海底熱水鉱床 日本の採掘資源 現在と未来

日本周辺海域に眠る海底熱水鉱床は、銅・鉛・亜鉛などの有用金属を豊富に含む次世代資源です。JOGMECによるパイロット試験の成功から、今後の商業化への道筋や技術課題まで、日本の資源戦略における海底熱水鉱床の重要性を徹底解説。これからの日本の資源獲得を担う海底熱水鉱床、その可能性と課題を知っていますか?

海底熱水鉱床 日本の採掘技術開発

日本が進める海底熱水鉱床の開発
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海底熱水鉱床とは何か

海底火山活動から噴出した熱水に含まれる金属成分が、冷たい海水と接触して沈殿・析出することで形成される多金属硫化物鉱床

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日本における分布状況

沖縄トラフ、伊豆・小笠原海域など、日本の排他的経済水域内の水深700~1,600m海底に多数存在

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含有される主要金属

銅、鉛、亜鉛を主成分とし、金、銀、ゲルマニウム、ガリウムなどのレアメタルも豊富に含有

海底熱水鉱床 世界的な分布と日本の位置付け

 

世界では約350カ所の海底熱水鉱床が確認されており、その中で日本の排他的経済水域内に複数の有望な鉱床が存在しています。特に沖縄トラフは、世界的に見ても熱水活動が活発な地域として知られ、1987年の最初の発見以来、継続的に新たな熱水鉱床が確認されています。日本が世界第6位の広さの排他的経済水域を有することは、海底熱水鉱床開発における戦略的な優位性をもたらします。沖縄トラフ以外にも伊豆・小笠原海域の青ヶ島沖では、2018年に高温(約260℃)の熱水を噴出する新たな鉱床が確認されており、日本周辺海域の資源ポテンシャルは極めて高い状況にあります。

 

海底熱水鉱床 採掘・揚鉱パイロット試験の成功事例

2017年、JOGMECが主導する官民共同プロジェクトが、世界初となる海底熱水鉱床の採鉱・揚鉱パイロット試験に成功しました。このプロジェクトには、三菱造船、新日鉄住エンジニアリング、清水建設、住友金属鉱山など、日本を代表する大手企業8機関が参画しています。試験では、海底から連続的にスラリー(鉱石を含む懸濁液)を揚鉱することに成功し、採掘・揚鉱システムの実現可能性が実証されました。沖縄トラフの伊平屋北海丘では、2010年の掘削で形成された人工熱水噴出孔において、わずか2年間で銅・鉛・亜鉛を高濃度で含むチムニー(煙突状の鉱物)が15メートルもの高さまで成長したことが確認され、これは海底で急速に資源が形成される可能性を示唆しています。

 

海底熱水鉱床 鉱物成分と経済価値の分析

海底熱水鉱床に含まれる金属成分の含有量は、陸上鉱床と比較して極めて高いことが特徴です。伊豆・小笠原海域の青ヶ島沖で採取された試料からは、平均で銅1.00%、鉛6.21%、亜鉛23.0%、さらに金37.6グラム/トン、銀2,160グラム/トンが検出されています。この金属含有率の高さは、陸上供給源の10倍以上に相当し、経済的な採掘可能性を大幅に向上させています。特に金と銀の含有量は注目すべき水準であり、従来の海洋鉱物資源開発プロジェクトと比較しても極めて有利な条件を提供しています。人工掘削孔で形成されたチムニーの分析によると、銅4.5%、鉛6.9%、亜鉛30.3%、銀321ppm、金1.35ppmという高い品位が確認されており、採掘対象としての価値が極めて高いことが実証されています。

 

海底熱水鉱床 沖縄トラフにおける探査・開発の進展状況

沖縄トラフは日本における海底熱水鉱床開発の中心地であり、1987年の最初の発見から30年以上にわたって調査が進められています。興味深いことに、1987年から2012年までの25年間で10カ所の熱水が発見されたのに対し、その後のセンサー技術の向上により、2012年から2015年の3年間で、さらに10カ所の新たな熱水鉱床が発見されました。これは探査技術の飛躍的な進歩を示唆しています。特にマルチ化学センサーの開発によって、熱水の化学成分を測定することで、その下に眠っている鉱床が巨大かどうかを判断することが可能になりました。2010年9月に沖縄トラフ伊平屋北海丘で実施された地球深部探査船「ちきゅう」による掘削では、科学的な目的で複数の人工熱水噴出孔が形成され、その後の継続的なモニタリング調査によって、海底下での鉱床形成メカニズムが次々と明らかになっています。

 

海底熱水鉱床 日本の資源自給率向上への貢献と課題

日本は家電製品や携帯電話に不可欠なレアメタルを含む鉱物資源に乏しく、これまで輸入に依存してきました。海底熱水鉱床の開発は、この資源供給の不安定性を大幅に改善する可能性を秘めています。政府の海洋基本計画では、海底熱水鉱床は「今後10年程度を目途に商業化を実現」すると位置付けられており、経済産業省とJOGMECが中心となって開発が推進されています。しかし現在のところ、商業化への道のりはなお遠く、採掘技術の安定化、海洋環境への影響評価、採掘・揚鉱システムの信頼性確保、そして採算性の検証が急務となっています。深海での採掘作業は、水圧・低温・暗黒という極限環境での作業になるため、機器の耐久性確保と無人化・遠隔操作技術の高度化が重要な課題です。また、海底生態系への影響を最小限に抑えるための環境アセスメント技術の開発も進められており、持続可能な海底資源開発の実現が求められています。

 

JOGMEC公式ウェブサイト - 海底熱水鉱床の開発状況と最新情報が掲載されています
経済産業省資源エネルギー庁 - 日本の海洋資源戦略と海底熱水鉱床の位置付けに関する情報

 

 


日本近海に大鉱床が眠る ―海底熱水鉱床をめぐる資源争奪戦― (tanQブックス 8)