
アバランシェフォトダイオード(APD)は、p+層、p-層、p層という3つの半導体層から構成される多層構造を持っています。p+層は高いキャリア濃度を持ち、p-層は比較的低いキャリア濃度となっており、この濃度差が重要な役割を果たします。p層を薄く設計することで、空乏層に大きな電界勾配が形成され、効率的な電子増倍が可能になります。
参考)フォトダイオードの3タイプとその構造・動作原理 href="https://techtimes.dexerials.jp/photonics/three-types-of-photodiodes/" target="_blank">https://techtimes.dexerials.jp/photonics/three-types-of-photodiodes/amp;#8211…
通常のpin型フォトダイオードと比較すると、APDは増倍層と呼ばれる特別な領域を持つ点が最大の違いです。この増倍層では、高い逆バイアス電圧(数百ボルト)を印加することで、強力な電界が発生します。増倍率は逆バイアス電圧に強く依存し、電圧が高いほど増倍効果が大きくなります。
参考)APD(アバランシェフォトダイオード)|光学ソリューションサ…
APDの構造設計において、各層の厚さと不純物濃度の制御が極めて重要です。MOVPE(有機金属気相成長法)などの精密な半導体成長技術により、各層を数ナノメートル単位で制御することで、最適な動作特性が実現されます。特に増倍層の厚さは、応答速度と感度のトレードオフを決定する重要なパラメータとなっています。
参考)https://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/jmag/vol51-3/paper05.pdf
アバランシェフォトダイオードの動作原理は「衝突イオン化」と呼ばれる物理現象に基づいています。光がp-層に入射すると、光子のエネルギーにより電子とホールの対が生成されます。生成された電子は、強い電界勾配によって加速され、高い運動エネルギーを獲得します。
参考)https://ir.soken.ac.jp/record/6098/files/B263%E6%9C%AC%E6%96%87.pdf
加速された電子が半導体の格子原子に衝突すると、衝突イオン化が発生し、新たな電子-ホール対が生成されます。この新しく生成された電子もまた電界で加速され、さらなる衝突イオン化を引き起こします。この連鎖反応によって電子とホールの数が雪崩(アバランシェ)のように爆発的に増加し、これが「アバランシェ増幅」または「電子雪崩効果」と呼ばれる現象です。
参考)アバランシェフォトダイオード href="https://www.kodenshi.co.jp/top/kodenshi_virtual/lp019_avalanche_pd/" target="_blank">https://www.kodenshi.co.jp/top/kodenshi_virtual/lp019_avalanche_pd/lt;brhref="https://www.kodenshi.co.jp/top/kodenshi_virtual/lp019_avalanche_pd/" target="_blank">https://www.kodenshi.co.jp/top/kodenshi_virtual/lp019_avalanche_pd/gt; 高感度光検出|KOD…
衝突イオン化の効率を表す指標として「イオン化率」があり、電子によるイオン化率をα、ホールによるイオン化率をβで表します。APDの性能を最大化するには、αとβの比(イオン化率比)が重要で、一方のイオン化率が他方に比べて十分大きいことが望ましいとされています。シリコンAPDの場合、一般的にα>βの関係が成り立ち、これが低ノイズ動作に寄与します。
参考)https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/99_SALES_LIBRARY/ssd/si-apd_kapd9007j.pdf
💡 意外な事実: 超格子構造をAPDの増倍層に導入することで、イオン化率を人工的に制御できることが研究で明らかになっています。InGaAs/InAlAs超格子を用いると、電子のイオン化率が著しく増大し、従来のバルク材料では実現できなかった特性が得られます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/60/1/60_1_14/_pdf
超格子構造によるイオン化率制御の詳細 - 日本レーザー学会誌
アバランシェフォトダイオードの動作には、空乏層における電界強度の制御が不可欠です。空乏層とは、pn接合付近に形成されるキャリアが存在しない領域で、ここに強い内部電界が発生します。APDでは、この空乏層にかかる電界強度がイオン化率を決定し、最終的な増倍率を左右します。
電界強度の分布は各層で均一ではなく、特にp層を薄くすることで空乏層に大きな電界勾配が形成されます。この電界勾配が、光照射によってp-層で生成された電子を効率的に加速し、電子雪崩を発生させます。電界強度は印加する逆バイアス電圧に比例して増加し、ブレークダウン電圧に近づくほど増倍率が急激に上昇します。
参考)フォトダイオード(PD)の構造や原理とは
空乏層の幅も重要なパラメータで、キャリアの走行時間に直接影響します。高速応答が求められる光通信用APDでは、光吸収層の厚さを1μm以下に薄くしてキャリアの走行時間を短縮する設計が採用されています。ただし、吸収層を薄くすると受光感度が低下するため、反射構造を利用した折り返し効果により、この問題を解決する工夫がなされています。
📊 増倍率と電圧の関係:
アバランシェフォトダイオードは光ファイバー通信システムにおいて、受信端の光検出器として重要な役割を果たしています。特に長距離伝送では信号が減衰するため、APDの高感度特性が伝送距離の拡大に大きく貢献します。10Gbpsから400Gbpsに至る高速通信システムで、APDを用いた光受信モジュールの開発が進められています。
参考)https://kutarr.kochi-tech.ac.jp/record/1293/files/69-73.pdf
次世代イーサネット規格である400ギガビットイーサネットでは、PAM4(4値パルス振幅変調)方式が採用されており、APDの適用性が検証されています。InGaAs光吸収層とInAlAs増倍層を組み合わせた構造により、1,550nm波長帯で60%以上の受光感度と16GHzの広帯域特性を両立させることが可能です。
参考)https://journal.ntt.co.jp/backnumber2/1607/files/jn20160718.pdf
デュアル増倍層構造を持つAPDは、高速性と広いダイナミックレンジの両立を実現します。60nmと88nmの薄いInAlAs二重増倍層を用いることで、強い光照射(約1mW)下でも16GHzの光-電気変換帯域幅と2.5A/Wの高い応答度が得られます。この技術により、外部増幅器なしでの長距離高速伝送が可能になっています。
参考)https://www.mdpi.com/2304-6732/8/4/98/pdf?version=1617938639
⚡ 通信性能の向上効果:
NTTによる400ギガビットイーサネット用APD受信モジュールの開発
アバランシェフォトダイオードの高感度特性は、鉱物や結晶の光学的分析にも応用されています。特にシンチレータ結晶と組み合わせることで、X線やガンマ線の検出が可能となり、鉱石に含まれる微量元素の分析に役立ちます。BGO(ビスマスゲルマニウムオキサイド)やCsI(ヨウ化セシウム)などのシンチレータ結晶からの蛍光をAPDで読み出すことで、コンパクトで高感度な放射線検出システムが構築できます。
参考)http://www-heaf.astro.hiroshima-u.ac.jp/thesis/nakamoto2003.pdf
従来の光電子増倍管(PMT)と比較して、APDは磁場に強い性質を持ち、小型化が容易という利点があります。この特性により、鉱山現場や野外での鉱物分析装置への組み込みが可能になります。さらに、APDの高い量子効率(可視光域で約80-90%)は、微弱な蛍光信号の検出に適しており、鉱物中の希土類元素や微量金属の同定に威力を発揮します。
参考)https://www.quark.hiroshima-u.ac.jp/thesis/b201003_hiasa.pdf
火星探査機マーズパスファインダーには、Si/PINフォトダイオードが搭載され、岩石の化学組成がその場で測定されました。このように、APD技術は地球外の鉱物分析にも応用が広がっており、将来的には月や小惑星の鉱物資源探査においても重要な役割を果たすことが期待されています。APDと蛍光X線分析を組み合わせることで、数十nm分解能での元素分布マッピングも実現され、鉱物の微細構造解析にも貢献しています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/74/4/74_453/_pdf
🔬 鉱物分析での応用例:
アバランシェフォトダイオードの性能を制限する主な要因は、増倍過程で発生するノイズです。APDで発生する主なノイズ源には、ショットノイズと熱雑音があり、これらが検出限界を決定します。ショットノイズは光電流のランダムな揺らぎに起因し、増倍過程のばらつきによって増幅されます。
参考)【技術】アバランシェフォトダイオード(APD) href="https://www.mepinfo.net/%E3%82%A2%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%89%EF%BC%88apd%EF%BC%89/" target="_blank">https://www.mepinfo.net/%E3%82%A2%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%89%EF%BC%88apd%EF%BC%89/amp;#8211…
イオン化率比(k=β/α)がノイズ特性に大きく影響し、k値が小さいほど過剰雑音係数が低減され、S/N比が向上します。シリコンAPDはk≒0.02程度と優れた値を示すため、可視光域での低ノイズ検出に適しています。一方、InP系APDはk≒0.4-0.6程度で、長波長帯での使用には適していますが、ノイズ特性ではシリコンに劣ります。
参考)https://indico2.riken.jp/event/4375/contributions/20098/attachments/11686/16817/%E5%85%89%E6%A4%9C%E5%87%BA%E5%99%A8%E5%AE%9F%E9%A8%93%E5%A0%B1%E5%91%8A2.pdf
過剰雑音を低減するため、増倍層の材料選択と構造設計が重要です。InAlAs系超格子構造を用いることで、電子のイオン化率を選択的に増大させ、イオン化率比を改善できることが実証されています。井戸層の厚さを20nm程度に最適化すると、正孔のイオン化率が抑制され、低ノイズ動作が実現します。
参考)https://ritsumei.repo.nii.ac.jp/record/10666/files/o_%20537.pdf
温度依存性もAPDの重要な特性で、温度上昇によりイオン化率が変化し、増倍率が変動します。高精度な測定が必要な用途では、温度補償回路やペルチェ素子による冷却が必要となります。暗電流も温度に強く依存し、GeAPDはSiAPDに比べて2.5桁以上大きな暗電流が流れるため、冷却が不可欠です。
参考)https://kutarr.kochi-tech.ac.jp/record/1450/files/rb7_015-023.pdf
📈 ノイズ低減技術:

Hailege 20個セット5MMフォトダイオードフォトダイオードフォトセンシティブダイオードラウンドF5フォトダイオード3V