アルクールは「ワイン専用」と思っている方が多いですが、実は1客でウイスキーにも日本酒にも使えるオールラウンダーです。
バカラ社は1764年、フランス・ロレーヌ地方のバカラ村でルイ15世の勅許を受けて誕生したガラス工場です。当初は窓ガラスや一般的なガラス製品を手がけていましたが、1816年にクリスタル製造技術を確立し、以降その美しさで世界を席巻していきます。
アルクールの起源は1825年にさかのぼります。フランス貴族・アルクール侯爵家の婚礼のために特別に制作されたデザインが、現在のアルクールの原型とされています。「アルクール(Harcourt)」という名前そのものが、この貴族の名前に由来しているのです。意外ですね。
その後、時は流れて1841年。フランス国王ルイ・フィリップより王室の正餐用グラス制作の命を受けたバカラが完成させたのが、現在私たちが目にする形のアルクールです。側面に施されたシャープなフラットカット、ずっしりとした重厚なフォルム、そして高い透明度。つまり1841年が「現行アルクールの誕生年」です。
発表後のアルクールは、ただのグラスの域を超えて歴史に刻まれていきます。ナポレオン3世はエリゼ宮の公式晩餐会でアルクールを採用。さらに1917年にはカトリックの総本山・バチカンでも聖杯に似た形状が評価され、正式採用されたという記録が残っています。ヨハネ・パウロ2世やタイ女王、モロッコ国王など、名だたる世界のリーダーたちが手にしてきたグラスでもあります。これが「王者たちのグラス」と呼ばれる所以です。
アルクールのデザインで最も特徴的なのは、グラス側面に施された「フラットカット」です。このカットは職人がホイール(砥石)と呼ばれる工具を使い、クリスタルの表面を平らに削ることで生み出されます。鉄・木盤・コルク盤といった素材の異なる回転盤を使い分け、研磨まで一気に仕上げる技は、熟練の職人だけが持つ技術です。
素材はフルレッドクリスタルガラス、つまり酸化鉛を30%以上含むクリスタルです。鉛含有率が高いほど、光の屈折率・透明度・打音の美しさに差が出ます。透明度が高いのが基本です。アルクールの赤いカラーバリエーション(レッドボタンなど)については、金を配合することで深い赤を発色させており、これも1450℃の高温溶融クリスタルに加えられる独自のレシピによるものです。
製造はすべて、フランス・ロレーヌ地方のバカラ工場で行われています。アルクールを1客仕上げるのに要する時間は10時間、関わる一流職人の数は30人にのぼるとされています。東京の腕時計職人1人が1日かけてする作業が、クリスタルグラス1個のために30人体制で行われているイメージです。これは使えそうです。
また、アルクールのステム(脚)の部分にはノブと呼ばれる丸い装飾が施されており、これがデザイン上の大きなアクセントになっています。このノブの有無・形状が派生モデルとの違いを見分けるポイントにもなります。重さは一般的なワイングラスが100〜150g程度であるのに対し、アルクールのワイングラスは340g(0.34kg)と倍以上の重厚感があります。
アルクールのワイングラスは、現行のバカラ公式価格で1客36,300円〜となっています。カラーなしのクリアクリスタルでこの価格ですが、これにはすべての工程がハンドメイドであることが反映されています。価格帯は以下のように幅があります。
| 種類 | 価格目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| アルクール ワイングラス(クリア) | 36,300円〜 | スタンダード定番モデル |
| アルクール ワイングラス(レッドボタン)2客セット | 93,500円 | 金配合の赤が特徴的 |
| アルクール イヴ ワイングラス | 33,000円〜 | 女性的な曲線フォルム |
| エンパイア(金彩モデル) | 80,000円以上 | 全面に金彩アンピール模様 |
| デキャンタ | 200,000円程度 | アルクールシリーズの最高峰 |
アルクールを元に生まれた派生モデルも充実しています。アルクール イヴはバカラの主幹デザイナー・トーマ・バスティードが手がけた女性版アルクールで、丸みと柔らかさを前面に出したデザイン。価格はスタンダードより若干控えめで、33,000円〜となっています。エンパイアは全面に金彩アンピール模様を施した、帝国の名を冠するシリーズで、アルクールの中でも最高峰に位置します。ダークサイドはデザイナー・フィリップ・スタルクとのコラボ作で、クリアクリスタルの内側にブラッククリスタルを流し込んだ一点もの的な迫力があります。
グラスの種類もワイングラスだけではなく、ロックグラス・ハイボールグラス・タンブラー・シャンパングラス・リキュールグラスなど豊富にそろっています。1客あたりのサイズは容量17cl(170ml)とやや小ぶりで、高さは約13.6cm。ほぼ文庫本の縦幅くらいのサイズ感です。
3万円以上するアルクールを長く使いたいなら、お手入れの知識は必須です。クリスタルガラスは一般的なガラスと比べて靭性(割れにくさ)が低く、割れやすいという性質があります。お手入れに注意が必要なのが原則です。
バカラ公式は食洗機の使用を条件付きで認めています。「こわれもの」サイクル設定、弱水流、水温40℃以下の3条件がすべてそろう場合に限ります。水温が40℃を超えると、水道水に含まれるミネラル分や化学物質がクリスタル表面に付着し、白く曇る原因になります。痛いですね。これを防ぐためにも、基本的には手洗いが最善策です。
手洗いの際には次の点を守ってください。
もし白い曇りが生じてしまった場合、原因が水垢(カルシウム・ミネラル分)なら、ぬるま湯にクエン酸大さじ1〜2を溶かした液体に10〜15分つけ置きすることで対処できます。クエン酸の酸性がミネラルを溶かしてくれる仕組みです。市販のクエン酸粉末(100円ショップでも購入可)で試せる簡単な方法なのでメモしておいてください。
アルクールを中古・ヴィンテージで狙う方が増えています。新品の約半額以下で手に入るケースもあることが、中古市場での注目度を高めている理由です。ただし、偽物の流通も皆無ではないため、見分け方を知っておく必要があります。
本物のバカラを識別する最も確実な方法は「刻印の確認」です。年代によって刻印の仕様が変わっています。
偽物の多くは、刻印が簡素化・省略されているか、文字の均一性が低い点で見分けられます。本物である証は刻印の精密さにあります。また、クリスタルの透明度と重量感も重要な判断材料です。偽物の多くはクリスタル素材ではなく一般ガラスを使用しているため、明るい場所でグラスを目の高さより高く持ち上げて確認すると透明度の違いがわかります。
中古相場については、単品(1客)で3,000〜6,000円、ペアセット(未使用品)で16,000〜20,000円前後が目安です。アルクール ワイングラス6客セットなら5,000〜1万円前後という買取情報もあります。状態・刻印の有無・箱の有無によって大きく変動するため、購入前に複数のプラットフォームで相場を確認することを推奨します。

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