放射温度計デメリットと測定誤差を防ぐ温度管理のコツ

陶器や食器の温度を測る際に便利な放射温度計ですが、実は多くのデメリットが存在します。放射率設定ミスや測定距離の誤りが大きな誤差を生む原因に。正しい測定方法をご存知ですか?

放射温度計のデメリットと温度測定の注意点

放射温度計の主な問題点
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表面温度しか測れない

陶器や食器の内部温度、容器の中身の温度は測定不可能です

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放射率設定が複雑

材質ごとに異なる放射率の設定ミスが大きな測定誤差を引き起こします

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測定距離と視野の制約

距離が変わると測定範囲が変化し、視野欠けによる誤差が発生します

放射温度計は非接触で温度を測定できる便利な機器ですが、いくつかの重大なデメリットが存在します。最も基本的な制約として、放射温度計は物体の表面温度しか測定できないため、陶器や食器の内部温度、あるいは容器に入った液体の温度を直接測ることはできません。また、測定対象の材質や表面状態によって測定精度が大きく左右されるという特性があります。
参考)放射温度計の比較表一覧 レンタルなら

放射温度計の放射率設定ミスによる測定誤差

 

放射温度計で最も重要かつ誤解されやすいデメリットが放射率の設定問題です。放射率とは、物体がどれだけ効率的に赤外線を放射できるかを示す指標で、完全黒体を1.0としたときの0から1.0の範囲で表されます。多くの放射温度計は工場出荷時に放射率0.95に設定されていますが、実際の測定対象物の放射率と異なる場合、大きな測定誤差が生じます。
参考)温度のプロが解説!知らないと危険な放射温度計の誤差と正しい対…

例えば、真の温度が300℃で放射率0.2の金属を、設定0.95で測定すると、表示温度は約115℃と極端に低くなってしまいます。陶器の場合、一般的に放射率は0.9から0.95程度ですが、釉薬の種類や表面の光沢によって値が変動するため注意が必要です。​
放射率の正しい設定方法として、接触式温度計で実際の温度を測定し、放射温度計の放射率を調整して同じ値になるまで設定を変更する方法が推奨されています。また、黒体テープ(放射率0.95)を測定対象に貼り付けて測定する方法も有効です。
参考)放射率の正しい設定方法と標準放射率表

放射温度計の測定距離と視野欠けの問題

放射温度計には測定距離と測定範囲の関係を示すD:S比(距離:スポットサイズ)という仕様があります。例えばD:S比が60:1の場合、距離1.5mでは直径2.5cmの円形範囲を、距離3mでは直径5cmの範囲を測定します。測定範囲よりも測定対象物が小さい状態を「視野欠け」といい、対象物以外の周囲の温度も含めて測定してしまうため、正確な温度測定ができません。
参考)https://www.aandd.co.jp/pdf_storage/tech_doc/sp/t_radiation_thermometer.pdf

食器や陶器の温度を測定する際は、測定したい部分が測定範囲よりも十分に大きいことを確認する必要があります。また、距離が離れるほど測定範囲が広がるため、小さな対象物を測定する場合は近距離から測定することが重要です。
参考)https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/content/safetyreport/000004826.pdf

視野欠けが発生すると、測定値がブレたり低く表示されたりする現象が起こります。陶器や食器の特定部位の温度を正確に測りたい場合は、レーザーポインタで測定位置を確認しつつ、適切な距離を保つことが求められます。
参考)食品用放射温度計 佐藤計量器製作所 公式オンラインショップ

放射温度計で測定できない材質と反射の影響

放射温度計には測定が苦手な材質が存在します。水やガラスなど光を透過する物質、また金属のように光沢があり反射率の高い物質は正確な測定が困難です。これは放射率が低い物体ほど反射率が高くなり(放射率+反射率=1)、周囲からの赤外線を反射して温度計に届けてしまうためです。
参考)【温度計測】放射温度計の原理、メリットデメリットは? - エ…

特に光沢のある釉薬を施した陶器や、金彩・銀彩を施した食器の場合、反射の影響で測定値が不安定になる可能性があります。対策として、測定対象物の表面に黒体テープを貼るか、黒色スプレーで光沢を除去する方法があります。ただし、陶器や食器の場合は製品を傷める可能性があるため、耐熱温度以下で慎重に作業する必要があります。
参考)放射温度計を使用するメリット・デメリットはなんですか?

周囲の熱源からの反射も大きな誤差要因となります。例えば、高温の窯や炉の近くで陶器の温度を測定する場合、炉壁からの強い赤外線が陶器表面で反射して温度計に届き、実際よりも高い温度が表示されることがあります。
参考)測定上の注意点 - HORIBA

放射温度計の温度ドリフトと環境変化への対策

あまり知られていないデメリットとして、環境温度の急激な変化による温度ドリフトがあります。放射温度計を保管場所から使用場所に移動させるなど、周囲温度を急に変えると赤外線センサーや光学系の温度変化によって測定値にドリフトが生じ、測定誤差が発生します。
参考)放射温度計の選び方 - HORIBA

例えば、気温26℃の部屋に保管していた放射温度計を5℃の部屋へ持ち込んだ場合、温度計が環境に適応するまで数分間の待機時間が必要です。冬季に温かい車内から取り出した放射温度計を直ちに測定に使用することは避け、外気温に一定時間慣らすことが重要です。
参考)https://www.pwrc.or.jp/tpt/pdf/radiation_thermometer.pdf

カタログに記載されている温度ドリフトの値は、十分時間が経過したときの指示差を示していますが、過渡的な温度ドリフトについては記載されていないことが多いため注意が必要です。陶芸工房や厨房など、温度変化の大きい環境で使用する場合は、この特性を理解しておくことが測定精度の向上につながります。​

放射温度計使用時の水蒸気と光路障害物の影響

測定対象物と放射温度計の間に水蒸気などが大量に存在すると、赤外線が吸収されて光学部(レンズ)に到達する赤外線が減少し、温度を低く読むことになります。特に陶器の窯出し直後や、調理中の食器を測定する場合、湯気や水蒸気の影響で正確な測定ができない可能性があります。​
大気中に含まれる水蒸気(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)は、特定の波長の赤外線を強く吸収します。ただし、現代の放射温度計の多くは8~14μmの波長帯を使用しており、この範囲は大気の窓と呼ばれ、水蒸気や二酸化炭素の吸収が比較的少ない領域です。測定距離が1m以下の場合、ほとんど影響を受けませんが、距離が長くなるほど影響が大きくなります。
参考)放射温度計とは?原理や使い方、メリット・デメリットも解説

また、レンズや反射鏡の曇りや汚れによっても温度を低く読むことになります。定期的なレンズの清掃が正確な測定には欠かせません。光路中に窓ガラスなどが置かれている場合も、放射エネルギーの吸収および散乱により測定誤差が生じます。
参考)温度が正確に測れない際のトラブルシューティング

放射温度計の選び方と測定上の注意点について詳しく解説(堀場製作所の技術資料)
放射温度計の基本とトラブル対策のQ&A集(チノー株式会社の総合ガイド)