導波管原理の基本と電磁波伝送の仕組み

導波管は電磁波を効率的に伝送する金属製の管です。その独特な構造と動作原理により、レーダーや衛星通信で重要な役割を担っています。導波管がどのように電磁波を導くのか、その秘密をご存知ですか?

導波管原理と仕組み

この記事でわかる導波管の全体像
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導波管の基本構造

金属製の中空管が電磁波を効率的に伝送する仕組みと形状の特徴

電磁波の伝搬モード

TEモードとTMモードの違いと遮断周波数の重要性

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実用的な応用分野

レーダーや衛星通信システムにおける導波管の役割と利点

導波管の基本構造と電磁波伝送原理

 

導波管とは、主にマイクロ波やミリ波といった高周波電磁波を伝送するために用いられる金属製の中空パイプ構造です。矩形(角形)や円形など様々な形状がありますが、レーダーシステムでは矩形導波管が最も広く使用されています。導波管の最大の特徴は、同軸ケーブルとは異なり、内部に絶縁体や中心導体を必要とせず、中空の金属管の内壁で電磁波を反射させながら伝送する点にあります。

 

参考)マジック T 型導波管の電磁界解析|CAE・Ansysの活用…

導波管内では電磁波が金属壁で繰り返し反射しながら進行方向に伝搬します。この反射を利用した伝送方式により、同軸ケーブルよりも信号損失が極めて低く、10GHzの周波数帯では導波管が0.1dB/mであるのに対し、同軸ケーブル(RG-8U)は0.5dB/mとなります。特に高出力・高周波のアプリケーションでは、導波管が10kW以上の電力を扱えるのに対し、同軸ケーブルは1kW程度が限界です。

 

参考)http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/H32/html/H3212A21_.html

導波管の物理的な寸法は使用する周波数に密接に関連しており、特に管の幅(長辺)は電磁波の波長の約半分に設計されます。この寸法関係が導波管の動作原理における重要な要素となっています。

 

参考)導波管の性質とTEモード、TMモード、遮断周波数の計算問題

導波管のTEモードとTMモードの違い

導波管内を伝搬する電磁波には、特有の「伝搬モード」と呼ばれる電磁界の分布パターンが存在します。代表的なものがTE(Transverse Electric)モードとTM(Transverse Magnetic)モードです。

 

参考)https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00138/contents/0014.htm

TEモード(電気的横波)は、電界成分が進行方向に対して完全に横方向のみに存在し、磁界成分が進行方向にも存在する伝搬モードです。一方、TMモード(磁気的横波)は、磁界成分が進行方向に対して横方向のみで、電界成分が進行方向にも存在します。矩形導波管で最も基本的なモードはTE₁₀モードと呼ばれ、これは最低周波数で伝搬可能な「基本モード」として機能します。

 

参考)https://flashcards.world/flashcards/sets/02d96925-699e-4d2e-9eda-427df5752893

これらのモードは、同軸ケーブルや自由空間で見られるTEM(Transverse Electro-Magnetic)モードとは根本的に異なります。TEMモードでは電界も磁界も進行方向の成分を持ちませんが、導波管では管壁の境界条件により、電界または磁界のいずれかが必ず進行方向の成分を持つことになります。この特殊な電磁界分布が、導波管特有の伝送特性を生み出しています。

 

参考)https://www.ecei.tohoku.ac.jp/yamada/Lecture/yamada/Denjiki2012/Denjiki6-21.ppt

導波管の遮断周波数と動作範囲

導波管には「遮断周波数」と呼ばれる重要な特性があります。遮断周波数とは、それ以下の周波数では電磁波が導波管内を伝搬できない臨界周波数のことです。矩形導波管のTE₁₀モードの遮断波長λcは、管の長辺の長さaの2倍となり、遮断周波数fcは以下の式で計算されます:
参考)https://www.pasternack.jp/t-calculator-waveguide.aspx

fc = c / (2a)
ここでcは光速(約3×10⁸ m/s)です。例えば、長辺a=25mmの矩形導波管では、遮断周波数は約6GHzとなります。標準的なWR-90導波管のカットオフ周波数は6.56GHzであり、それ以下の周波数では実用的に使用できません。

 

参考)一陸特 令和5年2月 無線工学(B)問6 - はちさんの通信…

遮断周波数より低い周波数の電磁波が入射した場合、完全に遮断されるわけではなく、入口から管軸方向に指数関数的に振幅が減衰する「エバネッセント波」として僅かに伝搬します。これは金属中の表皮効果と類似した現象です。実用的には、導波管は遮断周波数の約1.25倍から1.9倍の周波数範囲で使用されます。

導波管内の波長(管内波長λg)は自由空間での波長λとは異なり、次の関係式で表されます:
参考)https://www.spc.co.jp/tech/pdf/dohakan_kannai_hacho_keisanshiki.pdf

λg = λ / √(1 - (λ/λc)²)
この式から、遮断波長に近づくほど管内波長が長くなることがわかります。

導波管のレーダーと衛星通信への応用

導波管は航空管制レーダー、気象レーダー、船舶レーダーなど、様々なレーダーシステムで広く使用されています。レーダーシステムでは、送受信部で生成されたマイクロ波が導波管を伝ってアンテナまで送られ、導波管内部のスロット(切り込み)部分から電磁波が発射されます。導波管を使用する理由は、高出力のマイクロ波を低損失で伝送できることと、同軸ケーブルでは対応困難な高周波数帯域での優れた性能にあります。

 

参考)レーダーの基礎知識

衛星通信分野でも導波管は重要な役割を果たしています。特に衛星搭載のレーダーアンテナシステムでは、展開部における「チョークフランジ導波管非接触給電」という新方式が採用されています。この技術により、機械的に接触せずに導波管同士を電磁的に結合させてマイクロ波を伝送できるため、展開型アンテナの信頼性が向上します。JAXAの小型レーダ衛星開発では、X帯(9.6GHz帯)で1kW級の大電力を扱うために窒化ガリウムHEMT素子を用いた半導体増幅器と導波管回路が組み合わされています。

 

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/735df1eb590f4e2e56d6e64d856cffa1be66c7e2

導波管は地上の衛星通信設備でも使用され、受信モジュールやロータリージョイントなどの部品として高い評価を得ています。30メートルにわたって18GHzの信号を伝送する衛星地上局では、導波管の損失は3dBに対し、同軸ケーブルでは36dBにも達するため、導波管の優位性は明確です。

 

参考)導波管

導波管のメンテナンスと防食対策の実践知識

導波管システムの長期的な性能維持には、適切なメンテナンスと防食対策が不可欠です。IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systemsの2023年研究によれば、清掃されていない導波管は6ヶ月以内に信号効率が12〜18%低下し、中型レーダーシステムでは年間3,500ドルのメンテナンス費用が増加します。

 

参考)レーダー導波管の腐食を防ぐ方法

防食対策として最も効果的な方法は、導電性銀メッキ処理で酸化を90%削減できます。高湿度環境では乾燥剤入りブリーザーを取り付けて湿度を5%未満に維持することで、腐食の進行を大幅に遅らせることができます。ステンレス鋼製フランジを使用すれば、塩水噴霧試験で15年以上の耐久性が実証されており、海洋環境での導波管システムには特に推奨されます。

清掃頻度は設置環境によって調整が必要です。
環境別の推奨清掃頻度

  • 沿岸環境(高塩分):2ヶ月に1回の清掃で腐食関連故障を90%削減
  • 熱帯環境(高湿度70%以上):3週間ごとの点検が必要
  • 砂漠環境(低湿度):12ヶ月ごとで十分
  • 屋内空調管理環境:6ヶ月ごと

高湿度地域(相対湿度70%以上)では腐食が30%加速するため、防錆グリースを四半期ごとに塗布することで海洋環境での寿命を300%延長できます。特に導波管のコネクタ、ガスケット、内壁の曲がり部分は重点的にチェックする必要があります。

導波管システムの信頼性向上には、定期的な点検と予防保全が経済的にも技術的にも最適な選択となります。

 

 


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