表面張力法は、臨界ミセル濃度を測定する最も広く用いられている方法です。界面活性剤を水に溶解すると、分子は気液界面に吸着して表面張力を低下させます。界面活性剤濃度を段階的に増加させながら表面張力を測定すると、濃度の上昇とともに表面張力は低下していきますが、ある濃度に達すると表面張力が一定値となり、これ以上変化しなくなります。
参考)表面張力(Surface Tension)測定|高分子分析・…
この表面張力が一定となって曲線が折れ曲がる濃度点が臨界ミセル濃度です。具体的な測定手順としては、界面活性剤の濃度を横軸に、表面張力を縦軸にプロットしたグラフを作成し、2つの直線の交点を求めることでCMC値を決定します。ドデシル硫酸ナトリウムの場合、水中25°Cでの臨界ミセル濃度は8×10⁻³ mol/Lと測定されています。
参考)表面張力計 Sigma シリーズ(Biolin Scient…
表面張力測定には、デュヌイ法やプレート法などの手法が用いられ、現在では自動測定装置も開発されており、濃度調整から測定まで全自動で行えるシステムも利用可能です。この方法の利点は、イオン性・非イオン性を問わず全ての界面活性剤に適用でき、測定精度が高く、CMC値が曲線の屈曲点として明確に得られる点にあります。
電気伝導度測定法は、イオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度を求めるのに有効な方法です。この方法では、界面活性剤溶液の濃度を変化させながら電気伝導率またはモル伝導率を測定します。イオン性界面活性剤の濃度が低い領域では、濃度の増加に伴って導電率は比例的に増加しますが、臨界ミセル濃度を超えると導電率の増加率が急激に変化します。
参考)薬剤師国家試験 第97回 問175 過去問解説
これは、ミセルが形成されることでイオンが移動しづらくなり、電気伝導度が低下することが原因です。具体的な測定では、界面活性剤濃度と導電率をプロットし、2つの異なる傾きを持つ直線の交点を求めることで臨界ミセル濃度を決定します。カチオン界面活性剤であるTTAB(テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド)の測定例では、色素可溶化法と電気伝導率法の平均値からCMC値を有効数字2桁で見積もることができます。
参考)https://www.ag.kagawa-u.ac.jp/fukada/pdf_document/Experiment/2014_spring.pdf
ただし、この方法はイオン性界面活性剤には適用できますが、非イオン性界面活性剤では測定できないという制約があります。また、測定には電解質の影響を考慮する必要があり、界面活性剤のイオンと反対の電荷を有する電解質が存在すると、臨界ミセル濃度は低下します。
参考)http://www.detergent.jp/kaisetsu/surf03.pdf
蛍光プローブ法は、臨界ミセル濃度の測定に高感度で迅速な結果を提供する方法として広く利用されています。この方法では、特定の蛍光試薬と界面活性剤の相互作用により生じる蛍光強度の変化を測定します。蛍光プローブは水中ではほとんど蛍光を発しませんが、ミセルが形成されると疎水性のミセル内部に取り込まれ、蛍光強度が急激に増加します。
参考)臨界ミセル濃度を測定するキット
測定手順としては、96ウェルプレートまたはキュベットに異なる濃度の界面活性剤溶液と蛍光試薬を添加し、励起波長360 nm、蛍光波長465 nmで測定を行います。界面活性剤濃度に対して蛍光強度をプロットすると、臨界ミセル濃度付近で蛍光強度が急激に上昇する変曲点が現れ、この点がCMC値となります。この方法の利点は、少量のサンプルで測定可能であり、キット化されているため1,000回以上のアッセイを効率的に実施できる点です。
また、ピレンなどの蛍光プローブを用いた測定では、サンプル調製方法が結果に影響を与えることが知られており、適切な調製手順を守ることが重要です。さらに、集積化誘起消光(ACQ)プローブを用いた高スループット測定法も開発されており、ゼロ蛍光バックグラウンドにより感度が向上し、市販のウェルプレートリーダーで簡単に再現可能な測定が実現しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11930140/
フナコシ株式会社の臨界ミセル濃度測定キットでは、蛍光法を用いた簡便な測定手順と各種界面活性剤のCMC測定例が紹介されています。
臨界ミセル濃度は様々な外部因子によって変動します。最も重要な因子の一つは温度です。一般的に、温度が上昇すると臨界ミセル濃度は高くなる傾向があります。これは、高温になるほど界面活性剤分子の熱運動が活発になり、ミセル形成に必要なエネルギーが増加するためです。ミセル形態が主流となる温度を臨界ミセル温度(CMT: Critical Micelle Temperature)と呼び、多くの界面活性剤ではクラフト点とCMTが一致します。
参考)臨界ミセル濃度 - Wikipedia
電解質の存在も臨界ミセル濃度に大きな影響を与えます。界面活性剤のイオンと反対の電荷を有する電解質が存在すると、静電的な相互作用により臨界ミセル濃度は低下します。実際の測定例では、各種界面活性剤を水、0.1 M NaCl水溶液、1 M NaCl水溶液でそれぞれ希釈してCMC値を測定すると、塩濃度の増加に伴ってCMC値が低下することが確認されています。
界面活性剤の分子構造も重要な決定因子です。疎水基の炭素鎖長が長くなるほど、臨界ミセル濃度は低くなります。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(C₁₂)のCMCは8.2 mmol/dm³ですが、より長鎖のポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤(C₁₂H₂₅O(CH₂CH₂O)₁₂H)のCMCは0.09 mmol/dm³と大幅に低下します。親水基の種類によってもCMC値は異なり、カルボン酸塩(COONa)、硫酸塩(SO₄Na)、アンモニウム塩(NMe₃Cl)など、親水基の構造によって特徴的な値を示します。
界面活性剤と鉱物表面の相互作用は、資源工学や地球化学の分野で重要な研究テーマとなっています。鉱物表面に界面活性剤が吸着すると、その表面特性が大きく変化し、濡れ性や反応性が制御されます。特に炭酸カルシウムなどの地質学的な炭酸塩鉱物では、油層水や原油中の表面活性分子が鉱物表面に有機イオン性表面層を形成することが明らかになっており、この現象は石油回収や地下CO₂貯蔵プロセスに影響を与えます。
参考)https://ris.utwente.nl/ws/files/284819114/acs.energyfuels.2c01117.pdf
原子間力顕微鏡(AFM)を用いた最新の研究では、ミセルが方解石結晶内部に取り込まれる際の機構が直接観察されています。ナノスケールの添加物の取り込みメカニズムは、従来の冷却溶融物中でのミクロンサイズ粒子の閉じ込めとは異なるプロセスで進行することが示されました。水膜が鉱物表面に形成されると、ブルーサイト[Mg(OH)₂]のようなナノシート成長を引き起こし、相転移反応が進行します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4729825/
ミセル界面を利用した合成化学も新たな展開を見せています。臨界ミセル濃度以上で形成される荷電界面活性剤のミセル構造は、安定な水表面界面を模倣する環境を提供し、特定の化学反応を促進することができます。この手法により、従来は安定な気水界面を必要としていた表面合成化学の応用範囲が大きく拡大しています。鉱物とナノ閉じ込め効果の研究では、水の誘電率がナノ空間内で変化し、通常の値から乖離することで、鉱物の溶解度が減少するという知見も得られています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11810789/
産業技術総合研究所の技術資料では、表面張力計を用いた液体の表面張力や臨界ミセル濃度の評価手法について詳細なデータが公開されています。