金属結晶は、金属原子が規則的に配列した結晶格子から構成されており、主に3つの代表的な構造があります。体心立方格子(bcc)、面心立方格子(fcc)、六方最密構造(hcp)の3種類で、それぞれ異なる空間配置と性質を持っています。これらの構造の違いは、金属原子の配置パターンと密度に起因し、金属の機械的性質や加工性に大きく影響を与えます。
体心立方格子は立方体の各頂点と中心に原子が配置された構造で、単位格子中に含まれる原子数は2個です。一方、面心立方格子は立方体の各頂点と各面の中心に原子が存在し、単位格子中には4個の原子が含まれます。六方最密構造は六角形を基本単位とした最密充填構造で、単位格子中の原子数は2個となります。
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金属結晶の構造を理解する際には、配位数と充填率という2つの重要な数値を把握することが不可欠です。配位数とは1個の原子を直接取り囲む隣接原子の数を指し、充填率は単位格子の体積に占める原子の体積の割合を示します。これらの数値は結晶構造ごとに固有の値を持ち、金属の性質を理解する上で重要な指標となります。
面心立方格子(fcc)の代表例として、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)などが挙げられます。これらの金属は展性・延性に富み、薄く伸ばすことができる特徴を持っています。アルミニウムは軽量でありながら強度も高く、航空機や自動車、電子機器の筐体に多用される重要な金属です。銅は電気伝導性に優れており、電線や電気配線に広く利用されています。
体心立方格子(bcc)を形成する金属には、鉄(Fe)、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ナトリウム(Na)などがあります。体心立方格子は展性・延性に乏しい傾向がありますが、高い強度を持つ特徴があります。鉄は910℃でγ鉄(面心立方格子)に変態する同素体を持つ金属として知られています。ステンレス鋼は鉄にクロムやニッケルを加えた合金で、耐食性に優れ医療機器や調理器具に使用されます。
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六方最密構造(hcp)の代表的な金属としては、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)などが存在します。この構造は面心立方格子とは積み上げ方が異なるものの、同じ最密充填構造に分類されます。チタンは軽量で高強度、耐食性に優れた金属として航空宇宙産業や医療分野で重要な役割を果たしています。マグネシウムは実用金属の中で最も軽い金属として知られ、自動車部品の軽量化に貢献しています。
体心立方格子の配位数は8で、覚え方として「体は8」という語呂合わせが有効です。単位格子中の原子数は2個で、充填率は約68%となります。面心立方格子の配位数は12で、「面は12」と覚えるとよいでしょう。単位格子中の原子数は4個、充填率は約74%です。六方最密構造の配位数も12で、充填率は面心立方格子と同じく約74%となります。
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六方最密構造の覚え方には「621(ロクニイチ)」という語呂合わせがあり、これは単位格子中の原子数が6個(または2個)、配位数が12、最密構造を表しています。また、「なし」という語呂合わせで充填率74%を覚える方法も紹介されています。これは「これ以上なし」という意味で、最密構造が最大の充填率を持つことを示しています。
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充填率の数値を覚える際には、体心立方格子が約68%、面心立方格子と六方最密構造が約74%という点が重要です。最密構造の74%が充填率の理論上の極大値であることも覚えておくべき知識です。配位数が多い構造ほど原子が密に充填されているため、充填率が大きくなるという一般原則も理解の助けとなります。
単位格子中に含まれる原子数の計算は、原子の位置によって異なる計算方法を用います。頂点にある原子は8個の単位格子で共有されるため1/8個、面の中心の原子は2個の単位格子で共有されるため1/2個、体心にある原子は1個としてカウントします。体心立方格子の場合、1/8×8+1=2個、面心立方格子では1/8×8+1/2×6=4個となります。
参考)アクセス化学 例題解説 - 基本例題42 金属の結晶格子
原子半径rと単位格子の1辺の長さaの関係式は、結晶構造ごとに異なります。体心立方格子では4r=√3aという関係が成り立ち、面心立方格子では4r=√2aという式が用いられます。これらの関係式は、充填率や密度の計算に必要不可欠な知識です。
参考)【高校化学】「原子半径と単位格子の一辺の長さ」
充填率の計算は、単位格子中の金属原子の体積を単位格子の体積で割り、100を掛けることで求められます。体心立方格子の充填率は、4/3πr³×2をa³で割って計算し、約68%となります。面心立方格子では4/3πr³×4をa³で割ることで約74%が得られます。これらの計算では、π=3.14、√2=1.41、√3=1.73として近似値を用いることが一般的です。
面心立方格子を持つ銅やアルミニウムは、高い電気伝導性と熱伝導性を活かして、電線や配線材料、ヒートシンクなどに広く使用されています。銀は金属の中で最も電気と熱を伝えやすい性質を持ち、高級な電気接点やコネクタに利用されます。アルミニウム合金はマグネシウムや銅を添加することで、軽量性と強度を両立し、航空機や自動車部品に最適な材料となっています。
参考)金属結合とは(例・特徴・金属結晶・立方格子)
体心立方格子構造の鉄は、構造材料として最も重要な金属の一つです。鉄鋼石から取り出された鉄は、高炉製鉄によって大量生産され、建築や機械製造に欠かせない素材となっています。ステンレス鋼は鉄にクロムとニッケルを加えた合金で、錆びにくい特性から食品機械、医療機器、建築資材として幅広く活用されています。
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金属結晶の性質を理解することは、材料選択や加工方法の最適化に直結します。展性・延性に富む面心立方格子の金属は曲げや圧延加工に適しており、体心立方格子の金属は高強度が求められる構造部材に向いています。黄銅(銅+亜鉛)は加工性が高く美観にも優れるため、装飾品や配管部品に使用されるなど、結晶構造と用途の関係を理解することが実用面で重要です。
金属結晶の最密充填構造には、面心立方格子(立方最密充填)と六方最密構造(六方最密充填)の2種類が存在し、どちらも充填率74%で理論上の最大値を達成しています。両者の違いは球の積み上げ方にあり、面心立方格子はABCABC…の繰り返しパターン、六方最密構造はABAB…のパターンで積層されます。この積み上げ方の違いにより、異なる対称性を持つ結晶構造が形成されますが、配位数と充填率は同一となる興味深い性質があります。
参考)なぜ面心立方格子と六方最密構造の充填率は同じなのか?
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金属の結晶構造は温度によって変化する同素体の現象を示すことがあります。鉄は室温ではα鉄(体心立方格子)として存在しますが、910℃に加熱するとγ鉄(面心立方格子)に変態します。この相転移は鉄鋼材料の熱処理の基礎となっており、焼入れや焼戻しなどの処理によって鋼の強度や靭性を制御できます。
金属結晶の自由電子は、結晶内を自由に移動できるため、金属特有の電気伝導性、熱伝導性、金属光沢、展性・延性といった性質の原因となっています。自由電子が陽イオンの位置に合わせて移動することで、金属を叩いたり引っ張ったりしても結合が保たれるため、金属は変形しやすい性質を持ちます。この性質により、金属は様々な形状に加工することが可能となり、工業材料として非常に重要な役割を果たしています。
参考)【簡単解説】金属結合とは?自由電子の役割や金属結晶について …
参考リンク(体心立方格子・面心立方格子・六方最密構造の詳細な図解と計算例):
https://rikeilabo.com/metallic-crystal
参考リンク(金属結晶の配位数・充填率の覚え方と語呂合わせ):
https://studytube.info/metal-crystal-goroawase/
参考リンク(金属の結晶格子の種類と代表的な金属の一覧):
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td02/a0058.html