組みと安全対策
原子力開発と発電への利用について

 

 


発電用原子炉の開発: 歴史・技術・教訓