ジャスパーウェアは、イギリスの陶芸家ジョサイア・ウェッジウッドが1774年末に完成させた革新的な炻器です。彼は数千回、一説には1万回以上もの試行錯誤を重ね、素地自体に美しい色を持ち、非常に硬く、表面に精緻なレリーフ装飾を施すことができる全く新しい陶磁器の開発を目指しました。特に困難だったのは、焼成時の収縮率の異なる白いレリーフを、色のついた素地に完璧に一体化させる技術でしたが、科学的なアプローチで粘土の配合や焼成温度を徹底的に研究し、この難題を克服しました。
参考)ジャスパーウェア - Wikipedia
1775年に発表されたこの新しい炻器は、美しい碧玉(ジャスパー)に似た質感を持つことから「ジャスパー」と名付けられました。ジョサイア・ウェッジウッドは科学者でもあり、陶芸窯の温度を測定するための高温測定器(パイロメーター)を発明し、それによって他に類を見ない独創的な陶磁器の開発に成功した、陶芸史に残るパイオニアの一人です。
参考)英国ウェッジウッドの「ジャスパーウェア」
ジャスパーウェアの古典主義的なスタイルは一世を風靡し、ヨーロッパ中を席巻しました。それまでのロココ的デザインの陶磁器を一掃し、大陸の諸窯を衰退させるほどの影響力を持ち、以後長い間にわたりウェッジウッド社の象徴、主力商品として発展してきました。
ジャスパーウェアの最高傑作として知られるのが「ポートランドの壺」です。オリジナルは西暦25年頃に古代ローマで作られたカメオ・ガラスの作品で、18世紀にイタリアからイギリスに持ち込まれました。ジョサイア・ウェッジウッドは1790年にこの名品をジャスパーウェアで再現する挑戦に取り組みました。
参考)ポートランドの壺 - Wikipedia
焼成時の装飾部分と壺本体の収縮率の差の調整やガラスの質感の再現に苦労しましたが、4年の歳月をかけて濃紺地に白いレリーフが浮かぶ見事な作品を完成させました。オリジナルの青黒のカメオガラスの色を再現するため、特別なジャスパー素地の配合を生み出し、深いブルーの地に乳白色のレリーフを施しました。
参考)https://www.wedgwood.jp/contents/portland-vase
この作品は1789年に完成し、ジャスパー開発に最初に成功してから十数年にわたる研究・施策の結果として、ウェッジウッドの名声を不動のものにしました。「ポートランドの壺」はウェッジウッドのブランドロゴとしても使用され、同社を象徴する存在となっています。
参考)https://www.le-noble.com/event/luxury94/
1774年12月までに、ジョサイア・ウェッジウッドは「優れた白い素材に美しい青みを加えることができる」と確信し、1775年1月にはペールブルー ジャスパーの舞台が整いました。青のグラデーションはほぼすべて作ることができ、さらに美しいシーグリーンやその他のいくつかの色も作ることができました。
参考)https://www.wedgwood.jp/contents/welcometowedgwood/editorials/guide-to-jasperware
ジャスパーは高温で焼成されたストーンウェアで、最初は全体に色が浸透する密度の高い白いストーンウェアとして完成しました。開発当初は様々な色のジャスパーが作られており、同じ青色でも種類が多く、ムラがでるものはすぐ製造が中止になったといわれています。
参考)https://serendipity.style/blogs/antique-serendipity/2021-9-1
最も象徴的な色である「ウェッジウッドブルー」は、淡いブルーの地に白い優美なレリーフが施されたデザインで、日本でも人気のある西洋陶磁器の一つとなっています。この気品のあるウェッジウッド・ブルーが人気を呼び、ブランドを象徴する一番人気の色として定着しました。
参考)WEDGWOOD ウェッジウッド ジャスパー 小物入れ
ジャスパーウェアには「ディップドカラー」と「ソリッドカラー」という2種類の製法があります。ディップドカラーは胎土に色素を含ませず、外面を青や緑などの色で覆ったもので、内側が白くなっており、外側に色を覆っています。この製法はアンティークの作品でほとんど採用されており、19世紀から20世紀初頭にかけて主流でした。
参考)https://serendipity.style/products/wedgwood-jasper-2
一方、ソリッドカラーは胎土に色素を含ませたもので、現在はこの制作方法が主流となっています。素地に色素を混ぜているため内側も素地の色をしており、近年のジャスパー作品はほとんどがこちらの製法で作られています。
どちらの製法が優れているということではなく、好みの問題ですが、アンティークコレクターの間ではディップドカラーの作品が特に珍重されています。製造年の古い品物から比較的最近のものまで、外観だけでは違いが分かりにくいため、バックスタンプ(刻印)の同定が年代特定には必須となります。
参考)WEDGWOOD ジャスパーウェア
ジャスパーウェアを長く美しく保つためには、適切なお手入れ方法を知っておくことが重要です。基本的なお手入れとして、使用後すぐに温かい水(ぬるま湯)と中性洗剤で洗うことが推奨されます。柔らかいスポンジや布を使用して優しく洗い、研磨剤が含まれる洗剤や硬いブラシ、金属たわしは避けることが、表面を傷つけずに汚れを落とす秘訣です。
参考)ウェッジウッドのジャスパーお手入れ完全ガイドとその秘訣
汚れがひどい場合は、柔らかい歯ブラシや絵筆などで、レリーフの隙間の汚れを優しく落とします。洗浄手順としては、ボールにぬるま湯を入れて中性洗剤を1~2滴たらし、よくかき混ぜてから歯ブラシでシャカシャカ洗い、よくすすいで軽く押しながらふきとり、自然乾燥させます。
参考)フリーダイヤル
黄ばみが発生した場合は、重曹を湿らせたスポンジで優しくこすり、黄ばみを取り除くことができます。重曹は自然な白さを取り戻すのに効果的ですが、力を入れすぎると表面を傷つける可能性があるため、慎重に行う必要があります。お手入れの前には必ずレリーフが剥がれそうになっていないか確認し、食器洗い乾燥機の使用は避け、急激な温度変化も避けるようにしましょう。
ジャスパーウェアは幅広い用途の器物が製作されており、現代でも盛んに生産されています。人気商品としては、マグノリア ブロッサムシリーズの一輪挿しがあり、ペールブルーのものは22,000円で販売されています。このシリーズは2025年のジャスパー250周年を記念して限定登場したもので、底に"250"が刻印された特別な花瓶です。
参考)https://www.wedgwood.jp/whats_new/productsinfo/magnolia-blossom-mink
イヤープレートも人気のコレクションアイテムで、2025年版は16,500円から27,500円程度で販売されています。ギリシャ神話の神々をモチーフとしたデザインが特徴で、2023-2026年はパステルカラーのジャスパーで展開されています。干支トレイは13,200円程度で、日本の家庭で特に人気があります。
参考)https://www.le-noble.com/d/s/sm.php?mk=001amp;sr=00011
アンティーク市場では、1860年以前の古いフラワーベースや1950年〜70年代のヴィンテージのミニプレート、アッシュトレー(灰皿)などが取引されています。楽天市場では3,356件、ヤフーショッピングでは1,602件以上のジャスパーウェア商品が販売されており、幅広い価格帯で入手可能です。
参考)【楽天市場】ウェッジウッド ジャスパーの通販
ジャスパーウェアはコレクションアイテムとして飾るだけでなく、特別なシーンを演出する際にも活躍します。イヤープレートの干支シリーズは、毎年の干支をモチーフにしたデザインで、伝統的な和のインテリアに自然に溶け込みます。玄関やリビングの目立つ場所に置くことで、新年の訪れを華やかに演出でき、プレートスタンドを使うことで高さを出し、他のインテリアと組み合わせて立体的に飾るとより一層の魅力を引き立てます。
参考)ウェッジウッドのオーナメントの飾り方とアドベントカレンダーの…
キュリオケース(ディスプレイキャビネット)を使用すると、照明もついていて、コレクションを美しく見せることができます。むきだしのまま台の上に飾ってもいまいちだった小物が、とてもきれいにみえ、ホコリも防げますし、破損の心配もありません。並べ方のコツとしては、背の高いものと低いものをバランスよく配置し、数をそろえて5~6点一カ所にまとめてドカンと置くと魅力が倍増します。
参考)コレクションの飾りかた - 室内装飾の基本
オーナメントを収納する際は、一つずつ柔らかい布や専用のクッション材で包み、擦れや衝撃から守るようにします。湿気が高い場所に保管すると陶器や塗装にダメージが及ぶことがあるため、乾燥した場所での保管が理想で、直射日光を避けることで色褪せを防ぐことができます。
18世紀から、ジャスパーウェア製のアクセサリーはジュエリーとして愛されてきました。もともとはジョサイアが奴隷解放運動の一環として作ったメダリオンが始まりです。共同経営者で奴隷解放運動の盟友でもあったトーマス・ベントレーが50歳で早逝した後、傷心のジョサイアは奴隷解放運動に打ち込んでいきました。
参考)http://www.setubikougyo.co.jp/publication/column/column409.pdf
1787年、ジョサイアは奴隷解放のジャスパー・メダリオン(碧玉のメダル)を自費で制作し、無償で配布しました。メダルには「私は人間ではないのか、仲間ではないのか?」と記され、ひざまずく黒人奴隷が描かれていました。アメリカ独立革命を指導したベンジャミン・フランクリンにも手紙を添えて送り、アメリカ議会図書館に保存されました。
参考)ウェッジウッド「女王陛下の陶工と呼ばれた男」 Vol.7
メダリオンは人々の帽子や服、髪などに飾られ、解放運動は広がっていきました。現代でもジャスパーウェアのブローチやネックレスは人気があり、シルバー枠にブルーのジャスパーを組み合わせたヴィンテージアクセサリーは11,800円から13,800円程度で取引されています。黒いジャスパーウェアを使用したアンティークブローチも、その希少性から珍重されています。
参考)イギリスから届いたウェッジウッドのブローチ、黒いジャスパーウ…