陶芸やってる人が「鋳込み料理」と聞くとつい石膏型を思い浮かべますが、実は全く関係ありません。
鋳込み料理(いこみりょうり)は、野菜や豆腐などの中身をくり抜いて、そこに別の具材を詰めて煮込む和食の調理技法です。「射込み煮」と表記されることが多く、中に具材を"射し込む"ことから名付けられました。
参考)鋳込み煮、射込み煮、どちらが正しいの?・料理の種類、手法に「…
陶芸の「鋳込み」は石膏型に泥漿(でいしょう)という液状の粘土を流し込んで器を作る技法ですが、料理の鋳込みとは全く別物です。陶芸用語の鋳込みは型に流し込むイメージですが、料理では穴に詰め込むという違いがあります。
つまり同じ読み方でも意味が違うということですね。
和食の世界では見た目の美しさと手間のかかる技法として知られ、懐石料理や精進料理でよく使われます。くり抜いた野菜の器に彩り豊かな具材を詰めることで、一品で食卓が華やぎます。
器として使う野菜自体も食べられるため、無駄がなく栄養も摂れる合理的な調理法です。季節の野菜を使えば旬の味わいも楽しめるため、日本料理ならではの季節感を演出できます。
鋳込み料理で最もポピュラーなのが高野豆腐です。高野豆腐は水で戻してからくり抜き、中にひき肉や野菜のあんを詰めて煮込みます。スポンジ状の構造が出汁を吸い込み、ジューシーな仕上がりになります。
参考)高野豆腐の鋳込み煮
大根やかぶも定番の食材です。厚めに輪切りにしてから中心部をくり抜き、鶏ひき肉やえびのすり身を詰めます。煮崩れしにくく、ほっくりとした食感が楽しめます。円柱状にカットしやすく扱いやすいのが利点です。
ズッキーニやなすなどの夏野菜も鋳込み料理に向いています。ズッキーニは輪切りにして種の部分をくり抜けば、きれいな器になります。なすは縦半分に切って中をくり抜く方法が一般的です。
冬瓜やトマトも使えます。
冬瓜は大きくカットして厚めの壁を残してくり抜けば、たっぷりの具材が入る器になります。トマトは丸ごと使えば洋風の鋳込み料理にアレンジ可能です。
形が崩れにくく、ある程度の厚みがある食材を選ぶのが基本です。
まず食材を適切なサイズにカットします。高野豆腐なら一丁を2〜3等分、大根なら3〜4cm幅の輪切りが目安です。厚みは最低でも2cm以上ないと、くり抜いた後の壁が薄すぎて破れやすくなります。
次にくり抜き作業です。スプーンや専用のくり抜き器を使って、底を残しながら中身をくり抜きます。
壁の厚さは5mm〜1cm程度が理想的です。
薄すぎると煮崩れし、厚すぎると火の通りが悪くなります。
くり抜いた食材は下茹でするのがコツです。大根やかぶなら米のとぎ汁で10分ほど茹でると、アクが抜けて味が染み込みやすくなります。高野豆腐は水で戻してから軽く絞っておきます。
詰め物の具材を準備します。
鶏ひき肉に卵、片栗粉、みじん切りの野菜を混ぜたあんが基本です。具材をしっかり練り混ぜることで、煮ている間に崩れにくくなります。くり抜いた穴に具材を詰める際は、8分目まで入れて表面を平らにならします。
煮汁は出汁、醤油、みりん、砂糖を合わせた和風の味付けが定番です。鍋に煮汁を沸かしてから詰め物をした食材を並べ、落とし蓋をして中火で15〜20分煮込みます。
煮込み時間は食材によって調整が必要です。
煮崩れを防ぐには火加減が最も重要です。強火で煮ると表面だけ火が通って中は生煮え、逆に外側が崩れてしまいます。中火でじっくり煮ることで、具材の中心まで均一に火が通ります。
落とし蓋を使うことで煮汁が全体に回り、少ない煮汁でもムラなく味が染み込みます。アルミホイルやクッキングシートで代用できるため、専用の落とし蓋がなくても問題ありません。
詰め物の具材に片栗粉を混ぜると、煮ている間に具材がまとまって流れ出にくくなります。片栗粉の量は具材全体の5〜10%程度が目安です。入れすぎると食感が硬くなるので注意してください。
煮る前に詰め物の表面に薄く片栗粉をまぶす方法もあります。
これで表面が固まり、煮汁の中で形が崩れにくくなります。プロの料理人もよく使うテクニックで、仕上がりの見た目がきれいになります。
煮込んだ後は一度冷ますと味がさらに染み込みます。作り置きする場合は、冷蔵庫で一晩寝かせてから温め直すと、より深い味わいになります。
これは煮物全般に共通するコツです。
定番の鶏ひき肉以外にも、豚ひき肉や合い挽き肉が使えます。豚ひき肉は脂が多めでジューシーな仕上がりになり、合い挽き肉は旨味が強く洋風の味付けにも合います。
海鮮系の詰め物も人気です。えびのすり身にはんぺんを混ぜると、ふわふわの食感になります。白身魚のすり身を使えば上品な味わいになり、高級感のある一品に仕上がります。
野菜だけの詰め物なら精進料理風になります。みじん切りのきのこ、人参、ごぼうを炒めて豆腐と混ぜ、片栗粉でまとめます。ヘルシーで食物繊維も豊富なため、健康志向の方におすすめです。
洋風にアレンジするならチーズを混ぜてみましょう。
ひき肉にパルメザンチーズやモッツァレラチーズを加えると、コクが出て子どもにも人気の味になります。トマトを器にしてチーズ入りの具材を詰めれば、イタリアン風の鋳込み料理が完成します。
中華風の味付けも試す価値があります。豚ひき肉にオイスターソース、ごま油、生姜を混ぜて詰め、中華スープで煮込めば、いつもと違う鋳込み料理が楽しめます。
バリエーションは無限大です。
陶芸を趣味にしている人が料理レシピを検索すると、「鋳込み」というキーワードで陶芸の技法ばかりがヒットして困ることがあります。料理の鋳込みを探すなら「射込み煮」「射込み料理」で検索すると、調理法の情報が見つかりやすくなります。
レシピサイトでは「詰め物料理」「くり抜き煮」などの表現も使われます。これらのキーワードで検索すれば、陶芸の情報と混ざらずに料理レシピだけが表示されます。
陶芸の鋳込みは型に液体を流し込む技法なので、英語では「slip casting」と呼ばれます。一方、料理の鋳込みは「stuffed vegetables」や「filled dishes」と表現されるため、言語の違いでも明確に区別できます。
作業工程も全く異なります。
陶芸の鋳込みは石膏型の吸水性を利用して粘土の層を作る技法で、30分〜数時間かけて成形します。料理の鋳込みはくり抜いた食材に具材を詰めるだけなので、10分程度で準備が完了します。
同じ「いこみ」でも、陶芸は工業的な大量生産向きの技法、料理は手作業の一品料理という違いがあります。混同しないためには、文脈と漢字表記に注意することが大切です。
高野豆腐の鋳込み煮レシピ(ヤマキ公式サイト)
高野豆腐を使った基本的な鋳込み煮のレシピと詳しい手順が掲載されています。だし屋の公式レシピなので、煮汁の配合も参考になります。