日本の自然放射線量は地域によって大きく異なり、西日本が東日本に比べて約1.5倍高い傾向があります。この違いは地質構造に起因しており、西日本には花崗岩が広く分布しているためです。花崗岩にはウラン、トリウム、カリウムなどの天然放射性物質が比較的多く含まれており、これらが地表から放射線を放出しています。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1s-01-6.pdf
日本全国の平均的な自然放射線量は実効線量率で約33.3 nGy/h(0.0333 µSv/h)とされていますが、花崗岩地帯ではこれよりも高い数値が観測されます。地質学的な観点から見ると、花崗岩は約600℃程度の比較的低温のマグマ中で生成されるため、イオン半径の大きいウランやトリウムが多く含まれるという特徴があります。
参考)http://www3.starcat.ne.jp/reslnote/NATURAL.pdf
測定データによると、群馬県沢入の花崗岩ではカリウム3.30%、ウラン3.47 ppm、トリウム14.5 ppmという高い濃度が確認されており、この地域の自然放射線量は0.0304 µSv/hに達します。一方、玄武岩が分布する富士山周辺ではカリウム0.648%、ウラン0.480 ppm、トリウム1.27 ppmと低く、放射線量も0.0166 µSv/hと花崗岩の約半分程度です。
参考)https://gbank.gsj.jp/geochemmap/data/pdf/Nradiation.pdf
🗾 西日本の高放射線地域
中部地方から西日本にかけて、阿武隈山地(主に福島県東部)、北上山地(主に岩手県東部)、飯豊山地(新潟・山形・福島県境)などの山地部でも比較的高い線量率が観測されています。これらの地域は花崗岩や火山岩が基盤岩となっており、放射性核種の含有量が多いことが要因です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/102/7/102_7_868/_pdf
福井県では一般的に花崗岩質土壌に天然放射性物質が多く含まれており、敦賀半島を中心とした地域で平常値レベルが他地域に比べて顕著に高くなっています。岡山県人形峠は日本でも有数のウラン産地として知られ、中国地方がもともと花崗岩帯であることから、この地域全体で自然放射線量が高めです。
参考)空間放射線量率の変動|福井県原子力環境監視センター
産業技術総合研究所 地質調査総合センター - 日本の自然放射線
日本全国の自然放射線量分布マップと地質との関係について詳細なデータが掲載されており、地域別の実測値を確認できます。
関東平野は日本の中でも特に自然放射線量が低い地域として知られています。この理由は関東ローム層と呼ばれる厚い火山灰土壌に覆われているためです。関東ローム層は約10メートルを超える厚さがあり、玄武岩質の火山岩が砕かれた火山灰からなります。
参考)https://www.env.go.jp/content/900413265.pdf
🌋 関東ローム層の特徴
玄武岩は1000℃以上の比較的高温のマグマ中で生成されるため、イオン半径が小さくウランやトリウムの含有量が少ないという特性があります。このため玄武岩を起源とする関東ローム層は、西日本の花崗岩地帯と比較して自然放射線量が大幅に低くなっています。
参考)http://www1.s3.starcat.ne.jp/reslnote/pap3.pdf
実際の測定データでは、安山岩が分布する地域の自然放射線量は0.0304 µSv/h程度で、これは花崗岩の3分の1程度の値です。関東平野では地質に含まれる放射性核種が少なく、概して大地からの放射線量が少ないという特徴があります。
参考)環境省_大地の放射線(日本)
日本には高濃度のラドンを含む温泉地が存在し、これらの地域では自然放射線量が特に高くなっています。ラドン温泉として最も有名なのが鳥取県の三朝温泉で、世界屈指の放射能泉として知られています。
参考)山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第23回 )そこが知り…
♨️ 三朝温泉の放射線データ
ラドン温泉が存在する地域は、土壌中にラジウムを多く含んでいることが特徴です。ラジウムが崩壊する過程でラドンという気体が発生し、これが温泉水や空気中に溶け込みます。三朝温泉の浴室内ラドン濃度は、当時のアメリカ環境保護局の室内基準値150ベクレル/立方メートルを大きく上回る数値でした。
興味深いことに、三朝温泉地域の37年間のがん死亡率調査では、全国平均を1とすると三朝温泉地域が0.54(男性)、0.46(女性)と低い結果が報告されています。これは低線量放射線のホルミシス効果との関連が議論されている分野ですが、少なくとも高自然放射線地域での長期居住が必ずしも健康被害をもたらすわけではないことを示唆しています。
参考)https://www.murasugi.com/contents/document10-002
環境省 - 自然・人工放射線からの被ばく線量
日本および世界の自然放射線地域の比較データと、ラドン温泉などの高自然放射線地域における詳細な測定結果を掲載しています。
日本国内には複数のウラン鉱床が存在し、これらの地域では自然放射線量が特に高くなっています。最も知られているのが岡山県と鳥取県の県境に位置する人形峠のウラン鉱山です。
参考)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/12547.pdf
⛏️ 日本の主要ウラン産地
人形峠のウラン鉱山では、U₃O₈にして100ppm(0.01%)以上の品位を持つ鉱石が採掘されていました。現在でも残土堆積場には約100万トンの捨石が存在し、この地域の空間放射線量は放射線業務従事者の許容限度を超えるほど高い場所があります。
参考)https://www.jaea.go.jp/04/zningyo/kou19-04.pdf
日本のウラン・トリウム産地は従来30箇所以上知られており、そのほとんどが花崗岩に伴うペグマタイト脈、またはこれらに起因する漂砂鉱床中に産出します。花崗岩は600℃程度の比較的低温のマグマから生成されるため、イオン半径の大きいウランやトリウムが多く含まれる傾向があります。
参考)https://www.aec.go.jp/kettei/ugoki/geppou/V01/N04/19560822V01N04.HTML
人形峠周辺では、核燃料施設とウラン鉱山の監視のために土壌中のU-238とRa-226濃度の測定が継続的に行われており、岡山県下全域の土壌中環境放射能濃度レベルと挙動特性が把握されています。このような放射性鉱物が豊富な地域では、自然の状態でも一般的な地域より高い放射線量が観測されることになります。
参考)https://www.aec.go.jp/kaigi/teirei/2008/siryo43/5_haifu.pdf
鉱石に興味を持つコレクターにとって、放射性鉱物の扱いには特別な注意が必要です。花崗岩を含む深成岩や、ウラン・トリウムを含む鉱物は放射能濃度が高く、適切な知識と測定機器を持つことが重要です。
📊 岩石別の放射性核種含有量の比較
| 岩石の種類 | カリウム | ウラン | トリウム | 自然放射線量 |
|---|---|---|---|---|
| 花崗岩(群馬県沢入) | 3.30% | 3.47 ppm | 14.5 ppm | 0.0304 µSv/h |
| 安山岩 | 約2%前後 | 約2 ppm | 約8 ppm | 0.0304 µSv/h |
| 玄武岩(富士山) | 0.648% | 0.480 ppm | 1.27 ppm | 0.0166 µSv/h |
| 日本全体平均 | 1.44% | 1.29 ppm | 5.43 ppm | 0.0404 µSv/h |
⚠️ 放射性鉱物の取り扱いで注意すべき点
日本の屋内ラドン濃度の平均値は約29.6 Bq/m³、屋外濃度は約15 Bq/m³とされており、屋内の方が約2倍高くなっています。コンクリート建築では建材自体が砂や石由来であるため、コンクリート由来のラドンも放出され、木造建築より2倍近く高い値を示します。
参考)身の回りの放射線と被ばく|放射線の基礎|名城大学薬学部ラジオ…
鉱石標本を収集する際は、放射線測定器(ポケット線量計など)を使用して線量率を確認することが推奨されます。一般的な花崗岩で高いところでは0.2 µSv/h程度の値が得られますが、市販のカリウムを含む化学肥料(20kg入り)で0.25 µSv/h、耐火レンガで0.3 µSv/hという値も報告されており、日常的な身の回りの物質と比較して評価することが大切です。
世界には日本より2倍から10倍自然放射線が高い地域が存在し、ラジウムやトリウム、ウランなどの放射性物質が土壌中に多く含まれることがその原因です。日本には世界基準で見た高自然放射線地域と呼ばれる場所はありませんが、地域差は確実に存在し、その違いを理解することで鉱石コレクションをより安全に楽しむことができます。
環境省 - 大地の放射線(日本)
日本全国の大地から受ける放射線量の詳細な測定データと、地質構造との関係について解説しており、鉱石コレクター定データと、地質構造との関係について解説しており、鉱石コレクターが参考にすべき基礎資料として有用です。