膨潤の意味とは鉱物の水吸収による体積変化現象

膨潤とは鉱物や物質が水などの溶媒を吸収して体積が増加する現象を指します。特に粘土鉱物で顕著に見られ、地盤工学や鉱石分野で重要な性質ですが、具体的にどのような仕組みで起こり、実際の現場でどのような影響があるのでしょうか?

膨潤の意味と基本的性質

膨潤現象の3つの重要ポイント
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溶媒吸収による体積増加

物質が水などの溶媒を吸収し、元の体積の数倍に膨らむ現象

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粘土鉱物での顕著な発現

モンモリロナイトやスメクタイトなど層状珪酸塩鉱物で特に顕著

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強度低下を伴う特性

膨潤により材料の機械的強度が低下し、工学的課題となる

膨潤(ぼうじゅん)とは、物質が溶媒を吸収して体積を増加させる現象のことを指します。英語では「swelling」と表記され、固体が液体を吸収してふくらむ様子を表現しています。代表的な例としては、ゼラチンが水を含んで膨らむ現象や、高野豆腐を水に入れた際に観察される体積変化が挙げられます。

 

参考)「膨潤」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

この現象は特にゲル状物質や高分子物質において顕著に見られ、一般的には熱の発生を伴います。鉱物学の分野では、粘土鉱物が水分を吸収する際の体積変化として重要な意味を持ちます。膨潤は単なる物理的な体積増加だけでなく、材料の強度低下を伴うのが一般的とされており、工学分野では重要な検討事項となっています。

 

参考)膨潤(ボウジュン)とは? 意味や使い方 - コトバンク

高分子物質の場合、固体状態では高分子鎖の間の相互作用が強いですが、溶媒中に浸すとその高分子鎖の間に溶媒分子が入り込んでゲル状にふくれあがります。この過程において、高分子鎖と溶媒との混合エントロピーによる利得と、ブラシ鎖の伸張によるエントロピー損失とが釣り合うところで膨潤膜厚が決定されます。

 

参考)ポリマーブラシによる水中超はつ油性表面の創製

膨潤現象が起こるメカニズムと鉱物の構造

膨潤現象の基本的なメカニズムは、物質の微細構造と密接に関係しています。特に粘土鉱物の大半は薄い板を何枚も重ねたような「層状珪酸塩鉱物」と呼ばれる結晶構造をしており、この層の間に水分子や交換性陽イオンが存在することで膨潤が発生します。

 

参考)https://concom.jp/contents/countermeasure/column/vol12.html

代表的な膨潤性粘土鉱物であるモンモリロナイトの場合、薄い板状の結晶層の間に交換性陽イオン(Na+やCa2+など)が存在し、これが水分子を引き寄せる役割を果たします。層間陽イオンがNa+の場合、結晶層を引きつける力がCa2+より弱く、当初Na+の水和力で水分子が入り込み、水の供給が充分であれば次々と水分子が入り込んで層間隔が増大し無限に膨潤します。

 

参考)ベントナイトとは|株式会社ホージュン

一方、層間陽イオンがCa2+の場合、結晶層を引きつける力がNa+より強いものの水和エネルギーがNa+より5倍強く、水の供給が充分であっても結晶層を引きつける力に制限されて層間には3分子層までに限定されます。このように、膨潤のメカニズムは層間陽イオンの種類によって大きく異なります。

電気二重層理論の観点からは、土粒子と水溶液からなる系において粒子間隙に発達する電気二重層中のイオン濃度とバルク間隙水中のイオン濃度の差により浸透圧が発生し、これが膨潤の原因となります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcssjnendokagaku/47/3/47_KJ00005083253/_pdf/-char/ja

膨潤性を示す主要な鉱物種類と特徴

膨潤性を示す鉱物は主に粘土鉱物群に分類され、その中でも特定の構造を持つものに限られます。基本的には2:1層のスメクタイトとバーミキュライト族の粘土鉱物、そしてそれらを含む混合層鉱物が膨潤を示します。

スメクタイトは代表的な粘土鉱物のひとつで、常に微粒の粘土として産出し、イオン交換性、膨潤性、複合体形成能などの化学的活性が顕著です。スメクタイトには複数の種類があり、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどの鉱物が含まれます。

 

参考)https://www.jseg.or.jp/chushikoku/wp-jseg/wp-content/uploads/2023/10/1-23.pdf

ベントナイトはスメクタイトという粘土鉱物を主成分とする粘土岩であり、膨潤性、イオン交換性、吸着性などに優れています。ベントナイトはさらにNa型とCa型に分類され、交換性陽イオンとしてNaイオンが支配的なNa型ベントナイト(Western Bentonite)と、Caイオンが支配的なCa型ベントナイト(Southern Bentonite)が存在します。

 

参考)産総研:粘土資源「ベントナイト」の性能評価法のJIS規格制定…

Na型ベントナイトは水中で自ら吸水膨張してゲルを経てゾルになる特性を持ち、結晶層を引きつける力が弱いために吸水性が高く、増粘性や懸濁安定性も優れています。一方、Ca型ベントナイトは水の存在下でせん断作用を加えると吸水膨張し分散する特性があり、両者の間にはレオロジー的に顕著な相違があります。

膨潤現象の測定方法と定量評価

膨潤現象を定量的に評価するためには、膨潤量と膨潤圧の2つの指標が用いられます。膨潤量は体積変化率として測定され、通常はパーセンテージで表されます。膨潤圧は膨潤によって発生する圧力を測定するもので、キロパスカル(kPa)単位で表されます。

 

参考)https://www.shimztechnonews.com/tw/sit/report/vol96/pdf/96_003.pdf

実際の測定では、圧密試験機や一次元膨潤圧測定装置などの専門機器が使用されます。試料に水を供給しながら変形や発生する圧力を測定することで、その膨潤特性を評価できます。膨潤性地盤を用いた実験例では、膨潤量で2.5~4.0%程度、膨潤圧で55~125 kPa程度の値が報告されています。

 

参考)https://jgschugoku.jp/asset/00032/GE/Vol25/ge_vol25_08.pdf

膨潤の基本的性質として、塩濃度の影響も重要な要因です。スメクタイトは塩濃度の低下により膨潤し、溶液の塩濃度を高くすると膨潤性は低下します。再び塩濃度を低くすると膨潤性は向上するため、この性質は可逆的であると言えます。

 

参考)https://www.cssj2.org/wp-content/uploads/2clay_property20220421.pdf

モンモリロナイトの膨潤に影響を及ぼす外的要因として注目すべきは、分散される水質です。海水やセメント飽和上澄み液のような二価陽イオンが過剰な電解質溶液中では、Naモンモリロナイトは溶液中の二価陽イオンのケミカルアタックにより速やかにCaに富むモンモリロナイトに変わり、厚く積層した粒子を形成して凝集状態を呈する傾向にあります。

地盤工学における膨潤土の実務的影響

地盤工学分野において膨潤性粘土は「特殊土」として扱われ、設計手法のない困難な材料として認識されています。膨潤性粘土は世界中に広く存在し、国内でも新第三紀以降の地層を中心に広く分布しています。

 

参考)鉱物表面現象に着目した膨潤性粘土の構成モデル - 京川研究室…

建設現場における膨潤土の影響は深刻で、道路建設では路盤の膨張収縮変形や斜面崩壊を引き起こします。インドネシアのジャカルタ近郊には膨潤性地盤が広く分布しており、雨期には吸水膨張し、乾期には乾燥収縮する特性があるため、生産施設などの低層建物を建築する際には床や基礎の設計に特別な配慮が必要となり、施工手間や工事費が大きくなる課題がありました。

 

参考)https://downloads.hindawi.com/journals/amse/2022/4045620.pdf

膨張した土は建物や構造物に対して大きな圧力をかけるため、地盤の安定性に影響を与えます。トンネル工事では膨張性地圧や盤膨れといった地盤災害が発生し、掘削工事では土留め工全体の崩壊が起こる可能性もあります。

 

参考)https://ameblo.jp/kagakusyanotamago12345/entry-12884368439.html

対策を施さなかった場合の被害事例も報告されており、床の隆起やクラックの発生など、構造物に深刻な損傷を与えることが知られています。膨潤性地盤の対策には様々な方法があり、対策の効果に応じて施工手間や工事費が増加する傾向があります。

地盤工学会公式サイト - 膨潤性地盤に関する技術資料と対策工法の詳細情報

膨潤現象の工業的利用と応用技術

膨潤性は問題となる側面だけでなく、様々な工業分野で積極的に利用されています。ベントナイトの膨潤性を活用した代表的な用途として、石油ボーリング用の泥水があります。交換性陽イオンとしてNaが主体のNa型スメクタイトは膨潤性が特に顕著で止水性が高いことから、高レベル放射性廃棄物の地層処分における緩衝材として検討されています。

鋳造分野では、仏像や鐘などの型を成形する際に、川砂や浜砂にベントナイトを加えて水で練り合わせて成形する方法が利用されています。農業分野では、水田の漏水対策として10アールあたりベントナイトを1から15トン程度施用し、充分に混合することで土壌の漏水を防ぐ技術が確立されています。

 

参考)https://www.cssj2.org/wp-content/uploads/clay_23.pdf

高分子材料分野では、ポリマーブラシの膨潤構造が生体分子などの吸着抑制に大きく寄与しており、架橋高分子が液体を吸収して膨らむ膨潤過程における高分子鎖の変形を制御することで、材料の劣化や破壊を抑制する高分子設計が提案されています。

 

参考)膨潤に伴う高分子鎖の切断を可視化することに成功 高分子材料の…

医薬品や化粧品の分野でも膨潤性粘土鉱物の包接作用が研究されており、難溶性薬物の可溶化作用などへの応用が検討されています。ベントナイトは日本薬局方や化粧品原料基準に規格が定められており、医薬品・化粧品用途でも使用されています。

 

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b9b3b5528b4351f85efe4118a98d3d80f8f9ca12

シーリング材料の分野では、パッキンと液体の相性によってパッキンが液体を吸収して膨張する膨潤現象が発生し、この性質を理解することが製品の適切な選定につながります。ただし、ベンゼンやキレシンといった有機溶媒に天然ゴムを浸した際や木材を水中に浸した際に発生する膨潤は、強度の低下を伴うため注意が必要です。

 

参考)https://www.goo-net.com/knowledge/05851/

将来的には、水や海水で膨潤すると分解しやすくなる環境低負荷な高分子材料の開発にもつながる可能性があり、膨潤現象の理解と制御は持続可能な社会の実現に向けた重要な技術課題となっています。

産業技術総合研究所 - ベントナイトの性能評価法に関する研究成果