炭素当量(Ceq)はJIS規格で明確に定義されており、鋼材の溶接性を評価する重要な指標です。JIS G 3106やJIS G 3475などの規格では、炭素当量を以下の計算式で求めます。
参考)JISG3475:2016 建築構造用炭素鋼鋼管
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
この計算式では、溶鋼分析値を用いることが規定されています。溶鋼分析とは、鋼を製造する際の溶融状態で採取した試料を分析する方法で、製品分析よりも製造段階での化学成分を正確に反映します。
参考)https://www.jisf.or.jp/business/tech/seihinkitei/documents/MDCR0004-2015_SM520B.pdf
計算式に規定された元素(C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V)は、添加の有無にかかわらず必ず分析し、計算に用いることが求められています。これは、微量元素であっても溶接性に影響を与えるためです。
参考)https://www.ns-kenzai.co.jp/pdf/a1/a1_2.pdf
JIS規格では炭素当量の上限値も定められており、例えばJIS G 3475(建築構造用炭素鋼鋼管)では鋼種に応じて0.36%以下や0.44%以下などの基準が設定されています。
参考)https://www.structure.jp/databook/data131.htm
日本語Wikipedia「炭素当量」- JIS規格の計算式と基本概念についての参考情報
炭素当量が大きくなると、溶接時の熱影響部(HAZ)の硬化が顕著になり、低温割れが発生しやすくなります。この現象は、溶接による急速な加熱・冷却によって硬くて脆いマルテンサイト組織が形成されることが原因です。
参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/70/16/KJ00002713887.pdf
溶接熱影響部の最高硬さと炭素当量には明確な相関関係があり、以下の経験式で表されます。
参考)https://www.goodweld.com.tw/upload/product/th-27.pdf
HVmax=1200×Ceq-200
例えば炭素当量が0.4%の場合、最高硬さは約280HVに達する計算になります。この硬化が進むと、溶接後の冷却時に水素誘起割れなどの低温割れが発生するリスクが高まります。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0050020060
板厚も重要な要因で、板厚が25mm以上になると溶接部が急冷されやすく、炭素当量が大きい鋼材ではさらに割れやすくなります。そのため、炭素当量が大きい材料では、材質に応じた予熱を施して冷却速度を遅くすることが必要です。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0020040160
予熱温度の目安として、以下の簡易計算式が実務でよく使用されています。
予熱温度(℃)=炭素当量(%)×350
溶接情報センター「炭素鋼を類別して溶接するときの注意点」- 炭素当量と溶接割れの関係についての詳細解説
炭素当量Ceqとは別に、溶接割れ感受性組成PCM(%)という指標も使用されます。PCMの計算式は以下の通りです。
参考)https://www.jfe-steel.co.jp/products/building/assets/pdf/binran/binran_chapter01.pdf
PCM(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B
PCMは日本溶接協会(WES)のy割れ試験結果をもとに改良された式で、より正確に溶接割れ感受性を評価できます。JIS規格では、受渡当事者間の協定により、炭素当量の代わりにPCMを適用することも認められています。
参考)http://www.sanwacolumn.com/seihin_4.html
CeqとPCMの主な違いは以下の通りです。
参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/58/13/KJ00002709416.pdf
建築構造用鋼材では、炭素当量が0.44%以下、PCMが0.29%以下などの基準が設けられています。
参考)https://www.jisf.or.jp/info/book/TMCP.pdf
| 指標 | 計算式の特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| Ceq |
基本的な溶接性評価 |
一般構造用・溶接構造用鋼材 |
| PCM | 割れ感受性の精密評価 | 高張力鋼・厚板材料 |
日本鉄鋼連盟「建築構造用520N/mm²鋼材」- 炭素当量とPCMの規格値についての公式資料
JIS規格では、鋼材の種類ごとに炭素当量の上限値が定められており、溶接構造物の安全性を確保しています。主要な鋼材規格における炭素当量の基準は以下の通りです。
一般構造用圧延鋼材(JIS G 3101)
溶接構造用圧延鋼材(JIS G 3106)
建築構造用圧延鋼材(JIS G 3136)
建築構造用炭素鋼鋼管(JIS G 3475)
建築構造用鋼材では、炭素当量に加えて溶接割れ感受性組成PCMも管理されており、PCMは0.26%以下から0.29%以下の範囲で規定されています。これにより、地震などの災害時にも安全性を確保できる溶接品質が保証されます。
日本産業標準調査会「JIS G 3475:2016 建築構造用炭素鋼鋼管」- 炭素当量の計算方法と基準値の詳細
炭素当量の管理は、鉄鉱石の製錬から最終製品まで一貫した品質管理体制のもとで行われます。特に製鋼工程における溶鋼分析は、炭素当量を正確に算出するための基礎データとなります。
溶鋼分析の実施タイミングと精度管理
溶鋼分析は、転炉や電気炉での精錬終了後、取鍋(レードル)に出鋼された段階で試料を採取します。この段階での化学成分が、最終的な鋼材の性質を決定する重要な要素となります。分析対象となる元素は、C(炭素)、Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、P(リン)、S(硫黄)の基本5元素に加えて、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)などの合金元素も含まれます。
鉄鉱石の段階では、主に鉄(Fe)の含有量と不純物の管理が重視されますが、製鋼工程で添加される合金元素も炭素当量に影響を与えます。高炉での製銑工程では炭素含有量が約4%の銑鉄が生成されますが、これを転炉で酸素吹錬することで炭素量を0.02~2%程度まで調整します。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1705/10/news018.html
意外な事実: 添加しない元素も必ず分析する理由
JIS規格では「計算式に規定された元素は、添加の有無にかかわらず分析し、計算に用いる」と明記されています。これは一見不思議に思えますが、スクラップ材の混入や原料鉱石に含まれる微量元素が、意図せず最終製品に残存する可能性があるためです。
例えば、ニッケルやクロムを添加していない一般構造用鋼であっても、使用したスクラップ材にステンレス鋼が混入していれば、これらの元素が微量に含まれる可能性があります。こうした微量元素でも溶接性に影響を与えるため、全元素の分析が義務付けられているのです。
炭素含有量が機械的性質に与える影響は極めて大きく、炭素量が増えると引張強度と硬度が向上する一方で、延性(伸び能力)が減少します。純鉄(炭素量0.02%以下)は軟らかすぎて実用的ではなく、逆に炭素量が多すぎると「硬くてもろい」材料になってしまいます。
| 炭素含有量 | 材料分類 | 硬度の傾向 | 溶接性 |
|---|---|---|---|
| 0.02%以下 | 純鉄 | 非常に軟らかい | 良好 |
| 0.02~0.3% | 低炭素鋼 | 適度な硬度 | 良好 |
| 0.3~0.6% |
中炭素鋼 |
高硬度 | 要予熱 |
| 0.6~2.14% |
高炭素鋼 |
非常に硬い | 困難 |
製鋼メーカーでは、溶鋼分析値をリアルタイムで監視し、目標とする炭素当量になるよう合金元素の添加量を微調整しています。この精密な成分管理によって、JIS規格に適合した高品質な鋼材が安定供給されているのです。
三和鉄構建材株式会社「炭素当量又は溶接割れ感受性組成」- 実務における炭素当量管理の詳細解説