斑れい岩は、地球の中央海嶺(ちゅうおうかいれい)の下で形成される苦鉄質(くてつしつ)の深成岩です。マントルから上昇した高温の玄武岩質マグマが、海底面に到達する前に海底下で徐々に冷却・固結することで生成されます。この冷却過程は地表での火成岩形成とは異なり、数千年単位でゆっくりと進行するため、完全に結晶化した完晶質(かんしょくしつ)の岩石となります。花崗岩などの珪長質な深成岩と比較すると、斑れい岩は有色鉱物(ゆうしょく こうぶつ)を豊富に含むため、全体的に暗黒色を呈し、密度が高く、より重いという特徴を持ちます。
斑れい岩は四つの主要鉱物から構成されており、各々が岩石の特性を決定します。斜長石(しゃちょうせき)は白色ないし透明な無色鉱物で、斜長石系列の中でも灰長石(かいちょうせき)成分が50%以上(An50以上)のカルシウム豊富なものが含まれます。輝石(きせき)は両輝石系列に属し、直方輝石(ちょくほうきせき)と単斜輝石(たんしゃきせき)の両者が存在します。かんらん石(橄欖石)は濃緑色ないし黄緑色を呈し、マグネシウム鉄珪酸塩鉱物として知られています。角閃石(かくせんせき)、特に普通角閃石(ふつうかくせんせき)やカミントン閃石も含有されることがあります。
色指数(色数とも呼ばれ、有色鉱物の体積比率を示す指標)は40~70%の範囲であり、これは斑れい岩がマフィック(苦鉄質)な岩石に分類される理由です。有色鉱物が全体の40~70%を占めることで、黒っぽい見た目と高い密度が実現されます。副成分鉱物としては、磁鉄鉱(じてつこう)、チタン鉄鉱、および稀にジルコン(ジルコニウム珪酸塩)が含まれます。
斑れい岩は等粒状組織(とうりゅうじょう そしき)を特徴とし、鉱物粒が均等な大きさで相互に接触する構造を呈します。しかし実際の斑れい岩体では、粗粒部(そりゅうぶ)から細粒部(さいりゅうぶ)へ至る著しい岩相変化が観察されます。このような層状構造は、複数のマグマが異なる温度条件下でシル状に貫入し、それぞれが独立した冷却・結晶作用を経たことを示唆します。粗粒部は相対的に低温でゆっくり冷却された領域であり、クリスタルマッシュ(結晶が液体に浸された状態)の状態で存在していたと考えられます。一方、細粒部は高温の新しいマグマが低温のクリスタルマッシュ中に貫入し、過冷却条件下で急速に固結したものです。この過冷却現象は、粒度を急速に縮小させる主要因となります。
斑れい岩は海洋地殻の層状構造の中で特定の位置を占めています。地質学者が確立した理論によると、中央海嶋軸の直下には、薄いメルトレンズ(融融液レンズ)とその下の厚いクリスタルマッシュが存在します。このクリスタルマッシュから固結した岩体は下位から上位へ向かって、層状斑れい岩、フォリエイテッド斑れい岩(面構造を持つ斑れい岩)、そして塊状上部斑れい岩へと区分されます。層状斑れい岩は下位のクリスタルマッシュ内で形成され、鉱物の比重差による結晶沈降(けっしょう ちんこう)に伴う組成的層状構造が顕著です。一方、塊状上部斑れい岩はメルトレンズの化石(げ)と見なされ、より完全に液体状態で結晶化したものです。
最近の研究で注目される現象は、斑れい岩形成時の斜長岩質マッシュ(plagioclase-rich mush)の分離です。固液境界層から分離した斜長岩質マッシュが上昇すると、その残渣(ざんし)は相対的にかんらん石成分に富むようになり、この過程で層状斑れい岩内に異なる組成を持つ層が形成されます。逆に、上昇した斜長岩質マッシュが供給された上部マグマは、兼ねてから低温であるため、新規マグマの貫入に伴う再加熱を受けた際、逆累帯構造(ぎゃくるいたいこうぞう)を示す斜長石が生成されます。この逆累帯構造の斜長石は、結晶作用の途中で過冷却条件が形成されたことの直接的な証拠であり、プリュームとして上昇する低密度マッシュと、その周囲のより密度の高いマグマとの複雑な相互作用を示しています。
これらのメカニズムは、単純な結晶沈降モデルではなく、動的な流体力学的プロセスを示唆しており、地球内部における複雑な物質移動の理解につながります。室戸岬(むろとみさき)などの露出したハンレイ岩複合体の野外調査によって、このようなマグマ分化プロセスが実際に検証されており、地球科学における重要な研究領域となっています。
参考リンク:海洋地殻の構成要素と斑れい岩の海嶺下での形成過程について
神奈川県立生命の星・地球博物館 - 海洋地殻をつくる岩石
参考リンク:マグマ分化プロセスの野外検証とハンレイ岩複合体の事例研究
日本地質学会 - 室戸岬ハンレイ岩:マグマ分化プロセスの野外での検証
参考リンク:斑れい岩の鉱物組成と岩石学的特性の詳細解説
北海道砂岩石研究所 - かんらん石斑レイ岩の顕微鏡観察と定義
参考リンク:層状構造形成の地質学的メカニズムと過冷却現象
日本地球惑星科学連合 - 斑れい岩シルの貫入による層状構造の形成