中国産の砂鍋をそのまま使うと、鍋から鉛が溶け出して健康被害が起きるケースがあります。
砂鍋(シャーグオ)は、中国語で「土鍋」を意味する調理器具です。日本語の「砂」という漢字が入っているため砂でできているのかと思われがちですが、正確には粘土や陶土を素焼きし、内側と外側に釉薬(うわぐすり)をかけて焼き固めた陶製の鍋です。中国語の「砂」には「粒の細かい土」というニュアンスが含まれており、素材の質感を表した名称といえます。
形状は日本の土鍋と非常によく似ていて、丸みを帯びた深めのボウル状に、少し高めの蓋がついているのが基本スタイルです。ただし、台湾や中国現地で見ると、日本の土鍋より深さがある設計になっていることが多く、長時間の煮込みに適した構造になっています。サイズは一人用の小さなものから、直径25cm以上の大鍋まで幅広くあります。
陶器の特性として、砂鍋は遠赤外線を多く放射します。遠赤外線は食材の芯まで熱を届けるため、豚バラ肉などの固い肉がやわらかくほぐれ、野菜もみずみずしいまま火が通ります。これが砂鍋料理の「うまみ」の正体のひとつです。また、保温性が非常に高く、火を止めたあとも鍋全体が余熱をキープするため、テーブルに出してからも最後まで熱々のまま食べられるのが特徴です。
つまり、砂鍋は「道具」と「料理名」の両方を指す言葉です。「砂鍋豆腐」「砂鍋粥」「砂鍋飯」などと組み合わせて使われる場合は、その土鍋を使って作る料理そのものを意味します。
李錦記が中華調理器具について解説したページでは、砂鍋を「肉を柔らかく煮込むことでおいしさを引き出す道具」と表現しています。
砂鍋を語るうえで欠かせないのが、北京の老舗料理店「砂鍋居(シャーグオジュー)」の存在です。清朝乾隆六年、西暦1741年に創業したこの店は、現在も北京市西城区の西四南大街60号に構えを構え、支店を持たない一軒のみで営業を続けています。
この店の誕生秘話は、陶器好きにとって非常に興味深いものです。もともと北京の親王家に仕えていた夜回りの男が、副業として親王家から下された祭祀用の豚肉を、直径1.3メートルの巨大な砂鍋で煮込んで売り出したのが始まりといわれています。店名は当初「和順居」としていましたが、土鍋を使う食堂ということで民衆がいつしか「砂鍋居」と呼ぶようになり、あだ名が本来の店名を超えてしまいました。
看板メニューは「酸菜白肉(スワンツァイバイロー)」です。白菜を1か月半以上かけて自然発酵させた漬物「酸菜」と、脂ののった豚バラ肉「白肉」を一緒に砂鍋で煮込む料理で、澄んだスープに発酵の旨みが溶け込んだあっさりとした一品です。現在も店内には直径1.20メートル、高さ0.76メートル、重さ218キロの巨大な土鍋が展示され、歴史の証として訪れる人々を迎えています。
280年超の歴史が原則です。それだけの期間、同じ土地・同じ料理・同じ鍋で守り続けてきたというのは、世界の飲食業でも稀有な例といえます。
砂鍋居の詳しい歴史と現在の様子については、以下のページが参考になります。
砂鍋料理はひとつではありません。中国は広大な国土を持つため、地域ごとに素材も味付けも異なる砂鍋料理が発達しています。これは陶器好きにとっても非常に興味深いポイントで、同じ「砂鍋」という器を使いながら、地域の食文化が生み出す多様性を感じることができます。
代表的なものをいくつか見ていきましょう。
| 料理名 | 発祥・主な地域 | 特徴 |
|---|---|---|
| 砂鍋白肉(酸菜白肉) | 北京 | 豚バラ肉と発酵白菜「酸菜」を澄んだスープで煮込む。あっさり系。 |
| 砂鍋粥(シャーグオジョウ) | 広東省潮州 | 海鮮を豊富に使った高粘度のお粥。冬菜を加えるのが特徴。 |
| 砂鍋飯(シャーグオファン) | 広東省・雲南省など | 土鍋で炊き込んだご飯料理。おこげが香ばしい。 |
| 砂鍋豆腐(シャーグオドウフ) | 北京・全国的 | 豆腐・白菜・春雨を干し海老の出汁で煮込む。肉不使用のシンプルな鍋。 |
| 牛肉砂鍋 | 四川省楽山 | 牛肉を濃く辛いスープで煮込む。花椒と唐辛子の刺激が強い。 |
| 砂鍋丸子 | 北京・北部全般 | 白菜・肉団子・春雨の3素材だけで作るシンプルな鍋。家庭料理的。 |
広東省潮州発祥の砂鍋粥は特に変わっていて、直径30cm超の大きな土鍋に海老・カニ・魚といった新鮮な海鮮をたっぷり使い、高粘度でとろとろのお粥に仕上げます。これは鍋料理というよりも、「砂鍋」という容器の保温性を最大限に活かした料理として完成されています。
これが基本です。「砂鍋=煮込み料理」というイメージが強いですが、地域によっては粥・炊き込みご飯・麺など、用途は非常に幅広いのが実情です。
また、中国では砂鍋は日本のように「鍋料理のメイン」として扱われないケースも多く、台湾や中国の家庭では食卓の一品として登場するいわば「スープ皿の大きな版」という役割も担っています。鍋をメインに据える日本の文化とは、料理における砂鍋の「立ち位置」が根本的に異なります。意外ですね。
陶器好きにとって見逃せない問題が、砂鍋の釉薬(うわぐすり)と鉛の関係です。中国産の土鍋から鉛やカドミウムが溶け出すケースが国内で複数報告されており、これは陶器に触れる人が実際に直面しうるリスクです。
陶器は焼き上げる際、表面に光沢を出したり色を発色させたりするために釉薬を使います。鉛は透明性・発色性・低温焼成など優れた性質をもつため、世界中で古くから釉薬の成分として使われてきました。問題は、鉛を含む釉薬を使った土鍋を火にかけて加熱した際に、鉛が食品に溶け出す可能性がある点です。長期にわたって鉛を摂取すると、筋肉の衰弱・脳や腎機能の障害などの健康被害につながるとされています。
健康への影響が条件です。特に、柑橘類のジュースやトマトなど酸性の食品が長時間土鍋に触れると、鉛の溶出量が増えるとも指摘されています。
日本国内では、2009年の食品衛生法改定によって食器の鉛溶出基準が厳しくなり、基準を超える鉛が入った国内生産の食器は法律上販売できなくなりました。また、中国などから輸入された食器は、厚生労働省の食品検査をパスしなければ輸入販売できません。ただし、インターネット個人輸入やフリマアプリで購入した砂鍋については、この検査を経ていない可能性があります。
実際にリスクを避けるためには、以下の点を確認するとよいでしょう。
なお、素焼きに釉薬を施したうえで1,200℃以上の高温で焼かれた陶磁器からは、重金属が溶け出す可能性が低いとされています。信頼できるメーカーや窯元が製造した砂鍋を選ぶことが、安全に陶器と付き合ううえでの最善策です。
食器の鉛問題と安全な選び方については、以下のページも参考になります。
え!?食器に鉛が入ってたの?知らなきゃ損する器のあれこれ|JTOPIA
せっかくよい砂鍋を手に入れたなら、正しい使い方でその寿命を最大限に延ばしたいものです。陶器全般にいえることですが、砂鍋には使い始めに必ず「目止め(めどめ)」という下処理が必要です。これを怠ると、ひびが入りやすくなったり、水漏れの原因になったりします。
目止めが原則です。具体的な手順は以下のとおりです。
米のでんぷん質が砂鍋の細かい気孔に入り込み、水漏れや臭い移りを防ぐ効果があります。なお、目止めに使ったお粥は食べても問題ありません。
日常のお手入れでは、以下のポイントを守ることで長持ちします。
砂鍋は急激な温度変化に弱いのが陶器全般の宿命です。たとえば冷蔵庫から出してすぐ火にかける、熱々の状態で冷たい台に置くといった行為は避けましょう。「弱火からじっくり」がひびを防ぐ鉄則です。
また、電磁調理器(IH)に対応していないものがほとんどです。砂鍋を選ぶ際は、必ず「直火専用」「IH対応」などの表記を確認することが大切です。IH対応の砂鍋は市場にも出ていますが、素材に特殊加工が施されているため、通常の陶製砂鍋よりも価格が高めになる傾向があります。
目止めと急激な温度変化への注意さえ守れば、砂鍋は10年・20年と使い続けられる丈夫な陶器です。使い込むほどに貫入(表面に入る細かい亀裂模様)が深まり、独自の風合いが増していくのも陶器ならではの楽しみです。
土鍋の目止めの詳しい方法については、以下のページが参考になります。