パイロメーター放射温度計違いと測定原理特徴

パイロメーターと放射温度計には違いがあるのでしょうか。両者の呼び方の違いや測定原理、高温測定における特徴、産業用途での使い分けについて詳しく解説します。その違いを知ることで最適な温度測定方法を選択できるでしょうか。

パイロメーター放射温度計違い

パイロメーターと放射温度計の関係
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基本的に同じ装置

パイロメーターと放射温度計は同一の非接触温度測定装置を指す異なる呼称です

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歴史的背景の違い

パイロメーターは高温測定用として発展し、放射温度計は常温付近も測定可能な現代的呼称です

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測定温度範囲

パイロメーターは-40℃~3000℃、放射温度計は常温から高温まで幅広く対応します

パイロメーターと放射温度計の呼び方の違い

パイロメーターと放射温度計は、実際には同じ非接触温度測定装置を指す異なる呼称です。パイロメーター(Pyrometer)という名称は、ギリシャ語で火を意味する「πυρ」に測定を意味する「メーター」を組み合わせた言葉で、元々は白熱状態(少なくとも赤熱)の物体から放出される可視光によって温度を測定する機器を指していました。
参考)放射温度計 PYROSPOT

 

一方、放射温度計は現代的な呼び方で、赤外線の放射束を検知することにより、対象物の温度が常温付近でも測定できる装置を指します。業界や地域によって呼び方が異なるものの、どちらも物体が放出する熱放射を利用して非接触で温度を測定する原理は同じです。
参考)パイロメーター - Wikipedia

 

日本国内の製造現場では「パイロメーター」という呼称が多く使われ、特に鉄鋼業や窯業など高温を扱う産業分野で定着しています。一方、計測器メーカーのカタログでは「放射温度計」や「赤外線温度計」という表記が一般的で、より広い温度範囲に対応する製品として紹介されています。
参考)ファウンテンパイロメーター

 

興味深いことに、陶芸家ジョサイアウェッジウッドが初めて窯内部の温度を測定するパイロメーターを発明した際、当初は既知の温度で焼成された粘土の色を比較するものでしたが、最終的には窯の温度によって変わる粘土の収縮を測定する方式に進化しました。これは高温測定における実用的な工夫の歴史を示しています。
参考)「パイロメーター」の意味や使い方 わかりやすく解説 Webl…

 

放射温度計の測定原理と仕組み

放射温度計の測定原理は、物体の表面から放射される赤外線エネルギーの強度を測定することに基づいています。すべての物体はその表面温度に応じて赤外線を放射しており、温度が高いほど多くの赤外線が放出されます。
参考)放射温度計の原理・種類・特徴について

 

具体的な仕組みとして、放射温度計はレンズで集光した赤外線をサーモパイルと呼ばれる検出素子に集めます。サーモパイルは赤外線を吸収すると温度変化を起こし、それを電気信号に変換します。この電気信号は増幅され、シュテファン=ボルツマンの法則に基づいて温度値に換算されます。
参考)放射温度センサの基礎

 

シュテファン=ボルツマンの法則によれば、物体からの熱放射 j* は、物体の温度Tの4乗に比例し、放射率εとシュテファン=ボルツマン定数σを用いて j* = εσT⁴ と表されます。この関係式から、検出器が受け取った赤外線エネルギーから対象物の温度を逆算できます。
放射温度計の大きな特徴は、測定対象と直接接触する必要がない点です。これにより、動いている物体、危険な高温物体、遠方の物体、衛生管理が必要な食品などの温度測定が可能になります。また、赤外線を利用するため応答速度が熱電対や測温抵抗体より格段に速く、高速で移動する鋼材の温度測定などにも活用されています。
参考)https://www.testo.com/ja-JP/products/jp_products_about_infrared_thermometer

 

パイロメーターの高温測定における特徴

パイロメーターは特に高温域での測定に優れた特性を持つ温度計です。測定範囲は製品によって異なりますが、-40℃から3000℃までの幅広い温度に対応しており、特に中高温域(500℃以上)での測定精度が高いことが特徴です。
参考)30~3,500℃用パイロメーター

 

高温測定における重要なポイントは、短波長での測定です。放射率の不正確さに起因する物理的な温度測定エラーを最小限に抑えるには、短波長で測定する必要があります。これは高温物体ほど短波長側の放射エネルギーが増加するためで、この特性を利用することで測定精度が向上します。
圧延中のように高速に移動する鋼材の温度を調べる際には、非接触で測定が可能なパイロメーターが不可欠です。日本製鉄では「ファウンテンパイロメーター」という専用の測定システムを開発し、製鋼プロセスの品質管理に活用しています。このように重工業の現場では、過酷な環境下でも安定して高温測定ができる堅牢なパイロメーターが求められています。
参考)放射温度計および2色温度計 PTROSPOT シリーズ80

 

また、高温環境に適した光ファイバーパイロメーターも存在します。光ファイバーを用いることで、センサー本体を高温環境から離れた場所に設置でき、測定部のみを高温域に配置できるため、装置の耐久性が向上します。
参考)https://www.mdpi.com/1424-8220/18/2/483/pdf

 

放射率設定と測定誤差の関係

放射温度計で最も重要かつ誤解されやすい要素が放射率(ε:イプシロン)です。放射率とは、物体がどれだけ効率的に赤外線を放射できるかを示す指標で、完全に赤外線を放射する理想的な物体(黒体)を1.0としたとき、実際の物体がどれくらい放射できるかを0~1.0で表します。
参考)温度のプロが解説!知らないと危険な放射温度計の誤差と正しい対…

 

放射率が高い(1.0に近い)物体には、つや消し塗装面、人の皮膚、水、木材、プラスチックなどがあります。一方、放射率が低い(0に近い)物体は、磨かれた金属(アルミ、ステンレス、金など)です。
参考)https://www.jemima.or.jp/tech/file/JEMIMA%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E8%A8%88%E6%B8%AC%E3%81%AEFAQ%20%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E8%A8%88%E3%81%A8%E6%8E%A5%E8%A7%A6%E5%BC%8F%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E8%A8%88%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%8C%87%E7%A4%BA%E5%80%A4%E3%81%AE%E5%B7%AE%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0.pdf

 

放射率設定の誤りは大きな測定誤差を生みます。具体例として、真の温度が300℃で放射率0.2の金属を、設定0.95で測定すると、表示温度は約115.5℃と極端に低くなります。別の例では、放射率0.90、温度300℃の物体を誤って放射率0.95と設定すると、-9.3℃の誤差が生じ、放射温度計は291℃を表示します。
参考)放射率の正しい設定の仕方 - HORIBA

 

多くの放射温度計は工場出荷時に放射率0.95に設定されていますが、測定対象に応じて適切に調整する必要があります。放射率が不明な物体の場合は、接触式温度プローブで実測温度を確認しながら、放射温度計の放射率設定を調整して一致させる方法が推奨されます。

2色式パイロメーターの利点と用途

2色式パイロメーター(2色温度計)は、放射率の影響を受けにくい測定方式として産業界で広く採用されています。この方式は2つの異なる波長帯で被写体から放射されるエネルギーを検出し、その比で温度を算出します。
参考)275℃から測定可能な2色式のパイロメータ(2色式放射温度計…

 

単色式のパイロメーターでは、算出される温度が被写体の放射率に大きく依存しますが、2色式では2つの波長帯の比を使って温度を算出することで、放射率の影響を大幅に低減できます。これにより、放射率が不明な物体や、測定中に放射率が変化する物体の温度測定が可能になります。
2色式パイロメーターの大きな利点は、被写体との間の窓材が多少汚れていても測定できることです。工場などの実際の使用環境では、測定窓に粉塵や油煙が付着することが避けられませんが、2色式では両方の波長帯が同じ減衰を受けるため、比を取ることで影響が相殺されます。
測定温度範囲は製品によって異なり、275℃から3000℃まで対応するモデルがあります。特に金属加工、鋳造、溶接などの高温プロセスにおいて、2色式パイロメーターは信頼性の高い温度管理を実現します。また、同軸レーザーを搭載したモデルでは測定点の確認が容易で、位置合わせが簡単に行えます。

産業用途での使い分けと選定基準

パイロメーターと放射温度計の選定では、測定対象の温度範囲、物体の移動速度、環境条件を考慮する必要があります。ポータブル型は点検やメンテナンスで威力を発揮し、設置型は生産ラインでの連続監視に適しています。
測定距離と測定視野の関係を示すスポット比も重要な選定基準です。対象が離れている、または対象が小さい場合は、2ポイントや4ポイントのレーザーポインターを搭載したモデルが測定エリアを正確に示すため適しています。熱画像型の放射温度計は温度分布を可視化でき、一目で温度分布が把握できるため、設備診断や品質管理に有効です。
鉄鋼業では圧延鋼材の温度管理に専用のパイロメーターが使用され、窯業では焼成プロセスの温度監視に高温対応モデルが不可欠です。食品製造では衛生管理の観点から非接触測定が重視されます。
研磨された金属のように反射率の高い物体は測定に適さないため、このような対象には2色式パイロメーターの使用や、表面に黒体テープを貼るなどの工夫が必要です。また、対象物質の内部温度まで測定することはできず、あくまで表面温度の測定に限定されることを理解しておく必要があります。
失敗しない放射温度計ガイド(チノー株式会社)
放射温度計の基礎知識と選定方法について、実用的なQ&A形式で詳しく解説されています。

 

放射率の正しい設定の仕方(HORIBA)
放射率設定と測定誤差の関係について、具体的な計算例とともに解説されており、正確な温度測定のための参考資料として有用です。