珪長質と苦鉄質とは火成岩のマグマ組成と鉱物

鉱石や火成岩に興味がある方にとって、珪長質と苦鉄質という言葉は重要な分類概念です。マグマの化学組成や結晶化プロセスの違いが、どのように多様な火成岩を生み出すのでしょうか。

珪長質と苦鉄質の火成岩分類

珪長質と苦鉄質の基本的な違い
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化学組成の違い

珪長質は二酸化ケイ素と長石が豊富で、苦鉄質は鉄とマグネシウムを多く含む

色の特徴

珪長質は白色から灰色、苦鉄質は黒色から濃い灰色を呈する

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密度の差

珪長質は密度が小さく、苦鉄質は密度が大きい火成岩である

珪長質と苦鉄質は、火成岩を分類する上で最も基本的な概念の一つです。珪長質(けいちょうしつ)の「珪」は二酸化ケイ素(SiO2)、「長」は長石を意味し、これらの成分に富む火成岩を指します。一方、苦鉄質(くてつしつ)の「苦」はマグネシウム(Mg)を表し、鉄(Fe)とマグネシウムを多く含む火成岩を意味します。

 

参考)深成岩の特性とその見方

火成岩の化学組成におけるSiO2含有量は、分類の重要な指標となっています。SiO2の含有量が66%以上の火成岩を珪長質岩(フェルシック岩)、52%~66%を中間岩、45%~52%を苦鉄質岩(マフィック岩)と呼びます。この化学組成の違いが、岩石の色調や密度、構成鉱物の違いとして現れます。

 

参考)https://www.s-yamaga.jp/nanimono/chikyu/kaseigan-03.htm

斜面防災対策技術協会の資料では、火成岩における有色鉱物と無色鉱物の関係が詳しく解説されています。

珪長質火成岩の鉱物組成と特徴

 

珪長質火成岩は、無色鉱物または白色鉱物を主体とする火成岩です。代表的な珪長質鉱物として、斜長石(灰長石から曹長石まで連続的な成分範囲)、カリ長石、石英、クリストバライト、トリディマイト、沸石などがあります。これらの鉱物は通常の大きさで見た場合、無色または白色であるため無色鉱物と呼ばれています。

 

参考)火成岩

珪長質岩の代表例として花崗岩が挙げられ、火山岩では流紋岩が相当します。これらの岩石は白色から灰色を呈し、密度が小さいという特徴があります。珪長質深成岩の密度は約2.3×10³ kg/m³から2.6×10³ kg/m³の範囲にあることが報告されています。

 

参考)https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol14.no1_p3-9.pdf

日本列島では、珪長質火山岩や珪長質深成岩が広く分布しており、特に飛騨地域では白亜紀中期の珪長質貫入岩類が確認されています。これらの岩体は、還元型花崗岩として特徴づけられ、錫(Sn)やタングステン(W)の鉱化作用を伴うことがあります。

 

参考)https://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin29_6.pdf

苦鉄質火成岩の鉱物組成と密度

苦鉄質火成岩は、有色鉱物(苦鉄質鉱物)の含有量が高く、色指数(有色鉱物の量を体積%で表したもの)が40~70の火成岩です。代表的な苦鉄質鉱物として、橄欖石(かんらんせき)、普通輝石、チタン普通輝石、エジリン輝石、角閃石、黒雲母などがあります。これらの鉱物は通常の大きさで見た場合、色づいて見えるため有色鉱物と呼ばれています。

 

参考)地形・地質 - 地域の自然 - 愛知県東三河総局新城設楽振興…

苦鉄質岩の代表例として玄武岩と斑れい岩があります。これらの岩石は黒色から濃い灰色を呈し、珪長質岩よりも密度が大きいという特徴があります。マグネシウムや鉄を珪長質岩より多く含んでいるため、この高い密度が生まれます。

 

参考)https://www.nedo.go.jp/content/100955099.pdf

苦鉄質岩は世界中に幅広く分布しており、日本国内でも超苦鉄質岩(カンラン岩など)や苦鉄質岩(玄武岩、斑れい岩など)の露出総面積は合計12,800 km²(国土の3.4%に相当)に達します。これらの岩石は、二酸化炭素の固定などの環境技術への応用も期待されています。

NEDOの研究資料では、苦鉄質岩を用いた風化促進技術について詳しく解説されています。

珪長質と苦鉄質のマグマ結晶分化作用

マグマから次々と鉱物を晶出していく作用を結晶分化作用といいます。この過程は、ボーウェンの反応系列として知られる温度変化に伴う鉱物の晶出順序によって説明されます。融点の高い鉱物が集合した火成岩を苦鉄質岩(塩基性岩)と呼び、融点の低い鉱物の集合した火成岩を珪長質岩(酸性岩)と呼びます。

 

参考)https://earthresources.sakura.ne.jp/er/Class/ESA11_9.html

マグマの冷却過程では、まず高温で安定な苦鉄質鉱物(かんらん石や輝石)が晶出し、温度が下がるにつれて角閃石、黒雲母へと晶出する鉱物が変化していきます。同時に、珪長質鉱物である斜長石の組成も、カルシウムに富むものからナトリウムに富むものへと変化します。この結晶分化作用によって、同一のマグマから多様な組成の火成岩が形成されます。

 

参考)https://www.chart.co.jp/subject/rika/scnet/40/sc40-3.pdf

マグマの密度は結晶分化作用の進行に伴って減少する傾向があり、一般的にSiO2量が多いほど密度は小さくなります。苦鉄質マグマは結晶分化作用の進行に伴い、SiO2量が増え、組成が珪長質に近づいていきます。この過程で、マグマの粘性係数も変化し、火山活動の様式に影響を与えます。

 

参考)https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/people/ichihara/vp2012plan/KamataSlide121130.pdf

珪長質と苦鉄質のマグマ混合現象

火山活動において、異なる組成のマグマが混合する現象は珍しくありません。玄武岩・安山岩・流紋岩の順に、マグマは苦鉄質から珪長質になるため、その両極端の玄武岩と流紋岩のマグマが接触する場合、組成に大きな差があることになります。

富士山では、高温高融点の苦鉄質マグマが低温の珪長質マグマに混合した例が苦鉄質包有物(エンクレーブ)として観察されています。苦鉄質包有物の全岩組成分析により、珪長質マグマの端成分は富士山のデイサイト質マグマであり、苦鉄質マグマの端成分は玄武岩であることが明らかになっています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazan/59/2/59_KJ00009392007/_pdf

マグマ混合のメカニズムでは、密度の違いが重要な役割を果たします。通常、苦鉄質マグマは珪長質マグマよりも高密度ですが、特定の条件下では苦鉄質マグマが珪長質マグマの上位に位置することもあります。このような状況は、苦鉄質マグマがマッシュ(半固結状のマグマ)の下位に貫入し、マッシュを熱して溶融することで生じます。

珪長質と苦鉄質の地質分布と応用

珪長質火山岩と苦鉄質火山岩の分布は、地域の地質学的な歴史を反映しています。日本列島では、年代が古くなるほど自然乾燥密度も強制湿潤密度もわずかながら増加する傾向が観察されています。珪長質火山岩は珪長質深成岩へと徐々に密度が近づく傾向があります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/111/7/111_7_434/_pdf

地球化学的な観点から見ると、東南極ナピア岩体などでは珪長質・苦鉄質岩の化学組成が太古代地殻-マントル相互作用の証拠として研究されています。また、西南日本外帯・瀬戸内区における中新世の中性~珪長質マグマの化学組成は、広域的な変化パターンを示すことが報告されています。

 

参考)東南極ナピア岩体,珪長質・苦鉄質岩の化学組成から見た太古代地…

環境技術への応用として、苦鉄質岩は二酸化炭素の固定に適していることが注目されています。超塩基性の超苦鉄質岩(カンラン岩など)や塩基性の苦鉄質岩(玄武岩、斑れい岩など)は、風化促進技術によって大気中のCO2を炭酸塩として固定できる可能性があります。これらの岩石は世界中に幅広く分布しており、ネガティブエミッション技術として期待されています。

産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、日本における苦鉄質岩の分布がシームレス地質図で確認できます。
一方で、リモートセンシング技術を用いた苦鉄質・超苦鉄質岩の識別手法が開発され、鉱物資源探査への応用が進められています。このような技術は、地質調査の効率化や新たな鉱床の発見に貢献する可能性があります。珪長質岩と苦鉄質岩の分布パターンを理解することは、資源探査だけでなく、地質災害の予測や地下水資源の管理にも重要な意味を持っています。

 

参考)https://www.jogmec.go.jp/disclosure/content/300109958.pdf

 

 


火成作用(フィールドジオロジー8)