ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)が破損した際、露出するガラス繊維は細く肉眼では見えづらいため、不意に触れるとけがを引き起こします。国民生活センターの2025年の調査では、傘の骨が折れた場合に細かなガラス繊維が手に刺さる事例が複数報告されています。ガラス繊維が皮膚に接触する際は、繊維直径4~8ミクロンという微細さから、物理的な機械刺激によって一過性のかゆみや痛みを引き起こします。
参考)https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20250917_2.html
ガラス繊維による皮膚障害のメカニズムは、主に刺激性接触皮膚炎です。ガラス繊維が皮膚内に刺さると、摩擦によって表面のかゆみが生じ、特に折れた傘やテント支柱など日常生活で接する製品から暴露が発生しやすいことが特徴です。ガラス繊維が付着した皮膚を擦ると、繊維がさらに皮膚内部に入り込み、除去困難となり炎症が悪化するため、接触後は擦らないことが重要です。
参考)https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20250917_2.pdf
まれにですが、ガラス繊維強化プラスチックに使用される樹脂に未重合の樹脂成分が残っていた場合、アレルギー性接触皮膚炎が発生する可能性も指摘されています。パッチテスト研究では、グラスウール非住宅用製品で軽微な紅斑が観察されるなど、個体差による反応の違いが存在することが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4246535/
日本国民生活センターの実態調査で確認されたGFRP製品の危険な構造として、樹脂表面付近にまでガラス繊維が露出している状態が多く、軽微な接触や衝撃により繊維が飛散しやすくなっています。
ガラス繊維が空気中に散布された場合、微細な繊維粒子の吸入による呼吸器系への刺激が懸念されます。飛散したグラスウールの微細繊維を大量に吸入すると、喉や鼻がイガイガするような刺激を受けることが報告されており、長時間、繰り返し吸引した場合には気管支炎のような症状を引き起こすおそれがあります。
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ガラス繊維の肺への到達リスクが低い理由は、その物理的構造にあります。ガラス繊維は直径3~9ミクロンと比較的大きく、折れても太さが変わらない特性を持つため、アスベストのように細く繊維状に裂けることがありません。肺奥に到達する前に、鼻や気管支の自然防御機構により除去されるため、通常の作業環境では呼吸器系の重篤な疾病を起こす危険性は低いとされています。
参考)ガラス繊維の安全性と健康
一方で、長期にわたる職業的暴露環境にある労働者については異なる状況が生じています。製造工場や施工現場の実態調査では、呼吸器系の症状に悩まされることがある労働者が存在することが報告されています。タイの工場における断面研究では、ガラス微細繊維製造労働者における呼吸器症状やぜん鳴の発生が報告されており、生産現場での暴露リスクは一般消費者とは異なります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2739167/
万一肺内に吸入されたガラス繊維でも、体液に溶けやすく、短期間で体外に排出されるという生物学的特性があります。体内のマクロファージと呼ばれる貪食細胞により、吸入繊維が処理され排出されるメカニズムが存在するため、アスベストのような長期的な肺内蓄積は発生しづらいのです。
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ガラス繊維の発がん性評価は、国際がん研究機関(IARC)により複数回検討されてきました。グラスウール(短繊維)およびグラスファイバー(長繊維)は、グループ2B(ヒト発がん性の可能性あり)として分類されています。この分類は、ヒトに対しては立証されていなくても、動物実験で発がん性が示唆されるレベルであり、当初は安全側の判断として行われたものです。
参考)https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/80-pdf/+80-p022.pdf
実際のヒト疫学調査では、ガラス繊維関連産業の従事者における発がん性が立証されていません。40年以上にわたる世界規模でのヒト疫学研究の結果、ガラス繊維に携わっている労働者の健康診断結果や死因調査報告の中に、ガラス繊維が原因と考えられる異常や所見は認められていないことが確認されています。アスベストとは異なり、グラスウールによるヒトの発がん例は皆無であり、通常の作業環境では発がん性リスクはまったくないと判断されています。
一方で、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)と呼ばれる特殊な高温用途のセラミック系人造繊維については、アスベストに類似した危険性が動物実験で確認されています。RCFは従来のガラス繊維よりも溶解性が低く、体内での残留性が高いため、別途の注意喚起がなされています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001361471.pdf
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製品は傘の骨、園芸用ポール、テント支柱、スマートフォンスクリーンなど、軽量で弾性が求められる日用品に広く使用されています。破損時の危険性は、外見からは判別しにくい内部構造にあります。樹脂で固められた部分においても、表面付近にまでガラス繊維が露出している状態が観察されるため、破損品への無防備な接触が危険性を高めます。
ガラス繊維が皮膚に付着した際の適切な対処方法は、医学的な根拠に基づく手順が重要です。第一に、皮膚を絶対に擦らないことが最優先です。擦るとガラス繊維が皮膚内部に入り込み、除去困難になり、炎症のリスクが大幅に高まります。次に、粘着テープを用いて繊維を除去する方法が推奨されており、自力での除去が困難な場合は直ちに医療機関を受診することが必要です。
職業的暴露環境にある作業者の予防策として、取扱い作業時には長袖で袖口がしまり、かつゆったりとした服装の着用、保護手袋や腕カバーの装着が標準的な安全措置です。
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ガラス繊維の危険性を理解するには、アスベストおよび他の人造鉱物繊維との比較が不可欠です。アスベストは繊維直径0.02~0.35ミクロンという極めて細い構造から、吸入時に肺奥部まで容易に到達し、体内で長期間蓄積されます。対するガラス繊維は直径3~9ミクロンと比較にならないほど太く、折れても太さが変わらない物理特性から、肺への深部到達可能性は著しく低いのです。
繊維の溶解性も大きな違いとなります。アスベストは生来持つ高い耐性から体内の免疫機能に対して強い抵抗性を示し、肺胞に刺さったまま排出されにくいため、様々な病気を引き起こす原因となります。これに対しガラス繊維は体液に溶けやすい性質を持つため、たとえ体内に侵入しても短期間で体外に排出される生物学的優位性があります。
ロックウールやスラグウールなど他の人造鉱物繊維と比較した場合、ガラス繊維は最も安全側に位置付けられています。ガラス繊維は通常遊離珪酸を含んでいないため、珪肺病(けいはいびょう)の危険性がまったくありません。
長期職業暴露による系統的な健康調査では、チェコスロバキア、イタリア、スウェーデン、フィンランド、オーストリア、アメリカなど複数国での大規模コホート研究が実施されており、ガラス繊維産業従事者における呼吸器系の重篤な後遺症やがんの有意な増加が認められていないという点が、他の人造繊維との根本的な違いです。
https://www.mhlw.go.jp/
厚生労働省の有害性評価書では、セラミックファイバーとガラス繊維の分類の違いが詳細に記載されており、基準設定の根拠となっている。
https://glass-fiber.net/
ガラス繊維工業会による安全性の基本情報および製品情報の総合ページで、繊維の物理的性質と安全性の関係が解説されている。
https://kokusen.go.jp/
国民生活センターのGFRP製品による実被害事例報告では、破損時の具体的な危険性と対処方法が実告では、破損時の具体的な危険性と対処方法が実装的にまとめられている。