渦電流は、金属などの導体が変動する磁場にさらされたとき、その内部に発生する渦状の誘導電流です。この現象の根本には、ファラデーの電磁誘導の法則があります。コイルに交流電流を流すと、アンペアの右ネジの法則により磁界が発生し、その磁界の強さは電流とコイルの巻数の積に比例します。
参考)渦電流探傷の原理
導体内を通過する磁束が時間とともに変化すると、ファラデーの電磁誘導の法則に従って導体内に起電力(EMF)が誘導され、これによって渦電流が発生します。このとき導体は、磁界の変化を妨げようとする慣性の法則に似た働きを示します。コイルを導電体に近づけると、導電体の表面に渦電流が発生し、コイルの電流値が変化することで、その存在を検知できます。
参考)https://www.tdk.com/ja/tech-mag/hatena/024
渦電流は導体内部で閉じたループ状に循環し、その結果として元の磁場の変化に逆らう局所的な磁場を生成します。レンツの法則に従えば、誘導される電流は、それを生じさせた磁場の変化を打ち消す向きに磁場を作るように流れます。この原理により、渦電流が発生する磁界は、常に外部の磁界と反発する極性を持つため、導体は瞬間的に磁界と反発する力を受けます。
参考)https://www.sptj.jp/powderpedia/words/10121/
磁場の強さや向きの変化を引き起こすような要因が存在すれば、導体内部に渦電流が生じる可能性があります。ただし、磁石を導体のそばに置いただけでは力も熱も発生せず、磁束の変化、つまり磁石か金属のどちらかが動かないと渦電流は起きません。
参考)電磁誘導とは
渦電流損失とは、コアに渦電流が流れることによって発生する損失を指します。コイル(インダクタ)やトランス(変圧器)は、コアに電線を巻くことで構成されており、コイルに流れる電流が変化したり、外部から磁石を近づけたりすると、コアを通過する磁束が変化します。
参考)渦電流損失とは?『原理』や『計算式』などを解説! - Ele…
変圧器では、一次コイルに交流電流(AC)が流れると周囲に変化する磁場が発生し、この変化する磁場が二次コイルに電圧を誘導します。このとき、一次側と二次側の巻き数の比率を調整することで電圧を昇圧または降圧させることができますが、コアの内部には必然的に渦電流損失が発生します。
参考)電気機器に発生する渦電流損失とは?発生原理や対策も解説! |…
電動機や発電機においても渦電流損失は発生します。電動機は、フレミングの左手の法則を利用して電気エネルギーを運動エネルギーに変換し、発電機はフレミングの右手の法則を利用して運動エネルギーを電気エネルギーへ変換します。どちらも磁界があらぬ方向へ拡散しないよう鉄心を使用するため、その内部に渦電流損失が発生するのです。
渦電流損失を抑える対策として、コアを薄い板状に分割して積層する方法があります。これにより、渦電流の流れる経路を制限し、損失を低減できます。また、銅損と呼ばれる別の損失も存在し、これは電流の2乗と導線の抵抗値に比例するため、長距離送電では変圧器によって昇圧し、同じ電力を少ない電流で送電することが一般的です。
渦電流探傷試験(ECT)は、非破壊検査手法の一種であり、交流電流を印加したコイルを検査体(金属)表面に近づけたときに生じる渦電流の大きさが、欠陥の有無や材質の不均一性といった要因によって変化することを利用します。この方法では、対象にダメージを与えずに検査を行うことができます。
参考)渦流探傷とは
検査の具体的な仕組みとして、コイルに電流を流すとアンペアの右ネジの法則で磁界が発生し、その磁界の強さは電流とコイルの巻数に比例します。コイルを導電体に近づけると、導電体の表面に渦電流が発生してコイルの電流が変化します。導電体の表面に亀裂などがあると、渦電流は亀裂を避けて迂回して流れるため、さらに電流値が変化します。
参考)渦電流探傷試験(ECT)/渦電流探傷の原理・応用|非破壊検査…
渦電流探傷器の結果は、リサージュ波形(ベクトル表示)で表示されるのが一般的で、直交する二つの位相成分で表現されます。このリサージュ波形から、きずの有無、きずの大きさ、きずの深さ、振動の有無などを観察できます。検査の精度を向上させるために、位相の開きを大きくして位相解析を容易にしたり、磁区ノイズを無くしたり軽減させたり、渦電流の浸透深さを大きくして表面下深くまで検査したりする工夫がなされています。
渦電流探傷は、エンジンバルブやバルブリフター、ブレーキディスクやブレーキドラム、シリンダーライナ、焼結部品(バルブシート、ギア、バルブガイド)、鋼管加工部品、ビール缶など、さまざまな製品の品質管理に活用されています。検査速度や検出コイルの走査速度、コイルの幅、走査方向のきずの幅などが検査精度に影響を与える要因となります。
参考)渦電流探傷
渦電流は、日常生活のさまざまな場面で実用化されています。代表的な応用例が、IH調理器(電磁調理器)と電磁ブレーキです。
参考)https://sucra.repo.nii.ac.jp/record/12112/files/A3000036.pdf
IH調理器は、電磁誘導の原理を利用した調理器具です。調理器内のサーチコイルに高周波の交流電流を流すと、高周波の磁界の変化が発生します。この変化する磁界が調理器具内に渦電流を誘起し、表皮効果により調理器具の表面に渦電流が集中します。磁力を受ける金属を固定した状態では、発散できない運動エネルギーは熱へと変わるため、鍋やフライパンが加熱される仕組みです。
参考)もしもアルミに磁石を近づけたら「電流が起こる。応用したのが冷…
電磁調理器のプレートの下には渦巻き状の磁場発生コイルがあり、これに交流電流を流すと磁場が発生し、その向きは交流周期に応じて変化します。ただし、金属のそばに磁石を置いただけでは力も熱も発生せず、磁束の変化が必要であることに注意が必要です。
参考)磁石にくっつかない金属で磁石の運動にブレーキを掛ける|おもし…
一方、電磁ブレーキは、渦電流による制動力を利用したブレーキシステムです。新幹線などの大型車両や電車で使用される電磁ブレーキでは、車軸に取り付けた円盤の両側に電磁石を装備し、渦電流を発生させて減速力を生み出します。円盤と電磁石は接触していないため、摩擦や熱による摩耗の心配がなく、メンテナンスフリーで長期間使用できる利点があります。
アルミなどの非磁性金属に強力な回転磁界を通過させると、渦電流が発生して金属は反発して飛び出します。この原理は、産業機械の電磁ブレーキシステムにも応用されており、機械の回転を安全かつ効率的に制御することができます。
参考)https://downloads.hindawi.com/journals/je/2023/1426506.pdf
渦電流の応用として、産業廃棄物や鉱石から有用な非鉄金属を選別する技術が実用化されています。この技術は、渦電流非鉄金属分離装置として知られ、アルミニウム、銅、亜鉛などの非磁性金属を効率的に回収することが可能です。
参考)https://www.tdk.com/ja/tech-mag/ninja/097
導電体金属が、磁極(N極、S極)が交互に変換する磁界(交番磁界)内に置かれると、その表面に渦状の誘導電流が発生し、導電体にこの誘導電流によって交番磁界と反発する磁界が生まれます。この渦電流によって生ずる磁界は、常に交番磁界と同極となるため、瞬間的に導電体は交番磁界と反発して飛翔します。
アルミ、銅、亜鉛などの非磁性金属が重力によって落下する途中に、磁石の磁界を通過すると内部に渦電流が生じます。渦電流が発生する磁界は、磁石の磁界と反発作用を起こすので、非磁性金属は磁石から遠ざかろうとします。この原理を利用したのが渦電流選別機です。
渦電流の反発力は非磁性金属の種類によって決まるため、落下位置もそれぞれ微妙に異なります。強力な磁石を利用すると、銅、アルミ、亜鉛などの非磁性金属を種類ごとに選別することもできるため、超電導磁石の応用も研究されています。
渦電流選別機は、鋳造工場における鋳物砂からのアルミ地金の分離、都市ごみからのアルミ缶の分離、廃車処理工程における有用非鉄金属の回収、電子工業廃棄物からの有用非鉄金属の回収、ガラスカレットとアルミニウムの分離などに利用されています。ほとんどの金属くずはリサイクル処理され、新たな製品に利用されており、主な方法としては廃棄物の中から金属部分だけを回収する「金属回収」と純物が多い金属を精錬する「金属精錬」の2つがあります。
参考)磁選機(アルミ選別機)の仕組みと製品特徴
希土類鉱物を用いた最近の永久磁石材料(希土類磁石)の技術革新によって、工業的にも信頼に足りる非鉄金属分離装置の開発が可能になりました。廃棄物から10mm以下の微細なアルミや亜鉛、銅、真鍮等の非鉄金属を渦電流によって回収できる装置も開発されており、資源の有効活用とリサイクル促進に貢献しています。

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