熱放射とは、物体から電磁波として熱エネルギーが放出される現象を指します。すべての物質は温度に応じて電磁波を放射しており、その主成分は赤外線です。赤外線は波長が約0.78μmから1000μm程度の範囲にあり、可視光線よりも波長が長い電磁波の一種です。この赤外線が他の物体に吸収されると、物質内の分子が振動して温度が上昇する仕組みになっています。
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熱放射の大きな特徴は、熱伝導や対流と異なり、中継する物体を必要としない点です。そのため、空間や真空中においても熱が移動できます。太陽と地球の間は真空に近い宇宙空間ですが、太陽から放射される電磁波によって地球に熱が届くのはこの原理によるものです。
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物体の温度が高いほど、より短い波長の電磁波を放射します。例えば、発熱体の温度が高い場合は近赤外線領域に、温度が低い場合は遠赤外線領域に最大波長を持つ電磁波を放射します。室温における熱放射の主成分は赤外線であり、私たちの日常生活の中で常に起こっている現象です。
参考)熱放射 - Wikipedia
最も身近な熱放射の例は太陽です。太陽の表面温度は約6000度で、そこから放出される電磁波が地球に届いて私たちを温めます。晴れた日に日向にいると温かく感じるのは、太陽からの熱放射によるものです。興味深いのは、太陽と地球の間の宇宙空間は非常に低温ですが、熱放射は真空中でも伝わるため、電磁波として熱エネルギーが届くのです。
焚き火も熱放射の分かりやすい例です。焚き火に近づくと火から直接熱を感じますが、これは火が赤外線を放射しているためです。火との間に空気があっても、電磁波によって熱が伝わるため、離れた場所でも暖かさを感じることができます。
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真夏のアスファルトも熱放射の典型例です。アスファルトは太陽の熱を吸収し、それを赤外線として放出しています。そのため、夏の日中にアスファルトの上に立つと、地面からの輻射熱によって非常に暑く感じるのです。この熱放射による温度上昇を防ぐために、日傘をさしたり、地面に水を撒く「打ち水」という伝統的な方法が活用されています。
暖房器具の多くは熱放射を利用しています。電気ストーブは、電気で内部を熱して熱放射により周辺を暖めます。ストーブの前に立つと、直接触れていなくても暖かく感じるのは、ストーブから放射される赤外線が体に吸収されるためです。部屋全体がだんだん暖まってくるのは、熱放射だけでなく対流によるものです。
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こたつも熱放射を巧みに利用した暖房器具です。こたつの発熱体から放出される赤外線などの電磁波によって、こたつ内の空気が暖められます。また、こたつ布団の中で空気が自然に対流し、さらに布団やマットに直接触れることで伝導も発生するため、3つの熱移動が複合的に働いて効率よく体を温めます。
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電子レンジは熱放射の応用例として特に興味深い製品です。電子レンジが放出する電磁波(マイクロ波)が食品内の水の分子を振動させることで、食品を加熱します。この仕組みは、従来の加熱方法とは異なり、外部から内部へ熱を伝えるのではなく、食品自体の分子を直接振動させて発熱させるため、素早く均一に温めることができます。
参考)電気ヒーター そもそも href="https://www.showa.co.jp/matchinglab/industrialheater/" target="_blank">https://www.showa.co.jp/matchinglab/industrialheater/amp; あれこれ
陶器や食器には遠赤外線を放射する特性があり、調理や食事の温度保持に活用されています。陶磁器の内面に磁性体を塗布して焼結すると、電子レンジによる加熱時にマイクロ波を吸収し、遠赤外線や赤外線の波長に転換して陶磁器の内部に放射します。この仕組みにより、加熱の熱効率が高まり、食材の旨味を引き出すことができます。
参考)https://patents.google.com/patent/JPWO2006129829A1/ja
遠赤外線放射率が高い陶器は、他の一般的なお皿と比べて食材への熱の伝わり方が効率的です。遠赤外線はあらゆる物質から発しており、金属以外の物質は遠赤外線を吸収する性質があります。そのため、遠赤外線放射率90%前後という特性を持つ耐熱食器は、食材の内部まで均一に熱を伝え、調理の品質を向上させます。
参考)さざなみ
天然石を独自にブレンドして焼き上げた陶器の中には、鉛やカドミウムなどの有害物質を一切含まず、遠赤外線の効果を半永久的に発揮するものもあります。こうした陶器は、料理を美味しくするだけでなく、健康面でも安心して使用できる食器として注目されています。遠赤外線による加熱は分子振動エネルギーによるもので、素材の化学的品質変化が少なく、均一に温度が上昇するため、安全な調理が可能です。
参考)遠赤外線で料理が美味しくなる食器 鉛不使用 森修焼 お鉢|健…
熱放射のメカニズムを理解する上で重要なのは、物体の温度と放射される電磁波の波長の関係です。ウィーンの変位則によると、熱放射の最大波長は発熱体の温度に反比例します。つまり、発熱体の温度が高ければ近赤外線領域に、低ければ遠赤外線領域に最大波長をもつ電磁波を放射するのです。
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物体から放射される熱エネルギーは、ステファン・ボルツマンの法則によって表されます。この法則によれば、放射エネルギーは物体の絶対温度の4乗に比例します。そのため、対流や熱伝導による加熱と比較しても、温度に対して大きく変化します。物体温度が常温程度であれば放射によるエネルギーは無視できますが、高温になればなるほどその差は大きくなり、放射による加熱が有利になります。
赤外線は波長によって近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分類されます。近赤外線は波長が0.7~2.5μm程度で、2000℃程度の高温物体から放射されます。一方、遠赤外線は波長が3μm~1mm程度で、数百度から1000℃程度のヒーターから主に放射されます。この波長の違いにより、加熱対象や用途に応じて最適な赤外線ヒーターを選択することができます。
参考)赤外・遠赤外加熱の原理
熱移動の3原則(熱伝導・対流・熱放射)についてメカニズムを詳しく解説 - シモテック株式会社
熱放射の基礎から応用まで、熱伝導・対流との違いを含めて分かりやすく解説されています。
熱放射の波長について - ヒートテック
ウィーンの変位則やステファン・ボルツマンの法則など、熱放射の科学的なメカニズムが詳しく説明されています。