火山砕屑物一覧と種類や分類特徴

火山から噴出される火山砕屑物にはどんな種類があるのでしょうか。火山岩塊・火山礫・火山灰などの分類や、軽石・スコリアといった特徴的な火砕物について詳しく解説します。鉱物観察に役立つ知識を網羅的にまとめました。火山砕屑物の世界をもっと深く知りたくありませんか?

火山砕屑物と種類

この記事で分かること
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粒径による分類体系

火山岩塊・火山礫・火山灰の詳細な分類基準

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特徴的な火山砕屑物

軽石・スコリア・火山弾の形態と成因

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実用的な活用方法

年代測定・建築材料への応用事例

火山砕屑物(かざんさいせつぶつ)とは、火山から噴出された固形物のうち溶岩を除く全ての破片状物質を指します。英語ではpyroclastic materialと呼ばれ、火砕物やテフラ(tephra)とも称されます。火山噴火によってマグマや山体が破砕・飛散して形成されたこれらの物質は、地質学において重要な研究対象となっています。

 

参考)火山砕屑物 - Wikipedia

火山噴火の際、マグマに溶解していた水分が気化して発泡したり、マグマだまりの内圧が高まることで噴火が引き起こされます。この過程でマグマは空中に放出されて断片化し、冷却・固結することで多様な火山砕屑物が生成されます。これらの火砕物は短時間で広範囲に堆積する特性があり、地層の年代決定や火山活動史の解明に欠かせない指標となっています。

 

参考)火山活動について

火山砕屑物の粒径分類一覧

火山砕屑物は粒径によって体系的に分類されており、国際的な基準が確立されています。最も基本的な分類では、直径64mm以上のものを火山岩塊(volcanic block)、64mmから2mmのものを火山礫(lapilli)、2mm未満のものを**火山灰(volcanic ash)**と定義します。

 

参考)火山砕屑岩 - 広島大学デジタル博物館

火山灰はさらに細分化され、2mmから1/16mm(約0.06mm)を粗粒火山灰(coarse ash)、1/16mm未満を細粒火山灰(fine ash)として区別します。火山岩塊は溶岩のように連続しておらず、個別の塊として存在する点が特徴的です。

 

参考)http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~earth_solid/geoexp/pyroclasts.html

これらが固結して岩石化したものは火山砕屑岩と呼ばれ、粒径に応じて異なる名称が付けられます。64mm以上の火山岩塊が固まると火山角礫岩や凝灰角礫岩、64〜2mmの火山礫はラピリストーンや火山礫凝灰岩、2mm未満の火山灰は凝灰岩となります。

粒径 火山砕屑物 火山砕屑岩 特記事項
64mm以上 火山岩塊 火山角礫岩・凝灰角礫岩 溶岩と異なり不連続
64〜2mm 火山礫 ラピリストーン・火山礫凝灰岩 スコリアや軽石を含む
2〜1/16mm 火山灰(粗粒) 粗粒凝灰岩 砂サイズに相当
1/16mm未満 火山灰(細粒) 細粒凝灰岩 シルト〜粘土サイズ

なお、砂の大きさに相当するものを「火山砂」と呼ぶ場合もありますが、学術的には正式な用語として使用されません。

火山砕屑物の軽石とスコリア特徴

火山砕屑物は色や成分、成因によっても分類され、特に多孔質で発泡した物質は独特の特徴を持ちます。代表的なものが**軽石(pumice、パミス)スコリア(scoria)**です。

軽石は淡色(白色、灰色、黄色など)を呈する多孔質の火山砕屑物で、安山岩からデイサイト、流紋岩質のマグマが噴出する際に生成されることが多くなっています。マグマが急速に発泡しながら爆発的に放出されることで、内部に多数の気泡を含む軽量な構造が形成されます。密度が小さいため水に浮く性質があり、「浮石(ふせき)」や「浮岩(ふがん)」という別名も持ちます。

 

参考)http://ooisivolcano.my.coocan.jp/volcano/products.htm

一方、スコリアは暗色(黒色、赤褐色など)を示す多孔質の火山砕屑物で、玄武岩質マグマの噴出によって生じることが一般的です。岩滓(がんさい)とも呼ばれ、玄武岩から苦鉄質安山岩の組成を持つマグマが発泡して形成されます。スコリアも多孔質ですが、軽石と比較すると密度が高く、通常は水に沈みます。

 

参考)https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8427587amp;contentNo=22

両者の違いは主にマグマの化学組成と粘性に起因しています。粘性の高い流紋岩質〜安山岩質マグマからは淡色の軽石が、粘性の低い玄武岩質マグマからは暗色のスコリアが生成される傾向があります。

  • 軽石の特徴
    • 淡色(白・灰・黄色)​
    • 安山岩〜流紋岩質マグマ起源​
    • 水に浮くほど軽量​
    • 多数の微細気泡構造​
  • スコリアの特徴

    火山砕屑物の火山弾と特殊形態

    特定の外形や内部構造を持つ火山砕屑物には、火山弾をはじめとする独特の形態を示すものが存在します。これらは噴火時の特殊な条件下で形成され、火山活動のメカニズムを理解する上で重要な手がかりとなります。

    **火山弾(volcanic bomb)**は、噴火の際に放出されたマグマ片が空中で回転しながら飛行し、その間に冷却して特徴的な形状を獲得した火山砕屑物です。比較的緻密で大型の火山砕屑物であり、弾道を描いて火口周辺に落下します。表面が急速に冷却して固化する一方で内部が膨張を続けるため、表面に亀裂が入った「パン皮火山弾」と呼ばれる独特の構造を示すことがあります。

    火山弾が着地した際、まだ柔らかい状態であれば堆積物の表面を変形させ、「サグ構造」や「ボム・サグ」と呼ばれる特徴的な痕跡を残します。この構造は火山弾が高温の状態で落下したことを示す重要な証拠となります。

    その他の特殊形態として、以下のようなものが知られています:

    • 溶岩餅(driblet): 溶岩の飛沫が固まったもの​
    • スパター(spatter): 溶岩の飛散物で、溶結することもある​
    • ペレーの毛(Pele's hair): ガラス質の細い繊維状火山砕屑物​
    • ペレーの涙(Pele's tear): 涙滴状のガラス質火山砕屑物​

    これらは主にハワイ式噴火のような流動性の高い溶岩噴泉を伴う火山活動で生成されます。溶結したスパターや溶岩餅を含む火山砕屑岩は、アグルチネート(岩滓集塊岩)と呼ばれます。

    火山砕屑物の形成過程とマグマ関係

    火山砕屑物の形成は、マグマの物理化学的特性と噴火様式に密接に関連しています。マグマが地表に噴出して破砕される過程を「マグマ破砕(magma fragmentation)」と呼び、この現象が火山砕屑物を生み出す根本的なメカニズムです。

     

    参考)https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GC011770

    マグマ破砕は主に以下の要因によって引き起こされます。まず、マグマに溶解していた水分などの揮発性成分が気化して発泡し、マグマだまり内の圧力が上昇します。この圧力がマグマを囲む岩盤を突き破る力となり、マグマが急速に地表へ上昇します。

     

    参考)地学基礎教室「火山」|ちがくたす

    地表近くで急激に圧力が減少すると、マグマ中の気泡が爆発的に膨張し、マグマは微細な破片に分断されます。この破片が空中で冷却されることで、様々なサイズと形態の火山砕屑物が生成されるのです。マグマの粘性が高いほど、気泡の膨張によってより激しい爆発的噴火が発生し、大量の火山灰や軽石が生産されます。

    興味深いことに、マグマ破砕後も火山砕屑物の形態変化は続きます。噴煙中での衝突による二次的破砕(スプラッシング)によって、液滴状だった破片がさらに細かく分断されることが研究で明らかになっています。この過程は、最終的な粒径分布や粒子形状に大きな影響を与えます。

    マグマの組成によって生成される火山砕屑物の種類も変化します:

    • 流紋岩〜デイサイト質マグマ: 高粘性のため爆発的噴火を起こしやすく、淡色の軽石や細粒火山灰を大量生成​
    • 安山岩質マグマ: 中程度の粘性で、軽石やスコリアの両方を生成可能​
    • 玄武岩質マグマ: 低粘性で比較的穏やかな噴火を起こし、暗色のスコリアを主に生成​

    2021年の福徳岡ノ場噴火では、トラカイト質(粘性の高い)マグマが噴出し、約1300km漂流した後も形態を保つ灰色の軽石が大量に生成されました。このように、マグマの特性は生成される火山砕屑物の性質を強く規定しています。

     

    参考)301 Moved Permanently

    火山砕屑物の観察と鉱物分析

    火山砕屑物の観察と鉱物学的分析は、火山活動の理解と地質学的解釈において極めて重要な役割を果たします。特に火山灰に含まれる鉱物の単結晶や火山ガラスの化学組成は、給源火山の特定や噴火年代の推定に不可欠な情報を提供します。

     

    参考)https://trekgeo.net/m/m/rPyroclastic/rPyroclastic.htm

    火山砕屑物の採集においては、いくつかの重要な注意点があります。凝灰岩をそのまま採集して鉱物分離を行うと、周囲の堆積物や異なる時期の火山砕屑物に由来する類質物質・異質物質が混入する恐れがあります。そのため、火山砕屑物の年代測定を目的とする場合は、溶結した試料や軽石を選択的に収集することが推奨されます。軽石中の鉱物は噴出時にK-Ar系(カリウム-アルゴン年代測定系)がリセットされるため、より正確な噴出年代を得ることができます。

     

    参考)https://geohiruzen.co.jp/wordpress/img/egj01_2.pdf

    火山ガラスの分析には高度な技術が用いられます。X線回折法(XRD)による鉱物組成の決定、X線蛍光分析(XRF)や誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)による主要・微量元素分析、さらに走査型電子顕微鏡(SEM)による形態観察など、多様な分析手法が組み合わされます。

     

    参考)https://www.jaea.go.jp/04/tono/topics/20240329/pdf/P.05.pdf

    特に微量元素組成は、主要元素組成が類似しているテフラを識別する強力な指標となります。Ba/La比とLa/Y比、ZrとPb、HfとTh、SrとZr/Nb比などの元素比を比較することで、給源火山が同じでも異なる時期に噴出したテフラを区別できます。

     

    参考)https://rdreview.jaea.go.jp/review_jp/2022/j2022_8_9.html

    火山砕屑物データベースの整備も進んでおり、VolcAshDBのような国際的なデータベースには13の火山から採取された11,808個の粒子データが登録されています。これらのデータには光学顕微鏡画像、物理特性、化学組成が含まれ、機械学習による自動分類技術の開発にも活用されています。

     

    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12019599/

    日本原子力研究開発機構では、火山ガラスの微量元素組成データベースの充実を図り、テフロクロノロジー(テフラを用いた年代学)の精度向上に取り組んでいます。このような系統的なデータベース構築により、地層の堆積年代決定や火山活動史の復元がより高精度で可能になっています。

    産業技術総合研究所地質調査総合センター - 噴火で飛んでくるもの
    火山砕屑物の基本的な分類と特徴について、国の研究機関が提供する信頼性の高い解説。テフラの種類と噴火メカニズムの関係が図解されています。

     

    火山砕屑物の建築材料や工業利用

    火山砕屑物は単なる地質学的研究対象にとどまらず、建築材料や工業製品として実用的な価値を持つ資源です。特に火山灰やスコリア、軽石は、その多孔質構造や化学組成を活かした多様な用途が開発されています。

     

    セメント・コンクリート産業における火山砕屑物の活用は特に注目されています。ローマ時代から火山灰を使ったコンクリートが使用されており、現代でもポゾラン活性を持つ火山灰は天然のポゾラン材料として評価されています。ポゾラン活性とは、火山灰に含まれる非晶質のシリカやアルミナがセメント中の水酸化カルシウムと反応して強度を向上させる性質です。

     

    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9985639/

    鹿児島県では、火砕流堆積物である「シラス」を活用した環境型シラスコンクリートが開発され、世界初の建築「R・トルソ・C」が完成しました。この技術では枯渇資源である砂の6割以上をシラスで代用でき、約225兆円もの経済価値創出が可能とされています。シラスコンクリートは資源保護に優れているだけでなく、セメント素材に産業廃棄物を利用できる環境配慮型の建築材料です。

     

    参考)鹿児島で見捨てられていた未利用資源の利活用 環境型シラスコン…

    2021年のラ・パルマ島タホガイテ火山噴火で生成された火山灰も、セメント代替材料としての適用可能性が研究されています。ポルトランドセメントを30%から100%まで様々な割合で置き換えた試験が行われ、アルカリ活性化技術と組み合わせることで実用的な強度が達成されています。

     

    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10779707/

    農業分野でも火山砕屑物の利用が進んでいます。カムチャツカ半島の火山灰を従来の鉱物肥料と組み合わせて火山性土壌(アンドソル)に施用した実験では、ジャガイモの収量が31〜63%増加し、牧草の収量も21〜50%向上する結果が得られました。火山灰に含まれる微量元素が植物の生育を促進すると考えられています。

     

    参考)302 Found

    その他の産業応用例:

    火山地域では、溶岩や火山砕屑物などの浸透性の高い地層が有力な帯水層を形成し、良質な地下水資源を提供しています。阿蘇カルデラやシラス台地などでは、火山砕屑物の高い透水性により山麓部末端で豊富な湧水群が形成され、飲料水や工業用水として利用されています。

     

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagh1959/5/1/5_12/_pdf/-char/en

    これらの利用技術は、資源・環境の面で先進的な取り組みとして評価されており、未利用資源の活用による地方創生や循環型社会の実現に貢献しています。

     

    参考)https://www.kagoshima-it.jp/pdf/shirasu/shirasu70.pdf

    国土交通省 - 健全な地下水の保全・利用に向けて
    火山地域における地下水資源と火山砕屑物の透水性に関する公的資料。火山噴出物が形成する帯水層の特性と利用方法が解説されています。