光電子増倍管原理と構造ダイノード外部光電効果応用

微弱な光を検出する光電子増倍管は、外部光電効果と二次電子増倍の原理で動作し、医療・環境・素粒子物理など幅広く応用されています。その仕組みや用途について詳しく知りたいと思いませんか?

光電子増倍管原理構造

📘 この記事のポイント
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動作原理

外部光電効果と多段ダイノードによる二次電子増倍で10⁶~10⁷倍に増幅

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基本構造

真空ガラス管内に光電面・集束電極・ダイノード・陽極を配置

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幅広い応用

医療診断・環境測定・素粒子物理実験など多様な分野で活躍

光電子増倍管の基本原理と外部光電効果

 

光電子増倍管は、微弱な光を高感度で検出する光センサーで、外部光電効果という物理現象を利用しています。入射窓から入った光子が光電面に当たると、その光子のエネルギー(hν)によって光電面内の電子が励起され、真空中に光電子として放出されます。この外部光電効果は、真空中におかれた金属や半導体に光をあてたとき、表面から真空中に電子が放出される現象です。

 

参考)https://www.quark.kj.yamagata-u.ac.jp/report/etc/PMT_handbook_v3J.pdf

光電面は一種の半導体として機能し、入射した光子のエネルギーにより価電子帯の電子が励起されることで、真空中への電子放出が可能になります。光電面の材質としては、アンチモン(Sb)にナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)を反応させたバイアルカリ光電面が代表的で、300~850nmまでの広い波長域に感度を持ちます。この特性により、分光光度計やバイオ・遺伝子関連分野での蛍光計測など、幅広い用途に利用されています。

 

参考)光電子増倍管とは?基本原理や使用例・将来性をわかりやすく解説…

光電子増倍管の最大の特長は、光子1個まで検出可能なフォトンカウンティング能力と、超高感度、高速動作、低ノイズ、広い受光面積を実現している点です。これらの性能により、月面の懐中電灯の光も地球上から観測できるほどの検出感度を誇り、ニュートリノ研究における重要な観測装置として機能しています。

 

参考)光電子増倍管 - Wikipedia

光電子増倍管の構造とダイノードによる電子増倍

光電子増倍管は、一般的にガラス管に封じられた真空管で、入射窓、光電面(陰極)、集束電極、電子増倍部(ダイノード)、陽極より構成されています。ダイノードは二次電子増倍電極と呼ばれ、通常10段前後(最大19段)が多段階に配置されています。光電面から陽極まで全体で1,000V程度の直流電圧がかけられ、各ダイノード間には約100V程度ずつの段階的電圧が与えられます。

 

参考)光電子増倍管 メーカー12社 注目ランキングhref="https://metoree.com/categories/3967/" target="_blank">https://metoree.com/categories/3967/amp;製品価格【20…

光電面から放出された光電子は、集束電極によって加速・集束され第1ダイノードに導かれます。第1ダイノードに衝突した光電子は、そこで複数の二次電子を叩き出します。この二次電子放出の過程が、隣り合うダイノード間の電位差により加速されながら次々と繰り返されることで、電子の数が段階的に増倍されていきます。

 

参考)検出器 : 分析計測機器(分析装置) 島津製作所

ダイノードの材料としては、アルカリ‒アンチモンや酸化ベリリウム銅、酸化マグネシウムなどの二次電子放出材料が使用されています。このような多段増倍により、最終的には10⁶倍から10⁷倍という大きな電流増倍が実現されます。最終ダイノードから放出された二次電子群が陽極に到達し、信号電流として外部に取り出されることで、微弱な光の検出が可能になります。

 

参考)http://aplab.konan-u.ac.jp/thesis/paper/2013/kuge/ref.%20materials/PMT_handbook_v3aJ-Chapter2.pdf

浜松ホトニクスの光電子増倍管ハンドブック(PDF)には、光電子増倍管の基礎から応用まで詳しい技術情報が記載されています。

光電子増倍管の検出感度とノイズ特性

光電子増倍管の検出感度は非常に高く、単一光子から検出可能で、増幅率は約10⁷で運用されています。しかし、高感度である一方で、光電子増倍管には熱電子や放射性不純物によるランダムなノイズ、本来の検出時間からずれて検出されるオフタイミング信号が存在し、検出精度の悪化を引き起こす可能性があります。光電子増倍管は常時5kHz程度のノイズも出力しており、信号であるチェレンコフ光は短時間(数ns~数百ns)の発光であるため、ノイズとの区別が重要です。

 

参考)https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/_pdf/articles/2022/mthesis_2021FY_YMaekawa.pdf

ノイズの原因としては、光源のショットノイズ、PMTの暗電流、背景光などが含まれます。また、測定に使用する回路自体もノイズを持っているため、これらを含めたものが出力信号、つまり測定結果となります。より良い測定結果を得るためには、暗電流、陰極放射感度、ゲインの3つが重要とされています。
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暗電流を下げることで、回路ノイズに埋もれた信号が確認できるようになります。ゲインを上げていくとPMTの出力信号が回路ノイズに比べ大きくなり、検出可能となります。スーパーカミオカンデの研究では、光電子増倍管のオフタイミング信号とノイズの調査を行い、ノイズの性質から解析的手段でノイズを除去する方法が考案され、中性子検出効率を34%から36%まで向上させることに成功しています。
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光電子増倍管の医療・環境計測での用途

光電子増倍管は、化学・環境・医療の各産業界から高エネルギー物理実験まで、幅広い分野で活用されています。医療分野では、血液検査装置や尿検査など、生体から取り出した成分を分析する機器に使用されています。ATPアナライザ(ルミテスタ)は、菌や細胞の量を測定する装置で、食品製造工場や調理場、医療機関での清浄度を測定するために用いられており、ここでも光電子増倍管の高感度が活かされています。

 

参考)光電子増倍管(PMT)|電源装置なら松定プレシジョン

環境計測分野では、大気や各種燃焼機関などの排出ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)の測定に光電子増倍管が使用されています。NOx分析計は化学発光法を採用しており、一酸化窒素(NO)とオゾンの反応で発生する微弱な光(600~900nmの波長範囲)を光電子増倍管で検出します。化学発光法の計器は、NOxの広い濃度範囲にわたって直線性を示すほか、環境濃度を測定できる高い感度と選択性を有する利点があります。

 

参考)用途

放射線計測においても光電子増倍管は重要な役割を果たしています。保安目的、税関検査、原子力発電所、病院など放射性物質の検出には、携帯型の計測装置が必要です。放射線計測には、光電子増倍管とシンチレータの組合せが最も感度が高く、ガイガー管(GM管)の数十から数百倍の感度を持ちます。

大気中窒素酸化物測定装置のスペックシート(東亜ディーケーケー)には、PMT(光電子増倍管)を採用した環境測定装置の詳細が記載されています。

光電子増倍管のスーパーカミオカンデでの応用と鉱石分析

光電子増倍管の最も象徴的な応用例の一つが、スーパーカミオカンデでのニュートリノ検出です。スーパーカミオカンデは、直径約40メートルの円筒の中に約1万個以上(正確には約11,200本)の20インチ光電子増倍管が配置された大型検出器です。動作原理は、純水の中に突入したニュートリノが水の原子と衝突し、この際発生するチェレンコフ光を光電子増倍管で検出するものです。

 

参考)20インチ光電子増倍管開発ストーリー

カミオカンデ用の20インチ光電子増倍管は、一般的な光電子増倍管と比べ、広立体角受光面を持ち、増倍率1,000万倍以上、耐圧力4気圧以上、水中動作可能という世界に類を見ない性能を有しています。荷電粒子が水中で発生させるチェレンコフ光が複数の光電子増倍管で同時に検出された時、検出時間と電荷を利用して荷電粒子の座標やエネルギーを再構成しています。

 

参考)夢の通信技術(2/2) ~驚きのニュートリノ~ - ITU-…

鉱石や鉱物の分析においても、光電子増倍管は重要な役割を果たしています。半導体の製造において、表面の傷や不純物を検出する機器や、電子顕微鏡の二次電子検出器として使用されています。試料から発生した二次電子を検出器のシンチレータで光に変換し、PMTで信号として取得することで、二次電子の量が電流量になり画像の濃淡となります。分光分析や材料開発の分野でも光電子増倍管は広く使用されており、鉱石や結晶の蛍光分析、X線回折測定など、鉱物学的研究における精密な光計測に欠かせない存在です。

科学計測機器として、物質の状態や濃度を測定する機器にも光電子増倍管が組み込まれており、石油探査や資源探査の分野でも活用されています。バイオテクノロジーや環境モニタリング、スペクトル測定など、非常に多くの分野で使用される汎用性の高い検出器として、光電子増倍管は現代科学技術を支える基盤技術となっています。

 

参考)光電子増倍管とは?その原理、用途に迫る - 前田硝子提供製品…

浜松ホトニクスの光電子増倍管用途ページでは、医療・環境・科学計測など様々な応用例が紹介されています。

 

 


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